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第一章 異世界転移編
第9話 土の家を作る! ①
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朝、目を覚ますと、めちゃくちゃ寒かった。
昨日は、筋トレ祭りのせいで、スライムオイルを焚かずに寝てしまった。
火すらつけずに、地面に直寝である。
人間としてどうかと思う。
とりあえず、スライムオイルに火をつけて、暖をとる。
その後は、昨日と同じように、水魔法で身体と服を洗って、全裸で仁王立ちした。
これは、朝のルーティンにしようと思う。
それにしても、身体中がめちゃくちゃ痛い。
筋肉痛+地面に直寝のせいだろう。
昨日最後にやった首ブリッジのせいで、首筋が特に痛い。
筋力ステータスが上がらないのに腹を立てて、誰に言うでもない罵詈雑言を撒き散らしながら、首ブリッジをした。
完全にトランス状態だった。
なんというか、飲み過ぎて暴れまくった日の翌日的なやっちゃった感がある。
ただ、筋トレも毎日のルーティンにしようと思う。
昨日みたいなのは、さすがにもうやらないが、腕立て、腹筋、スクワットくらいは毎日やっていいと思うのだ。
主にステータスアップを目指して。
ステータスアップは、俺のジャスティスだ。
俺は腕を組みながら、全裸で仁王立ちをして、そんな事を考えた。イメージ的に今かかっているBGMは、ガンバ○ターのアレである。
まず《土形成》を試してみる。
いつもと同じように、右の手の平を上向きにして、《土形成》と念じてみた。
もこもこと、一定量の土が不定形に形を変えながらふわふわ浮いている。
《火形成》と同じように細長くしてみたり、くるくる回る土の渦を作ってみたり、形を自由に変えられた。
ここまでは想定どおりだ。
次は、右手で地面に触れながら、地面に対して《土形成》と念じてみた。
ごごごと地震のような音を立てて、地面が盛り上がっていく。
先程まで平らな地面だった場所に、一瞬で俺の腰くらいまでの高さのある小さな山が出現していた。
すでにある地面の土を使っているのか、消費したMPはびっくりするほど少ない。
やっぱり、地形効果的なものはあり、土の地面の上では、土魔法が使いやすいようだ。
きっと川や海では水魔法、風の強い日は風魔法が使いやすいのだろう。
火魔法が使いやすいのは、火山とかだろうか。
火山とか絶対行かないけど。
俺は、再び地面に《土形成》をかける。
地面がゆっくりと盛り上がっていく。
今度作るのは山ではなく、四角い土壁だ。
形を整えようとしている分だけ、生成に時間がかかる。
やがて目の前に、高さ1メートルほどの土手のようなものができあがる。
厚さは10センチ程で、今にも崩れそうだ。
俺はもう一度《土形成》を発動させて、土手の厚みを30センチ程にしてみた。
まだ少しぐらぐらしている気がする。
更に厚みを50センチくらいまで増加させた。
やっと安定したっぽい。
連続で《土形成》をしたせいで、MPがカツカツだった。
とりあえず、残りMPを適当な《火形成》を発動させて溶かして、MPを枯渇させた。
一旦、休憩しよう。
MP枯渇が収まるのを待って、俺は作った土手をぺたぺたと触ったみた。
触った先から、ぼろぼろと土が崩れていく。
強度的に、まだまだ土壁とは呼べなそうだ。
MPの回復を待ってから、土手を圧縮してみることにした。
土の量はそのままに、土手の厚みを薄くさせてみる。
《火生成》の時もそうだったが、大切なのはイメージだと思う。
動画データをMPEGで圧縮するように、土手を横に圧縮して、密度を高めて行くのだ。
土手はじわじわと横に縮まり始めた。
必死に圧力を高めようとするが、なんというか魔力的なものが足りない気がする。
俺は遊んでいる左手も使って、2重の《土成形》を発動させる。
昨日と同じように、脳に負荷がかかる。
土手はぎゅーっと薄く圧縮されていった。
めりめりと音を立てて、横に縮んでいく。
やがて、半分くらいの薄さになった所で圧縮が止まる。
もうこれで限界のようだ。
《土形成》でいくら縮めと念じても、ぴくりとも動かない。
それでも、まだ見た目が土っぽい。
触ってみると、ガリガリした感触に変わってた。
ぱっと見、崩れる様子はない。
でも、まだ家の壁としての強度は不十分ではないかと思うのだ。
なぜなら、自分の家と言うのは、他者を隔絶する絶対防壁であり、何人たりとも不法侵入を許してはならないからだ。
重ねて言っておくが、別に俺が引きこもりだからというわけではない。
そんな訳で、俺はジジイの前戯のようにしつこくねちっこく、再び《土形成》を発動させる。
今度は最初から、両手での発動である。
両手を広げるようにして、土壁と向き合う。
圧縮しきった土壁は、ぴくりとも動かない。
まだまだ!
