ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第一章 異世界転移編

第14話 若気の至り

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 とりあえず、俺はルーナを家に運んだ。

 気絶したルーナを放置して、家の入り口を《土形成》で固めて引きこもるのがベストだとは思った。
 しかし、すぐそばでウサギパイセンがハンターの顔付きで虎視眈々と狙っていたので、哀れに思って連れ帰る事にしたのだ。
 あの顔をしたパイセンは危険だ。

 ルーナに撃ち抜かれたのは左肩だった。
 傷は深かったが、HPは徐々に回復していたので、そのうち治るだろう。
 どういう理屈なのかわからないし、不思議だけど。

 そんなわけで、ルーナを右手で抱えてみた。
 ルーナは軽く、右手だけでも十分抱える事ができた。

 幸い家は近かったので、ルーナをベッドに横たえた後、弓や剣、マントや荷物なども回収しておいた。

 相変わらずハンターの顔をしているパイセンに、少しイラっとしたので、フレアアローで消し炭にしておいた。

 家に戻ると、ルーナが寝苦しそうにしていたので、ロングブーツを脱がせて、青い胸当てを外してやった。
 胸当ては脇の部分に革紐で固定されており、簡単に外す事ができた。
 丁度よい胸の膨らみが目に入ったが、俺は紳士なので気にしない。

 スライムオイルの火が消えかかっていたので、新しいものに交換しておく。
 3日くらい保っただろうか。
 スライムの分泌物のくせに優秀である。

 さて、どうしよう。

 まだ意識の戻らないルーナを眺めながら、俺は腕を組む。

 一番いいのは、当たり障りない事を言って、帰ってもらう事だ。

 俺は決闘に勝ったので、約束通りならば、この女を自由にしていいのかもしれない。

 しかし、極力、全力で、人とは関わり合いになりたくない。

 いくら好みど真ん中の女を抱けるといっても、俺はすでに酸いも甘いも経験した32歳だ。
 10代の童貞とは違う。
 俺は大人の紳士なのだ。
 刹那的な一夜の思い出よりも、恒久的な平穏を望む。
 一人で静かに引きこもっている方がいいのだ。

「う、うう」

 その時、ルーナの意識が戻る。
 ルーナは形の良い眉を歪ませながら、力のない青い瞳で、俺を見つめた。

「……そうか。私は負けたのか」

 ルーナは僅かに身を起こしながら、長い睫毛を伏せる。

「まさか、3つも属性魔法を使えるとはな」

 俺が、土、火、水の魔法を使った事を言っているのだろうか。
 それならば、3つも、というのは間違いだ。
 余っているスキルポイントで風魔法を取れば4つになる。

「もう、身体はいいのか?」

 とりあえず、ルーナの身体を案じてみると、彼女は力なく頷いた。

「……決闘はお前の勝ちだ。煮るなり焼くなり、この身を好きにすればいい」

 それはどんな性癖だ、と思いながら、改めてルーナを眺める。
 憂いを込めて、力なく項垂れる様は美しく、ホットパンツから覗く太ももは艶めかしい。

 細かい事を気にするな、さあ、もう遅いから今日は帰りなさい。

 そんなセリフを口にしようとした。

 したのだが、ほんの少しだけ、魔が差した。

 こんな女に手を出せる機会なんて、めったにない。
 せっかくなので、キスくらいはしてもいいのではないか。
 もったいないし! タダだし!

 俺はおもむろにルーナの小さな顎に手を当てて、上を向かせる。

「うむぅ!」

 そして、その桜色の唇に、思い切り吸い付いた。
 キスくらいなら、問題ないだろう。
 大人の紳士も普通にやるはずだ。
 外国では挨拶だというし、面倒くさい事にはならないだろう。

 ルーナの唇はとろける様に甘く、温かく、柔らかかった。
 今までしてきたどのキスとも違う。
 脳が痺れるような感覚がする。

 気づけば、舌を入れて、ルーナの口内を舐め回していた。

「むう、やあ、いきなりっ、むむぅ!」

 ルーナに喋る間を与えずに、唇を貪り尽くす。

 しばらくして、唇を開放すると、その青い瞳は熱に冒されたように潤み、唇からは粘着質の唾液が糸を引いて伸びていた。

 そして、不思議な現象が起こった。

 言うなれば、アレである。
 休日に、朝から買い物に行こうと予定を立てたとする。
 しかし、実際に、朝起きる時には、あと10分、あと15分とどんどん起きる時間が遅くなって行き、気づけば休日が終わっていた。
 そんな現象が起きたのだ。

