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第三章
⑫ 龍の正体
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跳は、銀座大火の被害者名簿を警察で見せてもらうことにした。
藤田や石走に教えると、桐桑のところへ乗り込みそうなので、許可は前島経由で取った。犯人だと確信するまで、桐桑の生活は静かにしておきたい。
資料管理係から書類を受け取り、目を通す。
火元は皇居和田倉門付近。そこから東に向かって銀座、築地を焼き尽くし、消失家屋は約五千戸。死者八名。負傷者六十名を出した。
徳川時代に大火が起きると、万単位の死者が出ていたことを考えると、火消し達は良く頑張ったように思われる。
死者が少なかった理由は色々とあるのだろうが、手元の資料には記されていない。
死者八名の氏名が載っていたので、確認してみる。
桐桑妙(二十七)
桐桑里(三)
八人のうち、親子と思える名前はこの一組だけだった。この二人が蒸気ポンプ消火器の操作失敗により亡くなった親子だろうか。死んだ状況が詳しく書かれていないので確定は出来ないが、それらしき人物は存在していたことになる。
跳の書類を持つ手が震え、鼓動が早くなった。
桐桑なんて名字、そんなにいるとは思えない。この母子は、かつての忍び仲間桐桑成貴の妻子だったのではないのか?
跳は資料を返し、警視庁を飛び出した。向かうは桐桑が勤めるという花火屋天球屋。
全力で駆け、跳は浅草の外れにある天球屋に到着した。
店主らしき男が跳を見て、声をかけてくる。
「郵便屋さん。配達ですか?」
「いえ。違うんです。こちらに桐桑成貴という者はいますか? 古い友人なのですが」
「桐桑の御友人ですか。あいにく今は出かけていますね」
店主は警戒心も見せず、笑顔で跳に応じてきた。
「どこに行ったかご存じですか?」
「残念ながらわかりません。桐桑には新しい花火の開発を任せていまして、外国との材料取引にも携わっているので、店を空けることも多いのです」
「そうですか……。桐桑の仕事振りはどうですか?」
店主は笑顔を崩すことなく、跳の質問に答えてくる。
「優秀な男ですよ。徳川時代は武家花火を打ち上げていたみたいですが、その時の知識や海外の技術を取り入れて、花火を発展させています。これからは大きくて色とりどりの花火を観ることが出来ますよ」
前に桐桑と会った時も、似たような話をしていた。その時の桐桑は、やりがいにあふれていたように思えた。跳は自分の思い過ごしかと思い始める。
「桐桑に家族の話は聞いたことはありますか?」
「あまり仕事外のことは話さない男なので……。家族のことは聞いたことはないですね。どうやら独り身のようですが」
「そうですか。昔病気の母上がいると聞いたことがあったので…。残念ながら亡くなられたようですね……」
跳の適当な嘘に、店主は素直に顔を曇らせた。
「では、自宅の方に行ってみますので、住所を教えて頂けますか?」
人の良い店主は、疑いなく教えてくれる。
「ありがとうございます。きれいな花火を楽しみにしておきます」
跳は礼を言って店から遠ざかり、角を曲がると全力で走り出した。
教えられた住所は巣鴨。近くはないが、跳なら駆け抜けられる。
止まらずに走り抜け、たどり着いたのは古ぼけた小さい一軒家だった。
戸には鍵がかかっている。中から気配は感じない。いないのか、それとも気配を消して待ち構えているのか。
「桐桑いるか? いるなら開けてくれ」
跳は戸を叩きながら呼びかけたが、中から何も動きはない。
あたりを見回して、人の目がないことを確認すると、鍵を外しにかかる。常時隠し持っている針を鍵穴に差し込み、さして手間取らず解錠した。
ゆっくりと戸を引き開け、中の様子を観察する。狭い土間と狭い部屋がある簡素な造りの家だ。土間には腰くらいの高さの作業台が置かれ、部屋の中も、工具や何かの材料が散乱している。
土間に二歩ほど踏み込んだ足元に糸が張られていた。引っかかると矢が飛んでくる仕掛けだ。家の中には見られてはいけないものがある。
糸に触れぬように乗り越え、土間の作業台を見てみる。現在はきれいになっているが、何かを作っていた形跡はある。花火だろうか。それだったら、花火屋の工房で作れば良い話だ。ここで何を作っていたのだ?
