46 / 78
第四章 旅行
第四十六話 見捨てる者達(前半とある使用人、後半とあるギルド員視点)
しおりを挟む
リリスお嬢様とシェイラお嬢様は、とても心根の優しい方々だった。
シャルティー公爵家を後にした私は、もう会えないかもしれない二人の少女のことを思って、ホゥッと息を吐く。
リリスお嬢様が国外追放を受ける前日。私は、リリスお嬢様からあるものを託されていた。それは、連絡灯と呼ばれる魔法具を薔薇の形にアレンジしたもので、リリスお嬢様から、もし自分に何かあっても、無事であればこの連絡灯が光ると教えられた。そして、もしシェイラお嬢様に何かがあった時も、この連絡灯が光れば、それはシェイラお嬢様をリリスお嬢様が保護された証しだとも。
あの旦那様や奥様の元で育ったとは思えないほどに賢く、優しく育ったリリスお嬢様とシェイラお嬢様は、使用人の間ではとても好かれており、皆、何かしらの形でお二人に救われてきた。だから、全ての使用人が、お二人の幸せを願っており、最初は私も、リリスお嬢様に何かあるなど考えられなかった。
しかし、実際には、リリスお嬢様は国外追放を受け、シェイラお嬢様は何者かに拐われてしまった。
連絡灯のことは、旦那様と奥様の耳に入れないよう、使用人の全員が把握していたため、二回とも光るのを確認することは容易かった。そこで、私達は、行動を起こすことを決めたのだ。
リリスお嬢様が去ってからどんどん減っていた使用人は、シェイラお嬢様がリリスお嬢様に保護され、憂いがなくなったことを期に一気に減った。それもこれも、書類を確認することなくサインしてくれた旦那様のおかげだが、それを放置していると後が大変かもしれないと思い、私は最後に旦那様へと書類をしっかり読まなければならない旨を伝えておいた。余計なお世話かもしれないが、きっと、リリスお嬢様方も、旦那様達が死ぬようなことまでは望んでいない……かもしれないと思っての行動だ。
(リリスお嬢様とシェイラお嬢様は、どこへ向かわれたのだろうか?)
できることなら、もう一度、リリスお嬢様やシェイラお嬢様にお仕えしたい。
(少なくとも国外に居るのは確かでしょうし……ドラグニル竜国へでも向かってみますか)
その昔、幼いリリスお嬢様からドラグニル竜国のことを聞かれたことを思い出した私は、早速とばかりに家に戻り、旅支度を整えていく。そこにお二人が居る確証はなくとも、私はせめて一目だけでも会いたかった。
薔薇の形をした連絡灯も詰め込むと、私以外に誰も居ない家を見渡して、そこに何の感慨も抱かないまま、外へ出る。
(さぁ、長い旅になりそうです)
まずは、ドラグニル竜国の古い友人を訪ねることになりそうだと思いながら、私は悠々と歩き出した。
ギルド長を捕まえて、どんな処罰が下されるのかを待っていた俺達は、発表があるとのことで、城のバルコニーに出てきた国王の話を聞いて、呆気にとられた。
「すなわち、全ての悪は、『絶対者』とリリス・シャルティーにある。よって、余はこの両名を指名手配することとする。彼女らを隠しだてすることは、国家反逆罪となるため、彼女らの行方を知る者は、速やかに引き渡すのだ」
ついでに、『絶対者』は生死問わず。そして、リリス・シャルティーとかいうご令嬢は、傷一つつけるのも許さないなどというふざけた発表がなされ、俺達は相手が国王だということも忘れて憤る。
「ふざけるなっ!」
「『絶対者』が誘拐? そんなわけあるかっ!」
「おい、そのご令嬢も、もしかしたら冤罪なのかもしれねぇぞ?」
