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第二章 反撃のサナフ教国

第七十三話 嫌いな心

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 嫌いだ。嫌いだ。何もかも、大嫌いだ。


 暗い集会場と化したバーの地下で、僕は心の中で罵倒する。


 無力な奴等が嫌いだ。無能な奴等が嫌いだ。僕自身が、一番大嫌いだ。


 地下には十数人の男が集まり、暗がりの中、小声で何事かを囁きあっている。大方、その大半はミルテナ帝国への罵詈雑言だろう。そんなことをしても何も変わらないのに、ここの連中は学ぼうともしない。


「ロッダ様。今日も、信者が十人、殺されたそうです」

「そうか」


 聞いてもいないのに教えてくる長身の男は、僕の答えが気に入らないのか、口をへの字にしている。だが、僕だって気に入らない。僕は、こんな場所に居たくなんてない。信仰だって、持ち合わせちゃいない。


「少し、外に出てくる」

「はっ、では私もお供を「いらん。一人で充分だ」……ははっ」


 真夜中の元サナフ教国で、外を歩く者なんてほとんど居ない。居るとすれば、巡回やら取り締まりやらと言って元サナフ教国の民を殺すミルテナの騎士さつじんきくらいのものだろう。それにしたって、僕は巡回経路をある程度把握しているから問題はない。

 そうして、僕は鬱屈とした地下から出て、夜のサナフを堪能する。誰も居ない場所でこうして一人、散歩をするのは、僕の一番心安らぐ時間だった。

 本当なら、今年、十歳になったばかりの僕は、家族が居て、友達が居て、難しいことなど考えることなく遊んでいてもおかしくない年頃だ。

 それが、何の因果か、クーデターのための旗頭として祭り上げられ、頼れる家族も、友もなく、ただひたすらに象徴として大人しくしていることを求められていた。名前だって、気に入らない。僕の名前はアークだ。アーク・フィズだ。それなのに、今、名乗ることを許されているのは、ロッダ・サナフという名。サナフ教国教皇の息子としての名。


 あぁ、嫌だ。嫌だ。


 信者が亡くなるのは、悲しいことだとは思う。しかし、それを何とかすることを求められても困る。そんな力、僕にはない。

 ミルテナの騎士に見つからないようにしながら歩いていると、ふと、何かの視線を感じて立ち止まる。


 まさか、見つかった?


 嫌な想像に、反射的に身を堅くした僕だったが、すぐに、それは間違いだったと気づく。


「にゃー?」


 そこには、ただ紳士服を着た、変わった白猫が居るだけだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


更新がちょっと遅くなりましたが、今日の更新です。

いやぁ、ちょっとお菓子作りをしてみようと思ってやってみたら火傷しちゃいまして……。

指がヒリヒリと痛いので、少し更新を遅らせようってことになりました。

今はだいぶん痛みは引きましたから大丈夫ですけどね!

それでは、また!
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