 そんな訳で、始めは軽いキスだけと思ったのに、気づけば、俺は全裸で汗だくで、横には同じく全裸のエルフがぐちょぐちょになって転がっているという不思議な現象が起きた。
 すわ何事か。

「……はじめて、だった、のに」

 全裸のエルフが息も絶え絶えにそんな事を言っている。

 俺は何が起きたのかわからなかった。
 俺は酸いも甘いも経験し尽くした大人の男なのに。
 誠に遺憾な状況に陥っている。

 ただ、言えるのはルーナはぐちょぐちょになっても美しかった。
 顔はもちろん、細身だが出るとこはちゃんと出た身体付きなどは、おれの理想そのものだった。

 そんな女が裸になっているという事実だけで、俺はくらくらしてきて。
 思わず、ルーナに手を伸ばしてしまう。

 そして、また不思議な現象が起きた。

 言うなれば、アレである。
 飲み屋に入って、あと一杯飲んだら帰ろうと思うとする。
 しかし、一杯飲み終わると、なんだか物足りなくて、もう一杯だけ飲んだら帰ろうと思う。
 気づけば終電はなくなっており、辺りには空のジョッキが散乱している。
 じゃあ、仕方ないから始発まで飲み続けるか!
 そんな現象が起きたのだ。

「お、おい、2回もしていいなんて言っていないぞ!」

 初めはそんな事を言っていたルーナも。

「お、おねがい、ちょっとは休ませて……」

 次第に、謎の許しを請うようになり。

「あうあ……あう……ああ……」

 5、6回した辺りで、何を言っているのかよくわからなくなった。

 さすがにそれだけすれば、俺も眠くなってきて、少し気を失った。
 そして、しばらくして目を覚ますと、横に緩やかな艶めかしい曲線を描く物体が、すーすーと寝息を立てていて。
 その物体の首筋には、俺のつけた跡が赤く残っていて。
 何かを刺激された俺は、なんというか、誠に遺憾な事に、俺はその物体を押し倒すのだ。

 なんと恐ろしい無限ループか。
 呪いにかかったように、俺はこのループから抜けられなくなった。

 結局、なんだかんだ言ってそのまま、夜が更けて、朝が来て、再び夜が来ようとする時間まで、その無限ループは続いた。

 そして、気がつくと、俺は勝者の権利を堪能し尽くしていたわけで。

 傍らにうずくまるエルフは、見るも無残な、非常に表現し難い状態となっているわけで。

 俺は、そっとルーナを見なかったことにして、家から出た。



 あー、すっげータバコ吸いたい。
 事後特有の謎の喫煙衝動に駆られながら、夜空を見上げる。

 俺は今年で32歳。
 もう10代の童貞小僧とは違うのだと。

 ……思っていた時期が私にもありました。

 どうしよう。
 やってしまった感が半端ない。

 なんだろうなー。
 あの女が好みすぎたのと、身体が若返ったのが原因だろうか。

 ちょっと枯れ始めていると思っていたけど、俺は意外と若かったらしい。

 後でルーナには土下座して謝ろう。
 謝って済む問題じゃない気もしたが、悩んでも仕方ないので前向きに考えることにした。



 とりあえず、しばらく頭を冷やすために、その辺を散歩してから家に帰った。

 先程までモザイク無しには語れない状態だったルーナは少し回復していた。
 ぼーっとした焦点の合わない目で俺を見ている。
 これが所謂、レイプ目ってヤツだろうか。
 少し心配になったので、ルーナの頬を弱く叩いてみる。
 ルーナは少しビクッとしながらも、その目に力が戻り始めるのがわかる。

「……ちょっと、まって」

 やや舌足らずな発音で、ルーナは口を開いた。

「また、あとで、してあげるから、ちょっと休憩、しよ?」

 そういえばもう丸一日、何も食べていない。
 ひどく疲れ果てた表情で、とぎれとぎれに話すルーナが少し哀れになった。
 なんか同じようなことを何度も言われたような気もするが、気のせいだろう。

「そうだな。風呂にでも入って、ご飯食べようか」

 汗やらなんやらで、バリバリになってしまったルーナの美しい髪を梳いてやりながら、そんな提案をしてみる。
 俺もそうだが、ルーナは酷い臭いだった。

「……お風呂?」

 何を言われているのかわからないと言った表情を浮かべるルーナを残して、俺は風呂場に向かった。

 一昨日、朝風呂に入った後、一応浴槽は洗っておいた。
 ただ、今回はルーナがいるので、もう一度念入りに水魔法で洗っていく。
 スポンジと洗剤が欲しくなるが、今は我慢だ。