大切なのはイメージだ。
ここでイメージするのは、硬い壁。
誰にも破れない、ここに逃げ込めばひと安心。
核戦争で世界が滅びても、俺んちだけは無事。
俺が、住みたいのはそんな家だ!
その時、微動だにしなかった土壁に変化が生じた。
土壁全体が青白く発光し始める。
発光は次第に強まっていく。
頭が締め付けられるような痛みを発する。
MPが音を立てるようにがんがん減っていった。
いつもの倍どころか、数倍の速度である。
その時、土壁にバチバチと放電現象が発生した。
そして何かが爆発するような音がした時。
土壁は一瞬で、超圧縮していた。
土壁は最初の10分の1程度の薄さになり、放電現象のせいか微かに白煙を上げている。
俺のMPは0になり、いつものMP枯渇が襲ってくる。
しかし、俺はあまりの出来事に声もなかった。
MP枯渇の嫌な感じも気にならない程、今起きた現象に驚いていた。
恐る恐る土壁を叩いてみる。
すると、キンッと金属的な音がした。
物凄く硬そうだ。
見た目は、元が黒い土だったとは思えないが、薄茶色になっていた。
ついに、俺の引きこもり根性が奇跡を起こしたのだ!
引きこもりが勝利した歴史的瞬間であった。
俺は達成感に満たされた。
それにしても、さっきの《土形成》はすごかった。
MPの消費量が跳ね上がった気がしたけど、《土形成》にかかる消費MPは一定ではないのだろうか。
もしも、さっきの感覚が消費MP量を増やすものだとしたら、なんとなくコツは掴んだ気がする。
もしやと思ってステータスを確認してみると、あの一度だけでMPが5ポイント、知能が2ポイントも上昇していた。
頭すごく痛かったし、結構な負荷がかかったようだ。
MPを回復させたら、本格的に家を建て始めようと思う。
なんか、《土形成》が上手く言ったのがうれしくて、ついゲロってしまったけど、俺は本質的に引きこもりだ。
ちゃんと社会人をしていたのはホントだし、人とも普通にコミュニケーションを取れる。
ましてや、彼女とかもいるけど、基本的には人嫌いなのである。
休日は滅多に外には出ずに、ずっと家にいる。
まあ、ほとんど休日なんてないですけど(ブラック企業ジョーク)。
仕事中も、他の人が皆帰宅して、一人になってからのほうが作業効率が上がる。
彼女といて、一番楽しいのは、彼女が帰った後に、一人でタバコを吸う時間だ。
働かなきゃ生きていけないので必死に我慢しているが、許されるなら俺は永遠に自分の部屋に閉じこもっていたい。
一人は素晴らしい。
面倒くささは皆無で気楽。しかもストレスフリー。
身だしなみに気を使う必要もなく、独り言どれだけ言っても無問題。変な妄想をしてニヤニヤし放題。
誰にも傷つけられないし、誰も傷つけない。
人は一人では生きていけません。
誰が言ったのか知らないが、あのセリフは嘘だと思う。
たまの休みに、夕方まで爆睡して、全裸で人に見せられないくらいエログロなエロゲーとかやっているのが好きなのだ。
そんなダメ男日本代表的な事を考えていたら、MPが全快していた。
俺は先程作った土壁? と言って良いのかわからないが原料が土だった壁を眺める。
厚さは5センチくらいにまで圧縮されている。
最初から考えると、10分の1くらいまで圧縮されている事になる。圧縮率90%とか!