「確かに、『絶対者』の生死は問わないのに、ご令嬢は傷一つ許さないっておかしいよな?」
「絶対、何かあるぞっ」
そんな声は、しかし、あまりにも多かったため、大きなざわめきとしてしか認識されず、国王には届かなかったらしい。そして、もう一つ、とんでもない発表がなされることを、俺達は予想もしていなかった。
「それと、王都ギルドのギルド長だが、謹慎処分とし、本日、その処分を解くこととした。今後は問題を起こすことなく、ギルド長を丁重に迎えることを伝えておく」
どんなに軽い罰だとしても、強制労働にはなるだろうと考えていた俺達は、そんな国王の言葉をしばらく理解できなかった。理解したのは、国王が城のバルコニーから去った後。
「ふっざけんじゃねぇぞっ!!」
誰かの怒号に感化されるようにして、あちこちで怒り狂う声が上がる。ギルド長の横暴は、それだけギルド員達を苦しめてきた。いや、調査をしてみると、依頼に来た一般人に対しても色々とやらかしていたらしいことが分かってきている。その事実は、現在、王都中に広まっており、国王が相手とはいえ、怒りが抑えられなかった。
簡単に言ってしまえば、暴動が起きた。それは、比較的大きなものではあったが、一応、兵士達に鎮圧されることとなる。ただ、ギルド長がギルドへ戻ってくることを知っている俺達は、多くの冒険者同士で集まって、王族であることを恐れることなく、断罪することを決定する。今度は、憲兵を呼ぶことなく、延々と殴る蹴るを繰り返し、最後には首をはねて晒すことにしたのだ。
国民的英雄の『絶対者』を貶められ、ギルド長を断罪しなかった国王を前に、もはや、王国への忠誠心など欠片も残っていなかった。その断罪は、その日のうちに執行され、断罪に参加した者達は、国を見限って早々に旅立つのだった。
シャルティー公爵家を後にした私は、もう会えないかもしれない二人の少女のことを思って、ホゥッと息を吐く。
リリスお嬢様が国外追放を受ける前日。私は、リリスお嬢様からあるものを託されていた。それは、連絡灯と呼ばれる魔法具を薔薇の形にアレンジしたもので、リリスお嬢様から、もし自分に何かあっても、無事であればこの連絡灯が光ると教えられた。そして、もしシェイラお嬢様に何かがあった時も、この連絡灯が光れば、それはシェイラお嬢様をリリスお嬢様が保護された証しだとも。
あの旦那様や奥様の元で育ったとは思えないほどに賢く、優しく育ったリリスお嬢様とシェイラお嬢様は、使用人の間ではとても好かれており、皆、何かしらの形でお二人に救われてきた。だから、全ての使用人が、お二人の幸せを願っており、最初は私も、リリスお嬢様に何かあるなど考えられなかった。
しかし、実際には、リリスお嬢様は国外追放を受け、シェイラお嬢様は何者かに拐われてしまった。
連絡灯のことは、旦那様と奥様の耳に入れないよう、使用人の全員が把握していたため、二回とも光るのを確認することは容易かった。そこで、私達は、行動を起こすことを決めたのだ。
リリスお嬢様が去ってからどんどん減っていた使用人は、シェイラお嬢様がリリスお嬢様に保護され、憂いがなくなったことを期に一気に減った。それもこれも、書類を確認することなくサインしてくれた旦那様のおかげだが、それを放置していると後が大変かもしれないと思い、私は最後に旦那様へと書類をしっかり読まなければならない旨を伝えておいた。余計なお世話かもしれないが、きっと、リリスお嬢様方も、旦那様達が死ぬようなことまでは望んでいない……かもしれないと思っての行動だ。
(リリスお嬢様とシェイラお嬢様は、どこへ向かわれたのだろうか?)
