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第五章 ルビーナ商国とボスティア海国の闇

第四百五十二話 魚と猫

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 俺は、タロが走ってきた方角へと足を進めていた。それもこれも、様子がおかしい猫達を確認するためだ。


 タロが遭遇した事件は、ほとんど大きな事件に繋がっているからな……。


 今まで、タロが遭遇した事件は、俺達との出会いも数えるとかなり多い。有益な情報をしっかりと持ってきてくれていた実績もあって、今回も、もしかしたら何か分かるかもしれないと期待がある。


「もう少し先か?」


 しばらく歩いてみたものの、猫らしき姿は一向に見えない。


 タロ、どれだけ走ってきたんだ?


 恐らくは、あの殺人的な勢いで走り続けた結果、気づかないうちに追ってきた猫達と大きく距離を離していたのだろう。
 そうして黙々と歩いていると、ようやく、猫の気配を察知する。


「ここか」


 家と柵の間の隙間に顔を出せば、黄色い毛の、タロ並みの体格をした猫が俺の方を振り向く。


「ぷにゃー? (にゃんだ?)」


 随分と気の抜ける声を出してきた猫に、俺はタロ用に取っておいたささみを手に、ちょいちょいと手招きをする。


「こいつをやるから、ちょっと話を聞かせてくれないか?」

「……」


 手招きをすれば、一応は俺の側に来てくれた猫。しかし、俺の手の中のものを確認すると、なぜか悲しそうになる。


「ぷにゃ……(魚……)」

「魚の方が良かったのか? あいにく、今持ち合わせはこれしかなくてな」


 そう言えば、猫は諦めたようにささみをくわえて食べ始める。


「ぷんにゃ? (聞きたいことは?)」


 どうやら、ちゃんと俺の言ったことを覚えていたらしい猫の問いかけに、俺は、先ほどタロが追われた経緯を説明して、なぜ、そんなことになっていたのかの理由を知らないか尋ねてみる。


「ぷにゃあ? (あいつの飼い主か?)」

「いや、どっちかというと、仲間とか、友とか、そういった関係だな」


 そう正直に話せば、猫はじっと俺を見て、重い口を開いてくれる。


「ぷにゃー……(魚が、にゃいんだ……)」

「? ルビーナ商国は、港を多く所有してるから、この村でも魚くらいあると思ってたが?」

「ぷにゃにゃあっ(しばらく前から、魚が獲れにゃいって、だから、ずっと食べてにゃいんだっ)」


 とてもとても悲しそうに告げる猫。それはどう見ても、魚に焦がれている様子だ。


「ぷにゃーにゃ(あいつが、魚のことを思い出させるから、つい、食欲が暴走したんだ)」


 耳を伏せた猫。その様子に、俺は、魚に焦がれ過ぎて禁断症状みたいなものが出たのではないかと推測する。


「そうだったのか……魚が獲れないわけは、何か聞いてないか?」

「ぷにゃ(姫が拐われたからだって言ってた)」


 その言葉に、俺は、ボスティア海国の姫が拐われたという話を思い出す。確か、ボスティア海国では、それがルビーナ商国の仕業だと思われていたはずだ。


「……人魚なら、魚を獲れなくすることも可能、か……」


 ある意味、これはボスティア海国の報復なのだろう。


「ぷにゃぁ(魚ぁ)」


 悲しそうに鳴く猫に、俺はささみをもう一つ追加してやって、その場を離れる。


 タロも、魚を楽しみにしていたよな……。


 この事実を知ったタロが、どれだけショックを受け……暴走するのかを考えると頭が痛かったが、とりあえず、皆と合流すべく、来た道を戻るのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


制裁によって、魚が獲れなくなっているルビーナ商国。

魚に対する飢えは、深刻な模様です。

それでは、また!
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