忍びしのぶれど

裳下徹和

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第四章

⑻ 鳥羽伏見の戦い

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 幕軍の伝令兵として従軍した跳は、京へ入る為、軍と共に進んだ。
 薩長の軍に勝たせ、幕府を瓦解させたいと跳は思っていたが、薩長軍五千に対して幕軍は一万五千。単純な兵力差を比較すると、望みは叶いそうもなかった。
 勝ち目が薄いのなら、濃くしていかねばならない。跳は情報を操作し、幕軍内に油断を生ませることに成功した。幕軍は銃に弾を装填していない状態で、薩長軍の攻撃を受けることとなる。
 戦闘が始まってからは、跳は伝令兵であることを活かし、幕軍の情報を混乱させる為に動いた。進んではいけない方向に軍を進ませ、退却命令など出ていない隊を退かせる。
 南から進軍した幕軍には、強烈な北風も障害となった。前に進むのにも体力が削られ、薩長軍の弾は、風に乗り勢い良く飛んでくる気がした。
 薩長軍優勢のまま戦いは進んでいったが、幕軍は戦力を温存し、形勢逆転の可能性は、まだまだ残っていた。
 弾丸が飛び交い、大砲の弾が炸裂する。今生きていた者が、次の瞬間には死んでいる。忍びの技など使う余裕などなく、跳は駆けずり回った。
 開戦数日目にして、その時はきた。薩長軍が錦の御旗を掲げた。
 このことは事前から計画されていた。天皇の勅が下りようと下りまいと、錦の御旗を掲げ、皇軍を名乗るのだ。
 幕軍の者は、錦の御旗など見たことはないし、硝煙たちこめる戦場で、旗など目に入れていられない。跳が情報を広めまわり、自分達が賊軍となったことを認識させた。当然、幕軍の士気は落ちる。そして、錦の御旗の影響なのか、幕府側だったはずの津藩と淀藩が裏切り、いよいよ戦況は薩長軍に傾くこととなった。
 最終的に、徳川慶喜が、大阪城から江戸に逃亡。薩長軍の勝利が決定した。
 敗軍の中で、跳は充足感に満ちていた。これで憎かった世界が壊れると。

 あの時の選択は正しかったのか。いつもならば、答えの出ない自問が始まるところだが、その前に小石川の自宅に到着した。
 自宅の扉を荒っぽく開き、中に踏み入る。床板をはがし、隠匿していた桐桑の家から持ち去ったものを取り出した。いろいろあるが、使うものを選んで鞄に入れる。
 そして、棒手裏剣や、十字手裏剣、忍び時代の武器を装備する。鎖かたびらも隠し持ってはいるが、銃で撃たれると、鎖かたびらの破片も弾丸と共に体内に入り、より悲惨なことになる。跳は着用せず、家に残すことにした。
休む間もなく跳は外に飛び出し、走り出した。
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