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第二章 反撃のサナフ教国
第百四十七話 異常な場所(五)
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我輩がツーの案内に従って歩き出すと、その直後にバルディスからの念話が入る。
《タロ。ディアムからの伝言だ。待機はせずに着いていくだそうだ。それと、後でミッチリ説教だからな》
《にゃ……にゃあ? (ディアムからの伝言は分かったのだが……説教?)》
《帰ってからしっかり教えてやる》
《にゃ(う、うむ)》
我輩、別におかしなことをした覚えはないのだ。……いや、もしや、あのジャンプのことであろうか? いやいや、しかし、あれは不可抗力というやつなのだっ。
そう考えながら、ディアムが着いてきているという言葉を思い出した我輩は、ふと、立ち止まって後ろを振り向く。しかし、ディアムは隠れているのか、その姿は見えなかった。
と、とりあえず、ちゃんと情報収集はするのだっ!
説教は怖いが、今は目的を果たすことが優先だ。我輩、大人しくツーに着いて行くのだった。
「にゃ(あそこさ)」
「にゃっ(おぉっ、ありがとうなのだっ)」
ツーに示された場所を屋上から覗いてみると、そこは確かに、異常なまでの死臭に満ちていた。本能が警戒し、無意識のうちに毛を逆立てそうになる。
「にゃあ(これは、いつからなのだ?)」
「にゃにゃあ(詳しくは分かんねが、あの騎士とかいう人間が来る前からだったと思う)」
「にゃあ……にゃ? (騎士が来る前……まだサナフ教国である段階でということか?)」
「にゃ? にゃー(さぁ? ただ、あそこには仲間も連れ去られたことがあるのは知ってる)」
「……にゃ。にゃあ(……分かったのだ。ありがとうなのだ)」
「にゃあ(いいってことよ)」
そうして、我輩、ツーと別れる。ここから先は、我輩とディアムの仕事になる。ディアムは勝手に着いてきてくれるだろうから、今は我輩が案内するべきなのだ。ただ……。
た、高いのだ……。
つい先程、恐怖体験をしたばかりの我輩にとって、その高さはあまりにも恐ろしかった。たとえ怪我をすることはないと分かっていても、ここから飛び降りる勇気は中々出ない。
いやいや、しかし、ツーに聞いた、同胞があの場所に連れ去られたという情報は大きい。ツーは最後までは言わなかったものの、きっとその同胞が帰ってくることはなかったのだろう。だから、我輩、ここで立ち止まっているわけにはいかないのだ。
「ふー(大丈夫、大丈夫なのだ)」
深呼吸をして、我輩、心を落ち着かせる。と、そこで、我輩、名案を思い付いた。それは、飛び降りても怖くないと思える、魔法を用いた方法だ。
この方法なら……いけるのだ。絶対、絶対、いけるのだっ。大丈夫。きっと、きっと、大丈夫なのだっ!
そうと決まれば話は早い。我輩、心の準備を整えると、じりじりと屋上の縁で足踏みし躊躇った後、一気に飛び出す。
「にゃっ(『軽量化』なのだっ)」
すかさず使った魔法は、落とし穴回避のためにも用いた『軽量化』の魔法。具体的には『重力操作』という魔法らしいのだが、『軽量化』の方が分かりやすいのでそう呼んでいる。
綿毛のように軽くなれば、きっとゆっくりゆっくり落ちていくことになって、怖い思いなどせずにすむ。そう思って発動した魔法だったが、どうやらその思惑は成功したようだった。我輩、ゆっくりゆっくり、下に落ちていた。
「タロッ!」
「にゃ! (おぉ、ディアム!)」
焦ったように我輩を屋上から見下ろすディアムに、我輩は心配いらないという意味も込めて返事をする。そして、我輩の無事な姿に、ディアムは確かに安堵したような表情を浮かべた。そして……。
一陣の風が吹く。
「にゃ? ふにゃあぁぁぁぁぁあっ!!!(うむ? ひゃあぁぁぁぁぁあっ!!!)」
我輩、なぜか上空に巻き上げられ、混乱のあまり叫ぶ。
「っ、タロッ!」
そして、焦ったディアムの声が聞こえたかと思えば、我輩、ディアムの腕に抱かれ……今度は落下を始めていた。
「ふにゃっ、ふにゃあっ、ふにゃあぁあっ(ひぃっ、こわっ、怖いのだぁあっ)」
途中、何度もどこかに着地するような感覚はあったものの、我輩に見えるのはディアムの胸板のみ。何がどうなっているかも分からず、何度も落下しているような恐怖を味わう。
「ふにゃあぁぁぁぁぁあっ!! (ひゃあぁぁぁぁぁあっ!!)」
そうして、我輩、地面に下ろされる頃には、すっかり毛を逆立て、耳を横にして怯えきってしまったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
高いところが苦手なのに、猫って高いところに良く上がりますよね。
タロの場合のそれは、やや無鉄砲な部分もありますが、基本は普通の猫と同じ……はず?
降りるのが怖くて必死になるところなんて、可愛くて仕方ありません。
いやぁ、タロに悲鳴を上げさせるのが楽し……ゲフンゲフン、不憫ですが、こればっかりはタロの考えなしな部分が招いたことなので仕方ないですよねっ。
ちゃんと考えれば、綿毛は風に吹かれて飛んでいくものだと気づけたでしょうに、ね?
