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第一章 異世界転移編
第11話 ヴァルキリー再び
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気がつくと、再びあの真っ白な部屋にいた。
俺が異世界に飛ばされるきっかけとなった部屋。
そこには、当然のごとく一人の女性がいた。
部屋と同化しそうな真っ白な服を着た人間離れした美人。
その女性は、部屋の中心に立っていた。
目を閉じて長いまつげを伏せ、両手を腹部に添えて、背筋がぴんと伸びている。
「お呼びだてしてしまい、申し訳ございません。アサギリ様」
その女性――マクロスさんは、相変わらず丁寧に頭を下げた。
マナー研修のお手本のようなお辞儀だ。
お呼びだてと言うけれど、俺は呼ばれた記憶がないし、そもそも引きこもりなので、呼ばれても行かない。
「マクロスさん、どうもです」
とりあえず挨拶をしてみた。社会人の基本である。
「…………」
ただの挨拶のはずが、マクロスさんの整った眉がぴくっと揺れた。
何か失礼な事を言っただろうか。
「この度、アサギリ様を呼び出したのは、他でもございません。一言、申し上げたき事がございます」
「ふむ。聞こう」
「アサギリ様は、先程、世界の禁忌に抵触するような事をなされました」
そういえば、そんなログが出ていた。
というか、そうだった。
俺はステキ天井を作ろうと思っていたんだった。
「あの行為は、大変危険な行為となります。くれぐれも、二度となさらないよう、お願い申し上げます」
危険な行為に心当たりがありません。
「……アサギリ様は、世界の因果律をお変えになろうとされておりました」
「ふむ」
何を言っているのかよくわかりません。
「アサギリ様が、先程まで何をなさっておられかたか、覚えていらっしゃいますでしょうか?」
「天井を作ろうとした」
「天井、でございますか……」
マクロスさんは、少し困惑した顔になる。
「そうだ。透けていて、夜空の星が見えて、それでいて頑丈な天井だ」
「……どのように、作ろうとされたのでしょうか?」
「え、普通に。《土成形》で」
俺が、答えるとマクロスさんは、小さくため息をついた。
なにかまずかったのだろうか。
「アサギリ様のその行いは、《因果律の書き換え》となり、世界で禁じられた禁断魔法の一つになります」
禁断魔法。なんか琴線に触れる響きだ。
元暗黒騎士の血が騒ぐ。
「アサギリ様はおそらく防弾ガラスのようなものを土魔法でお作りになろうとされたと愚考いたしますが……」
「そうそう。防弾ガラスが一番イメージに合う」
「よくお考えください。土から防弾ガラスが作れますでしょうか?」
「……作れません」
そんな事、よく考えなくてもわかっているがな。
「でもマクロスさん。魔法なら、理屈に合わない事でも、魔法的な謎理論で解決してくれると思ったんだ」
「アサギリ様、それが《因果律の書き換え》に当たるのです。確かに、莫大な魔力を込めることによって、因果律に影響を与え、普段は考えられないような事も可能となります」
「それそれ」
「……しかし、《因果律の書き換え》は非常に難易度が高く、失敗した場合は予期せぬ方向に因果律が書き換わる事が予測されます。そして、因果律が変容した為に、世界が滅びることもあるのです」
「ふむ」
世界が滅びるとか言われても、全然ピンとこなかった。
なぜ天井を作ろうとして、世界が滅びるのか。
「例えば、絶対に押してはいけない核ミサイルの発射スイッチがあったとします。もしも、押してしまったら世界中に核ミサイルが発射されて世界は滅びます。ここまではよろしいでしょうか?」
「うむ。そんなスイッチ作るなよと思うが」
「あくまで、例えでございます。さて、アサギリ様が土魔法で防弾ガラスを作ろうとされて、失敗した結果、因果律がおかしな方向に変わってしまいました」
「その際に、変わった因果律が、先程の核ミサイルのスイッチに関連していたらどうなるでしょうか?」
「つまり、核ミサイルのスイッチは危険なので、押さない。この因果律が、核ミサイルのスイッチは危険なので、押す。に変わってしまうのです」
「うーん、マクロスさん。ちょっとよく分からないが、原因と結果が変わってしまうということかな?」
