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第二章 反撃のサナフ教国
第百四十話 ロッダの嘆き
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マリーという女性の死は、ハーグがロッダを殺そうと画策し、失敗したことによって起こった事態だった。ロッダを殺すために噂を流したのは、ハーグだった。それをロッダに伝えれば、ロッダは怒りの声を上げながらも悲しみに満ちた目をした。
約一年前、ミルテナ帝国にサナフ教国が滅ぼされ、民達は今以上にミルテナの騎士達に怯え、ひっそりと暮らしている中、一つの噂が立った。『フィズの家は、帝国に歯向かおうとしている』と。まだ、皆が皆、怯えきって、反抗の意思などない時期のことだ。
その噂は、たちまち広がり、マリー自身の耳にも、そして、ミルテナ帝国の騎士の耳にも入ってしまう。
当時は、反抗した者には死をという風潮が強く、マリーはすぐさま捕らえられた。アークという名であったロッダをリリナに託し、リリナの子供と偽って、マリーはその場で殺された。アークの……ロッダの目の前で、だ。
しかし、その事件があったからこそ、ノルディやジルク達は、そこに居た幼い子供が、忌み子として死んだはずの教皇の息子だと知る。その事件があったからこそ、ロッダは名を隠し、日陰でレジスタンスの旗頭として生きることを余儀なくされる。
「殺してやる。マリー姉を殺した奴は、全員、殺してやるっ」
憎しみ、怒り、悲しみでごちゃ混ぜになったロッダは、ハーグを殺しに行こうといきり立つ。
「まぁ、待て。確かにハーグからは、もうあらかた情報を搾り取ったとはいえ、元サナフの隊長であることに間違いはないんだ。ロッダ自身にハーグを殺させるわけにはいかない」
「止めるのなら、お前も殺すっ」
未熟な殺気を飛ばしてくるロッダに、俺は、本当はここにリリナが居てくれた方が良かったんだろうなと思いながら、そのまま説得を試みようとして……面倒になった。
「ほう? なら、殺してみろ。虫も殺せないお坊ちゃんが」
「なっ、バルディス殿っ!?」
ノルディが驚いたように俺を見てくるが、知ったこっちゃない。幼い子供のお守りなんて、こちらはしたくもないのだ。この場は、俺の好きにやらせてもらう。
「うあぁぁぁあっ!!」
護身用なのか、懐から出した小刀を握り締め、ロッダは俺の挑発に乗ってきてくれた。ただ、そんな隙だらけの攻撃に当たってやる義理などない。
「ふんっ」
「わっ」
俺を刺そうとしたロッダを避け、俺は簡単に小刀を奪い取ってしまう。そして……。
「っ!?」
「どうした? 殺そうとした相手に殺される覚悟はできてなかったのか?」
小刀を、ロッダの首筋に突きつける。それを見て、ノルディやジルクが動こうとしたが、そこは、うちの優秀な隠密部隊隊長が止めてくれる。影で声も出せないようにグルグル巻きにされたものが二つ、直立不動の体勢を取ることとなった。
「ぼ、くは……」
「良いか? 殺すってのは、覚悟がいることなんだ。何の覚悟もなしに殺せば、後から手痛いしっぺ返しをくらう。お前の場合、このサナフを救うことができなくなる。お前の愛した人間が危険にさらされる」
ロッダはきっと、復讐を果たしてしまえば道を見失ってしまう。そうすれば、サナフを救うことなどできないだろうし、その影響でレジスタンスも壊滅に追いやられるかもしれない。特に、ロッダを守ろうとするリリナは、最も影響を受けるだろう。
全てはただの推測。しかし、そう外れてもいないだろうと思える推測。
「なっ!?」
「お前は、本当に、全てを捨ててでも復讐したいのか?」
俺には、ロッダがそこまで復讐に囚われているようには見えない。そう思って問いかければ、ロッダは大粒の涙をポロポロとこぼしはじめる。
「……僕は、マリー姉を殺した奴らが憎い」
「あぁ」
「……でも、今の僕は、リリナが大切だ」
「そうだな。なら、もう進むべき方向は分かるな?」
「あぁ」
ロッダは、幼いわりには頭が良い。きっと、俺が言った言葉の意味を十全に理解できているはずだ。
「……ごめん。それと……ありがと」
「どういたしまして。ディアム、もう良いぞ」
恥ずかしそうにお礼を言ったロッダに返事をすると、俺はディアムに二人の拘束を解くよう告げる。しかし……。
「ロッダ様ぁぁあっ」
「あっ、やっぱり、ノルディはそのままで」
「なっ、バルディむぐぅうっ」
ノルディの声にビクついたロッダを見て、俺は指示を変えるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回、タロが、タロが、出なかったぁぁあっ!
いや、居るんですよ?
近くには居るんですけどね?
