忍びしのぶれど

裳下徹和

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第三章

⑮ 銭湯の人気者

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 跳が郵便配達の通常業務に戻ると、梶田が近付いてきた。
 彫師歌山我円が捕まり、背中の虎は未完成のはずだが、落ち込んでいる様子はない。
「これを見てくれ」
 おもむろに服を脱ぎ、背中を見せてくる。そこには、頭は猿。体は虎。尾は蛇の怪物がいた。
「筆跡が変わって歪な虎になるのは嫌だから、思い切って鵺にしてみたぜ。これだったら筆跡が変わっても大丈夫だろう。銭湯でも大人気だぜ」
 意気揚々と語る梶田の背中の鵺に、跳は目を奪われる。
 寄せ集めの怪物は、まるで今の日本ようだ。ちぐはぐで無理矢理つくられた印象は否めない。しかし、生命力にあふれている。
 跳の沈んでいた気持ちが、少しだけ上向いた。
「見事だ」

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