「そうでございます。つまり、世界が滅びてしまいます。」
少し、心当たりがある。
俺はあの時、ステキ天井を作ろうとして、本来作れるはずのないものを作ろうとした。
マクロスさんはその事を言っているのだろう。
ただ、それで言ったら。
「土魔法で鉄のように硬い壁を作ったんだけど、あれも因果律を書き換えていることにはならないのか?」
「……それは、《結果の拡張》となります。超高レベル魔術の一つではございますが、《因果律の書き換え》とまではなりません」
「うーん、ごめん。その線引がよくわからない」
「ご安心ください。もしも、禁忌に抵触する行為をされた場合は、警告が出るようにしております。……アサギリ様は、無視なさいましたが……」
マクロスさんは、少し咎めるような顔で、じろりと俺を見た。
対人恐怖症の俺は、少しビビった。
「いや、なんかヤバイと思って、とりあえず少しでも天井を作ろうとしたんだけど」
「……まだアサギリ様の魔力量では、因果律の干渉には不十分となります。今回は私の方で、拙いながら、手助けをさせていただきましたので、大事には至りませんでしたが、大変、危険な行為となりますので、以後なさいませんよう、お願い致します」
あー最後、MPなくなりかけてたのに、急にどかっと魔力来た気がする。
あれ、マクロスさんだったのか。
「ありがとうございます。マクロスさん」
俺はぼそぼそとお礼を言った。
なんかお礼を言うのは恥ずかしくて苦手だ。
「恐縮でございます。それにしても、驚きました」
「何がですか」
「魔法を習得して数日たったばかりのアサギリ様が、《結果の拡張》、《因果律の書き換え》と言った魔術の到達点とも言える魔法をお使いになられるとは」
「ふふん」
魔術の到達点とか言われた。
鼻が自撮り棒のように伸びそうだ。
めちゃくちゃ嬉しい。
オーバーロードがそんなにすごい魔法だとは思わなかった。
《因果律の書き換え》の方は、オーバーライドと名付けよう。
Javaか。
「それも、家を作るために《因果律の書き換え》を行うというお話は、私も長く生きておりますが、聞いたことがございません。確か、以前、《因果律の書き換え》にまで至ったのは、数百年前に一人の老魔術師が亡き娘を生き返らせる為に使用していたと記憶しております」
「いい話だ」
「ちなみに、その老魔術師は神々の怒りを受けて討滅されました。娘の方も何らかの強い呪いを受けたと聞いております」
「うん? なんで討滅されんの?」
「私としたことが、申し上げるのを忘れておりました。禁忌の魔法を使ったものは、世界の敵とみなされ、我ら神によって滅ぼされます。アサギリ様も、危ない所でございました」
「……マクロスさん、本当にありがとうございました。」
つうか、早く言ってくれよ。
DIYして、滅ぼされるとか。遺憾にもほどがあるよ。
「いえ、恐縮でございます。今回は、特例として、件の天井の作成に協力させていただきました。天井は、アサギリ様のお望みのままに、完成しているでしょう」
「おお!」
「ただ、次にまた禁忌に触れたら、即座に神敵と認定させていただきますので、ご注意願います」
「おお……」
「それと、私の名前をお間違いになっているようですが」
そう前置きを切って、マクロスさんが俺を睨みながら口を開く。
「私の名前は、ヴァルキリーでございます。マクロスではありません。一文字もあっておりません。よろしいでしょうか。ヴァルキリーでございます。ノリコ・ヴァルキリーと申します!」
「ノリコ!?」
まさかの和名だった。
「はい、そうでございます。よろしいですか? 次にまた名前を間違えたら、即座に神敵と認定させて頂きますので、お覚悟願います」
そっちも神敵なのかよ。
神敵結構簡単になれるな。
「それでは、お時間をとらせて申し訳ございませんでした。再びのご奮闘の程、期待しております。どうか、あの世界を救って頂けますよう、よろしくお願いいたします」
そう言いながら、まくろ――ノリコさんはキレイなお辞儀をして、俺を見送ってくれた。
再び、視界を白い光が満たしていく。
徐々に光に覆われて、見えなくなっていくノリコさんに俺は軽く手を振りながら。
まあでも世界を救う気なんてサラサラないけど。
自宅を作って引きこもる気ならあるがな!
