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第四章 騒乱のカレッタ小王国

第四百六話 ラダ族の力

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 張り込みを始めて、三時間、代わり映えのしない光景に飽き始めて来た頃に、そいつはやってきた。
 黒いフードを被ったそいつからは、確かに、桃色の髪がチラリと見えた。


「あいつか?」

「多分な」


 ターゲットを見つけた。
 俺は、急いでラーミア達に『念話』でその事実を伝えると、アグニを残して店へ入る。アグニは、万が一、俺に何かあった場合のために、その場で待機してもらっている。


「らっしゃいっ」


 明るいこの店の大将らしき男に声をかけられて、俺は、先程のラダ族と思しき人物との相席を希望する。店内はほどよく込み合っており、簡単に逃げられるような状況ではない。これならば、彼、リャンクーとは、じっくりと話ができそうだ。


「ここ、良いか?」


 そう尋ねた直後……。


「? あれ? リャンクーは……?」


 いつの間にか、俺は料理が並べられた席に一人で座っていた。そこに、リャンクーの姿はない。

 どういうことだと思って、先程会った時に覚えた魔力を探ってみるものの、どうやら、リャンクーは近くには居ないらしい。

 何が起こったのか分からないまま、俺は店を出て、アグニやラーミア達と合流する。


「バル、問題の人物が居ないようですが……」


 リャンクーを連れていない俺に、ラーミアが真っ先に疑問をぶつけてくる。


「あぁ、こりゃあ、してやられたんだろうよ」

「してやられた?」


 確かに、リャンクーにはいつの間にか逃げられていた。頼んだ覚えのない料理が出てきていることや、それらに多少なりとも手をつけていることから、どうにも俺の記憶が抜けているらしいというところまでは分かったものの、それだけだ。
 何かを知っているらしいアグニを見れば、ガシガシと頭を掻いて、すぐに説明してくれる。


「『心術』は、本来、時間をかけて準備をしてかける魔法だ。けどなぁ、その『心術』を応用した、ねこだましみたいな魔法もあるんだ。今回、バルがかかったのはそれだな」


 ラーミア達が俺を『バル』と呼ぶのに合わせてそう言ったアグニは、さらに詳しい説明を始める。


「ラダ族は、一時的に、相手に記憶されない状態を作ることができるんだ。その間、相手は無防備になり、例え刺されたとしても気づくことはない。まぁ、ラダ族自身は戦闘を好まない性質だから、そんなことは起こらないみたいだがよ。とりあえず、バルはそれにかかって、ターゲットを見逃しちまったってことだな」

「それは……捕まえるのは無理じゃないか?」

「寝込みを襲えば、捕まえるだけならできるかもしれないぞ? まぁ、魔法を使わせないために、声も耳も封じる必要があるが」

「耳も、か?」

「ラダ族は、雑踏の中の特定の音を強調することで、相手を『心術』にかけることも可能らしい。と、いうわけで、現状、リャンクーを捕まえるのは無理だな」


 そんな結論に、俺達は渋面を作るのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


まさかの失敗。

でも、バルディスは無事です。

次回、多分まだバルディス視点。

それでは、また!
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