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第三章 セイクリア教国の歪み
第百八十一話 入らずの祠(三)
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地下へ続く階段は、思いの外、長かった。しかし、特別に罠があるわけでもなく、俺は炎を片手に出現させ、辺りを照らしながら降りていく。
「にゃあっ(ブチ、しっかりするのだっ)」
「……ふにゃあ(……ううん)」
階段を下りて少しすると、タロとブチの姿が見えた。ブチはどうやら気絶してしまったようだったが、大きな怪我は見えない。そのことに安心して、俺はしゃがみこむ。
「タロ、一応、ブチの治療を頼めるか?」
「にゃっ(もちろんなのだっ)」
俺自身は治療関係の魔法は使えない。ラーミアならば使えるのだが、適正がない俺では不可能であるため、どこまで適正があるのか分からないタロに頼む。
「ふにゃ? (うう?)」
治療を終えると、ブチはようやく目を覚ます。タロを見て、俺を見て、周りを見渡すブチ。そして……。
「ふにゃ……(寿命が縮まったぞ……)」
猫の顔色は分からないが、何となくブチは真っ青になった気がする。
「にゃにゃあ(こんなことで寿命が縮まるならば、我輩、たくさん縮まっているのだ)」
ただ、どこか遠い目をしてそう告げたタロを見たブチは、途端に可哀想なものを見る目になる。
「ふにゃー(若いのに大変だったんだな)」
……いや、タロの場合、ほとんど自業自得じゃないだろうか?
そう思うものの、別にそれを伝えてやる必要はない。
「ブチ、体は大丈夫なのか?」
「ふにゃあ(大丈夫だ)」
「にゃっ(それは良かったのだっ)」
「そうか、なら、このまま進むぞ」
心配事が一つ消えたところで、俺は立ち上がって歩き出す。タロとブチには、前に出ないように告げて、暗闇の中を歩き続ける。
「にゃ(何か、臭うのだ)」
「ふにゃ(あぁ、嫌な臭いだ)」
進むにつれて、タロとブチはそんな感想を漏らす。俺自身、最初はそんな臭いが分からなかったものの次第に微かな腐敗臭が漂ってきていることに気づく。
「これは……」
「にゃ(たくさんの死があった場所なのだ)」
腐敗臭の正体は、階段を下りきった場所に辿り着くとすぐに判明した。大小様々な動物や人間の死骸が山積みになったその場所。白骨化しているものもあるが、そのほとんどがまだ異臭を放っている。
「ふにゃっ(うげっ)」
「にゃあ(ここは、異常な場所と同じなのだ)」
タロの『異常な場所』という言葉に、俺は前に居たサナフでの調査結果を思い出す。
「動物の死骸に、魔法陣、か……」
そうして、炎で地面を照らすと、確かに、その魔法陣はあった。
「にゃーにゃ? (ラーミアはこんなところに来たのだろうか?)」
魔法陣を確かめていた俺は、タロのその何気ない言葉にドキリとする。
これは、明らかに生け贄の儀式だ。そんな場所に、ラーミアが来ていた?
魔法陣の解析は、どうにかできそうだったが、ラーミアがここに来た可能性を考えると心臓を鷲掴みにされたような恐怖が襲いかかってくる。もし、ラーミアが生け贄にされていたら、と。
「ふにゃ(鼻が曲がりそうだ)」
「にゃー(我輩もなのだ)」
そう呑気に会話している二匹には悪いが、どうにも確認しないと治まりそうにない。ラーミアがここに居るのかどうかを。
「魔力を辿るのは、苦手なんだがな」
もし、ラーミアがここで死んでしまっているのならば、残存した魔力を辿れるかもしれない。辿れないならば、それはラーミアが死んで時間が経ち過ぎたか、ラーミアがここには居ないということだ。ただ、前者に関しては考えにくい。一月や二月程度で魔力の痕跡がなくなることはないので、何者かに意図的に消されでもしていない限りは、辿れないのはラーミアがここに居ないからということになるはずだ。
腐敗臭が漂う中、俺は落ち着くために息を整えると、ラーミアの魔力がないか、集中して探してみる。すると……。
「ない、な」
ひとまず、ラーミアの魔力は感じられない。まだ完全に安心できないとはいえ、その情報は心を落ち着かせるのに充分なものだった。
「にゃ? にゃあ?(何をしているのだ? バルディス?)」
「あぁ、いや、少し探っただけだ。……そうだな、ここにはラーミアも居ないようだし、戻ろうか」
「ふにゃっ(賛成だっ)」
「にゃあっ(了解なのだっ)」
ラーミアの痕跡は見当たらなかった。せっかくの情報だったのに、また最初からのやり直しだ。それは、精神的に負担の大きなものではあったが、ラーミアがこんなところで死んでいないというだけで収穫はあったような気がする。それに……。
あれは、神の類いを召喚する魔法陣、だよな。
不吉な予感を感じながらも、俺達はその場を後にするのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ラーミア捜しが中々進まないですなぁ。
いや、すぐに見つからないようにはしたんですけどね。
ひとまず、死んではいなさそうだということで、一安心?