試しに思い切り殴ってみると、壁は勢い良く倒れた。
《土形成》をかけたのは、目に見える部分だけなので、地面の固定は甘かったのだろう。
ただ、思い切り殴ったのに、壁は傷ひとつついていなかった。
むしろ殴った俺の拳が痛い。
なんというか、骨レベルで痛い。
壁の硬度はかなりのものだと思う。
そんなわけで、この壁を作りまくって夢のマイホームにするのだ。
まずは適当な空き地を探す。
どれくらいの広さが良いだろうか。
4メートル四方くらいだろうか、中野にある自宅がそれくらいだ。
それくらいの広さなら、あっさり見つかった。
廃村の中央を通る道沿いで、村の一番奥にあたる箇所にちょうどいいスペースがあったのだ。
言うなればメインストリート沿いの角地である。
俺はまず、そのスペースに長さ4メートル、高さ3メートル、幅3メートルほどの直方体を《土形成》で作った。
測ったわけではないので、長さは勘だ。
直方体はかなりの容積になるので、MPを半分ほど消費した。
念のために、少し休んでMPを全快にする。
そして、この幅3メートルほどの直方体を幅30センチまで圧縮させたい。
両手を直方体に添える。
ゆっくりと深呼吸してから、《土形成》を発動させる。
まずは、少しずつ直方体を圧縮させていく。
MPがじわじわと減り始めた。
先程の超圧縮を体験してから、なんとなくMPの流れというか、魔力の流れを感じることが出来るようになった。
今は両方の手の平から、緩やかに魔力が直方体へと流れていっているのがわかる。
ちょっと前まで、両手で《土形成》を発動させると、脳に負荷がかかる感じがしたのだが、慣れたのか、今はそれほど感じなかった。
結構な時間を掛けて、直方体が半分くらいの厚さまで縮んだ所で、圧縮が止まる。
ここまでは予定通り。
問題はここからである。
俺は両手から流れる魔力を意識すると、思い切りその魔力の流れに圧力を掛けた。
関を切ったかのように、両手から魔力が激流となって直方体に流れ込んでいく。
頭が割れそうな程痛い。
それでも、我慢して強固な壁を作るイメージを構築していく。
どんどん魔力が直方体に溜まっていくのがわかる。
魔力が直方体を満たし、溢れかけた所で、例の発光現象が発生した。
そして発生する放電。
パリパリと音を立てて、直方体が振動する。
先程は感じなかったが、手の平が燃えるように熱い。
次の瞬間、雷が落ちたような轟音がして、超圧縮が開始される。
まだ厚さ150センチくらいあった土の直方体が、一瞬で厚さ30センチくらいの壁に変化したのだ。
俺は、MP枯渇に襲われながら荒くなった息を整えていた。
額からとめどなく流れてくる汗が目に染みた。
この大きさの土塊を圧縮するのは、ものすごい疲労を伴った。
いつもはMP枯渇発生とともに、すぐに消える疲労耐性のログが、ずっと出続けている。
壁にもたれないように気をつけながら、ゆっくりと地面に腰を下ろす。
今回は地面部分も巻き込むように圧縮してみたお陰か、結構な重量があるはずの土壁はなんとかバランスを保っている。
ただ、少しでも力を込めると、さっき殴ったみたいに倒れそうで怖かった。
この大きさの壁が倒れたら、俺の力では起こせそうにない。
とりあえずMPが回復したら、この壁を固定するような形で直方体を作りたい。
そして、その直方体を超圧縮させて同じような壁をあと3枚作るのだ。
壁を4枚作って、接合部を《土形成》で固定させれば、お互いに支え合って安定するはずだ。
というか、よく考えたら、家って基礎から作るのではないだろうか。
結構深くまで、コンクリとかで基礎を作ってから建てるべきな気がする。
家作りは奥が深い。
まあ、今回は初めてだし、我流で行けるところまで行ってみるのだ。
壁を1枚作るだけで、すごく疲れたがやってやれない事もない。
それが少しうれしかった。
壁を4枚作り終えた頃には、日が暮れていた。
4枚の壁が、夕焼けを背に聳え立つ様は、壮観だった。
なんというか、身体はもうズタボロで、MP休憩はちょいちょい取っているのに、全身がだるくて仕方がない。
