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第五章 ルビーナ商国とボスティア海国の闇

第五百六話 激流の果て

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「ぐ、ぅ……」

「お、ぉえ……」


 激流に呑まれた俺達は、とにかく『結界』を張ってそれに耐えた。ただ……『結界』は問題なくとも、上も下も関係なく、回転し続けるのは、さすがに堪えた。今は、その激流から抜け出したは良いものの、上下左右も分からない状態で、完全にグロッキーだった。


「……」

「……」


 お互い、無言の時間が流れる。顔色は、見るまでもなく、どちらも酷いものとなっているだろう。そうして、しばらく経てばまだ気分は最悪ではあったものの、一応思考する力は戻ってくる。


 あの声は……タロ、だった。


 猫の鳴き声ではないということは、恐らく『人化』しているのだろう。そして、『人化』する必要があるということは、タロの近くに誰か居るということだ。


 タロのこの暴挙を、止めるやつは居なかったのか……。


 そもそも、タロの行動原理は不明な部分が多い。きっと、止めようとした時には遅かったということなのだろうが……あの激流が通った跡を見てみれば、所々、建物の屋根瓦が剥がれていたり、柱が根本ごとどこかから引っこ抜かれた状態で飛んできていたり……とにかく、散々な状態だ。


 死人は、出てないよな?


 激流に呑まれている時は分からなかったものの、どうやらこのボスティア海国の家々には、それぞれ『結界』が張れるようになっているらしく、激流が収まった今、どこの家にも『結界』が張り巡らされている状態だった。


 屋根瓦とか、柱なんかは……『結界』が間に合わなかったんだろうな。


 まだ頭がグワングワンと鳴っているような気がする中、俺は起き上がり、マギウスの様子を確認してみる。


「……」

「無事か? マギウス?」

「なん、とか……」


 まだまだ青い顔で、それだけを告げると、マギウスはぐったりとしてしまう。


「あの激流は……恐らく、タロの仕業だ」

「タ……ロ…………絞める」


 その目に殺意が灯るのを確認しながらも、俺はタロを庇ってやることができない。少なくとも、一時間以上は説教しなければ気がすまない。


「だが、魚人達も、今は俺達の包囲どころではなくなっただろう。今のうちに、移動するぞ」

「待って……もう少し……今、死ぬ」


 そういうマギウスを俺は無言で担ぎ上げる。海の中であるため、マギウスが重いと感じることはない。


 とりあえず、これは脱いでおくか。


 赤い鱗の履き物であるそれを脱ぐと、俺はそのままゆっくり歩き出す。恐らく、タロ達はあまり目立たない場所に行ったはずだ。
 そうして、俺がそこを見つけた時には、ディアムの前で正座をするタロが居たのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


タロ、再びお説教の予感……?

マギウスには殺意すら抱かれてますしねっ。

それでは、また!
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