できることなら、もう一度、リリスお嬢様やシェイラお嬢様にお仕えしたい。
(少なくとも国外に居るのは確かでしょうし……ドラグニル竜国へでも向かってみますか)
その昔、幼いリリスお嬢様からドラグニル竜国のことを聞かれたことを思い出した私は、早速とばかりに家に戻り、旅支度を整えていく。そこにお二人が居る確証はなくとも、私はせめて一目だけでも会いたかった。
薔薇の形をした連絡灯も詰め込むと、私以外に誰も居ない家を見渡して、そこに何の感慨も抱かないまま、外へ出る。
(さぁ、長い旅になりそうです)
まずは、ドラグニル竜国の古い友人を訪ねることになりそうだと思いながら、私は悠々と歩き出した。
ギルド長を捕まえて、どんな処罰が下されるのかを待っていた俺達は、発表があるとのことで、城のバルコニーに出てきた国王の話を聞いて、呆気にとられた。
「すなわち、全ての悪は、『絶対者』とリリス・シャルティーにある。よって、余はこの両名を指名手配することとする。彼女らを隠しだてすることは、国家反逆罪となるため、彼女らの行方を知る者は、速やかに引き渡すのだ」
ついでに、『絶対者』は生死問わず。そして、リリス・シャルティーとかいうご令嬢は、傷一つつけるのも許さないなどというふざけた発表がなされ、俺達は相手が国王だということも忘れて憤る。
「ふざけるなっ!」
「『絶対者』が誘拐? そんなわけあるかっ!」
「おい、そのご令嬢も、もしかしたら冤罪なのかもしれねぇぞ?」
「確かに、『絶対者』の生死は問わないのに、ご令嬢は傷一つ許さないっておかしいよな?」
「絶対、何かあるぞっ」
そんな声は、しかし、あまりにも多かったため、大きなざわめきとしてしか認識されず、国王には届かなかったらしい。そして、もう一つ、とんでもない発表がなされることを、俺達は予想もしていなかった。
「それと、王都ギルドのギルド長だが、謹慎処分とし、本日、その処分を解くこととした。今後は問題を起こすことなく、ギルド長を丁重に迎えることを伝えておく」
どんなに軽い罰だとしても、強制労働にはなるだろうと考えていた俺達は、そんな国王の言葉をしばらく理解できなかった。理解したのは、国王が城のバルコニーから去った後。
「ふっざけんじゃねぇぞっ!!」
誰かの怒号に感化されるようにして、あちこちで怒り狂う声が上がる。ギルド長の横暴は、それだけギルド員達を苦しめてきた。いや、調査をしてみると、依頼に来た一般人に対しても色々とやらかしていたらしいことが分かってきている。その事実は、現在、王都中に広まっており、国王が相手とはいえ、怒りが抑えられなかった。
簡単に言ってしまえば、暴動が起きた。それは、比較的大きなものではあったが、一応、兵士達に鎮圧されることとなる。ただ、ギルド長がギルドへ戻ってくることを知っている俺達は、多くの冒険者同士で集まって、王族であることを恐れることなく、断罪することを決定する。今度は、憲兵を呼ぶことなく、延々と殴る蹴るを繰り返し、最後には首をはねて晒すことにしたのだ。
国民的英雄の『絶対者』を貶められ、ギルド長を断罪しなかった国王を前に、もはや、王国への忠誠心など欠片も残っていなかった。その断罪は、その日のうちに執行され、断罪に参加した者達は、国を見限って早々に旅立つのだった。
22
お気に入りに追加
3,849
あなたにおすすめの小説
転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた
よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。
国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。
自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。
はい、詰んだ。
将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。
よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。
国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!
【完結】公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む
むとうみつき
恋愛
「お父様、どうかアラン王太子殿下との婚約を解消してください」
ローゼリアは、公爵である父にそう告げる。
「わたくしは王太子殿下に全く信頼されなくなってしまったのです」
その頃王太子のアランは、婚約者である公爵令嬢ローゼリアの悪事の証拠を見つけるため調査を始めた…。
初めての作品です。
どうぞよろしくお願いします。
本編12話、番外編3話、全15話で完結します。
カクヨムにも投稿しています。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。
木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。
前世は日本という国に住む高校生だったのです。
現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。
いっそ、悪役として散ってみましょうか?
悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。
以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。
サクッと読んでいただける内容です。
マリア→マリアーナに変更しました。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる