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第一章 異世界転移編
第7話 廃墟の村
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社畜の朝は早い。
日の出と共に、俺は目が覚めた。
思い切り地面に寝ていたせいで、身体のあちこちが痛かった。
まあ、よくオフィスの床で寝ちゃう事もあるから、慣れているのだが。
昨日は、スライムオイルの火の側で、眠ってしまったようだ。
スライムオイルは、未だに燃え続けている。
スライムさんの分泌物のはずなのに、物凄く優秀である。
あれから、魔物も襲ってこなかったし。
野宿に必須の素敵アイテムだった。
まだあと2つあるし、あと2晩はいける。
そういえばと、思いながら辺りを見渡す。
すると、巨大なコウモリが、頭部を陥没させて死んでいた。
昨日の敵は、こいつだろう。
なんというか、羽の生えたネズミだよね、コウモリって。
俺はとりあえず、《水生成》で顔を洗ってから、うがいをした。
歯ブラシがなかったので、よく洗った指で歯をゴシゴシあらう。
少しスッキリした。
こういう時、《水生成》は便利である。
でも、歯ブラシは欲しい。
あと、タオルも欲しい。
うーむ。
やっぱり、身体も洗いたかった。
でも、外で裸になるのはなー。
少し、考えてから気づいた。
なんの問題もないことに。
だって他に誰もいないのだから。
俺はポイポイと服を脱いで、全裸になった。
そして、《水生成》で全身に水を浴びる。
身体をゴシゴシ手で洗って、頭も洗った。
ついでに、泥だらけになった下着や靴下、シャツにスーツまで水でゴシゴシ洗った。
やばい、《水生成》すごい便利。
近くに落ちていた枝を拾って、組み合わせて地面に突き刺し、簡易的な物干し竿を作った。
やがてこの中の1本を装備しよう。
次は、ええと、カラドボルグ(枝)と名付けよう。
物干し竿に、濡れた服を干して乾かす。
燃えるスライムオイルの近くなので、きっとすぐ乾くだろう(勘)。
俺は、身体を乾かす意味で、腕を組んで全裸で仁王立ちしてみた。
遠くに見える山の隙間から、登ったばかりの太陽が見える。
俺は、そんな太陽の朝焼けの光に、ちょうど当たるように、股間の位置を調整した。
「…………」
なんだろう。
すげえ、気持ちいい。
世界を犯してやったぜ! みたいな気分になる。
そんな事をしていたら、当たり前だが、少し寒くなったので、スライムオイルの火に当たることにした。
そのまま、少しぼーっとする。
なんだろうな。
朝イチは、やっぱりタバコとコーヒーを決めなきゃ頭がすっきりしない。
でも、せっかくニコチン中毒に侵される前の身体に戻してもらったんだから、タバコは我慢だ。
ちなみに、全裸になって改めて思うけど、俺の身体は本当に高校生くらいの頃に戻っていた。
頑張って腹筋しまくったけど、引き締まるだけで割れなかった腹に見覚えがあるのだ。
マクロスさんパねー。
あと、ニコ中は不治の病だと思う。
よく根性で辞められましたとかっていう話を聞くけど、都市伝説だと思うんだ。
さて、今日は何をしようかな。
まずは、《火形成》の練習をして、新必殺技を開発するのはマストだ。
その後は、やっぱり人里を目指すべきだろうか。
どこにあるのか皆目検討もつかないけど。
人間としては、人間がいる場所をまずは目指すべきだと思うんだ。
武器とか欲しいし。
でもねー。
今、自分の置かれた状況を考えてみる。
無職、文無し、家なし、着ている服はボロ布と化したスーツ、その他資産スライムオイル×2。
これって所謂、アレなんじゃないだろうか。
ハートにクリティカルヒットを貰うので、あえて言葉にはしないが、よく駅のホームとかにいらっしゃるあの方々と同じなんじゃなかろうか。
そんな俺が人里に行ったら、いじめられるんじゃなかろうか。
いや、いじめられるに決まっている。
やだやだー! そんなの絶対やだー!
そんなわけで、何らかの資産を得るまで、俺は人里には行かないことを心に決めた。
ニンゲン、怖い。
大体、ゲームだったら敵を倒したら、お金落とすじゃん。
でも、ここのモンスターお金落とさないんだもん。
よく考えたら、当たり前だが。
金を持っているモンスターっていうのは一体どういう理屈なんだろうか。
そんなわけで、俺は素っ裸のまま、《火成形》の練習を始める事にした。
数時間練習した所で、指で空中をなぞると、火の棒のようなものを生成できるようになった。
火の棒を細くするのに、苦労したが、成形する火の量が少なければ少ないほど、消費MPが少なくなるようなので、がんばった。
指で宙をなぞって、細い火の棒を生み出し、飛べ! と念じると、火の棒はびゅっとした鋭い音をさせて飛んでいく。
火の矢の完成である。
どうしよう、すっごいかっこいい。
指で宙をなぞる辺りが、すごくそそる。
ユー○ーブに動画をアップしたい気分だ。
あとは、ウサギを倒しながら、命中精度とか火力とかを確かめよう。
服はすでに乾いていたので、着ようとした時、俺は思った。
このボロ布を着る意味はあるのだろうか。
スーツは穴ぼこだらけで、裾は擦り切れている。
まだ買ったばかりだった気がするが仕方ない。
ワイシャツにしても、所々擦り切れて、滲んだ血がシミになっていた。
ちなみに、HPが高いおかげかわからないが、俺の身体には傷は残っていなかった。
MPと同じように、HPも時間経過で回復していくので、その時合わせて傷も塞がったようだ。
便利なものである。
俺は初めて、野外で全裸で数時間過ごしてみたが、中々快適だった。
人里に行かないのであれば、このままでいいのではないか。
おまわりさん、ここです。
そんな事言われるわけもないし。
「…………」
いや、このままカラドボルグ(枝)を装備して歩き回っていたら、部族の戦士になってしまう。
更に、剣と魔法の世界から離れてしまうので、俺はいやいや服を着た。
そのまま俺は、スライムオイルの火の場所を出発して、荒野を歩き回った。
歩く方向は、相変わらず適当である。
途中で見かけるウサギやスライムをフレアアローで殺し回った。
フレアアローの攻撃力は抜群で、一撃でスライムはもちろん、ウサギも消し飛ぶ。
命中精度は、意識というか、イメージの問題で、どれだけ目標に集中できたかで変わってくるようだ。
適当に狙って打てば、外れるし、すごく真剣に集中してみた時は、ウサギの眉間を撃ち抜いた。
要は、頑張って狙えば当たるということだ。
弓道をやってる人とかに怒られそうだ。
しばらく荒野を歩き回った戦果として、スライムオイルを一つと、レベルが7に上がった。
ステータスはこんな感じだ。
#############################################
【ステータス】
名前:コウ
LV:7
称号:悲哀なる社畜
HP:1228/1236(+2)
MP:15/29(+7)
筋力:6(+1)
防御:8(+1)
敏捷:12(+2)
器用:12(+1)
知能:16(+2)
精神:19(+2)
スキルポイント:4
#############################################
スキルポイントも結構溜まってきたので、そろそろ何かスキルを取ろうと思う。
そして、残念なお知らせが一つ。
レベルが7になった事により、ウサギパイセンから卒業する事になりました。
今まで、本当にお世話になりました!
俺はそんな気持ちを込めて、目の前でフレアアローによって消し炭となったウサギパイセン(故)に頭を下げた。
そうだ。そういえば、そろそろ本気で腹が減った。
何がヤバイって、さっきから何度か。
『飢餓耐性:LV3が発動しました。』
なんてログがちょいちょい表示されている。
いくら練度の高い社畜といっても、そろそろ限界っぽい。
そんなわけで、せっかくなので卒業記念として、ウサギパイセンを食べてみることにした。
ちょうどタイミングよく、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらウサギがやってきた。
俺も成長したもので、そんなパイセンの精神攻撃にはピクリともせずに、イグナイト・バーストでパイセンをこんがり丸焼きにした。
フレアアローだと、原型なく吹き飛んじゃうからね。
ぷすぷすと煙を上げるウサギ。
グロテスクではあるが、ちょっと美味しそうだ。
空腹は最高のスパイスである。
俺は、ウサギの小さな太ももにかじりついてみた。
がぶり。
ぐちゃり。
にちゃにちゃ。
ウサギの肉はあっさりと骨から離れたので、咀嚼してみたのだが。
死ぬほど、まずかった。
すっごく血生臭くて、味も血の味だった。
あと苦い。
かじりついた時の皮膚の感触も物凄く生々しかった。
「クソが!」
腹が立ったので、ウサギの死体にフレアアローをぶち込んで、消滅させてやった。
(※良い子は絶対に真似をしてはいけません。食材には感謝の気持ちを持ちましょう。)
お腹はすごく減っていたけど、コレはダメだ。
なんていうか、身体に悪そうな味がする。
どうしよう。
ぐーと腹が鳴る。
結構困って、辺りを見渡してみると、遠くに森のようなものが見えた。
あそこなら、何か木の実とか、フルーツがあるかもしれない。
俺は足早に、森に向かった。
途中で見かける、ウサギやスライムには目もくれなかった。
森に向かいながら、俺は思った。
そもそも、剣と魔法の世界で食い物に困るとは、何事かと。
トル○コか!
大体、これだって、マクロスさんが旅立つ時に、いくら食べても減らない魔法のパンとか、一粒食べるだけで、10日は飢えを凌げる豆とかくれても良かったのに!
ホントに使えねえな!
詐欺師みたいな事抜かしやがって。
なんかよく覚えてないけど。
なんだっけかな、ラッ○ンの絵を買えば一回くらいお茶に付き合ってあげるとかだったかな。
せめて、ヤラせろよ!
そんな事を考えていた俺は、目の前の景色に思わず、足を止めてしまった。
もう森のすぐそばまで来ていた。
結構、大きな森だ。
ここが荒野の境目なのかもしれない。
問題は、森の入口に村のようなものが見えることだ。
小さな家が何軒か見える。
木造で、藁葺の屋根がついていて、明らかに人工のものだ。
どくんどくんと心臓の鼓動が早くなっていく。
ひっ、ニンゲンだー!
お前は何なんだよ、と突っ込みたくなってしまうような事を思いながら、俺は後ずさる。
やばい、今はまずい。
だって、ホームレスだもの、俺。
ああ、言ってしまった。
俺はそのまま、村まで数百メートルくらいの場所でしばらく立ち尽くしていた。
じっくりと村の様子を観察する。
「ふむ」
そして、俺は小さく安堵した。
人影が全く見えない。
よく見れば、全ての家の壁や屋根に穴が空いており、住居としての役割を果たしていない。
あれは、無人の村の跡地だ。
かつて、人が住んでいたが、今は無人となって放置されたのだろう。
なーんだ、驚かせやがって!