そんな事を考えた。
俺が異世界に飛ばされるきっかけとなった部屋。
そこには、当然のごとく一人の女性がいた。
部屋と同化しそうな真っ白な服を着た人間離れした美人。
その女性は、部屋の中心に立っていた。
目を閉じて長いまつげを伏せ、両手を腹部に添えて、背筋がぴんと伸びている。
「お呼びだてしてしまい、申し訳ございません。アサギリ様」
その女性――マクロスさんは、相変わらず丁寧に頭を下げた。
マナー研修のお手本のようなお辞儀だ。
お呼びだてと言うけれど、俺は呼ばれた記憶がないし、そもそも引きこもりなので、呼ばれても行かない。
「マクロスさん、どうもです」
とりあえず挨拶をしてみた。社会人の基本である。
「…………」
ただの挨拶のはずが、マクロスさんの整った眉がぴくっと揺れた。
何か失礼な事を言っただろうか。
「この度、アサギリ様を呼び出したのは、他でもございません。一言、申し上げたき事がございます」
「ふむ。聞こう」
「アサギリ様は、先程、世界の禁忌に抵触するような事をなされました」
そういえば、そんなログが出ていた。
というか、そうだった。
俺はステキ天井を作ろうと思っていたんだった。
「あの行為は、大変危険な行為となります。くれぐれも、二度となさらないよう、お願い申し上げます」
危険な行為に心当たりがありません。
「……アサギリ様は、世界の因果律をお変えになろうとされておりました」
「ふむ」
何を言っているのかよくわかりません。
「アサギリ様が、先程まで何をなさっておられかたか、覚えていらっしゃいますでしょうか?」
「天井を作ろうとした」
「天井、でございますか……」
マクロスさんは、少し困惑した顔になる。
「そうだ。透けていて、夜空の星が見えて、それでいて頑丈な天井だ」
「……どのように、作ろうとされたのでしょうか?」
「え、普通に。《土成形》で」
俺が、答えるとマクロスさんは、小さくため息をついた。
なにかまずかったのだろうか。
「アサギリ様のその行いは、《因果律の書き換え》となり、世界で禁じられた禁断魔法の一つになります」
禁断魔法。なんか琴線に触れる響きだ。
元暗黒騎士の血が騒ぐ。
「アサギリ様はおそらく防弾ガラスのようなものを土魔法でお作りになろうとされたと愚考いたしますが……」
「そうそう。防弾ガラスが一番イメージに合う」
「よくお考えください。土から防弾ガラスが作れますでしょうか?」
「……作れません」
そんな事、よく考えなくてもわかっているがな。
「でもマクロスさん。魔法なら、理屈に合わない事でも、魔法的な謎理論で解決してくれると思ったんだ」
「アサギリ様、それが《因果律の書き換え》に当たるのです。確かに、莫大な魔力を込めることによって、因果律に影響を与え、普段は考えられないような事も可能となります」
「それそれ」
「……しかし、《因果律の書き換え》は非常に難易度が高く、失敗した場合は予期せぬ方向に因果律が書き換わる事が予測されます。そして、因果律が変容した為に、世界が滅びることもあるのです」
「ふむ」
世界が滅びるとか言われても、全然ピンとこなかった。
なぜ天井を作ろうとして、世界が滅びるのか。
「例えば、絶対に押してはいけない核ミサイルの発射スイッチがあったとします。もしも、押してしまったら世界中に核ミサイルが発射されて世界は滅びます。ここまではよろしいでしょうか?」
「うむ。そんなスイッチ作るなよと思うが」
「あくまで、例えでございます。さて、アサギリ様が土魔法で防弾ガラスを作ろうとされて、失敗した結果、因果律がおかしな方向に変わってしまいました」
「その際に、変わった因果律が、先程の核ミサイルのスイッチに関連していたらどうなるでしょうか?」
「つまり、核ミサイルのスイッチは危険なので、押さない。この因果律が、核ミサイルのスイッチは危険なので、押す。に変わってしまうのです」
「うーん、マクロスさん。ちょっとよく分からないが、原因と結果が変わってしまうということかな?」
「そうでございます。つまり、世界が滅びてしまいます。」
少し、心当たりがある。
俺はあの時、ステキ天井を作ろうとして、本来作れるはずのないものを作ろうとした。