それでは、また!
「にゃあっ(ブチ、しっかりするのだっ)」
「……ふにゃあ(……ううん)」
階段を下りて少しすると、タロとブチの姿が見えた。ブチはどうやら気絶してしまったようだったが、大きな怪我は見えない。そのことに安心して、俺はしゃがみこむ。
「タロ、一応、ブチの治療を頼めるか?」
「にゃっ(もちろんなのだっ)」
俺自身は治療関係の魔法は使えない。ラーミアならば使えるのだが、適正がない俺では不可能であるため、どこまで適正があるのか分からないタロに頼む。
「ふにゃ? (うう?)」
治療を終えると、ブチはようやく目を覚ます。タロを見て、俺を見て、周りを見渡すブチ。そして……。
「ふにゃ……(寿命が縮まったぞ……)」
猫の顔色は分からないが、何となくブチは真っ青になった気がする。
「にゃにゃあ(こんなことで寿命が縮まるならば、我輩、たくさん縮まっているのだ)」
ただ、どこか遠い目をしてそう告げたタロを見たブチは、途端に可哀想なものを見る目になる。
「ふにゃー(若いのに大変だったんだな)」
……いや、タロの場合、ほとんど自業自得じゃないだろうか?
そう思うものの、別にそれを伝えてやる必要はない。
「ブチ、体は大丈夫なのか?」
「ふにゃあ(大丈夫だ)」
「にゃっ(それは良かったのだっ)」
「そうか、なら、このまま進むぞ」
心配事が一つ消えたところで、俺は立ち上がって歩き出す。タロとブチには、前に出ないように告げて、暗闇の中を歩き続ける。
「にゃ(何か、臭うのだ)」
「ふにゃ(あぁ、嫌な臭いだ)」
進むにつれて、タロとブチはそんな感想を漏らす。俺自身、最初はそんな臭いが分からなかったものの次第に微かな腐敗臭が漂ってきていることに気づく。
「これは……」
「にゃ(たくさんの死があった場所なのだ)」
腐敗臭の正体は、階段を下りきった場所に辿り着くとすぐに判明した。大小様々な動物や人間の死骸が山積みになったその場所。白骨化しているものもあるが、そのほとんどがまだ異臭を放っている。
「ふにゃっ(うげっ)」
「にゃあ(ここは、異常な場所と同じなのだ)」
タロの『異常な場所』という言葉に、俺は前に居たサナフでの調査結果を思い出す。
「動物の死骸に、魔法陣、か……」
そうして、炎で地面を照らすと、確かに、その魔法陣はあった。
「にゃーにゃ? (ラーミアはこんなところに来たのだろうか?)」
魔法陣を確かめていた俺は、タロのその何気ない言葉にドキリとする。
これは、明らかに生け贄の儀式だ。そんな場所に、ラーミアが来ていた?
魔法陣の解析は、どうにかできそうだったが、ラーミアがここに来た可能性を考えると心臓を鷲掴みにされたような恐怖が襲いかかってくる。もし、ラーミアが生け贄にされていたら、と。
「ふにゃ(鼻が曲がりそうだ)」
「にゃー(我輩もなのだ)」
そう呑気に会話している二匹には悪いが、どうにも確認しないと治まりそうにない。ラーミアがここに居るのかどうかを。
「魔力を辿るのは、苦手なんだがな」
もし、ラーミアがここで死んでしまっているのならば、残存した魔力を辿れるかもしれない。辿れないならば、それはラーミアが死んで時間が経ち過ぎたか、ラーミアがここには居ないということだ。ただ、前者に関しては考えにくい。一月や二月程度で魔力の痕跡がなくなることはないので、何者かに意図的に消されでもしていない限りは、辿れないのはラーミアがここに居ないからということになるはずだ。
腐敗臭が漂う中、俺は落ち着くために息を整えると、ラーミアの魔力がないか、集中して探してみる。すると……。
「ない、な」
ひとまず、ラーミアの魔力は感じられない。まだ完全に安心できないとはいえ、その情報は心を落ち着かせるのに充分なものだった。
「にゃ? にゃあ?(何をしているのだ? バルディス?)」
「あぁ、いや、少し探っただけだ。……そうだな、ここにはラーミアも居ないようだし、戻ろうか」
「ふにゃっ(賛成だっ)」
「にゃあっ(了解なのだっ)」
ラーミアの痕跡は見当たらなかった。せっかくの情報だったのに、また最初からのやり直しだ。それは、精神的に負担の大きなものではあったが、ラーミアがこんなところで死んでいないというだけで収穫はあったような気がする。それに……。
あれは、神の類いを召喚する魔法陣、だよな。
不吉な予感を感じながらも、俺達はその場を後にするのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ラーミア捜しが中々進まないですなぁ。
いや、すぐに見つからないようにはしたんですけどね。
ひとまず、死んではいなさそうだということで、一安心?
それでは、また!
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