 風呂を洗った後は、水魔法と火魔法でお湯を入れていく。

 今日は、MPをほとんど使っていないので浴槽いっぱいのお湯を生成しても余裕だった。
 そういえば、ルーナと戦ってから、また少しMPが増えていた。
 レベル上げもしていないのに、ステータスの伸びは順調だ。

 風呂の準備が終わった所で、ベッドに戻ってルーナを抱えた。
 ルーナにやられた左肩は、もう完全に回復していたので、今回はちゃんと両手で抱えられた。
 首がカクンとならないように、頭を右手で抱えて、左手を膝の裏に回す。お姫様抱っこだ。

「あう」

 抱えた瞬間、ルーナは妙な声を上げる。
 心なしか、ルーナは更に軽くなったような気がしたが、きっとこれも気のせいだ。

 風呂場までルーナを運んでから、浴槽に入れる前に、お湯を生成してかけてやった。

「え、お湯!?」

「両手が塞がっているから、自分でよく洗うんだぞ」

 まだ完全には回復していないのか、ルーナの足腰がおぼつかないので心配だったが、ルーナはふらふらしながらも、身体や頭を洗っていく。

 そして、ルーナを湯船に入れてやると、その表情はみるみる和らいでいった。
 俺のお湯加減はちょうどよかったらしい。

「ちゃんと温まるんだぞ」

 そう言い残して、俺は部屋に戻ろうとした。
 部屋で、どうやってルーナに謝ろうか作戦を練るのだ。

「……お前は入らないのか?」

 不意にそんな事をルーナが聞いてきた。
 何言ってるのこの子。

「2人で入るには狭いだろう」

「詰めれば大丈夫、だ」

 そもそも、一緒に入って恥ずかしくないんだろうか。
 そんな事を考えてから、今更言うことじゃないと気づいた。

 俺は両手が塞がらないように、水魔法だけ発動させて身体を洗ってから、湯船に入った。
 湯船から勢い良くお湯が溢れる。
 やっぱり、2人では湯船が狭かったので、ルーナを俺の上に載せるようにして抱え込む。
 一瞬、浴槽を拡張しようかと思ったが、ルーナが帰った後に戻すのがめんどいので止めておく。

 ルーナの柔らかくて、すべすべの肌の感触をモロに感じながら、再び無限ループに突入するのを鉄の意思を発動させて押さえ込む。
 もっと早く発動させろよっていう。
 そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、ルーナは俺に背を預けて気持ちよさそうに湯船を堪能している。

「このお湯は、魔法で出したのか?」

「ああ、水魔法と火魔法を組み合わせてな」

「……すごいな。二重詠唱(デュアルスペル)はこんな事もできるのか。物凄くもったいない使い方をしている気もするが」

 ルーナがなんか厨二ゴコロをくすぐる事を言っている。

「デュアルスペル?」

「お前が何度も使っているやつの事だ。私と戦ったときも、土魔法と火魔法を同時に使っていただろう」

「あー。やったような。そんなに凄いことなのか?」

「凄いことなのかって……。エルフにだって、二重詠唱(デュアルスペル)の使い手は数人しかいないんだぞ。そもそも、複数の属性を使えるエルフだってほんの一握りだ。それをお前は、3つも……」

「そうなのか」

 なんだろう。
 物凄く気分がいい。
 もっと褒めてくれてもいいのだよ。

「お前、本当に人間か? 私の音速矢(ソニックアロー)でつけた傷も治っているし……」

 そう言いながら、ルーナは俺の左肩に目を向ける。
 ソニックアローというのは、あの音速を超えた矢の事だろうか。
 あれには、ビビった。

「れっきとした人間だぞ」

 一回死んでいるらしいけど。

「そうか。なあ、その悪かったな」

 そう言いながら、ルーナは俺の左肩に頭を載せる。
 俺からはルーナの後頭部しか見えなかったが、なんというか、死ぬほど可愛い仕草だった。
 必死に鉄の意志を発動させる。
 そろそろオリハルコンの意思とかに進化しそうな勢いだ。

「気にするな。……俺の方も悪かったな」

 今がチャンスだと思った。
 今なら、全てをチャラに出来る。
 そんな気がした。

「え? 何がだ?」

 ルーナが肩越しに俺を振り返る。

「いや、その、初めてだったのに、丸一日も」

 最初、何を言われているのかわからないといった表情をしていたルーナの顔がみるみる赤くなっていく。

「まったくだ! 限度と言うものを知らないのか、お前は! 何度も死ぬかと思ったぞ!」

 ルーナさんはマジギレしていた。

「だいたい初めて会った時から変態だとは思っていたが、変態すぎるだろう! どれだけ私の身体が好きなんだ!? あ、あんなことや、こんなことまでして!」

 いちいちごもっともだったので、小さな声で「ごめんなさい」を繰り返した。



 風呂から上がって、身体を乾かす為に、外で仁王立ちをしに行こうとしたら、ルーナに止められた。
 ルーナは普通にタオルを何枚か持っていたので、1枚貸してもらえたのだ。