それでは、また!
《タロ。ディアムからの伝言だ。待機はせずに着いていくだそうだ。それと、後でミッチリ説教だからな》
《にゃ……にゃあ? (ディアムからの伝言は分かったのだが……説教?)》
《帰ってからしっかり教えてやる》
《にゃ(う、うむ)》
我輩、別におかしなことをした覚えはないのだ。……いや、もしや、あのジャンプのことであろうか? いやいや、しかし、あれは不可抗力というやつなのだっ。
そう考えながら、ディアムが着いてきているという言葉を思い出した我輩は、ふと、立ち止まって後ろを振り向く。しかし、ディアムは隠れているのか、その姿は見えなかった。
と、とりあえず、ちゃんと情報収集はするのだっ!
説教は怖いが、今は目的を果たすことが優先だ。我輩、大人しくツーに着いて行くのだった。
「にゃ(あそこさ)」
「にゃっ(おぉっ、ありがとうなのだっ)」
ツーに示された場所を屋上から覗いてみると、そこは確かに、異常なまでの死臭に満ちていた。本能が警戒し、無意識のうちに毛を逆立てそうになる。
「にゃあ(これは、いつからなのだ?)」
「にゃにゃあ(詳しくは分かんねが、あの騎士とかいう人間が来る前からだったと思う)」
「にゃあ……にゃ? (騎士が来る前……まだサナフ教国である段階でということか?)」
「にゃ? にゃー(さぁ? ただ、あそこには仲間も連れ去られたことがあるのは知ってる)」
「……にゃ。にゃあ(……分かったのだ。ありがとうなのだ)」
「にゃあ(いいってことよ)」
そうして、我輩、ツーと別れる。ここから先は、我輩とディアムの仕事になる。ディアムは勝手に着いてきてくれるだろうから、今は我輩が案内するべきなのだ。ただ……。
た、高いのだ……。
つい先程、恐怖体験をしたばかりの我輩にとって、その高さはあまりにも恐ろしかった。たとえ怪我をすることはないと分かっていても、ここから飛び降りる勇気は中々出ない。
いやいや、しかし、ツーに聞いた、同胞があの場所に連れ去られたという情報は大きい。ツーは最後までは言わなかったものの、きっとその同胞が帰ってくることはなかったのだろう。だから、我輩、ここで立ち止まっているわけにはいかないのだ。
「ふー(大丈夫、大丈夫なのだ)」
深呼吸をして、我輩、心を落ち着かせる。と、そこで、我輩、名案を思い付いた。それは、飛び降りても怖くないと思える、魔法を用いた方法だ。
この方法なら……いけるのだ。絶対、絶対、いけるのだっ。大丈夫。きっと、きっと、大丈夫なのだっ!
そうと決まれば話は早い。我輩、心の準備を整えると、じりじりと屋上の縁で足踏みし躊躇った後、一気に飛び出す。
「にゃっ(『軽量化』なのだっ)」
すかさず使った魔法は、落とし穴回避のためにも用いた『軽量化』の魔法。具体的には『重力操作』という魔法らしいのだが、『軽量化』の方が分かりやすいのでそう呼んでいる。
綿毛のように軽くなれば、きっとゆっくりゆっくり落ちていくことになって、怖い思いなどせずにすむ。そう思って発動した魔法だったが、どうやらその思惑は成功したようだった。我輩、ゆっくりゆっくり、下に落ちていた。
「タロッ!」
「にゃ! (おぉ、ディアム!)」
焦ったように我輩を屋上から見下ろすディアムに、我輩は心配いらないという意味も込めて返事をする。そして、我輩の無事な姿に、ディアムは確かに安堵したような表情を浮かべた。そして……。
一陣の風が吹く。
「にゃ? ふにゃあぁぁぁぁぁあっ!!!(うむ? ひゃあぁぁぁぁぁあっ!!!)」
我輩、なぜか上空に巻き上げられ、混乱のあまり叫ぶ。
「っ、タロッ!」
そして、焦ったディアムの声が聞こえたかと思えば、我輩、ディアムの腕に抱かれ……今度は落下を始めていた。
「ふにゃっ、ふにゃあっ、ふにゃあぁあっ(ひぃっ、こわっ、怖いのだぁあっ)」
途中、何度もどこかに着地するような感覚はあったものの、我輩に見えるのはディアムの胸板のみ。何がどうなっているかも分からず、何度も落下しているような恐怖を味わう。
「ふにゃあぁぁぁぁぁあっ!! (ひゃあぁぁぁぁぁあっ!!)」
そうして、我輩、地面に下ろされる頃には、すっかり毛を逆立て、耳を横にして怯えきってしまったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
高いところが苦手なのに、猫って高いところに良く上がりますよね。
タロの場合のそれは、やや無鉄砲な部分もありますが、基本は普通の猫と同じ……はず?
降りるのが怖くて必死になるところなんて、可愛くて仕方ありません。
いやぁ、タロに悲鳴を上げさせるのが楽し……ゲフンゲフン、不憫ですが、こればっかりはタロの考えなしな部分が招いたことなので仕方ないですよねっ。
ちゃんと考えれば、綿毛は風に吹かれて飛んでいくものだと気づけたでしょうに、ね?
それでは、また!
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