マクロスさんはその事を言っているのだろう。
ただ、それで言ったら。
「土魔法で鉄のように硬い壁を作ったんだけど、あれも因果律を書き換えていることにはならないのか?」
「……それは、《結果の拡張》となります。超高レベル魔術の一つではございますが、《因果律の書き換え》とまではなりません」
「うーん、ごめん。その線引がよくわからない」
「ご安心ください。もしも、禁忌に抵触する行為をされた場合は、警告が出るようにしております。……アサギリ様は、無視なさいましたが……」
マクロスさんは、少し咎めるような顔で、じろりと俺を見た。
対人恐怖症の俺は、少しビビった。
「いや、なんかヤバイと思って、とりあえず少しでも天井を作ろうとしたんだけど」
「……まだアサギリ様の魔力量では、因果律の干渉には不十分となります。今回は私の方で、拙いながら、手助けをさせていただきましたので、大事には至りませんでしたが、大変、危険な行為となりますので、以後なさいませんよう、お願い致します」
あー最後、MPなくなりかけてたのに、急にどかっと魔力来た気がする。
あれ、マクロスさんだったのか。
「ありがとうございます。マクロスさん」
俺はぼそぼそとお礼を言った。
なんかお礼を言うのは恥ずかしくて苦手だ。
「恐縮でございます。それにしても、驚きました」
「何がですか」
「魔法を習得して数日たったばかりのアサギリ様が、《結果の拡張》、《因果律の書き換え》と言った魔術の到達点とも言える魔法をお使いになられるとは」
「ふふん」
魔術の到達点とか言われた。
鼻が自撮り棒のように伸びそうだ。
めちゃくちゃ嬉しい。
オーバーロードがそんなにすごい魔法だとは思わなかった。
《因果律の書き換え》の方は、オーバーライドと名付けよう。
Javaか。
「それも、家を作るために《因果律の書き換え》を行うというお話は、私も長く生きておりますが、聞いたことがございません。確か、以前、《因果律の書き換え》にまで至ったのは、数百年前に一人の老魔術師が亡き娘を生き返らせる為に使用していたと記憶しております」
「いい話だ」
「ちなみに、その老魔術師は神々の怒りを受けて討滅されました。娘の方も何らかの強い呪いを受けたと聞いております」
「うん? なんで討滅されんの?」
「私としたことが、申し上げるのを忘れておりました。禁忌の魔法を使ったものは、世界の敵とみなされ、我ら神によって滅ぼされます。アサギリ様も、危ない所でございました」
「……マクロスさん、本当にありがとうございました。」
つうか、早く言ってくれよ。
DIYして、滅ぼされるとか。遺憾にもほどがあるよ。
「いえ、恐縮でございます。今回は、特例として、件の天井の作成に協力させていただきました。天井は、アサギリ様のお望みのままに、完成しているでしょう」
「おお!」
「ただ、次にまた禁忌に触れたら、即座に神敵と認定させていただきますので、ご注意願います」
「おお……」
「それと、私の名前をお間違いになっているようですが」
そう前置きを切って、マクロスさんが俺を睨みながら口を開く。
「私の名前は、ヴァルキリーでございます。マクロスではありません。一文字もあっておりません。よろしいでしょうか。ヴァルキリーでございます。ノリコ・ヴァルキリーと申します!」
「ノリコ!?」
まさかの和名だった。
「はい、そうでございます。よろしいですか? 次にまた名前を間違えたら、即座に神敵と認定させて頂きますので、お覚悟願います」
そっちも神敵なのかよ。
神敵結構簡単になれるな。
「それでは、お時間をとらせて申し訳ございませんでした。再びのご奮闘の程、期待しております。どうか、あの世界を救って頂けますよう、よろしくお願いいたします」
そう言いながら、まくろ――ノリコさんはキレイなお辞儀をして、俺を見送ってくれた。
再び、視界を白い光が満たしていく。
徐々に光に覆われて、見えなくなっていくノリコさんに俺は軽く手を振りながら。
まあでも世界を救う気なんてサラサラないけど。
自宅を作って引きこもる気ならあるがな!
そんな事を考えた。
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