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第一章 解放
第六話 初めて見た魔族
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窓から見えた何かが気になって、剣を片手に警戒しながら向かってみると、そこには、アクアマリンの髪に、黄金の瞳、白い巻き角を持った人懐っこい顔立ちの青年が居た。
(魔族が、なぜここに?)
わたくしが元々居た国、レイリン王国は、人間至上主義の国で、他の亜人は迫害の対象だったため、本物の魔族を見るのは初めてだ。
(いえ、そもそも、魔族の国はここからでもかなり遠いはず……一月以上、馬で駆けて、ようやく辿り着ける場所だったはずですわ)
魔族の国の実態は良く分からないものの、ここから北に進んだ場所にそれがあることくらいは知識としてある。
(魔力の感じからして、彼が転移してきたのは確か……ですが、彼自身の力で転移したわけではなさそうですわね)
そう分析しながらも、わたくしは、言葉が通じることを祈って声をかけてみる。
「何者ですか?」
言語としては、人間の国で共通語とされるアルフ語だ。これがダメなら、レイリン語でもギルシュ語でも試してみれば良い。わたくしには、それだけの知識がある。
なぜかこちらを見て目を輝かせているように見える彼に、わたくしは警戒を続けながらじっと観察する。すると、彼はゆっくりとではあったが、こちらに近づいてきた。
(敵意や害意は見られませんが……とりあえず様子見ですわね)
恐る恐る、わたくしの様子を確認しながら近づく彼に、害意があるようには見えなかったものの、何も言わずに近づいてくる様子は不気味だ。
(これ以上近づくようなら……少し、手を出すべきですかね?)
そう思ったギリギリのラインで、彼は動きを止める。そして、おもむろにひざまづくと……。
『僕と結婚してくださいっ!』
あまりにも懐かしい、そして、永遠に聞くことはないだろうと思っていた言語と、衝撃的な言葉が投げ掛けられ、わたくしは淑女にあるまじき、ポカンと口を開けるという醜態を晒してしまう。しかし、その間に、時間制限でもあったのか彼はどこかへ転移させられてしまった。
「日本語……でしたわよね?」
前世の世界の言葉。それを聞いて、わたくしは少しどころではなく混乱する。
「彼は、何者? もしかして、わたくしと同じように、前世の記憶があるのかしら? ……まさか、魔族の言葉が日本語だったりするのかしら?」
残念ながら、わたくしに魔族に関する知識などない。他の国であれば、少しくらい魔族に関することを学ぶ機会もあっただろうが、レイリン王国に限っては、『魔族は残虐な種族』としか習わない。いや、他の種族に関しても似たり寄ったりの指導だったため、逆にそれは嘘だろうとは思えたのだけれど……。
(あれが残虐、とは思えませんわね)
少なくとも、彼はわたくしに興味を持っているように見受けられた。それが、なぜプロポーズに繋がるのかは分からないけれど……。
「まぁ、もう来ることもないでしょう」
考えても分からないのならば、考えるだけ無駄というもの。わたくしは、早々に思考を放棄して、家に戻りつつ、少し前まで考えていたギルドへの連絡について思考を巡らせ始める。
この時は、まだ知らなかったのだ。魔族にとって、片翼という存在があることを。片翼のためなら、魔族はどんな犠牲も厭わないのだと。だから、彼が、すぐにでも会いに来るなんてことも、考えてもみなかった。
「国外追放なんて言葉を出せば、身バレしてしまいますわね。ここは穏便に、『しつこいギルド長に愛想を尽かせたので、旅に出ます』が良いでしょうか?」
そうすればきっと、ギルド長である王弟殿下は肩身の狭い思いをしてくれることだろう。
ちょっとした意趣返しにほくそ笑んでいると、ふいにまた、先程の男の魔力を感じた気がして、窓の外を見ると……。
「ぁぁぁぁっ!」
……何やら、デジャブを感じる悲鳴が響き渡り……。
『はっ、愛しい人! どこですかっ!』
やはり、日本語にしか聞こえない言葉で、先程の彼の声が聞こえ出す。
『……何の、ご用ですか?』
さすがに、無視はできない。魔族がどれだけ強い種族なのかは知らないが、この魔の森はかなりの危険区域だ。このまま放置して、彼が獣に食われるのは寝覚めが悪い。
剣を片手にもう一度外に出れば、彼はその黄金の瞳をキラキラと輝かせる。
『あぁっ、愛しい人! 今度はちゃんと片翼休暇を取ってきましたっ! どうか、僕と結婚してくださいっ!』
『お断りですわっ!』
ただ、とりあえず、このいきなりの求婚に関しては断るのが正解だろう。
例え、その言葉を聞いた瞬間、絶望に顔を歪め、膝から崩れ落ちたとしても、わたくしは間違っていないはずだ。
『ではっ、せめてお付き合いからっ』
『お断りですわっ!』
『お、お友達からっ』
『お断りですわっ!』
『ど、奴隷でも構いませんっ』
『もっとお断りですわっ!』
(一瞬でも、心を痛めたわたくしがバカでしたわ)
しつこく食い下がる彼を見て、わたくしは、彼への評価を改める。ただ……。
『で、では、せめて、この近くに住居を作る許可をくださいっ!』
あまりにも必死な彼に、わたくしは少し押し負けてしまう。
『……ここの土地は誰のものでもありませんわ。好きになさると良いでしょう』
『っ、ありがとうっ!』
その笑った顔に、一瞬ドキッと心臓が音を立てた気がしたのは、きっと錯覚だ。
(魔族が、なぜここに?)
