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第一章 アルトルム王国の病

第六十話 はじめての欠片

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「すごい、猫って、人の姿にもなれるんですね」


 いつの間にかドキン薬を服用していたサリアーシャ姫は、咳き込むことなく、興奮ぎみにセルバスへ告げる。


 ……激しく誤解されてるぞ、タロ?


「い、いや、猫にそのようなことは……いいや、そうであるな、サリアの言う通りだ」


 否定をしようとして、キラキラとした娘の眼差しに負けたらしいセルバスは、大真面目な顔で嘘を教える。


 王よ、いくら娘が可愛いからといって、その誤解を植え付けるのは良くないと思うぞ?


「美しいレディ。我輩、どうしても申し上げたいことがあり、この姿を取りました」

「何? えっと、タロ様?」


 今まで毒に苛まれていたというのに、サリアーシャ姫は、ワクワクとした様子でひざまづき、視線を合わせてきたタロの言葉に耳を傾ける。ラーミアとディアム、そしてセルバスも、タロが人化してまで告げたいという内容が気になるようだったが、内容を推察できる俺とチャーはどうしたものかと頭を悩ませる。


 ……チャー、お前も悩んでくれているよな?


 どことなく、悩んでいるのが俺だけのような気がしながらも、とりあえず、タロの言葉を聞いてみる。


「レディよ。貴女はまだ子供だ。だから、大人びて納得するなんてことをする必要はないのだ。我が儘で良いのだ。それを、親は受け止める義務があるのだから」

「え?」


 呆けた様子のサリアーシャ姫に、タロは言葉を続ける。


「辛かったのであろう? 苦しかったのであろう? それをずっと押さえ込んで、笑顔を浮かべてみても、きっと心は晴れないのだ。解放してやらねば、ずっと苦しいままなのだ」

「あ、う……」

「我慢、しなくても良いのだ。子供の特権は、子供のうちにたくさん使えば良いのだ」

「うぅ……」


 タロの丁寧な説得に、サリアーシャ姫は次第にポロポロと涙をこぼす。それに、あぁ、やってしまったなと思うと同時に、タロだから仕方ないかとも思う。


「大丈夫なのだ。お父上は、受け入れてくれるのだ」


 その言葉が止めとなったのか、サリアーシャ姫はうつむき、ギュッと拳を握る。そして……。


「う、うあぁあ、父上、父上っ、私、私、辛かったんですっ。苦しかったんですっ。なのに、父上は来てくれなくて、皆、私を避けてっ。薬があるのに、持ってきてもらえないって、いらない姫だって」

「っ、そのようなことはないっ! サリアは、私の大切な宝物だっ」


 泣きながら抱きついてくる支離滅裂なサリアーシャ姫の言葉に、セルバスは必死に思いを伝える。


「私、私っ、父上に、とんでもないことを、しようと」

「よい、私は無事だ。サリアも無事だ。もう、何も、苦しむことはない」


 ポンポンと背中を叩き、サリアーシャ姫をなだめるセルバス。そして、それにつられるようにしてサリアーシャ姫がワンワンと泣くと、淡い光がサリアーシャ姫を包む。


「? なんだ?」


 しかし、それに気づいているのは、どうやら俺だけ……いや、タロも気づいているようで、目を丸くしてそれを見つめていた。そして、何かガラスの破片のようなものがサリアーシャ姫の背から光に包まれて出てきたかと思えば、勢い良くタロの中に吸い込まれる。


「むっ!? これは……そうか、欠片の回収が済んだのだな」


 一人呟くタロの様子に、俺はタロが不幸の欠片だとか神珠の欠片だとか言っていたもののことを思い出す。きっと、あれがそうだったのだろう。

 その後、俺達は褒賞を取らせようとするセルバスに辞退の旨を告げ、俺達のことを口外しないことと、魔族への冤罪を晴らすことを約束し、城を後にしたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


よしっ、やっとここまで書けた!

後は、エピローグを書いて、次の章となります。

次の章ではちょっと変わったキャラクターを登場させる予定で、今から書くのが楽しみです。

それでは、また!
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