56 / 60
第四章
⑻ 鳥羽伏見の戦い
しおりを挟む
幕軍の伝令兵として従軍した跳は、京へ入る為、軍と共に進んだ。
薩長の軍に勝たせ、幕府を瓦解させたいと跳は思っていたが、薩長軍五千に対して幕軍は一万五千。単純な兵力差を比較すると、望みは叶いそうもなかった。
勝ち目が薄いのなら、濃くしていかねばならない。跳は情報を操作し、幕軍内に油断を生ませることに成功した。幕軍は銃に弾を装填していない状態で、薩長軍の攻撃を受けることとなる。
戦闘が始まってからは、跳は伝令兵であることを活かし、幕軍の情報を混乱させる為に動いた。進んではいけない方向に軍を進ませ、退却命令など出ていない隊を退かせる。
南から進軍した幕軍には、強烈な北風も障害となった。前に進むのにも体力が削られ、薩長軍の弾は、風に乗り勢い良く飛んでくる気がした。
薩長軍優勢のまま戦いは進んでいったが、幕軍は戦力を温存し、形勢逆転の可能性は、まだまだ残っていた。
弾丸が飛び交い、大砲の弾が炸裂する。今生きていた者が、次の瞬間には死んでいる。忍びの技など使う余裕などなく、跳は駆けずり回った。
開戦数日目にして、その時はきた。薩長軍が錦の御旗を掲げた。
このことは事前から計画されていた。天皇の勅が下りようと下りまいと、錦の御旗を掲げ、皇軍を名乗るのだ。
幕軍の者は、錦の御旗など見たことはないし、硝煙たちこめる戦場で、旗など目に入れていられない。跳が情報を広めまわり、自分達が賊軍となったことを認識させた。当然、幕軍の士気は落ちる。そして、錦の御旗の影響なのか、幕府側だったはずの津藩と淀藩が裏切り、いよいよ戦況は薩長軍に傾くこととなった。
最終的に、徳川慶喜が、大阪城から江戸に逃亡。薩長軍の勝利が決定した。
敗軍の中で、跳は充足感に満ちていた。これで憎かった世界が壊れると。
あの時の選択は正しかったのか。いつもならば、答えの出ない自問が始まるところだが、その前に小石川の自宅に到着した。
自宅の扉を荒っぽく開き、中に踏み入る。床板をはがし、隠匿していた桐桑の家から持ち去ったものを取り出した。いろいろあるが、使うものを選んで鞄に入れる。
そして、棒手裏剣や、十字手裏剣、忍び時代の武器を装備する。鎖かたびらも隠し持ってはいるが、銃で撃たれると、鎖かたびらの破片も弾丸と共に体内に入り、より悲惨なことになる。跳は着用せず、家に残すことにした。
休む間もなく跳は外に飛び出し、走り出した。
薩長の軍に勝たせ、幕府を瓦解させたいと跳は思っていたが、薩長軍五千に対して幕軍は一万五千。単純な兵力差を比較すると、望みは叶いそうもなかった。
勝ち目が薄いのなら、濃くしていかねばならない。跳は情報を操作し、幕軍内に油断を生ませることに成功した。幕軍は銃に弾を装填していない状態で、薩長軍の攻撃を受けることとなる。
戦闘が始まってからは、跳は伝令兵であることを活かし、幕軍の情報を混乱させる為に動いた。進んではいけない方向に軍を進ませ、退却命令など出ていない隊を退かせる。
南から進軍した幕軍には、強烈な北風も障害となった。前に進むのにも体力が削られ、薩長軍の弾は、風に乗り勢い良く飛んでくる気がした。
薩長軍優勢のまま戦いは進んでいったが、幕軍は戦力を温存し、形勢逆転の可能性は、まだまだ残っていた。
弾丸が飛び交い、大砲の弾が炸裂する。今生きていた者が、次の瞬間には死んでいる。忍びの技など使う余裕などなく、跳は駆けずり回った。
開戦数日目にして、その時はきた。薩長軍が錦の御旗を掲げた。
このことは事前から計画されていた。天皇の勅が下りようと下りまいと、錦の御旗を掲げ、皇軍を名乗るのだ。
幕軍の者は、錦の御旗など見たことはないし、硝煙たちこめる戦場で、旗など目に入れていられない。跳が情報を広めまわり、自分達が賊軍となったことを認識させた。当然、幕軍の士気は落ちる。そして、錦の御旗の影響なのか、幕府側だったはずの津藩と淀藩が裏切り、いよいよ戦況は薩長軍に傾くこととなった。
最終的に、徳川慶喜が、大阪城から江戸に逃亡。薩長軍の勝利が決定した。
敗軍の中で、跳は充足感に満ちていた。これで憎かった世界が壊れると。
あの時の選択は正しかったのか。いつもならば、答えの出ない自問が始まるところだが、その前に小石川の自宅に到着した。
自宅の扉を荒っぽく開き、中に踏み入る。床板をはがし、隠匿していた桐桑の家から持ち去ったものを取り出した。いろいろあるが、使うものを選んで鞄に入れる。
そして、棒手裏剣や、十字手裏剣、忍び時代の武器を装備する。鎖かたびらも隠し持ってはいるが、銃で撃たれると、鎖かたびらの破片も弾丸と共に体内に入り、より悲惨なことになる。跳は着用せず、家に残すことにした。
休む間もなく跳は外に飛び出し、走り出した。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】
野松 彦秋
歴史・時代
妻木煕子(ツマキヒロコ)は親が決めた許嫁明智十兵衛(後の光秀)と10年ぶりに会い、目を疑う。
子供の時、自分よりかなり年上であった筈の従兄(十兵衛)の容姿は、10年前と同じであった。
見た目は自分と同じぐらいの歳に見えるのである。
過去の思い出を思い出しながら会話をするが、何処か嚙み合わない。
ヒロコの中に一つの疑惑が生まれる。今自分の前にいる男は、自分が知っている十兵衛なのか?
十兵衛に知られない様に、彼の行動を監視し、調べる中で彼女は驚きの真実を知る。
真実を知った上で、彼女が取った行動、決断で二人の人生が動き出す。
若き日の明智光秀とその妻煕子との馴れ初めからはじまり、二人三脚で戦乱の世を駆け巡る。
天下の裏切り者明智光秀と徐福伝説、八百比丘尼の伝説を繋ぐ物語。
高遠の翁の物語
本広 昌
歴史・時代
時は戦国、信州諏方郡を支配する諏方惣領家が敵に滅ぼされた。伊那郡神党の盟主、高遠の諏方頼継は敵に寝返ったと噂されるも、実際は、普通に援軍に来ただけだった。
頼継の父と祖父が昔、惣領家に対して激しく反抗したことがあったため、なにかと誤解を受けてしまう。今回もそうなってしまった。
敵の諏方侵略は突発的だった。頼継の援軍も諏方郡入りが早すぎた。両者は何故、予想以上に早く来れたのか? 事情はまるで違った。
しかし滅亡の裏には、憎むべき黒幕がいた。
惣領家家族のうち、ひとりだけ逃走に成功した齢十一歳の姫君を、頼継は、ひょんなことから保護した。それからの頼継は、惣領家の再興に全てを捧げていく。
頼継は豪傑でもなければ知将でもない。どちらなといえば、その辺の凡将だろう。
それでも、か弱くも最後の建御名方命直血の影響力をもつ姫君や、天才的頭脳とずば抜けた勇敢さを持ち合わせた姐御ら、多くの協力者とともに戦っていく。
伝統深き大企業のように強大な敵国と、頼継に寝返りの濡れ衣を着せた黒幕が共謀した惣領家滅亡問題。中小企業程度の戦力しか持たない頼継は、惣領家への忠義と諏方信仰を守るため、そしてなによりこの二つの象徴たる若き姫の幸せのため、死に物狂いにこの戦いに挑んでいく。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。
独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす
【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す
【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す
【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす
【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))
天狗の囁き
井上 滋瑛
歴史・時代
幼少の頃より自分にしか聞こえない天狗の声が聞こえた吉川広家。姿見えぬ声に対して、時に従い、時に相談し、時に言い争い、天狗評議と揶揄されながら、偉大な武将であった父吉川元春や叔父の小早川隆景、兄元長の背を追ってきた。時は経ち、慶長五年九月の関ヶ原。主家の当主毛利輝元は甘言に乗り、西軍総大将に担がれてしまう。東軍との勝敗に関わらず、危急存亡の秋を察知した広家は、友である黒田長政を介して東軍総大将徳川家康に内通する。天狗の声に耳を傾けながら、主家の存亡をかけ、不義内通の誹りを恐れず、主家の命運を一身に背負う。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる