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第四章 旅行
第四十一話 パレード(ルティアス視点)
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テオドールには、片翼と接する際の心得をこんこんと語って聞かせ、片翼が嫌がるようなことをすれば、それが異種族であれば別れることに繋がりかねないことを教えておいた。
テオドールはまだ二百歳の成人を過ぎたばかりの若者だ。まだ、片翼との接し方なんて分かっていない年頃であるため、こうして先輩として語ることは必要なことだった。
すっかり項垂れたテオドールを連れて喫茶店に戻れば、リリスさんはあんみつを食べ終えていたらしく、さっさと二人に別れを告げてお祭りの続きを楽しもうとしてくれる。
(幸せだなぁ)
りんご飴を手渡して、嬉しそうに笑うリリスさんを見つめながら、僕はその一時の幸せに浸る。このまま、時間が止まってしまえば良いのにと思うくらい、今の僕は幸せに包まれていた。
「リリスさん。そろそろパレードがあるんだけど、見に行ってみる?」
午後から行われる、ヴァイラン魔国魔王陛下ジークフリート様、ならびにこのヴァイラン魔国と隣国、リアン魔国の魔王妃であらせられるユーカ様、そして、リアン魔国の魔王陛下ハミルトン様が参加する盛大なパレード。生誕祭であるため、主役はジークフリート様ではあるものの、新たに魔王妃様となったユーカ様の姿を見たがる民衆は多い。
リリスさんに、そんな説明をすると、リリスさんは『ユーカ様……ニホンジン?』と呟いて、何かを考えたかと思えば、大きくうなずく。
「わたくしも興味がありますので、ぜひとも見てみたいですわ」
「そっか、それじゃあお勧めの場所があるから、そこに行こうっ」
「えぇ、よろしくお願いしますわ」
こうして、僕達は、パレードが良く見える小高い場所にある建物の前にやってきた。
「……ルティアス? 本当に、ここから見えるんですの?」
「うん、パレードの馬車はここを通るからね。全員の顔が良く見えるはずだよ」
「それにしては、人が少ないようですが……」
そう言いながら、リリスさんは背後の建物にチラリと視線を向ける。そこは、豪邸と言っても過言ではないほどに素晴らしい日本家屋が建っていた。
「あぁ、ここは、僕の家なんだ。さすがに、貴族の家の前に陣取るわけにはいかないから、皆ここには来ないんだよ」
「……ルティアスは、貴族でしたのね」
「あれ? 話してなかったっけ? 僕は、中級貴族の次男だよ」
色々と話していたから、てっきり、もう伝えたものだと思っていたのだが、どうやら、貴族というのは初耳だったらしい。
そんな話をしているうちに、パレードの馬車が徐々にこちらに近づいているようで、歓声が聞こえてくる。しかし……。
「ルティアス、あれ」
「ん? ……こんな日に、何だってあんな……」
「こんな日だからこそ、ではなくて?」
「あぁ、うん、そうだよね」
この屋敷の辺りは少し小高くなっているため、僕達は民衆の様子も観察でき……そして、怪しい人物の姿もしっかりと見つけることができた。
リリスさんとのデートの真っ最中だというのに、見つけてしまったからには仕事をしないわけにはいかない。リリスさんも、黒装束でコソコソと動き回るそいつを捕らえる気満々で、魔力をこっそりと練っている。
「リリスさん、ここは僕が行くよ」
「大丈夫ですわ。わたくしが強いことくらい、ルティアスは知っていますでしょう?」
敵から目を離すことなく告げるリリスさんに、僕はそれが事実だと分かっていても、言わずにはいられなかった。
「それでも、大切な女の子には、守られててほしいんだ」
もしかしたら、リリスさんは守られることを望んでいないかもしれない。しかし、どうあっても、僕はリリスさんを守りたかったし、安全な場所に居てほしかった。
「……」
「リリスさん?」
僕の言葉に気分を害したのか、うつむいてしまったリリスさん。僕は、言わなければ良かっただろうかと後悔を始めたものの、後の祭りだ。
「っ、わたくしだって、戦えますっ。けれど……そこまで言うのであれば、今回は譲りますわっ!」
いつの間にかうつむいていた僕は、そんなリリスさんの言葉にハッと顔を上げて、そして、どこか嬉しそうなリリスさんの様子に呆然とする。
「さぁっ、怪我でもしたら、ただではすませませんわよっ!」
正直じゃないリリスさんの言葉。自惚れでなければ、心配してくれているその言葉に、僕はムクムクと気力が沸き上がるのを感じる。
「うんっ、リリスさんのために、瞬殺してくるねっ!」
「っ、生け捕りにするのですわよっ!」
「あっ、うん、分かったよっ!」
浮かれ過ぎて、本当に言葉通り瞬殺してしまうところだった僕は、リリスさんの言葉でちゃんと思い直す。確かに、不審者というだけで殺すわけにはいかない。
「それじゃあ、行ってくるねっ」
「えぇ。早く帰って来ないと、わたくしは一人で祭りを堪能しますからね」
「それは困るなぁ。僕も、リリスさんを堪能したいから、早く戻るよ」
そう言えば、リリスさんはポッと顔を赤くする。
(意識されてないわけじゃないんだよね)
アルムに対しては全くといって良いほど反応しなかったリリスさんが、僕に対してはこんなにも反応してくれる。
それを嬉しく思いながら、僕はさっさと不審者の元へ赴き、サクッと気絶をさせて、近くを警備していた顔見知りの同僚に引き渡しておくのだった。
テオドールはまだ二百歳の成人を過ぎたばかりの若者だ。まだ、片翼との接し方なんて分かっていない年頃であるため、こうして先輩として語ることは必要なことだった。
すっかり項垂れたテオドールを連れて喫茶店に戻れば、リリスさんはあんみつを食べ終えていたらしく、さっさと二人に別れを告げてお祭りの続きを楽しもうとしてくれる。
(幸せだなぁ)
りんご飴を手渡して、嬉しそうに笑うリリスさんを見つめながら、僕はその一時の幸せに浸る。このまま、時間が止まってしまえば良いのにと思うくらい、今の僕は幸せに包まれていた。
「リリスさん。そろそろパレードがあるんだけど、見に行ってみる?」
午後から行われる、ヴァイラン魔国魔王陛下ジークフリート様、ならびにこのヴァイラン魔国と隣国、リアン魔国の魔王妃であらせられるユーカ様、そして、リアン魔国の魔王陛下ハミルトン様が参加する盛大なパレード。生誕祭であるため、主役はジークフリート様ではあるものの、新たに魔王妃様となったユーカ様の姿を見たがる民衆は多い。
リリスさんに、そんな説明をすると、リリスさんは『ユーカ様……ニホンジン?』と呟いて、何かを考えたかと思えば、大きくうなずく。
「わたくしも興味がありますので、ぜひとも見てみたいですわ」
「そっか、それじゃあお勧めの場所があるから、そこに行こうっ」
「えぇ、よろしくお願いしますわ」
こうして、僕達は、パレードが良く見える小高い場所にある建物の前にやってきた。
「……ルティアス? 本当に、ここから見えるんですの?」
「うん、パレードの馬車はここを通るからね。全員の顔が良く見えるはずだよ」
「それにしては、人が少ないようですが……」
そう言いながら、リリスさんは背後の建物にチラリと視線を向ける。そこは、豪邸と言っても過言ではないほどに素晴らしい日本家屋が建っていた。
「あぁ、ここは、僕の家なんだ。さすがに、貴族の家の前に陣取るわけにはいかないから、皆ここには来ないんだよ」
「……ルティアスは、貴族でしたのね」
「あれ? 話してなかったっけ? 僕は、中級貴族の次男だよ」
色々と話していたから、てっきり、もう伝えたものだと思っていたのだが、どうやら、貴族というのは初耳だったらしい。
そんな話をしているうちに、パレードの馬車が徐々にこちらに近づいているようで、歓声が聞こえてくる。しかし……。
「ルティアス、あれ」
「ん? ……こんな日に、何だってあんな……」
「こんな日だからこそ、ではなくて?」
「あぁ、うん、そうだよね」
この屋敷の辺りは少し小高くなっているため、僕達は民衆の様子も観察でき……そして、怪しい人物の姿もしっかりと見つけることができた。
リリスさんとのデートの真っ最中だというのに、見つけてしまったからには仕事をしないわけにはいかない。リリスさんも、黒装束でコソコソと動き回るそいつを捕らえる気満々で、魔力をこっそりと練っている。
「リリスさん、ここは僕が行くよ」
「大丈夫ですわ。わたくしが強いことくらい、ルティアスは知っていますでしょう?」
敵から目を離すことなく告げるリリスさんに、僕はそれが事実だと分かっていても、言わずにはいられなかった。
「それでも、大切な女の子には、守られててほしいんだ」
もしかしたら、リリスさんは守られることを望んでいないかもしれない。しかし、どうあっても、僕はリリスさんを守りたかったし、安全な場所に居てほしかった。
「……」
「リリスさん?」
僕の言葉に気分を害したのか、うつむいてしまったリリスさん。僕は、言わなければ良かっただろうかと後悔を始めたものの、後の祭りだ。
「っ、わたくしだって、戦えますっ。けれど……そこまで言うのであれば、今回は譲りますわっ!」
いつの間にかうつむいていた僕は、そんなリリスさんの言葉にハッと顔を上げて、そして、どこか嬉しそうなリリスさんの様子に呆然とする。
「さぁっ、怪我でもしたら、ただではすませませんわよっ!」
正直じゃないリリスさんの言葉。自惚れでなければ、心配してくれているその言葉に、僕はムクムクと気力が沸き上がるのを感じる。
「うんっ、リリスさんのために、瞬殺してくるねっ!」
「っ、生け捕りにするのですわよっ!」
「あっ、うん、分かったよっ!」
浮かれ過ぎて、本当に言葉通り瞬殺してしまうところだった僕は、リリスさんの言葉でちゃんと思い直す。確かに、不審者というだけで殺すわけにはいかない。
「それじゃあ、行ってくるねっ」
「えぇ。早く帰って来ないと、わたくしは一人で祭りを堪能しますからね」
「それは困るなぁ。僕も、リリスさんを堪能したいから、早く戻るよ」
そう言えば、リリスさんはポッと顔を赤くする。
(意識されてないわけじゃないんだよね)
アルムに対しては全くといって良いほど反応しなかったリリスさんが、僕に対してはこんなにも反応してくれる。
それを嬉しく思いながら、僕はさっさと不審者の元へ赴き、サクッと気絶をさせて、近くを警備していた顔見知りの同僚に引き渡しておくのだった。
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