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第四章 旅行

第四十六話 見捨てる者達(前半とある使用人、後半とあるギルド員視点)

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 リリスお嬢様とシェイラお嬢様は、とても心根の優しい方々だった。
 シャルティー公爵家を後にした私は、もう会えないかもしれない二人の少女のことを思って、ホゥッと息を吐く。

 リリスお嬢様が国外追放を受ける前日。私は、リリスお嬢様からあるものを託されていた。それは、連絡灯と呼ばれる魔法具を薔薇の形にアレンジしたもので、リリスお嬢様から、もし自分に何かあっても、無事であればこの連絡灯が光ると教えられた。そして、もしシェイラお嬢様に何かがあった時も、この連絡灯が光れば、それはシェイラお嬢様をリリスお嬢様が保護された証しだとも。
 あの旦那様や奥様の元で育ったとは思えないほどに賢く、優しく育ったリリスお嬢様とシェイラお嬢様は、使用人の間ではとても好かれており、皆、何かしらの形でお二人に救われてきた。だから、全ての使用人が、お二人の幸せを願っており、最初は私も、リリスお嬢様に何かあるなど考えられなかった。
 しかし、実際には、リリスお嬢様は国外追放を受け、シェイラお嬢様は何者かに拐われてしまった。
 連絡灯のことは、旦那様と奥様の耳に入れないよう、使用人の全員が把握していたため、二回とも光るのを確認することは容易かった。そこで、私達は、行動を起こすことを決めたのだ。

 リリスお嬢様が去ってからどんどん減っていた使用人は、シェイラお嬢様がリリスお嬢様に保護され、憂いがなくなったことを期に一気に減った。それもこれも、書類を確認することなくサインしてくれた旦那様のおかげだが、それを放置していると後が大変かもしれないと思い、私は最後に旦那様へと書類をしっかり読まなければならない旨を伝えておいた。余計なお世話かもしれないが、きっと、リリスお嬢様方も、旦那様達が死ぬようなことまでは望んでいない……かもしれないと思っての行動だ。


(リリスお嬢様とシェイラお嬢様は、どこへ向かわれたのだろうか?)


 できることなら、もう一度、リリスお嬢様やシェイラお嬢様にお仕えしたい。


(少なくとも国外に居るのは確かでしょうし……ドラグニル竜国へでも向かってみますか)


 その昔、幼いリリスお嬢様からドラグニル竜国のことを聞かれたことを思い出した私は、早速とばかりに家に戻り、旅支度を整えていく。そこにお二人が居る確証はなくとも、私はせめて一目だけでも会いたかった。
 薔薇の形をした連絡灯も詰め込むと、私以外に誰も居ない家を見渡して、そこに何の感慨も抱かないまま、外へ出る。


(さぁ、長い旅になりそうです)


 まずは、ドラグニル竜国の古い友人を訪ねることになりそうだと思いながら、私は悠々と歩き出した。








 ギルド長を捕まえて、どんな処罰が下されるのかを待っていた俺達は、発表があるとのことで、城のバルコニーに出てきた国王の話を聞いて、呆気にとられた。


「すなわち、全ての悪は、『絶対者』とリリス・シャルティーにある。よって、余はこの両名を指名手配することとする。彼女らを隠しだてすることは、国家反逆罪となるため、彼女らの行方を知る者は、速やかに引き渡すのだ」


 ついでに、『絶対者』は生死問わず。そして、リリス・シャルティーとかいうご令嬢は、傷一つつけるのも許さないなどというふざけた発表がなされ、俺達は相手が国王だということも忘れて憤る。


「ふざけるなっ!」

「『絶対者』が誘拐? そんなわけあるかっ!」

「おい、そのご令嬢も、もしかしたら冤罪なのかもしれねぇぞ?」

「確かに、『絶対者』の生死は問わないのに、ご令嬢は傷一つ許さないっておかしいよな?」

「絶対、何かあるぞっ」


 そんな声は、しかし、あまりにも多かったため、大きなざわめきとしてしか認識されず、国王には届かなかったらしい。そして、もう一つ、とんでもない発表がなされることを、俺達は予想もしていなかった。


「それと、王都ギルドのギルド長だが、謹慎処分とし、本日、その処分を解くこととした。今後は問題を起こすことなく、ギルド長を丁重に迎えることを伝えておく」


 どんなに軽い罰だとしても、強制労働にはなるだろうと考えていた俺達は、そんな国王の言葉をしばらく理解できなかった。理解したのは、国王が城のバルコニーから去った後。


「ふっざけんじゃねぇぞっ!!」


 誰かの怒号に感化されるようにして、あちこちで怒り狂う声が上がる。ギルド長の横暴は、それだけギルド員達を苦しめてきた。いや、調査をしてみると、依頼に来た一般人に対しても色々とやらかしていたらしいことが分かってきている。その事実は、現在、王都中に広まっており、国王が相手とはいえ、怒りが抑えられなかった。
 簡単に言ってしまえば、暴動が起きた。それは、比較的大きなものではあったが、一応、兵士達に鎮圧されることとなる。ただ、ギルド長がギルドへ戻ってくることを知っている俺達は、多くの冒険者同士で集まって、王族であることを恐れることなく、断罪することを決定する。今度は、憲兵を呼ぶことなく、延々と殴る蹴るを繰り返し、最後には首をはねて晒すことにしたのだ。

 国民的英雄の『絶対者』を貶められ、ギルド長を断罪しなかった国王を前に、もはや、王国への忠誠心など欠片も残っていなかった。その断罪は、その日のうちに執行され、断罪に参加した者達は、国を見限って早々に旅立つのだった。
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