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第一章 解放
第九話 闇の神級魔法
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『闇の神級魔法』それは、大きな代償を必要とする、禁じられた魔法だ。その代償は様々で、命を失う者も居れば、植物状態になる者、視力を失う者、四肢を動かせなくなる者も居る。そもそも、それを発動させられるだけの人間は滅多に居ないが、歴史上、確認されているだけで十人ほどの人間がこれを使用したとされる。そして、そのうちの半分が、大き過ぎる代償を払い、まともな生活を送れなくなっていた。
(そんな魔法を、なぜ、わたくしなんかのためにっ)
あの時、確かに結界は間に合わなかったし、転移も無理だった。しかし、わたくしの着ている服は特別製で、恐らく、あの酸の攻撃を受けたとしても、軽い火傷をするだけですんでいたはずなのだ。
転移魔法で、ルティアスとともにログハウスへと戻ったわたくしは、風魔法で意識を失ったままのルティアスを浮かせ、急遽、今まで入れたことのなかった寝室へと運び込む。
「確か、この魔法は刻印が出るはずっ」
闇の神級魔法の代償は、すぐに払うわけではない。体のどこかに出現した刻印が、全身を巡った時に、その代償を要求されるのだ。
わたくしは、ルティアスをベッドに横たわらせると、すぐに彼の服に手をかける。
「刻印は……ありましたわ!」
刻印が出る魔法は他にも存在し、それと同時に、刻印の侵食を遅らせる特殊な魔法も存在する。わたくしは今、それをかけるために、ルティアスの上半身を裸にして、胸の中心に見つけたその刻印へと手を当てていた。
「《巡る時よ、その動きを静かなるものとし、緩やかな流れとせよ》」
歴史上、その存在は二人しか確認されていない、時魔法使い。わたくしは、三人目となる時魔法使いだった。いや、というよりも、わたくしは、昔から全属性の魔法が使えるため、もしかしたらもっと特殊なのかもしれない。
刻印に対して魔法を施したわたくしは、ひとまず、すぐにルティアスが代償を支払うことにはならないだろうと考えるものの、安心など、欠片もできなかった。
「どうして、こんなバカげたことを……」
庇ってもらったことなど、守ってもらったことなど、一度もない。この世界に生まれてから、わたくしは常に厄介者であり、嫌われ者だった。正体を隠して冒険をしている時でも、最初のうちは一人で行動し続けたし、ある程度の力がつけば、周りの人間は、その異常な強さからわたくしに守ってもらおうとすることこそあれど、守ろうとする者は居なかった。だから、庇われるのも、守られるのも、初めての経験だ。
「『闇の神級魔法は、愛の魔法』……」
自分のせいで、ルティアスが酷い代償を払わなければならないことに、強い後悔の念を抱いていると、ふと、闇の神級魔法に関する文言を思い出す。
それは、闇の神級魔法は、愛する者のためにしか使えず、愛し合う者との口づけで代償を払うことなく生きられるというものだ。
「そんな眉唾な知識、思い出しても仕方ありませんわね」
そもそも、ルティアスが誰を愛しているのかなど、わたくしは知らない。ルティアスは、わたくしのことを『愛しい人』と呼んでいたし、口説いてもきていたが、それが本気だとは思えない。
「SNSなどで恋愛をする方も、日本には居ましたが、それともまた違いますしね」
何せ、お互いのことを何も知らない状態で、顔さえ見せていないのに、『結婚してください』だったのだ。もう、わたくしの中でルティアスは不審者以外の何者でもない。
「……とにかく、様子見ですわね。刻印は……どのくらい遅らせられるのか見当もつきませんし」
今日のところは、ルティアスにはグッスリ休んでもらうことにする。起きたらもちろん、どういうつもりだったのかを聞き出して説教をするつもりではあるものの、今はそっとしておいた方が良いだろう。
「……王城に忍び込んで、闇の神級魔法についての書物を借りてこようかしら?」
軽い知識しかない今、どうやったらルティアスのこの刻印を消せるのか、調べる必要がある。戻るのは非常に不本意ではあるが、一度くらい、忍び込んだ方が良さそうだ。
「行くとすれば、明後日ですわね」
今日と明日は、例年通りならば建国祭で警備が厳重になっているはずだ。狙うならば、明後日の方が良い。
予定を決めたわたくしは、とりあえず食事を作るために、ルティアスをベッドに置いたまま、キッチンへと向かうのだった。
(そんな魔法を、なぜ、わたくしなんかのためにっ)
あの時、確かに結界は間に合わなかったし、転移も無理だった。しかし、わたくしの着ている服は特別製で、恐らく、あの酸の攻撃を受けたとしても、軽い火傷をするだけですんでいたはずなのだ。
転移魔法で、ルティアスとともにログハウスへと戻ったわたくしは、風魔法で意識を失ったままのルティアスを浮かせ、急遽、今まで入れたことのなかった寝室へと運び込む。
「確か、この魔法は刻印が出るはずっ」
闇の神級魔法の代償は、すぐに払うわけではない。体のどこかに出現した刻印が、全身を巡った時に、その代償を要求されるのだ。
わたくしは、ルティアスをベッドに横たわらせると、すぐに彼の服に手をかける。
「刻印は……ありましたわ!」
刻印が出る魔法は他にも存在し、それと同時に、刻印の侵食を遅らせる特殊な魔法も存在する。わたくしは今、それをかけるために、ルティアスの上半身を裸にして、胸の中心に見つけたその刻印へと手を当てていた。
「《巡る時よ、その動きを静かなるものとし、緩やかな流れとせよ》」
歴史上、その存在は二人しか確認されていない、時魔法使い。わたくしは、三人目となる時魔法使いだった。いや、というよりも、わたくしは、昔から全属性の魔法が使えるため、もしかしたらもっと特殊なのかもしれない。
刻印に対して魔法を施したわたくしは、ひとまず、すぐにルティアスが代償を支払うことにはならないだろうと考えるものの、安心など、欠片もできなかった。
「どうして、こんなバカげたことを……」
庇ってもらったことなど、守ってもらったことなど、一度もない。この世界に生まれてから、わたくしは常に厄介者であり、嫌われ者だった。正体を隠して冒険をしている時でも、最初のうちは一人で行動し続けたし、ある程度の力がつけば、周りの人間は、その異常な強さからわたくしに守ってもらおうとすることこそあれど、守ろうとする者は居なかった。だから、庇われるのも、守られるのも、初めての経験だ。
「『闇の神級魔法は、愛の魔法』……」
自分のせいで、ルティアスが酷い代償を払わなければならないことに、強い後悔の念を抱いていると、ふと、闇の神級魔法に関する文言を思い出す。
それは、闇の神級魔法は、愛する者のためにしか使えず、愛し合う者との口づけで代償を払うことなく生きられるというものだ。
「そんな眉唾な知識、思い出しても仕方ありませんわね」
そもそも、ルティアスが誰を愛しているのかなど、わたくしは知らない。ルティアスは、わたくしのことを『愛しい人』と呼んでいたし、口説いてもきていたが、それが本気だとは思えない。
「SNSなどで恋愛をする方も、日本には居ましたが、それともまた違いますしね」
何せ、お互いのことを何も知らない状態で、顔さえ見せていないのに、『結婚してください』だったのだ。もう、わたくしの中でルティアスは不審者以外の何者でもない。
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今日のところは、ルティアスにはグッスリ休んでもらうことにする。起きたらもちろん、どういうつもりだったのかを聞き出して説教をするつもりではあるものの、今はそっとしておいた方が良いだろう。
「……王城に忍び込んで、闇の神級魔法についての書物を借りてこようかしら?」
軽い知識しかない今、どうやったらルティアスのこの刻印を消せるのか、調べる必要がある。戻るのは非常に不本意ではあるが、一度くらい、忍び込んだ方が良さそうだ。
「行くとすれば、明後日ですわね」
今日と明日は、例年通りならば建国祭で警備が厳重になっているはずだ。狙うならば、明後日の方が良い。
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