74 / 574
第二章 反撃のサナフ教国
第七十三話 嫌いな心
しおりを挟む
嫌いだ。嫌いだ。何もかも、大嫌いだ。
暗い集会場と化したバーの地下で、僕は心の中で罵倒する。
無力な奴等が嫌いだ。無能な奴等が嫌いだ。僕自身が、一番大嫌いだ。
地下には十数人の男が集まり、暗がりの中、小声で何事かを囁きあっている。大方、その大半はミルテナ帝国への罵詈雑言だろう。そんなことをしても何も変わらないのに、ここの連中は学ぼうともしない。
「ロッダ様。今日も、信者が十人、殺されたそうです」
「そうか」
聞いてもいないのに教えてくる長身の男は、僕の答えが気に入らないのか、口をへの字にしている。だが、僕だって気に入らない。僕は、こんな場所に居たくなんてない。信仰だって、持ち合わせちゃいない。
「少し、外に出てくる」
「はっ、では私もお供を「いらん。一人で充分だ」……ははっ」
真夜中の元サナフ教国で、外を歩く者なんてほとんど居ない。居るとすれば、巡回やら取り締まりやらと言って元サナフ教国の民を殺すミルテナの騎士くらいのものだろう。それにしたって、僕は巡回経路をある程度把握しているから問題はない。
そうして、僕は鬱屈とした地下から出て、夜のサナフを堪能する。誰も居ない場所でこうして一人、散歩をするのは、僕の一番心安らぐ時間だった。
本当なら、今年、十歳になったばかりの僕は、家族が居て、友達が居て、難しいことなど考えることなく遊んでいてもおかしくない年頃だ。
それが、何の因果か、クーデターのための旗頭として祭り上げられ、頼れる家族も、友もなく、ただひたすらに象徴として大人しくしていることを求められていた。名前だって、気に入らない。僕の名前はアークだ。アーク・フィズだ。それなのに、今、名乗ることを許されているのは、ロッダ・サナフという名。サナフ教国教皇の息子としての名。
あぁ、嫌だ。嫌だ。
信者が亡くなるのは、悲しいことだとは思う。しかし、それを何とかすることを求められても困る。そんな力、僕にはない。
ミルテナの騎士に見つからないようにしながら歩いていると、ふと、何かの視線を感じて立ち止まる。
まさか、見つかった?
嫌な想像に、反射的に身を堅くした僕だったが、すぐに、それは間違いだったと気づく。
「にゃー?」
そこには、ただ紳士服を着た、変わった白猫が居るだけだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
更新がちょっと遅くなりましたが、今日の更新です。
いやぁ、ちょっとお菓子作りをしてみようと思ってやってみたら火傷しちゃいまして……。
指がヒリヒリと痛いので、少し更新を遅らせようってことになりました。
今はだいぶん痛みは引きましたから大丈夫ですけどね!
それでは、また!
暗い集会場と化したバーの地下で、僕は心の中で罵倒する。
無力な奴等が嫌いだ。無能な奴等が嫌いだ。僕自身が、一番大嫌いだ。
地下には十数人の男が集まり、暗がりの中、小声で何事かを囁きあっている。大方、その大半はミルテナ帝国への罵詈雑言だろう。そんなことをしても何も変わらないのに、ここの連中は学ぼうともしない。
「ロッダ様。今日も、信者が十人、殺されたそうです」
「そうか」
聞いてもいないのに教えてくる長身の男は、僕の答えが気に入らないのか、口をへの字にしている。だが、僕だって気に入らない。僕は、こんな場所に居たくなんてない。信仰だって、持ち合わせちゃいない。
「少し、外に出てくる」
「はっ、では私もお供を「いらん。一人で充分だ」……ははっ」
真夜中の元サナフ教国で、外を歩く者なんてほとんど居ない。居るとすれば、巡回やら取り締まりやらと言って元サナフ教国の民を殺すミルテナの騎士くらいのものだろう。それにしたって、僕は巡回経路をある程度把握しているから問題はない。
そうして、僕は鬱屈とした地下から出て、夜のサナフを堪能する。誰も居ない場所でこうして一人、散歩をするのは、僕の一番心安らぐ時間だった。
本当なら、今年、十歳になったばかりの僕は、家族が居て、友達が居て、難しいことなど考えることなく遊んでいてもおかしくない年頃だ。
それが、何の因果か、クーデターのための旗頭として祭り上げられ、頼れる家族も、友もなく、ただひたすらに象徴として大人しくしていることを求められていた。名前だって、気に入らない。僕の名前はアークだ。アーク・フィズだ。それなのに、今、名乗ることを許されているのは、ロッダ・サナフという名。サナフ教国教皇の息子としての名。
あぁ、嫌だ。嫌だ。
信者が亡くなるのは、悲しいことだとは思う。しかし、それを何とかすることを求められても困る。そんな力、僕にはない。
ミルテナの騎士に見つからないようにしながら歩いていると、ふと、何かの視線を感じて立ち止まる。
まさか、見つかった?
嫌な想像に、反射的に身を堅くした僕だったが、すぐに、それは間違いだったと気づく。
「にゃー?」
そこには、ただ紳士服を着た、変わった白猫が居るだけだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
更新がちょっと遅くなりましたが、今日の更新です。
いやぁ、ちょっとお菓子作りをしてみようと思ってやってみたら火傷しちゃいまして……。
指がヒリヒリと痛いので、少し更新を遅らせようってことになりました。
今はだいぶん痛みは引きましたから大丈夫ですけどね!
それでは、また!
10
お気に入りに追加
324
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
SRPGの雑魚キャラに転生してしまったのですが、いっぱしを目指したいと思います。
月見ひろっさん
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。
ある平凡な女、転生する
眼鏡から鱗
ファンタジー
平々凡々な暮らしをしていた私。
しかし、会社帰りに事故ってお陀仏。
次に、気がついたらとっても良い部屋でした。
えっ、なんで?
※ゆる〜く、頭空っぽにして読んで下さい(笑)
※大変更新が遅いので申し訳ないですが、気長にお待ちください。
★作品の中にある画像は、全てAI生成にて貼り付けたものとなります。イメージですので顔や服装については、皆様のご想像で脳内変換を宜しくお願いします。★
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
[完結]婚約破棄されたけど、わたし、あきらめきれません
早稲 アカ
恋愛
公爵令嬢エリエルは、王太子から、突然の婚約破棄を通知されます。
原因は、最近、仲睦まじい男爵令嬢リリアナだと知り、彼女は幼なじみのアンドレに、破棄の解消を依頼するのですが……。
それぞれの人物の思惑が絡んで、物語は予期しない方向へ……。
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ~小さいからって何もできないわけじゃない!~
渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞!
◆05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!!
誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。
スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。
テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。
リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。
小型オンリーテイム。
大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。
嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。
しかしリドルに不安はなかった。
「いこうか。レオ、ルナ」
「ガウ!」
「ミー!」
アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。
フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。
実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる