ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第一章 異世界転移編

第2話 そして、おじさんは荒野に降り立つ

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 そこは所謂、荒野だった。

 あたりには、見渡す限りの土の地面が広がっている。
 遠くに微かに山が見える他は、何もない。
 空は高く晴れ渡り、雲がゆっくりと流れている。
 何処かで鳥の鳴く声が聞こえた。トンビだろうか。

 僅かに埃っぽいが、新鮮な空気。
 頬を撫でる爽やかな風。
 照りつける太陽。

 ちょっとどころではなく。

 感動した!

 毎日、通っていた職場のある新宿や、自宅のある中野なんかとは大違いだ。
 全然ゴミゴミしていない。

 しばらくあたりを見渡しても、人っ子一人いない。
 ましてや、ここには俺を縛り付けていた仕事もない。

「自由だあああああ!」

 意味は全くないが、そんな事を叫んでいた。

 基本引きこもり体質の俺は、就職してから、一回も旅行なんてしたことがなかった。
 十年近く、ずっと都内にいたのだ。
 今気づいた。
 俺は、都会が嫌いなんだと。

「自然サイコー!」

 再び叫んでみる。
 頭がオカシイ奴に見えるかもしれない。
 それでも、良いのだ。
 なぜなら、ここには誰も居ないのだから!

 例えるならば、終電で皆が帰った後の社内の開放感。
 あれの数百倍の開放感だった。
 なにせ、深夜残業しているわけではないからね!

 しばらくテンションMAXで意味不明な事を叫びながら、あたりを飛び跳ねまくった。
 ときには、昔見ていたアニメの必殺技を叫んでみたりした。

 そして、十数分後。

 俺は、軽い後悔に襲われていた。
 意外と適応力が高かったらしく、テンションアゲアゲは長く続かず、賢者タイムは来た。

 32にもなって、何やってんだ俺。
 他の同年代は、ちゃんと結婚して、子供を育てているぞ。

 そんなリアルを意識して、自分を戒める。

 ちょっと、現状を把握してみようと思う。

 いつものように徹夜で仕事をしていたら、急に気分が悪くなって。
 変な部屋で、宗教の勧誘のような事を言ってる女に会って。
 適当に話を合わせていたら、今、謎の荒野にいる。

 うむ、カオスだ。
 完全に俺の理解を超えた事象が発生している。
 なんだろう、これ。
 ホントに現実なのだろうか。
 でも、すっげーリアルなんだよね。辺りの景色とか。

 まあ、どうでもいいか。

 ――10分考えてもわからないことは、悩まない。

 社畜10年目を迎える俺の処世術の一つである。

 とりあえず歩くかー。

 荒野を当てもなくさまよう。

 なんというロマンか。

 少し歩きながら、俺は身体がずいぶん軽い事に気づいた。

 ふと見れば、喉に刺さった小骨のように、嫌だった腹の肉がない。
 顎を撫でると、シュッとしているのがわかる。
 腕とかの肌のハリも良いように見える。
 口がヤニ臭くない上に、ツバも粘ついていない。
 そして、タバコを吸いたくならない。

「え、まじで」

 きっと、俺は若返っている。
 本当に、17、8の高校生くらいかもしれない。
 そういえば、あの女がそんな事を言っていたような気がする。

「すげえ!」

 あの女の言っている事は本当だったのだ。
 なんて素晴らしいのか。
 ありがとう。本当に有難う!
 ええと、うーんと、なんつったかなあの神様。
 なんか戦闘機に変形しそうな名前だったような。
 ま、まくろすさん?
 そうだ、確かマクロスさんだった。

 ありがとう、マクロスさん!

 そんなささやかな感謝の言葉を脳内で叫んでいた時だった。

 まるで、遠くで誰かが天罰を下したように。

 俺を危険が襲ったのだ。

 ズズズっと。
 何かが這い寄る音がする。
 それは今まで聞いた事のないような不快な音だった。

 慌てて、音のする方を見てみると、そこには水たまりがあった。

 いや、それは水たまりではなかった。

 ズズズっと。
 水たまりがゆっくりと動いている。

「…………」

 さすがに声が出なかった。
 若返ったかもしれなくて、上がっていたテンションもだだ下がりである。

 水たまりは、ゆっくりと俺の目の前まで来ると、突然ごぽごぽ音を立てながら、盛り上がっていく。
 そして、俺を威嚇するかのように、大きな口のような形を模した。

 口からは、粘着質の液体がポタポタと垂れていた。

「ふむ」

 とりあえず、冷静になってみる。

 これは所謂アレだろうか。
 よくゲームとかに出てくる、最弱モンスターのアレなのか。

「せいっ」

 おもむろに殴ってみた。
 最弱モンスターかと思うと、意外とすんなり殴れた。

「ギシャアアア!」

 意外なことにスライムは悲鳴を上げる。
 鳴けたんか、ワレ。

 スライムは後退しながら、大きく膨れ上がる。

「む」

 膨れ上がったスライムの身体が、肩に軽く触れた。
 刹那、肩に焼けるような痛みを感じる。

「いてっ」

 急に感じた痛みに、顔を歪めながら。

「なにすんだ!」

 俺は思い切りスライムを蹴飛ばした。
 サッカーのボレーシュートのように。

 宙を舞うスライム。
 さすが、若かりし俺である。
 中の上くらいの運動神経はあったはずだ。

 べちゃっと言う音がして、スライムが地面に落ちる。
 スライムは数回、プルプルと震えた後、消滅した。

『2ポイントの経験値を獲得しました。』
『レベルが2になりました。』
『スキルポイント1を獲得しました。』

 突然、視界にそんな文字列が浮かび上がった。

「おお……」

 ドラ○エか!

 心の中で、そんなツッコミを入れつつ、マクロスさんの言葉を反芻する。
 確か、俺が強くなりやすい工夫があるとかなんとか。

 マクロスさん、あんたホントに……。

「マクロスさんサイコー!!!」

 俺の叫びが荒野にこだまする。

 スライムがいて、倒すと経験値が貰えて、レベルが上がるなんて。
 子供の頃、死ぬほどRPGをやりまくった俺には素晴らしすぎる世界だ。
 何度、ゲームの世界に入りたいと思ったことか。

「マクロスさんサイコー!!!」

 俺は、再度、マクロスさんに感謝の叫びを上げる。

 そんな俺の叫びに応えるように、うにょうにょとした物体が俺に近づいてくる。
 今度は2体だ。
 ちょっと前、初めてソレを見たときは、正直少しビビった。
 でも、今の俺には。
 経験値にしか見えないぜ!!!

 スライム2体を殴り殺したった!

『1ポイントの経験値を獲得しました。』

 そんなログらしきものが視界に表示される。

 俺はログを見ながら、一人荒野で考え事をする。

 たしかさっきは、2ポイントの経験値を貰えたはずだ。

 レベルが上ったからだろうか。
 きっと、そうだな。

 さっきは2ポイントでレベルが上がった。
 今回は、スライム2体で1ポイントずつ、合計2ポイントの経験値を貰えた。

 それでも、レベルは上がらないので、きっとレベルアップに必要な経験値も増えているのだろう。

 まあ、その辺は普通のロールプレイングゲームと同じだ。

 ただ、次のレベルまであとどれくらいの経験値があるのか気になる。
 むしろ、今気になるのはそれだけだと言っても過言ではない。

 子供の頃、俺はロープレをやる度に、限界までレベルを上げてきた。
 ラスボスなんて、レベル60くらいで倒せるのだが、俺はレベル99を目指した。
 なんというか、レベルとは山のようなものなのだ。
 理屈ではないんだ。
 そこに山があるから登るように、レベルがあるから上げるのだ。
 レベル上げは作業でだるいという人がいる。
 でも、俺はレベル上げが大好きだ!!!

 そんなレベル上げが大好きな俺にとって、次のレベルまでいくつかという数値は、内閣支持率や、ダウ平均株価よりよっぽど気になる数値なのだ。

 ステータスとか見れないのかな。よくそういうのに載ってたよね。

 そんな事を考えた時だった。

#############################################
【ステータス】
名前:コウ
LV:2
称号:悲哀なる社畜
HP:1223/1223
MP:12/12
筋力:3
防御:2
敏捷:3
器用:4
知能:7
精神:10
スキルポイント:1
#############################################

 急にそんな文字列が視界にズラズラと表示されたのだ。

「おお」

 思わず声が出た。
 ドラ○もんもかくやという程、夢いっぱいの現象が起きた。
 なんというか。
 すげえ、たぎる。

 ただ、よくよくステータスを読んでみると突っ込みどころが満載だった。

 まず、称号にはあえて突っ込むまい。
 わかってた。
 むしろ、見事に俺を一言で表現していた。

 そして、まさかのメイジビルド。
 知能と精神が高くて、筋力が低いなんて。

 それなのに、俺はスライム相手に肉弾戦を挑んでいたのだ。
 やだ、ちょっと狂気を感じる。

 なんかHPが高い気がする。
 こんなものなのだろうか。

 というか、最後のスキルポイントが気になる。これさっきレベルアップした時にもらったやつだよな。
 なんだろう、これ。
 雰囲気的にスキル取るためのポイントなんだろうけど。
 スキルってどうやってとるんだ。

 その時、再び文字列が表示されていく。

#############################################
【スキル一覧】
根性:LV7
睡眠耐性:LV10(MAX)
疲労耐性:LV10(MAX)
孤独耐性:LV10(MAX)
精神耐性:LV5
痛覚耐性:LV3
病気耐性:LV3
飢餓耐性:LV3
性技:LV3

取得可能スキル一覧を表示しますか? (Yes/No)
#############################################

 まさかの対話型インターフェースだった。
 【スキル一覧】に表示されているのは、今持っているスキルなのだろう。
 社畜ここに極まれり!と言いたくなるラインナップだった。
 孤独耐性ってなんだ。
 そして、おまけみたいについている性技がちょっとうれしい。
 レベル3って微妙だけど。

 睡眠耐性、疲労耐性、孤独耐性がレベル10でマックスと書いてある。スキルにもレベルがあって、最大レベルは10なのだろう。

 なんだろう。
 サーバー室に独りで3徹とかやってたからだろうか。

 とりあえず、取得可能スキルを表示してみる。

#############################################
【取得可能スキル一覧】
使用可能スキルポイント:1

・武器スキル
剣/槍/弓/根/斧/拳

・魔法スキル
火魔法/水魔法/風魔法/土魔法

・強化スキル
筋力/防御/敏捷/器用/知能/精神
#############################################

「ふーむ」

 表示されたスキルを見て、とりあえず冷静なフリをしてみる。

 だが内心では、みなぎりっぱなしである。
 心臓がばくんばくん高鳴っている。

 魔法!!!

 いやいや、魔法しかありえないですから!

 火! 水! 風! 土! 基本4属性!

 全部覚えたいけど、今覚えられるのは一つだけだ。

 どれにしようかなー! どれにしようかなー!

 うきうきしながら、必死に考える。必死に考える!

 今こそ俺の脳細胞をフル回転させる時!

 唸れニューロン! 弾けろシナプス!!!

 俺は32年間生きてきた中で、最も知恵を振り絞った。
 もっとも必要な魔法を導き出すのだ!
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