俺はたちまち嬉しくなって、村に向かって駆け出していった。
人がいなくて嬉しくなるっていうのは、社会人として、というか人間としてどうなんだろうか。
そんな一抹の不安があるものの、俺は強い子なので気にしない。
村につくと、やはりそこは廃墟だった。
中央に井戸のようなものが見えて、そこから踏み慣らされた道が伸びている。
道に沿うように、小さな家が4件程並んでいた。
村というか、集落だな。
家はどれも廃墟となっていて、人が住んでいる様子はなかった。
藁葺の屋根は穴が空いていたり、屋根すらついていない家もあった。
家の壁も同じようにボロボロだ。
あれでは、風雨も凌げないだろう。
それぞれの家の周囲には、畑だったのだろうか、草がたくさん生えた空き地があった。
俺は、村の中を見て回った。
村は放置されて、まだそんなに立っていないように思えた。
廃墟となった家の中も物色してみたが、微かに人が住んでいた気配がしたからだ。
そこにはもちろん、家電製品どころか機械的なものは見当たらなかった。
詳しくは分からないが、きっとこの世界の住人の文明レベルは中世くらいなのだろう。
よくあるRPGと同じだ。
とある家の裏庭のような場所に入った時、俺は狂喜した。
「おお……」
そこには、リンゴのような赤い実をつけた木があったのだ。
そこは果樹園だったのだろうか、手入れのされていないリンゴの木が5本くらい並んでいる。
辺りは草だらけで、木にまでちゃんと栄養が行っていないのか、木になっているリンゴの数は疎らだ。
それでも、しばらくは食うに困らなそうな数のリンゴがなっていた。
とりあえず、手頃な位置にあったリンゴに手を伸ばして取ってみる。
リンゴがなっている場所は、俺の身長(170cm)でも十分届く高さだった。
真っ赤に熟れた美味しそうなリンゴだった。
少し形は不格好だが、気にならなかった。
不格好な方が美味しいって漫画で言ってたし。
俺は、昔の映画で見たように、リンゴをジャケットの袖で拭ってからかじりついた。
「!!」
口の中にリンゴの味が広がっていくに連れて、俺は驚愕した。
なぜなら、それは栗のような味がしたからだ。
リンゴのような酸味も甘さも瑞々しさもなく、栗のようにほのかに甘く、食べごたえのある食感がした。
決してまずいわけではない。
むしろ、美味い。
ウサギパイセンを1だとしたら53万くらいの美味さだ。
見た目はリンゴなのに、中身は栗。
少し驚いたが、リンゴより栗のほうが食事してる感じがしていい気がする。
リンゴをディスってるわけじゃないですよ?
俺は、とりあえずこの果物をクリンゴと名付けることにした。
食糧問題は、しばらくは、クリンゴでなんとかなりそうだ。
ちょっと安心である。
日の出と共に、俺は目が覚めた。
思い切り地面に寝ていたせいで、身体のあちこちが痛かった。
まあ、よくオフィスの床で寝ちゃう事もあるから、慣れているのだが。
昨日は、スライムオイルの火の側で、眠ってしまったようだ。
スライムオイルは、未だに燃え続けている。
スライムさんの分泌物のはずなのに、物凄く優秀である。
あれから、魔物も襲ってこなかったし。
野宿に必須の素敵アイテムだった。
まだあと2つあるし、あと2晩はいける。
そういえばと、思いながら辺りを見渡す。
すると、巨大なコウモリが、頭部を陥没させて死んでいた。
昨日の敵は、こいつだろう。
なんというか、羽の生えたネズミだよね、コウモリって。
俺はとりあえず、《水生成》で顔を洗ってから、うがいをした。
歯ブラシがなかったので、よく洗った指で歯をゴシゴシあらう。
少しスッキリした。
こういう時、《水生成》は便利である。
でも、歯ブラシは欲しい。
あと、タオルも欲しい。
うーむ。
やっぱり、身体も洗いたかった。
でも、外で裸になるのはなー。
少し、考えてから気づいた。
なんの問題もないことに。
だって他に誰もいないのだから。
俺はポイポイと服を脱いで、全裸になった。
そして、《水生成》で全身に水を浴びる。
身体をゴシゴシ手で洗って、頭も洗った。
ついでに、泥だらけになった下着や靴下、シャツにスーツまで水でゴシゴシ洗った。
やばい、《水生成》すごい便利。
近くに落ちていた枝を拾って、組み合わせて地面に突き刺し、簡易的な物干し竿を作った。
やがてこの中の1本を装備しよう。
次は、ええと、カラドボルグ(枝)と名付けよう。
物干し竿に、濡れた服を干して乾かす。
燃えるスライムオイルの近くなので、きっとすぐ乾くだろう(勘)。
俺は、身体を乾かす意味で、腕を組んで全裸で仁王立ちしてみた。
遠くに見える山の隙間から、登ったばかりの太陽が見える。
俺は、そんな太陽の朝焼けの光に、ちょうど当たるように、股間の位置を調整した。
「…………」
なんだろう。
すげえ、気持ちいい。
世界を犯してやったぜ! みたいな気分になる。
そんな事をしていたら、当たり前だが、少し寒くなったので、スライムオイルの火に当たることにした。
そのまま、少しぼーっとする。
なんだろうな。
朝イチは、やっぱりタバコとコーヒーを決めなきゃ頭がすっきりしない。
でも、せっかくニコチン中毒に侵される前の身体に戻してもらったんだから、タバコは我慢だ。
ちなみに、全裸になって改めて思うけど、俺の身体は本当に高校生くらいの頃に戻っていた。
頑張って腹筋しまくったけど、引き締まるだけで割れなかった腹に見覚えがあるのだ。
マクロスさんパねー。
あと、ニコ中は不治の病だと思う。
よく根性で辞められましたとかっていう話を聞くけど、都市伝説だと思うんだ。
さて、今日は何をしようかな。
まずは、《火形成》の練習をして、新必殺技を開発するのはマストだ。
その後は、やっぱり人里を目指すべきだろうか。
どこにあるのか皆目検討もつかないけど。
人間としては、人間がいる場所をまずは目指すべきだと思うんだ。
武器とか欲しいし。
でもねー。
今、自分の置かれた状況を考えてみる。
無職、文無し、家なし、着ている服はボロ布と化したスーツ、その他資産スライムオイル×2。
これって所謂、アレなんじゃないだろうか。
ハートにクリティカルヒットを貰うので、あえて言葉にはしないが、よく駅のホームとかにいらっしゃるあの方々と同じなんじゃなかろうか。
そんな俺が人里に行ったら、いじめられるんじゃなかろうか。
いや、いじめられるに決まっている。
やだやだー! そんなの絶対やだー!
そんなわけで、何らかの資産を得るまで、俺は人里には行かないことを心に決めた。
ニンゲン、怖い。
大体、ゲームだったら敵を倒したら、お金落とすじゃん。
でも、ここのモンスターお金落とさないんだもん。
よく考えたら、当たり前だが。
金を持っているモンスターっていうのは一体どういう理屈なんだろうか。
そんなわけで、俺は素っ裸のまま、《火成形》の練習を始める事にした。
数時間練習した所で、指で空中をなぞると、火の棒のようなものを生成できるようになった。
火の棒を細くするのに、苦労したが、成形する火の量が少なければ少ないほど、消費MPが少なくなるようなので、がんばった。
指で宙をなぞって、細い火の棒を生み出し、飛べ! と念じると、火の棒はびゅっとした鋭い音をさせて飛んでいく。
火の矢の完成である。
どうしよう、すっごいかっこいい。
指で宙をなぞる辺りが、すごくそそる。
ユー○ーブに動画をアップしたい気分だ。
あとは、ウサギを倒しながら、命中精度とか火力とかを確かめよう。
服はすでに乾いていたので、着ようとした時、俺は思った。
このボロ布を着る意味はあるのだろうか。
スーツは穴ぼこだらけで、裾は擦り切れている。
まだ買ったばかりだった気がするが仕方ない。
ワイシャツにしても、所々擦り切れて、滲んだ血がシミになっていた。
ちなみに、HPが高いおかげかわからないが、俺の身体には傷は残っていなかった。
MPと同じように、HPも時間経過で回復していくので、その時合わせて傷も塞がったようだ。
便利なものである。
俺は初めて、野外で全裸で数時間過ごしてみたが、中々快適だった。
人里に行かないのであれば、このままでいいのではないか。
おまわりさん、ここです。
そんな事言われるわけもないし。
「…………」
いや、このままカラドボルグ(枝)を装備して歩き回っていたら、部族の戦士になってしまう。
