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第五章 ルビーナ商国とボスティア海国の闇
第五百二十八話 食への欲求
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俺達は今、ボスティア海国の街に居る。もちろん、それは地下のこと……ではなく、堂々と、街中を泳いでいるのだ。
「まさか、こんな手があるとは思わなかったな」
そう呟く俺は、今、どこからどう見ても魚人の姿だった。黒い鱗が艶々と、まるで本物のような輝きを見せる。
「タロ、すごい」
ディアムもディアムで、茶色の鱗を輝かせながら悠々と泳いでいる。
「僕も、試しに言ってみただけだったんだけど……本当に、ここまでできるなんてね」
マギウスは、青い鱗でしきりに感心した様子を見せている。
「ぬぅ、慣れればこれは楽だな」
最初の内は、尾を大きく動かし過ぎて上手く泳げていなかったロギーは、今、黄色の鱗でゆったりと泳いでいる。
「タロの謎はますます深まるばかり……」
ピンクの鱗で、考え事をしながらも着いてくるヨナは、まだタロの正体が猫以外だと信じて疑わないらしい。
「まさか、ここまでの『変化』魔法を使えるなんてな……」
そう、俺達は今、タロにかけられた『変化』魔法によって、魚人に姿を変え、泳いでいたのだ。腕輪や周りに張り巡らされた『結界』に関しては『幻術』で隠しているため、周囲の魚人達からは同じ魚人としか思えないことだろう。
「まぁ、なんだ。とりあえずは、食料を買い込むぞ。地上の通貨も使えるみたいだしな」
通貨に関しては、先に発達したのが地上だったために、このボスティア海国でも同じ通貨が使われている。ただ、最近はそれに反発して、新たな通貨を作ろうという動きがあるらしいが、今はまだ、通貨の変更はなされていないので安心だ。
「へいっ、らっしゃいっ、らっしゃいっ! 新鮮で美味しいムー貝はいかがっ? チュルンと食べやすい大きさが揃ってるよーっ」
「はいはいはいはいっ、こちらは、ハモが大漁だよっ! 買った買ったーっ!」
賑やかな市場に出れば、魚介類の宣伝がこれでもかと聞こえてくる。ただし……。
「生、なんだよな」
そう、魚人は魚を生で食べる種族だ。俺達だと腹を壊すようなものでも、彼らは平気で食べることができる。
「火、扱えない」
「分かってる」
さすがに海の中で火は扱えない。つくづく、地上で調理済みの食料を携帯していて良かったと思う。
「……ねぇ、もしかしなくとも、僕達、食べられるものがないんじゃ……」
そうして、しばらく市場を見て回った俺達は、そんな気づきたくない事実をマギウスに突きつけられてしまう。
「……そうだよな、地上との交流が途絶えた今、果物なんてないよな?」
「野菜も、ない」
「干物とかもなかったな」
「食べるもの、ないですね」
以前のボスティア海国なら、物産展などで出されていたはずのそれらが、今は全く存在しない。想定できたことだったはずなのに、その事実は俺達に重くのしかかる。
「「「はぁ……」」」
魚介以外が食べたい。切実に。
そう思いながら、ボスティア海国を出たら、絶対に野菜や果物や肉を食べようと決意するのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
とりあえず、まだ事件は起こりませんでしたね。
……次回は、ちょこっと事件に巻き込まれるかもですが。
それでは、また!
「まさか、こんな手があるとは思わなかったな」
そう呟く俺は、今、どこからどう見ても魚人の姿だった。黒い鱗が艶々と、まるで本物のような輝きを見せる。
「タロ、すごい」
ディアムもディアムで、茶色の鱗を輝かせながら悠々と泳いでいる。
「僕も、試しに言ってみただけだったんだけど……本当に、ここまでできるなんてね」
マギウスは、青い鱗でしきりに感心した様子を見せている。
「ぬぅ、慣れればこれは楽だな」
最初の内は、尾を大きく動かし過ぎて上手く泳げていなかったロギーは、今、黄色の鱗でゆったりと泳いでいる。
「タロの謎はますます深まるばかり……」
ピンクの鱗で、考え事をしながらも着いてくるヨナは、まだタロの正体が猫以外だと信じて疑わないらしい。
「まさか、ここまでの『変化』魔法を使えるなんてな……」
そう、俺達は今、タロにかけられた『変化』魔法によって、魚人に姿を変え、泳いでいたのだ。腕輪や周りに張り巡らされた『結界』に関しては『幻術』で隠しているため、周囲の魚人達からは同じ魚人としか思えないことだろう。
「まぁ、なんだ。とりあえずは、食料を買い込むぞ。地上の通貨も使えるみたいだしな」
通貨に関しては、先に発達したのが地上だったために、このボスティア海国でも同じ通貨が使われている。ただ、最近はそれに反発して、新たな通貨を作ろうという動きがあるらしいが、今はまだ、通貨の変更はなされていないので安心だ。
「へいっ、らっしゃいっ、らっしゃいっ! 新鮮で美味しいムー貝はいかがっ? チュルンと食べやすい大きさが揃ってるよーっ」
「はいはいはいはいっ、こちらは、ハモが大漁だよっ! 買った買ったーっ!」
賑やかな市場に出れば、魚介類の宣伝がこれでもかと聞こえてくる。ただし……。
「生、なんだよな」
そう、魚人は魚を生で食べる種族だ。俺達だと腹を壊すようなものでも、彼らは平気で食べることができる。
「火、扱えない」
「分かってる」
さすがに海の中で火は扱えない。つくづく、地上で調理済みの食料を携帯していて良かったと思う。
「……ねぇ、もしかしなくとも、僕達、食べられるものがないんじゃ……」
そうして、しばらく市場を見て回った俺達は、そんな気づきたくない事実をマギウスに突きつけられてしまう。
「……そうだよな、地上との交流が途絶えた今、果物なんてないよな?」
「野菜も、ない」
「干物とかもなかったな」
「食べるもの、ないですね」
以前のボスティア海国なら、物産展などで出されていたはずのそれらが、今は全く存在しない。想定できたことだったはずなのに、その事実は俺達に重くのしかかる。
「「「はぁ……」」」
魚介以外が食べたい。切実に。
そう思いながら、ボスティア海国を出たら、絶対に野菜や果物や肉を食べようと決意するのだった。
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とりあえず、まだ事件は起こりませんでしたね。
……次回は、ちょこっと事件に巻き込まれるかもですが。
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