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その悪魔は不意に…(アドバイザーの場合)

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(ご注意:異常な死に方を表現したシーンがあります)

 春一番の知らせがありそうな、土曜日の朝のこと……

「よーし、今日もお客をキレイにするわよー」

 大阪近郊のB市でマンションに一人住む温子は、そう気合を入れると、紺のスーツ姿で自宅を後にした。
 彼女はやや小太り気味の二十五歳で、髪は耳が隠れる程度のストレートだった。

 いつものように地下鉄で終点まで乗車する。
 温子が勤めるCデパートへは、その駅から三分ほどで、市の中心部に位置していた。
 
 彼女は、そのデパートの1階のビューティー・コーナーでアドバイザーをしていた。

 お昼前にタイムカードを押した温子は、ロッカーでライトグリーンの仕事用スーツに着替えると、社員食堂で昼食をとる。
 彼女の担当は午後からだったからだ。

 午後の一時を過ぎると、メークの相談をする女性は多くなった。
 温子は、最初に現れたちょっと太目の中年女性に対して、
 
「こちらの商品は透明感が御座いまして……」
 
 取り出そうとした時、不意に手から商品が落ちた。

「あっ」
 
 思わず温子が、しゃがんだ瞬間……その商品が床の直前で停止して、ピカッ! っと光ったのだ。
そして気が付くと、彼女の手にあった。
 
「えっ、なんで……? まっ、いいか……」
 
 作り笑顔を見せながら、体勢を直して客の方を向いたが……呆然とした。
 
 その客をはじめ、あれだけ賑わっていた大勢の人々も店員達も、一人残らず消えていたのだ。

「これは……どうして……?」

 一瞬、温子は身震いを感じた。

 その時、後ろからスカートを引かれたので温子が振り向くと、黒いドレスを着た一人の少女がいた。
 銀髪が長く、人形のように愛らしい少女だった。
 
「あら、お嬢ちゃん……。どうしたの? ここへは入っては……」
 
 するとその少女は、にっこり笑うと、

「おねぇちゃん、見付けたー」

「えっ、どういうこと? あなたは?」
 
「ちょっと貴女、何してるのよー!」

 後ろから女性の声がした。

 温子が振り向くために、体を向けた瞬間……店内は元の賑わいに戻っていて、その声は、さっきの太目の客だった。

「えっ、どういうこと……?」
 
 再度、温子が振り向くと、そこにはもう少女はいなかった。

「ちょっと貴女ねー!」

 太めの女性は立ち上がると、温子を睨みつけた。

「申し訳ご座いません……。ちょっと交代いたします……」

 気分が悪くなった温子は、近くの店員に代わってもらうと、トイレに向かった。

 ところが、その階のトイレは『清掃中』だった。
 
 仕方なく温子は、上の階に向かった。ところが……
 
 2階のトイレも……3階も……4階も……『清掃中』だった。

 ついに温子は、屋上までやってきてしまった。が、屋上のトイレは反対側に位置しているので、彼女は走った。

 すると途中に、さっきの少女がいて、

「おねぇちゃん、もうすぐだよ」

 温子は走りながら、
「えっ、何が?」
 
 そのトイレは大丈夫だった。が、彼女の足は止まらず……なぜか開いていた非常階段へのドアから、外に飛び出してしまった。
 
 勢いあまった温子の体は、そのまま非常階段を越えてしまい、Cデパートの裏の路地へと落下していった。
 が、途中の空間に、まるで巨大なカッターでもあるのか、温子の体は、首、両腕、腰、太ももと切断されてバラバラになり……

 Cデパート裏の地面に激しく叩きつけられ、無残な姿になった。
 
 そこへ、あの少女が現れると、笑顔で、

「おねぇちゃん、一緒に遊ぼうね」

 通りかかった数人の女性の、

 キャー!

 という悲鳴の後で、遠くからサイレンの音が近付いていた。
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