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第二章
7 岩倉具視邸
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なるべく裏道を選んで歩き、岩倉邸のある西早稲田を目指した。
勅書は仏像から取り出し、栄雲が背広の懐に入れている。
変装しているので、郵便配達夫と僧侶よりは目立たないが、赤報隊の残党の目には触れたくない。
「赤報隊の残党は、先程寺に来た三人だけなのですか?」
「いえ、他にもいます。総勢十名はいるのではないでしょうか」
結構な人数が残っているようだ。顔も知らない敵からの襲撃を怖れていると、ただ歩くだけで消耗していく。
軍人達が向こうから歩いてくるのが見える。最近になって、戸山に陸軍兵学寮が設営されたのだ。このあたりは軍人がたくさんいる。隣にいる栄雲が緊張するのがわかった。
「そのまま、何事もないように進んで下さい」
跳のささやきに、栄雲は多少ぎこちないながらも堂々と歩く。
軍人達は跳達には目も止めず、通り過ぎていく。僧侶から背広を着た紳士へと姿を変えたら、なかなか気付かないものだろう。
神経をすり減らしながら歩き、どうにか岩倉邸へと到着した。
御一新前は、どこかの藩の武家屋敷だったところだ。庭も備えた大き目の屋敷が塀に囲まれ鎮座している。
跳は栄雲に身を隠させ、一人で岩倉邸を偵察しに行った。
誰もいないことを確認して、塀の中に忍び込み、家の様子をうかがう。家族や使用人はいるが、岩倉本人は在宅していないようだ。家族に勅書を託すのは、危険が大きい。一度離れることにする。
岩倉邸から出て、栄雲のもとへ戻ろうとしていると、岩倉邸を詮索している不穏な男を見かけた。顕現寺に来た者ではないが、赤報隊の残党かもしれない。こちらの行動は読まれていたのか。
気付かれないように、跳は栄雲のもとへ戻り、出発をうながした。
「岩倉卿はいません。しかも、怪しい輩が屋敷のまわりを嗅ぎ回っています。早く出ましょう」
「岩倉様が帰ってくるのを待つのはどうでしょう」
「残念ながら、昼夜問わず働きづめの岩倉卿が、本宅に帰ってくる保証はありません。騒ぎになれば、御家族も巻き込むことになるでしょう。ここは離れて岩倉卿の職場を目指しましょう」
跳と栄雲が、ひっそりと動き出そうとすると、人が近付いてくる気配がした。先程の男かと思い身構えると、聞き覚えのある声がした。
「動くな」
赤報隊の残党かと思いきや、石走厳兵衛だった。下手をするとこちらの方がたちが悪いかもしれない。
「そちらの男は、あからさまに洋服を着慣れていない。帽子からのぞいている髪も髭も不自然だ。僧の栄雲だろう」
簡単に見抜かれてしまった。横目で確認すると、栄雲は、動揺して青ざめた顔をしている。嘘で押し切るのは不可能だ。
「ここにいるということは、岩倉卿に用があるのか?」
石走は薩摩出身だから、西郷隆盛の信奉者だろう。勅書を岩倉に渡すことがばれるのはまずい。
跳が口ごもっていると、横から声がした。
「そいつらが持っているのは、赤報隊を皇軍と認める勅書だ」
声の方に目を向けると、姿を消していた藤田が立っている。
「岩倉に勅書を届けると言っていたから、ここにいると思った」
石走は藤田の言葉を聞き、薄く殺気を帯び始めた。
「それはどういうことだ?」
岩倉邸のすぐ近くで込み入った話も出来ない。跳は憤り始める石走をなだめ、場所を移動することにした。
勅書は仏像から取り出し、栄雲が背広の懐に入れている。
変装しているので、郵便配達夫と僧侶よりは目立たないが、赤報隊の残党の目には触れたくない。
「赤報隊の残党は、先程寺に来た三人だけなのですか?」
「いえ、他にもいます。総勢十名はいるのではないでしょうか」
結構な人数が残っているようだ。顔も知らない敵からの襲撃を怖れていると、ただ歩くだけで消耗していく。
軍人達が向こうから歩いてくるのが見える。最近になって、戸山に陸軍兵学寮が設営されたのだ。このあたりは軍人がたくさんいる。隣にいる栄雲が緊張するのがわかった。
「そのまま、何事もないように進んで下さい」
跳のささやきに、栄雲は多少ぎこちないながらも堂々と歩く。
軍人達は跳達には目も止めず、通り過ぎていく。僧侶から背広を着た紳士へと姿を変えたら、なかなか気付かないものだろう。
神経をすり減らしながら歩き、どうにか岩倉邸へと到着した。
御一新前は、どこかの藩の武家屋敷だったところだ。庭も備えた大き目の屋敷が塀に囲まれ鎮座している。
跳は栄雲に身を隠させ、一人で岩倉邸を偵察しに行った。
誰もいないことを確認して、塀の中に忍び込み、家の様子をうかがう。家族や使用人はいるが、岩倉本人は在宅していないようだ。家族に勅書を託すのは、危険が大きい。一度離れることにする。
岩倉邸から出て、栄雲のもとへ戻ろうとしていると、岩倉邸を詮索している不穏な男を見かけた。顕現寺に来た者ではないが、赤報隊の残党かもしれない。こちらの行動は読まれていたのか。
気付かれないように、跳は栄雲のもとへ戻り、出発をうながした。
「岩倉卿はいません。しかも、怪しい輩が屋敷のまわりを嗅ぎ回っています。早く出ましょう」
「岩倉様が帰ってくるのを待つのはどうでしょう」
「残念ながら、昼夜問わず働きづめの岩倉卿が、本宅に帰ってくる保証はありません。騒ぎになれば、御家族も巻き込むことになるでしょう。ここは離れて岩倉卿の職場を目指しましょう」
跳と栄雲が、ひっそりと動き出そうとすると、人が近付いてくる気配がした。先程の男かと思い身構えると、聞き覚えのある声がした。
「動くな」
赤報隊の残党かと思いきや、石走厳兵衛だった。下手をするとこちらの方がたちが悪いかもしれない。
「そちらの男は、あからさまに洋服を着慣れていない。帽子からのぞいている髪も髭も不自然だ。僧の栄雲だろう」
簡単に見抜かれてしまった。横目で確認すると、栄雲は、動揺して青ざめた顔をしている。嘘で押し切るのは不可能だ。
「ここにいるということは、岩倉卿に用があるのか?」
石走は薩摩出身だから、西郷隆盛の信奉者だろう。勅書を岩倉に渡すことがばれるのはまずい。
跳が口ごもっていると、横から声がした。
「そいつらが持っているのは、赤報隊を皇軍と認める勅書だ」
声の方に目を向けると、姿を消していた藤田が立っている。
「岩倉に勅書を届けると言っていたから、ここにいると思った」
石走は藤田の言葉を聞き、薄く殺気を帯び始めた。
「それはどういうことだ?」
岩倉邸のすぐ近くで込み入った話も出来ない。跳は憤り始める石走をなだめ、場所を移動することにした。
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