雰囲気的に出しづらかったと申しましょうか……。
うーん、タロが主人公なのに、この『サナフ教国の反撃』では結構他の人間が主体になってる気がします。
そういうプロットを組んだのは私なんですけどね。
タロの出番を増やして、中心に置けるよう、頑張ってみます。
それでは、また!
約一年前、ミルテナ帝国にサナフ教国が滅ぼされ、民達は今以上にミルテナの騎士達に怯え、ひっそりと暮らしている中、一つの噂が立った。『フィズの家は、帝国に歯向かおうとしている』と。まだ、皆が皆、怯えきって、反抗の意思などない時期のことだ。
その噂は、たちまち広がり、マリー自身の耳にも、そして、ミルテナ帝国の騎士の耳にも入ってしまう。
当時は、反抗した者には死をという風潮が強く、マリーはすぐさま捕らえられた。アークという名であったロッダをリリナに託し、リリナの子供と偽って、マリーはその場で殺された。アークの……ロッダの目の前で、だ。
しかし、その事件があったからこそ、ノルディやジルク達は、そこに居た幼い子供が、忌み子として死んだはずの教皇の息子だと知る。その事件があったからこそ、ロッダは名を隠し、日陰でレジスタンスの旗頭として生きることを余儀なくされる。
「殺してやる。マリー姉を殺した奴は、全員、殺してやるっ」
憎しみ、怒り、悲しみでごちゃ混ぜになったロッダは、ハーグを殺しに行こうといきり立つ。
「まぁ、待て。確かにハーグからは、もうあらかた情報を搾り取ったとはいえ、元サナフの隊長であることに間違いはないんだ。ロッダ自身にハーグを殺させるわけにはいかない」
「止めるのなら、お前も殺すっ」
未熟な殺気を飛ばしてくるロッダに、俺は、本当はここにリリナが居てくれた方が良かったんだろうなと思いながら、そのまま説得を試みようとして……面倒になった。
「ほう? なら、殺してみろ。虫も殺せないお坊ちゃんが」
「なっ、バルディス殿っ!?」
ノルディが驚いたように俺を見てくるが、知ったこっちゃない。幼い子供のお守りなんて、こちらはしたくもないのだ。この場は、俺の好きにやらせてもらう。
「うあぁぁぁあっ!!」
護身用なのか、懐から出した小刀を握り締め、ロッダは俺の挑発に乗ってきてくれた。ただ、そんな隙だらけの攻撃に当たってやる義理などない。
「ふんっ」
「わっ」
俺を刺そうとしたロッダを避け、俺は簡単に小刀を奪い取ってしまう。そして……。
「っ!?」
「どうした? 殺そうとした相手に殺される覚悟はできてなかったのか?」
小刀を、ロッダの首筋に突きつける。それを見て、ノルディやジルクが動こうとしたが、そこは、うちの優秀な隠密部隊隊長が止めてくれる。影で声も出せないようにグルグル巻きにされたものが二つ、直立不動の体勢を取ることとなった。
「ぼ、くは……」
「良いか? 殺すってのは、覚悟がいることなんだ。何の覚悟もなしに殺せば、後から手痛いしっぺ返しをくらう。お前の場合、このサナフを救うことができなくなる。お前の愛した人間が危険にさらされる」
ロッダはきっと、復讐を果たしてしまえば道を見失ってしまう。そうすれば、サナフを救うことなどできないだろうし、その影響でレジスタンスも壊滅に追いやられるかもしれない。特に、ロッダを守ろうとするリリナは、最も影響を受けるだろう。
全てはただの推測。しかし、そう外れてもいないだろうと思える推測。
「なっ!?」
「お前は、本当に、全てを捨ててでも復讐したいのか?」
俺には、ロッダがそこまで復讐に囚われているようには見えない。そう思って問いかければ、ロッダは大粒の涙をポロポロとこぼしはじめる。
「……僕は、マリー姉を殺した奴らが憎い」
「あぁ」
「……でも、今の僕は、リリナが大切だ」
「そうだな。なら、もう進むべき方向は分かるな?」
「あぁ」
ロッダは、幼いわりには頭が良い。きっと、俺が言った言葉の意味を十全に理解できているはずだ。
「……ごめん。それと……ありがと」
「どういたしまして。ディアム、もう良いぞ」
恥ずかしそうにお礼を言ったロッダに返事をすると、俺はディアムに二人の拘束を解くよう告げる。しかし……。
「ロッダ様ぁぁあっ」
「あっ、やっぱり、ノルディはそのままで」
「なっ、バルディむぐぅうっ」
ノルディの声にビクついたロッダを見て、俺は指示を変えるのだった。
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今回、タロが、タロが、出なかったぁぁあっ!
いや、居るんですよ?
近くには居るんですけどね?
雰囲気的に出しづらかったと申しましょうか……。
うーん、タロが主人公なのに、この『サナフ教国の反撃』では結構他の人間が主体になってる気がします。
そういうプロットを組んだのは私なんですけどね。
タロの出番を増やして、中心に置けるよう、頑張ってみます。
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