ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ

文字の大きさ
上 下
4 / 16

04 ショック療法ってなんですか

しおりを挟む
「ごめん。僕も本望ではないんだけれど。とにかく一回僕のものになろう? そしたら僕も余裕をもって、君の記憶喪失に対処できると思うんだ」

「下衆な発言やめて!? しかもとにかく一回ってなに!!」

「だって今日結婚式を挙げたんだよ!? 僕のものになったのに! それがなしとか受け入れられるわけないよ!」

「受け入れられないのはこちらも同じです!!」

「大丈夫。受け入れられない君の心ごと、僕が受け入れてあげるから!」

「いやいや、おかしいわよ! だいたい、私、あなたの嫁でしょ!? 愛する新妻でしょ!? それが記憶喪失になったって言ってるのに、『よし、とりあえず僕のものになっておこうか』ってどういうこと!? 自分の欲望最優先じゃないの!」

「あはっ、そんなふうに言ったら、僕が身勝手なクズ男みたいじゃないか。君を心底愛しているから、こんなに欲深になっているというのに」

 うさんくささしか感じない慈愛に満ちた微笑みを浮かべて、彼が私の腰をグッと抱き寄せた。
 ふわりと香る甘い匂い。
 胸がざわつく大人の匂い。
 思わずドキッとして、そんな自分に驚く。
 身勝手なクズに迫られて、動揺するなんてありえない。

「ちょ、ちょっと……!」

 押し返そうとした腕は、彼の片手で一つにまとめあげられてしまった。
 抵抗が一切できなくなって、息を呑む。

「ねえ、待って……」

「やだ。待たない」

 本気で動揺して彼を見上げると、この夜見た中で、一番冷やかな色をした眼差しと視線がぶつかった。
 口元は相変わらず弧を描いているのに、目はまったく笑っていない。
 さっきまでとはまるで別人のようで、わけがわからなくなる。
 なんて顔をするの、この人……。
 怖い。

「だってさ、考えてみてよアデリーヌ。僕を忘れるなんてあんまりじゃないか。いまの僕、めちゃくちゃ明るく振る舞ってるけれど、本当はすっごい傷ついてるよ?」

「あ……。えっと、ご、ごめんなさい……。あなたの態度明るいから、全然動じてないように見えたの」

「君に忘れられたのに、動じない? 本気でそんなこと言ってるの?」

「……っ」

 低く掠れた声で、彼が呟く。
 その声を聞いた瞬間、冷たい汗が背中を流れて、心臓が縮むような感覚を覚えた。

「そんな怯えた顔しちゃだめだよ。ハァ……。ゾクゾクするな……。ああ、でもまずは、君の記憶を蘇らせてあげないとね!」

 あっと思ったときには、再び彼の下に組み敷かれていた。

「な、なにしてるの……!?」

「ショック療法を試してみようと思って! あ、違うよ? 決して自分の欲望を満たしたくて、押し倒したんじゃないよ?」

「絶対嘘でしょう!?」

 もうほんとありえない。
 恐怖と苛立ちを抱えながら、私は再び彼の下から抜け出そうとした。
 けれど今度は、さっきのようにうまくはいかなかった。

「だーめ。もう逃がさない」

 クスッと笑った彼が、足の間に膝を押しこんでくる。
 強引に距離を詰められたことが不快で、キッと睨みつけたら、うれしそうに微笑みかけられた。
 全然まったく怯んでいない。
 私が怒っていても、平気で流せてしまうんだ。
 そうわかった瞬間、心の奥がゾッと凍りついた。
 あ、これまずい……。

 記憶喪失だと認識した瞬間と同じ状況。
 でもさっきまで迫られていたのとは、本気度が違う。
 このままでは私、この人に無理やり……。

「いっ……いやあああーーーーーっっっ!!!!」

 響き渡る私の絶叫。

『初夜を行っている部屋から、悲鳴が聞こえてきても、聞き流されると思うけれど』

 彼はたしかそんなことを言っていた。
 けれど、闇を切り裂く腹からの悲鳴を聞きつけ、即座に数十人の衛兵たちが、寝室へと雪崩れ込んできたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

寒い夜だから、夫の腕に閉じ込められました

絹乃
恋愛
学生なのに結婚したわたしは、夫と同じベッドで眠っています。でも、キスすらもちゃんとしたことがないんです。ほんとはわたし、キスされたいんです。でも言えるはずがありません。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

ヒョロガリ殿下を逞しく育てたのでお暇させていただきます!

冬見 六花
恋愛
突如自分がいる世界が前世で読んだ異世界恋愛小説の中だと気づいたエリシア。婚約者である王太子殿下と自分が死ぬ運命から逃れるため、ガリガリに痩せ細っている殿下に「逞しい体になるため鍛えてほしい」とお願いし、異世界から来る筋肉好きヒロインを迎える準備をして自分はお暇させてもらおうとするのだが……――――もちろん逃げられるわけがなかったお話。 【無自覚ヤンデレ煽りなヒロイン ✖️ ヒロインのためだけに体を鍛えたヒロイン絶対マンの腹黒ヒーロー】 ゆるゆるな世界設定です。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

ヤンデレ義父に執着されている娘の話

アオ
恋愛
美少女に転生した主人公が義父に執着、溺愛されつつ執着させていることに気が付かない話。 色々拗らせてます。 前世の2人という話はメリバ。 バッドエンド苦手な方は閲覧注意です。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

義兄の執愛

真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。 教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。 悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

処理中です...