更に、剣と魔法の世界から離れてしまうので、俺はいやいや服を着た。
そのまま俺は、スライムオイルの火の場所を出発して、荒野を歩き回った。
歩く方向は、相変わらず適当である。
途中で見かけるウサギやスライムをフレアアローで殺し回った。
フレアアローの攻撃力は抜群で、一撃でスライムはもちろん、ウサギも消し飛ぶ。
命中精度は、意識というか、イメージの問題で、どれだけ目標に集中できたかで変わってくるようだ。
適当に狙って打てば、外れるし、すごく真剣に集中してみた時は、ウサギの眉間を撃ち抜いた。
要は、頑張って狙えば当たるということだ。
弓道をやってる人とかに怒られそうだ。
しばらく荒野を歩き回った戦果として、スライムオイルを一つと、レベルが7に上がった。
ステータスはこんな感じだ。
#############################################
【ステータス】
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LV:7
称号:悲哀なる社畜
HP:1228/1236(+2)
MP:15/29(+7)
筋力:6(+1)
防御:8(+1)
敏捷:12(+2)
器用:12(+1)
知能:16(+2)
精神:19(+2)
スキルポイント:4
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スキルポイントも結構溜まってきたので、そろそろ何かスキルを取ろうと思う。
そして、残念なお知らせが一つ。
レベルが7になった事により、ウサギパイセンから卒業する事になりました。
今まで、本当にお世話になりました!
俺はそんな気持ちを込めて、目の前でフレアアローによって消し炭となったウサギパイセン(故)に頭を下げた。
そうだ。そういえば、そろそろ本気で腹が減った。
何がヤバイって、さっきから何度か。
『飢餓耐性:LV3が発動しました。』
なんてログがちょいちょい表示されている。
いくら練度の高い社畜といっても、そろそろ限界っぽい。
そんなわけで、せっかくなので卒業記念として、ウサギパイセンを食べてみることにした。
ちょうどタイミングよく、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらウサギがやってきた。
俺も成長したもので、そんなパイセンの精神攻撃にはピクリともせずに、イグナイト・バーストでパイセンをこんがり丸焼きにした。
フレアアローだと、原型なく吹き飛んじゃうからね。
ぷすぷすと煙を上げるウサギ。
グロテスクではあるが、ちょっと美味しそうだ。
空腹は最高のスパイスである。
俺は、ウサギの小さな太ももにかじりついてみた。
がぶり。
ぐちゃり。
にちゃにちゃ。
ウサギの肉はあっさりと骨から離れたので、咀嚼してみたのだが。
死ぬほど、まずかった。
すっごく血生臭くて、味も血の味だった。
あと苦い。
かじりついた時の皮膚の感触も物凄く生々しかった。
「クソが!」
腹が立ったので、ウサギの死体にフレアアローをぶち込んで、消滅させてやった。
(※良い子は絶対に真似をしてはいけません。食材には感謝の気持ちを持ちましょう。)
お腹はすごく減っていたけど、コレはダメだ。
なんていうか、身体に悪そうな味がする。
どうしよう。
ぐーと腹が鳴る。
結構困って、辺りを見渡してみると、遠くに森のようなものが見えた。
あそこなら、何か木の実とか、フルーツがあるかもしれない。
俺は足早に、森に向かった。
途中で見かける、ウサギやスライムには目もくれなかった。
森に向かいながら、俺は思った。
そもそも、剣と魔法の世界で食い物に困るとは、何事かと。
トル○コか!
大体、これだって、マクロスさんが旅立つ時に、いくら食べても減らない魔法のパンとか、一粒食べるだけで、10日は飢えを凌げる豆とかくれても良かったのに!
ホントに使えねえな!
詐欺師みたいな事抜かしやがって。
なんかよく覚えてないけど。
なんだっけかな、ラッ○ンの絵を買えば一回くらいお茶に付き合ってあげるとかだったかな。
せめて、ヤラせろよ!