なんかあのMPを過負荷的に流して、放電現象を発生させるヤツをやると、精神力がごそっと減る。
頭が痛くなるだけでは済まずに、耳まで痛くなってきた。
命を削って発動させる禁断の邪法とかだったら、どうしよう。
それはそれで、暗黒騎士らしくていい。みなぎる。
そういえば、昨日の筋肉痛も未だに取れない。
先程から、疲労耐性に加えて、睡眠耐性、痛覚耐性が発動している。
4枚の壁は隙間なく立つように計算して作ってみたのだが、壁と壁が接合する角の部分には、僅かな隙間ができていた。
俺は、最後の力を振り絞って、4枚の壁を丁寧に《土形成》で結合していく。
最後の壁の隙間をきれいに埋めた所で、壁の中に入る手段がないことに気づいた。
ちょっと自分がバカすぎて、悲しくなった。
気を取り直して入り口を作ることにする。
少し考えたが、入り口から朝日が入るといいかなと思って、沈んでいく太陽とは反対の方向の壁に入り口を作ろうと思う。
壁に手を当てて、バチバチと放電させながら《土形成》を発動させる。
高さは3メートルくらいあるので、2メートルくらいの穴を開けようと思ったが、50センチくらい穴を開けた所で、MPも気力も尽きた。
俺は今日何度目になるかわからないくらいのMP枯渇に苦しみながらも、50センチくらいの穴を這うようにして、建築中の我が家に入っていく。
家の中心部まで這っていった所で、仰向けに転がった。
辺りは完全に夜になっていて、冷えた地面が心地よかった。
仰向けに見上げた空に思わず息を飲んだ。
そこには満天の星空が広がっていた。
そういえば、この世界に来て夜空を見上げたのは、初めてだった。
電気のない世界だと、星ってこんなにも見えるものなのか。
新宿では星なんて見たことない。
そもそも空を見上げない。
たまにはいいものだなと思いながら、俺は吸い込まれるように眠りに落ちていった。
■あとがき
ちなみに、1日壁を作り続けた結果ステータスは結構伸びました。
#############################################
【ステータス】
名前:コウ
LV:7
称号:悲哀なる社畜
HP:1236/1236
MP:0/45(+12)
筋力:7
防御:11
敏捷:12
器用:12
知能:23(+5)
精神:21
スキルポイント:3
#############################################
昨日は、筋トレ祭りのせいで、スライムオイルを焚かずに寝てしまった。
火すらつけずに、地面に直寝である。
人間としてどうかと思う。
とりあえず、スライムオイルに火をつけて、暖をとる。
その後は、昨日と同じように、水魔法で身体と服を洗って、全裸で仁王立ちした。
これは、朝のルーティンにしようと思う。
それにしても、身体中がめちゃくちゃ痛い。
筋肉痛+地面に直寝のせいだろう。
昨日最後にやった首ブリッジのせいで、首筋が特に痛い。
筋力ステータスが上がらないのに腹を立てて、誰に言うでもない罵詈雑言を撒き散らしながら、首ブリッジをした。
完全にトランス状態だった。
なんというか、飲み過ぎて暴れまくった日の翌日的なやっちゃった感がある。
ただ、筋トレも毎日のルーティンにしようと思う。
昨日みたいなのは、さすがにもうやらないが、腕立て、腹筋、スクワットくらいは毎日やっていいと思うのだ。
主にステータスアップを目指して。
ステータスアップは、俺のジャスティスだ。
俺は腕を組みながら、全裸で仁王立ちをして、そんな事を考えた。イメージ的に今かかっているBGMは、ガンバ○ターのアレである。
まず《土形成》を試してみる。
いつもと同じように、右の手の平を上向きにして、《土形成》と念じてみた。
もこもこと、一定量の土が不定形に形を変えながらふわふわ浮いている。
《火形成》と同じように細長くしてみたり、くるくる回る土の渦を作ってみたり、形を自由に変えられた。
ここまでは想定どおりだ。
次は、右手で地面に触れながら、地面に対して《土形成》と念じてみた。
ごごごと地震のような音を立てて、地面が盛り上がっていく。
先程まで平らな地面だった場所に、一瞬で俺の腰くらいまでの高さのある小さな山が出現していた。
すでにある地面の土を使っているのか、消費したMPはびっくりするほど少ない。
やっぱり、地形効果的なものはあり、土の地面の上では、土魔法が使いやすいようだ。
きっと川や海では水魔法、風の強い日は風魔法が使いやすいのだろう。
火魔法が使いやすいのは、火山とかだろうか。
火山とか絶対行かないけど。
俺は、再び地面に《土形成》をかける。
地面がゆっくりと盛り上がっていく。
今度作るのは山ではなく、四角い土壁だ。
形を整えようとしている分だけ、生成に時間がかかる。
やがて目の前に、高さ1メートルほどの土手のようなものができあがる。
厚さは10センチ程で、今にも崩れそうだ。
俺はもう一度《土形成》を発動させて、土手の厚みを30センチ程にしてみた。
まだ少しぐらぐらしている気がする。
更に厚みを50センチくらいまで増加させた。
やっと安定したっぽい。
連続で《土形成》をしたせいで、MPがカツカツだった。
とりあえず、残りMPを適当な《火形成》を発動させて溶かして、MPを枯渇させた。
一旦、休憩しよう。
MP枯渇が収まるのを待って、俺は作った土手をぺたぺたと触ったみた。
触った先から、ぼろぼろと土が崩れていく。
強度的に、まだまだ土壁とは呼べなそうだ。
MPの回復を待ってから、土手を圧縮してみることにした。
土の量はそのままに、土手の厚みを薄くさせてみる。
《火生成》の時もそうだったが、大切なのはイメージだと思う。
動画データをMPEGで圧縮するように、土手を横に圧縮して、密度を高めて行くのだ。
土手はじわじわと横に縮まり始めた。
必死に圧力を高めようとするが、なんというか魔力的なものが足りない気がする。
俺は遊んでいる左手も使って、2重の《土成形》を発動させる。
昨日と同じように、脳に負荷がかかる。
土手はぎゅーっと薄く圧縮されていった。
めりめりと音を立てて、横に縮んでいく。
やがて、半分くらいの薄さになった所で圧縮が止まる。
もうこれで限界のようだ。
《土形成》でいくら縮めと念じても、ぴくりとも動かない。
それでも、まだ見た目が土っぽい。
触ってみると、ガリガリした感触に変わってた。
ぱっと見、崩れる様子はない。
でも、まだ家の壁としての強度は不十分ではないかと思うのだ。
なぜなら、自分の家と言うのは、他者を隔絶する絶対防壁であり、何人たりとも不法侵入を許してはならないからだ。
重ねて言っておくが、別に俺が引きこもりだからというわけではない。
そんな訳で、俺はジジイの前戯のようにしつこくねちっこく、再び《土形成》を発動させる。
今度は最初から、両手での発動である。
両手を広げるようにして、土壁と向き合う。
圧縮しきった土壁は、ぴくりとも動かない。
まだまだ!
大切なのはイメージだ。
ここでイメージするのは、硬い壁。
誰にも破れない、ここに逃げ込めばひと安心。
核戦争で世界が滅びても、俺んちだけは無事。
俺が、住みたいのはそんな家だ!
その時、微動だにしなかった土壁に変化が生じた。
土壁全体が青白く発光し始める。
発光は次第に強まっていく。
頭が締め付けられるような痛みを発する。
MPが音を立てるようにがんがん減っていった。
いつもの倍どころか、数倍の速度である。
その時、土壁にバチバチと放電現象が発生した。
そして何かが爆発するような音がした時。
土壁は一瞬で、超圧縮していた。
土壁は最初の10分の1程度の薄さになり、放電現象のせいか微かに白煙を上げている。
俺のMPは0になり、いつものMP枯渇が襲ってくる。
しかし、俺はあまりの出来事に声もなかった。
MP枯渇の嫌な感じも気にならない程、今起きた現象に驚いていた。
恐る恐る土壁を叩いてみる。
すると、キンッと金属的な音がした。
物凄く硬そうだ。
見た目は、元が黒い土だったとは思えないが、薄茶色になっていた。
ついに、俺の引きこもり根性が奇跡を起こしたのだ!
引きこもりが勝利した歴史的瞬間であった。
俺は達成感に満たされた。
それにしても、さっきの《土形成》はすごかった。
MPの消費量が跳ね上がった気がしたけど、《土形成》にかかる消費MPは一定ではないのだろうか。
もしも、さっきの感覚が消費MP量を増やすものだとしたら、なんとなくコツは掴んだ気がする。
もしやと思ってステータスを確認してみると、あの一度だけでMPが5ポイント、知能が2ポイントも上昇していた。
頭すごく痛かったし、結構な負荷がかかったようだ。
MPを回復させたら、本格的に家を建て始めようと思う。
なんか、《土形成》が上手く言ったのがうれしくて、ついゲロってしまったけど、俺は本質的に引きこもりだ。
ちゃんと社会人をしていたのはホントだし、人とも普通にコミュニケーションを取れる。
ましてや、彼女とかもいるけど、基本的には人嫌いなのである。
休日は滅多に外には出ずに、ずっと家にいる。
まあ、ほとんど休日なんてないですけど(ブラック企業ジョーク)。
仕事中も、他の人が皆帰宅して、一人になってからのほうが作業効率が上がる。
彼女といて、一番楽しいのは、彼女が帰った後に、一人でタバコを吸う時間だ。
働かなきゃ生きていけないので必死に我慢しているが、許されるなら俺は永遠に自分の部屋に閉じこもっていたい。
一人は素晴らしい。
面倒くささは皆無で気楽。しかもストレスフリー。
身だしなみに気を使う必要もなく、独り言どれだけ言っても無問題。変な妄想をしてニヤニヤし放題。
誰にも傷つけられないし、誰も傷つけない。
人は一人では生きていけません。
誰が言ったのか知らないが、あのセリフは嘘だと思う。
たまの休みに、夕方まで爆睡して、全裸で人に見せられないくらいエログロなエロゲーとかやっているのが好きなのだ。
そんなダメ男日本代表的な事を考えていたら、MPが全快していた。
俺は先程作った土壁? と言って良いのかわからないが原料が土だった壁を眺める。
厚さは5センチくらいにまで圧縮されている。
最初から考えると、10分の1くらいまで圧縮されている事になる。圧縮率90%とか!
試しに思い切り殴ってみると、壁は勢い良く倒れた。
《土形成》をかけたのは、目に見える部分だけなので、地面の固定は甘かったのだろう。
ただ、思い切り殴ったのに、壁は傷ひとつついていなかった。
むしろ殴った俺の拳が痛い。
なんというか、骨レベルで痛い。
壁の硬度はかなりのものだと思う。
そんなわけで、この壁を作りまくって夢のマイホームにするのだ。
まずは適当な空き地を探す。
どれくらいの広さが良いだろうか。
4メートル四方くらいだろうか、中野にある自宅がそれくらいだ。
それくらいの広さなら、あっさり見つかった。
廃村の中央を通る道沿いで、村の一番奥にあたる箇所にちょうどいいスペースがあったのだ。
言うなればメインストリート沿いの角地である。
俺はまず、そのスペースに長さ4メートル、高さ3メートル、幅3メートルほどの直方体を《土形成》で作った。
測ったわけではないので、長さは勘だ。
直方体はかなりの容積になるので、MPを半分ほど消費した。
念のために、少し休んでMPを全快にする。
そして、この幅3メートルほどの直方体を幅30センチまで圧縮させたい。
両手を直方体に添える。
ゆっくりと深呼吸してから、《土形成》を発動させる。
まずは、少しずつ直方体を圧縮させていく。
MPがじわじわと減り始めた。
先程の超圧縮を体験してから、なんとなくMPの流れというか、魔力の流れを感じることが出来るようになった。
今は両方の手の平から、緩やかに魔力が直方体へと流れていっているのがわかる。
ちょっと前まで、両手で《土形成》を発動させると、脳に負荷がかかる感じがしたのだが、慣れたのか、今はそれほど感じなかった。
結構な時間を掛けて、直方体が半分くらいの厚さまで縮んだ所で、圧縮が止まる。
ここまでは予定通り。
問題はここからである。
俺は両手から流れる魔力を意識すると、思い切りその魔力の流れに圧力を掛けた。
関を切ったかのように、両手から魔力が激流となって直方体に流れ込んでいく。
頭が割れそうな程痛い。
それでも、我慢して強固な壁を作るイメージを構築していく。
どんどん魔力が直方体に溜まっていくのがわかる。
魔力が直方体を満たし、溢れかけた所で、例の発光現象が発生した。
そして発生する放電。
パリパリと音を立てて、直方体が振動する。
先程は感じなかったが、手の平が燃えるように熱い。
次の瞬間、雷が落ちたような轟音がして、超圧縮が開始される。
まだ厚さ150センチくらいあった土の直方体が、一瞬で厚さ30センチくらいの壁に変化したのだ。
俺は、MP枯渇に襲われながら荒くなった息を整えていた。
額からとめどなく流れてくる汗が目に染みた。
この大きさの土塊を圧縮するのは、ものすごい疲労を伴った。
いつもはMP枯渇発生とともに、すぐに消える疲労耐性のログが、ずっと出続けている。
壁にもたれないように気をつけながら、ゆっくりと地面に腰を下ろす。
今回は地面部分も巻き込むように圧縮してみたお陰か、結構な重量があるはずの土壁はなんとかバランスを保っている。
ただ、少しでも力を込めると、さっき殴ったみたいに倒れそうで怖かった。
この大きさの壁が倒れたら、俺の力では起こせそうにない。
とりあえずMPが回復したら、この壁を固定するような形で直方体を作りたい。
そして、その直方体を超圧縮させて同じような壁をあと3枚作るのだ。
壁を4枚作って、接合部を《土形成》で固定させれば、お互いに支え合って安定するはずだ。
というか、よく考えたら、家って基礎から作るのではないだろうか。
結構深くまで、コンクリとかで基礎を作ってから建てるべきな気がする。
家作りは奥が深い。
まあ、今回は初めてだし、我流で行けるところまで行ってみるのだ。
壁を1枚作るだけで、すごく疲れたがやってやれない事もない。
それが少しうれしかった。
壁を4枚作り終えた頃には、日が暮れていた。
4枚の壁が、夕焼けを背に聳え立つ様は、壮観だった。
なんというか、身体はもうズタボロで、MP休憩はちょいちょい取っているのに、全身がだるくて仕方がない。
なんかあのMPを過負荷的に流して、放電現象を発生させるヤツをやると、精神力がごそっと減る。
頭が痛くなるだけでは済まずに、耳まで痛くなってきた。
命を削って発動させる禁断の邪法とかだったら、どうしよう。
それはそれで、暗黒騎士らしくていい。みなぎる。
そういえば、昨日の筋肉痛も未だに取れない。
先程から、疲労耐性に加えて、睡眠耐性、痛覚耐性が発動している。
4枚の壁は隙間なく立つように計算して作ってみたのだが、壁と壁が接合する角の部分には、僅かな隙間ができていた。
俺は、最後の力を振り絞って、4枚の壁を丁寧に《土形成》で結合していく。
最後の壁の隙間をきれいに埋めた所で、壁の中に入る手段がないことに気づいた。
ちょっと自分がバカすぎて、悲しくなった。
気を取り直して入り口を作ることにする。
少し考えたが、入り口から朝日が入るといいかなと思って、沈んでいく太陽とは反対の方向の壁に入り口を作ろうと思う。
壁に手を当てて、バチバチと放電させながら《土形成》を発動させる。
高さは3メートルくらいあるので、2メートルくらいの穴を開けようと思ったが、50センチくらい穴を開けた所で、MPも気力も尽きた。
俺は今日何度目になるかわからないくらいのMP枯渇に苦しみながらも、50センチくらいの穴を這うようにして、建築中の我が家に入っていく。
家の中心部まで這っていった所で、仰向けに転がった。
辺りは完全に夜になっていて、冷えた地面が心地よかった。
仰向けに見上げた空に思わず息を飲んだ。
そこには満天の星空が広がっていた。
そういえば、この世界に来て夜空を見上げたのは、初めてだった。
電気のない世界だと、星ってこんなにも見えるものなのか。
新宿では星なんて見たことない。
そもそも空を見上げない。
たまにはいいものだなと思いながら、俺は吸い込まれるように眠りに落ちていった。
■あとがき
ちなみに、1日壁を作り続けた結果ステータスは結構伸びました。
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【ステータス】
名前:コウ
LV:7
称号:悲哀なる社畜
HP:1236/1236
MP:0/45(+12)
筋力:7
防御:11
敏捷:12
器用:12
知能:23(+5)
精神:21
スキルポイント:3
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