 そんなわけで、食事をする為に、2人で外に出る。
 辺りは完全に暗くなっていたので、《火形成》で小さな火球を生成して、照明代わりにした。

 ルーナに手伝ってもらいながら、クリンゴを収穫する。

「これは、ネミアの木か。なんと立派な」

 クリンゴは、正式にはネミアの実というらしい。
 クリンゴの方がしっくり来るのだが。

「これほどの大きさに育つには数十年かかるぞ。それを5本も。さぞ苦労して育てたのだろう」

「そんなにかかるのか」

「ああ。そもそも実をつけるまで10年はかかる」

「ふーむ。そんな実をばくばく食べるのは気が引けるが、唯一の俺の食料だしな」

「え? その辺にウサギとかヒツジがいるだろう。あれらの肉は美味いぞ」

 やっぱり、ウサギの肉は美味いのか。
 ヒツジは見た事ないが。

「いや、美味いんだろうなとは思ったが、俺は料理ができないのだ」

「なぜそんなに偉そうに言う……」

「生まれつきだ」

 ルーナは、小さくため息をつく。

「……今日はもう暗いから無理だが、明日になったらウサギを料理してやる」

「え、まじで?」

「言っている意味がよくわからないが、私のウサギ料理は美味しいぞ。というか、お前は今までどうやって生活してきたんだ」

「……家に引きこもって」

「何か呪いでも受けているのか」

 ちょっと本気で心配そうなルーナの反応が悲しかった。

 とりあえず、クリンゴの実、改め、ネミアの実をいくつか収穫してきて、家で食べた。
 部屋は暗く、スライムオイルの僅かな灯りと天井から差し込む月明かりだけだったが、目が慣れたのか、結構辺りを見渡せる。
 ルーナはちらりと天井を見上げたが、何も言わなかった。
 俺は、このステキ天井を自慢したくて仕方なくなったが、我慢した。
 自分で言うのもなんだが、ウザくなること間違いなしだからだ。

 ルーナはこの辺りのヒツジを狩って、羊毛を作りに来たらしい。
 ヒツジは見たことないが、その辺にいるのだろうか。
 とりあえず、明日あたりにさっさとそのヒツジを狩ってもらって、とっとと帰ってもらおうと思った。
 明日、ウサギ料理は堪能させてもらうが。

 そんなわけで、今日はさっさと寝ようと思ったのだが。

「ベッドが酷い……」

 さっきから、何か臭うと思ったけどベッドからだった。
 つい先程まで、ここで繰り広げられていた情事を考えれば当然だった。
 よくここで食事ができたものだ。

 もう遅い時間だけど、シーツを洗って、藁を交換するしかないかと思っていると、なんだかルーナはそわそわと落ち着かない。

「べ、べつにいいんじゃないか」

 女のくせにこのドロドロのベッドを許せるというのか。
 これがこの世界のスタンダードなのだろうか。

「洗っても、またすぐにこうなるんだし」

 何をいっているのだこの女は。

 後に振り返ってみると、この時、強引にでもベッドを洗って大人しく寝かせていれば、まだなんとか取り返せたのではなかろうかと思う。

「……ま、また私に、その、するんだろう?」

 うつむきながらも、ちらちらと俺を上目遣いで伺うルーナの仕草に。

 オリハルコンに進化しつつあった鉄の意志はあっけなく砕け散り。

 やばいって、絶対めんどくさくなるって!

 そんな事をもう一人の自分が警告するのも聞かず。

 俺はルーナを押し倒した。



 結果として、翌日行くはずだったヒツジ狩りも、ウサギ料理も実現することはなかった。

 ネミアの実と水魔法だけで食いつなぎ、退廃的な時間が流れた。

 次に俺が正気に戻ったのは、3日後だった。

 さすがの社畜も疲労困憊する中、びくんびくんと謎の痙攣を繰り返すルーナは、多重モザイクでも足りないくらいの状態になっていて。

「……せ、せきにん、と、れ」

 今にも死に絶えそうな声で、ルーナは恐ろしい事を言う。
 俺はそんなルーナの言葉に聞こえないフリをしながら、ただ遠くを眺めた。
 そして思うのだ。
 若気の至りって残酷だな、と。
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