わらじを脱いで部屋に上がり、置かれているものを調べる。使い古された布団が一組と、衣服が入った行李が二つあるだけだった。
跳は畳に触れ、この下に空間があることに気付く。はがしてみると畳の下の板も外れ、中にいくつかの小さな壺がおさめられていた。
壺を取り出し、蓋を開け、中身を調べてみる。火薬だ。他の壺には鉄礬石を精製した粉末や苦土などが入れられていて、残り少なくなっている。どこかに持ち出されたのだ。ここにあるのは少量だが、火が入れられれば、こんなあばら家くらい簡単に吹っ飛ぶだろう。
これらの物は、花火の研究として海外から輸入したものを、桐桑が隠匿したのだろう。花火屋の仲間を裏切って危険を冒しながら作っていたものは、新型の花火なんかじゃない。爆薬だ。花火職人という立場と、偽札という財源があれば、高価な材料を海外から輸入することが出来る。三廻部焔膳を名乗って、藤巴党を支配していたのは、桐桑成貴だ。
髑髏を持つ龍の男三人を殺したのも、桐桑で間違いないだろう。忍び時代の技術を使えば、時間をおいて発火させるなどたやすい。それならば、派手に死体が燃えても、目撃されずに逃げることが出来る。妻子の復讐の為、桐桑は消火に失敗した火消し三人を殺したのだ。
しかし、ここで製造された爆薬で大きな事件が起こされた話は聞こえてこない。偽札製造場所の爆発炎上など、小さなものだ。まだ復讐は完結していない。他にまだ復讐する相手がいる。
跳は頭を巡らせて、糸口をつかもうとする。桐桑はどのような行動原理で動いているのか。龍の彫物を持つ男に悪意などなかったことなどわかっただろう。だが、感情を抑えることが出来なかった。次殺すのは誰だ。
桐桑の復讐の相手は、多分自分の記憶の中に埋まっている。掘り起こせ。
戊辰戦争で敗れた薩長が君臨する明治政府か? 桐桑はそこまで徳川に思い入れがあったように思えない。これではなさそうな気がする。
火事の復興で儲けた材木商や建築業の者だろうか。確かに儲けはしただろうが、火事がなくとも東京の街造成で儲けていただろう。これも違う。
右森が生きているのは、殺す価値がないと判断したからだろう。爆薬を使って、今さら始末するとは思えない。
ふと、跳の頭にるまと話した内容が頭に浮かんだ。
「井上馨が、東京の街を建て直す為に火を放った」
桐桑が復讐するのは、銀座大火を引き起こしたとされる井上馨だ。それならば、福岡藩を改易に追い込んだと、井上馨を逆恨みしている藤巴党の連中とも利害が一致する。
桐桑は、井上馨を爆薬で殺すつもりだ。
今日は三井商店銀座店の落成式が、銀座煉瓦街で行われる。三井の番頭さんと揶揄されたほどの癒着振りの井上馨が、出席しないわけがない。
跳は入り口付近に仕掛けられた罠を解除してから、火薬の入った壺を家にあった布や服で包み込んで、行李に入れ担ぐ。こんな危険なものを残しておくわけにもいかない。
桐桑の家を飛び出し、跳は銀座煉瓦街に向けて駆け出した。
そのままにしておくことが出来ず、火薬類を持ってきたが、肩に重くのしかかり、走る動きを阻害してくる。仕方ないので、途中で小石川の自宅に寄り、荷物を置くことにした。
跳は自宅の戸を開け、土間の上に行李ごと火薬類を置く。これだったら桐桑の家に置いたままの方がまだ安全だった気もするが、後悔しても遅い。
跳は家を後にして、銀座煉瓦街に向けて走り出した。
藤田や石走に教えると、桐桑のところへ乗り込みそうなので、許可は前島経由で取った。犯人だと確信するまで、桐桑の生活は静かにしておきたい。
資料管理係から書類を受け取り、目を通す。
火元は皇居和田倉門付近。そこから東に向かって銀座、築地を焼き尽くし、消失家屋は約五千戸。死者八名。負傷者六十名を出した。
徳川時代に大火が起きると、万単位の死者が出ていたことを考えると、火消し達は良く頑張ったように思われる。
死者が少なかった理由は色々とあるのだろうが、手元の資料には記されていない。
死者八名の氏名が載っていたので、確認してみる。
桐桑妙(二十七)
桐桑里(三)
八人のうち、親子と思える名前はこの一組だけだった。この二人が蒸気ポンプ消火器の操作失敗により亡くなった親子だろうか。死んだ状況が詳しく書かれていないので確定は出来ないが、それらしき人物は存在していたことになる。
跳の書類を持つ手が震え、鼓動が早くなった。
桐桑なんて名字、そんなにいるとは思えない。この母子は、かつての忍び仲間桐桑成貴の妻子だったのではないのか?
跳は資料を返し、警視庁を飛び出した。向かうは桐桑が勤めるという花火屋天球屋。
全力で駆け、跳は浅草の外れにある天球屋に到着した。
店主らしき男が跳を見て、声をかけてくる。
「郵便屋さん。配達ですか?」
「いえ。違うんです。こちらに桐桑成貴という者はいますか? 古い友人なのですが」
「桐桑の御友人ですか。あいにく今は出かけていますね」
店主は警戒心も見せず、笑顔で跳に応じてきた。
「どこに行ったかご存じですか?」
「残念ながらわかりません。桐桑には新しい花火の開発を任せていまして、外国との材料取引にも携わっているので、店を空けることも多いのです」
「そうですか……。桐桑の仕事振りはどうですか?」
店主は笑顔を崩すことなく、跳の質問に答えてくる。
「優秀な男ですよ。徳川時代は武家花火を打ち上げていたみたいですが、その時の知識や海外の技術を取り入れて、花火を発展させています。これからは大きくて色とりどりの花火を観ることが出来ますよ」
前に桐桑と会った時も、似たような話をしていた。その時の桐桑は、やりがいにあふれていたように思えた。跳は自分の思い過ごしかと思い始める。
「桐桑に家族の話は聞いたことはありますか?」
「あまり仕事外のことは話さない男なので……。家族のことは聞いたことはないですね。どうやら独り身のようですが」
「そうですか。昔病気の母上がいると聞いたことがあったので…。残念ながら亡くなられたようですね……」
跳の適当な嘘に、店主は素直に顔を曇らせた。
「では、自宅の方に行ってみますので、住所を教えて頂けますか?」
人の良い店主は、疑いなく教えてくれる。
「ありがとうございます。きれいな花火を楽しみにしておきます」
跳は礼を言って店から遠ざかり、角を曲がると全力で走り出した。
教えられた住所は巣鴨。近くはないが、跳なら駆け抜けられる。
止まらずに走り抜け、たどり着いたのは古ぼけた小さい一軒家だった。
戸には鍵がかかっている。中から気配は感じない。いないのか、それとも気配を消して待ち構えているのか。
「桐桑いるか? いるなら開けてくれ」
跳は戸を叩きながら呼びかけたが、中から何も動きはない。
あたりを見回して、人の目がないことを確認すると、鍵を外しにかかる。常時隠し持っている針を鍵穴に差し込み、さして手間取らず解錠した。
ゆっくりと戸を引き開け、中の様子を観察する。狭い土間と狭い部屋がある簡素な造りの家だ。土間には腰くらいの高さの作業台が置かれ、部屋の中も、工具や何かの材料が散乱している。
土間に二歩ほど踏み込んだ足元に糸が張られていた。引っかかると矢が飛んでくる仕掛けだ。家の中には見られてはいけないものがある。
糸に触れぬように乗り越え、土間の作業台を見てみる。現在はきれいになっているが、何かを作っていた形跡はある。花火だろうか。それだったら、花火屋の工房で作れば良い話だ。ここで何を作っていたのだ?
わらじを脱いで部屋に上がり、置かれているものを調べる。使い古された布団が一組と、衣服が入った行李が二つあるだけだった。
跳は畳に触れ、この下に空間があることに気付く。はがしてみると畳の下の板も外れ、中にいくつかの小さな壺がおさめられていた。
壺を取り出し、蓋を開け、中身を調べてみる。火薬だ。他の壺には鉄礬石を精製した粉末や苦土などが入れられていて、残り少なくなっている。どこかに持ち出されたのだ。ここにあるのは少量だが、火が入れられれば、こんなあばら家くらい簡単に吹っ飛ぶだろう。
これらの物は、花火の研究として海外から輸入したものを、桐桑が隠匿したのだろう。花火屋の仲間を裏切って危険を冒しながら作っていたものは、新型の花火なんかじゃない。爆薬だ。花火職人という立場と、偽札という財源があれば、高価な材料を海外から輸入することが出来る。三廻部焔膳を名乗って、藤巴党を支配していたのは、桐桑成貴だ。
髑髏を持つ龍の男三人を殺したのも、桐桑で間違いないだろう。忍び時代の技術を使えば、時間をおいて発火させるなどたやすい。それならば、派手に死体が燃えても、目撃されずに逃げることが出来る。妻子の復讐の為、桐桑は消火に失敗した火消し三人を殺したのだ。
しかし、ここで製造された爆薬で大きな事件が起こされた話は聞こえてこない。偽札製造場所の爆発炎上など、小さなものだ。まだ復讐は完結していない。他にまだ復讐する相手がいる。
跳は頭を巡らせて、糸口をつかもうとする。桐桑はどのような行動原理で動いているのか。龍の彫物を持つ男に悪意などなかったことなどわかっただろう。だが、感情を抑えることが出来なかった。次殺すのは誰だ。
桐桑の復讐の相手は、多分自分の記憶の中に埋まっている。掘り起こせ。
戊辰戦争で敗れた薩長が君臨する明治政府か? 桐桑はそこまで徳川に思い入れがあったように思えない。これではなさそうな気がする。
火事の復興で儲けた材木商や建築業の者だろうか。確かに儲けはしただろうが、火事がなくとも東京の街造成で儲けていただろう。これも違う。
右森が生きているのは、殺す価値がないと判断したからだろう。爆薬を使って、今さら始末するとは思えない。
ふと、跳の頭にるまと話した内容が頭に浮かんだ。
「井上馨が、東京の街を建て直す為に火を放った」
桐桑が復讐するのは、銀座大火を引き起こしたとされる井上馨だ。それならば、福岡藩を改易に追い込んだと、井上馨を逆恨みしている藤巴党の連中とも利害が一致する。
桐桑は、井上馨を爆薬で殺すつもりだ。
今日は三井商店銀座店の落成式が、銀座煉瓦街で行われる。三井の番頭さんと揶揄されたほどの癒着振りの井上馨が、出席しないわけがない。
跳は入り口付近に仕掛けられた罠を解除してから、火薬の入った壺を家にあった布や服で包み込んで、行李に入れ担ぐ。こんな危険なものを残しておくわけにもいかない。
桐桑の家を飛び出し、跳は銀座煉瓦街に向けて駆け出した。
そのままにしておくことが出来ず、火薬類を持ってきたが、肩に重くのしかかり、走る動きを阻害してくる。仕方ないので、途中で小石川の自宅に寄り、荷物を置くことにした。
跳は自宅の戸を開け、土間の上に行李ごと火薬類を置く。これだったら桐桑の家に置いたままの方がまだ安全だった気もするが、後悔しても遅い。
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