わたくしが元々居た国、レイリン王国は、人間至上主義の国で、他の亜人は迫害の対象だったため、本物の魔族を見るのは初めてだ。
(いえ、そもそも、魔族の国はここからでもかなり遠いはず……一月以上、馬で駆けて、ようやく辿り着ける場所だったはずですわ)
魔族の国の実態は良く分からないものの、ここから北に進んだ場所にそれがあることくらいは知識としてある。
(魔力の感じからして、彼が転移してきたのは確か……ですが、彼自身の力で転移したわけではなさそうですわね)
そう分析しながらも、わたくしは、言葉が通じることを祈って声をかけてみる。
「何者ですか?」
言語としては、人間の国で共通語とされるアルフ語だ。これがダメなら、レイリン語でもギルシュ語でも試してみれば良い。わたくしには、それだけの知識がある。
なぜかこちらを見て目を輝かせているように見える彼に、わたくしは警戒を続けながらじっと観察する。すると、彼はゆっくりとではあったが、こちらに近づいてきた。
(敵意や害意は見られませんが……とりあえず様子見ですわね)
恐る恐る、わたくしの様子を確認しながら近づく彼に、害意があるようには見えなかったものの、何も言わずに近づいてくる様子は不気味だ。
(これ以上近づくようなら……少し、手を出すべきですかね?)
そう思ったギリギリのラインで、彼は動きを止める。そして、おもむろにひざまづくと……。
『僕と結婚してくださいっ!』
あまりにも懐かしい、そして、永遠に聞くことはないだろうと思っていた言語と、衝撃的な言葉が投げ掛けられ、わたくしは淑女にあるまじき、ポカンと口を開けるという醜態を晒してしまう。しかし、その間に、時間制限でもあったのか彼はどこかへ転移させられてしまった。
「日本語……でしたわよね?」
前世の世界の言葉。それを聞いて、わたくしは少しどころではなく混乱する。
「彼は、何者? もしかして、わたくしと同じように、前世の記憶があるのかしら? ……まさか、魔族の言葉が日本語だったりするのかしら?」
残念ながら、わたくしに魔族に関する知識などない。他の国であれば、少しくらい魔族に関することを学ぶ機会もあっただろうが、レイリン王国に限っては、『魔族は残虐な種族』としか習わない。いや、他の種族に関しても似たり寄ったりの指導だったため、逆にそれは嘘だろうとは思えたのだけれど……。
(あれが残虐、とは思えませんわね)
少なくとも、彼はわたくしに興味を持っているように見受けられた。それが、なぜプロポーズに繋がるのかは分からないけれど……。
「まぁ、もう来ることもないでしょう」
考えても分からないのならば、考えるだけ無駄というもの。わたくしは、早々に思考を放棄して、家に戻りつつ、少し前まで考えていたギルドへの連絡について思考を巡らせ始める。
この時は、まだ知らなかったのだ。魔族にとって、片翼という存在があることを。片翼のためなら、魔族はどんな犠牲も厭わないのだと。だから、彼が、すぐにでも会いに来るなんてことも、考えてもみなかった。
「国外追放なんて言葉を出せば、身バレしてしまいますわね。ここは穏便に、『しつこいギルド長に愛想を尽かせたので、旅に出ます』が良いでしょうか?」
そうすればきっと、ギルド長である王弟殿下は肩身の狭い思いをしてくれることだろう。
ちょっとした意趣返しにほくそ笑んでいると、ふいにまた、先程の男の魔力を感じた気がして、窓の外を見ると……。
「ぁぁぁぁっ!」
……何やら、デジャブを感じる悲鳴が響き渡り……。
『はっ、愛しい人! どこですかっ!』
やはり、日本語にしか聞こえない言葉で、先程の彼の声が聞こえ出す。
『……何の、ご用ですか?』
さすがに、無視はできない。魔族がどれだけ強い種族なのかは知らないが、この魔の森はかなりの危険区域だ。このまま放置して、彼が獣に食われるのは寝覚めが悪い。
剣を片手にもう一度外に出れば、彼はその黄金の瞳をキラキラと輝かせる。
『あぁっ、愛しい人! 今度はちゃんと片翼休暇を取ってきましたっ! どうか、僕と結婚してくださいっ!』
『お断りですわっ!』
ただ、とりあえず、このいきなりの求婚に関しては断るのが正解だろう。
例え、その言葉を聞いた瞬間、絶望に顔を歪め、膝から崩れ落ちたとしても、わたくしは間違っていないはずだ。
『ではっ、せめてお付き合いからっ』
『お断りですわっ!』
『お、お友達からっ』
『お断りですわっ!』
『ど、奴隷でも構いませんっ』
『もっとお断りですわっ!』
(一瞬でも、心を痛めたわたくしがバカでしたわ)
しつこく食い下がる彼を見て、わたくしは、彼への評価を改める。ただ……。
『で、では、せめて、この近くに住居を作る許可をくださいっ!』
あまりにも必死な彼に、わたくしは少し押し負けてしまう。
『……ここの土地は誰のものでもありませんわ。好きになさると良いでしょう』
『っ、ありがとうっ!』
その笑った顔に、一瞬ドキッと心臓が音を立てた気がしたのは、きっと錯覚だ。
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