そんな事を考えていた俺は、目の前の景色に思わず、足を止めてしまった。
もう森のすぐそばまで来ていた。
結構、大きな森だ。
ここが荒野の境目なのかもしれない。
問題は、森の入口に村のようなものが見えることだ。
小さな家が何軒か見える。
木造で、藁葺の屋根がついていて、明らかに人工のものだ。
どくんどくんと心臓の鼓動が早くなっていく。
ひっ、ニンゲンだー!
お前は何なんだよ、と突っ込みたくなってしまうような事を思いながら、俺は後ずさる。
やばい、今はまずい。
だって、ホームレスだもの、俺。
ああ、言ってしまった。
俺はそのまま、村まで数百メートルくらいの場所でしばらく立ち尽くしていた。
じっくりと村の様子を観察する。
「ふむ」
そして、俺は小さく安堵した。
人影が全く見えない。
よく見れば、全ての家の壁や屋根に穴が空いており、住居としての役割を果たしていない。
あれは、無人の村の跡地だ。
かつて、人が住んでいたが、今は無人となって放置されたのだろう。
なーんだ、驚かせやがって!
俺はたちまち嬉しくなって、村に向かって駆け出していった。
人がいなくて嬉しくなるっていうのは、社会人として、というか人間としてどうなんだろうか。
そんな一抹の不安があるものの、俺は強い子なので気にしない。
村につくと、やはりそこは廃墟だった。
中央に井戸のようなものが見えて、そこから踏み慣らされた道が伸びている。
道に沿うように、小さな家が4件程並んでいた。
村というか、集落だな。
家はどれも廃墟となっていて、人が住んでいる様子はなかった。
藁葺の屋根は穴が空いていたり、屋根すらついていない家もあった。
家の壁も同じようにボロボロだ。
あれでは、風雨も凌げないだろう。
それぞれの家の周囲には、畑だったのだろうか、草がたくさん生えた空き地があった。
俺は、村の中を見て回った。
村は放置されて、まだそんなに立っていないように思えた。
廃墟となった家の中も物色してみたが、微かに人が住んでいた気配がしたからだ。
そこにはもちろん、家電製品どころか機械的なものは見当たらなかった。
詳しくは分からないが、きっとこの世界の住人の文明レベルは中世くらいなのだろう。
よくあるRPGと同じだ。
とある家の裏庭のような場所に入った時、俺は狂喜した。
「おお……」
そこには、リンゴのような赤い実をつけた木があったのだ。
そこは果樹園だったのだろうか、手入れのされていないリンゴの木が5本くらい並んでいる。
辺りは草だらけで、木にまでちゃんと栄養が行っていないのか、木になっているリンゴの数は疎らだ。
それでも、しばらくは食うに困らなそうな数のリンゴがなっていた。
とりあえず、手頃な位置にあったリンゴに手を伸ばして取ってみる。
リンゴがなっている場所は、俺の身長(170cm)でも十分届く高さだった。
真っ赤に熟れた美味しそうなリンゴだった。
少し形は不格好だが、気にならなかった。
不格好な方が美味しいって漫画で言ってたし。
俺は、昔の映画で見たように、リンゴをジャケットの袖で拭ってからかじりついた。
「!!」
口の中にリンゴの味が広がっていくに連れて、俺は驚愕した。
なぜなら、それは栗のような味がしたからだ。
リンゴのような酸味も甘さも瑞々しさもなく、栗のようにほのかに甘く、食べごたえのある食感がした。
決してまずいわけではない。
むしろ、美味い。
ウサギパイセンを1だとしたら53万くらいの美味さだ。
見た目はリンゴなのに、中身は栗。
少し驚いたが、リンゴより栗のほうが食事してる感じがしていい気がする。
リンゴをディスってるわけじゃないですよ?
俺は、とりあえずこの果物をクリンゴと名付けることにした。
食糧問題は、しばらくは、クリンゴでなんとかなりそうだ。
ちょっと安心である。
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※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
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