忍びしのぶれど

裳下徹和

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第一章

十二 世界からの目

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 隠れ切支丹の事件を調べにきたのに余計な問題が起こり、無駄な時間をとられたが、一通り調査を終え、跳と碑轍は帰途についた。
 乍峰村から帰る途中、碑轍は馬車に揺られながらも洋書に目を通し、事件解決への手がかりをつかもうとしていた。
 馬車に揺られながら文字を追っていたら酔ってしまいそうだが、碑轍は構わず本をめくり続ける。
 そんな碑轍の文字を追う目が止まった。
「どうかされましたか?」
 跳が声をかけると、碑轍が文字を指差し言う。
「田満村の症状に似た症状の記述がある」
 文は外国語なので、指し示されても、跳にはまるでわからない。
「なんと書かれているのですか?」
 碑轍はもう一度文を読み、言葉を出す。
「聖アントニウスの火……」
 聖アントニウスの火。やはり切支丹の呪いなのだろうか。明かされる真実は残酷なものになるかもしれない。
 跳の心は重く沈んだ。

 駅逓寮に戻り、田満村、乍峰村でのことを報告すると、前島は気落ちした様子を見せる。
「碑轍先生が行けばすぐにでも解決するかと思ったが、そううまくはいかないか」
 跳も碑轍がすぐに謎を解き明かし、真実をさらけ出してくれるかと内心期待していた。
 前島は気落ちしたままの顔で、跳に語りかけてくる。
「欧米諸国の視察に行かれている岩倉さんより連絡がきている。東京の外れで起きた隠れ切支丹事件が、世界のあちこちから注目されているそうだ」
 明治になって数年しか経っていないのに、日本は電信により世界中とつながっている。東京から長崎へ、長崎からウラジオストクへ、そして、ウラジオストクからアメリカへ。情報は電信線を伝って、一日半もあればたどり着いてしまう。
「キリスト教禁教令を存続させている日本は、海外では野蛮だとみなされている。今回の事件も切支丹に濡れ衣を着せて処刑しようとしていると、非難轟轟のようだ」
 切支丹は処刑というのは、日本では当たり前のことだった。外国から見たら、まるで別の見方になるのだ。
「条約改正して、治外法権を撤廃させたくとも、禁教令と司法制度が邪魔をして上手くいかない。とにかく「呪い」とかいう前時代的な理由で、きちんと調べずに処刑したら、日本は世界から取り残される」
 前島は否定的な意味合いで語っているが、欧米諸国の外圧がうまく作用すれば、切支丹達は助かるかもしれない。跳の中に、ほんの少し希望が灯った。
「とにかく碑轍先生に急いでもらえ。君も全力でお支えしろ」
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