我輩は紳士である（猫なのに、異世界召喚されたのだが）

第四章 騒乱のカレッタ小王国

第三百七十五話 フルルとミアト

　怪我はないとの話ではあったものの、あまりにも青ざめたその表情に、どうしても不安になる。そして、それは王族共通の心理でもあったらしく、彼らは次々に席を立ち、第五王子、ミアトの側へと駆け寄る。


「ミアトっ、あぁ、怖い思いをさせてしまってごめんなさいっ。こんなことなら、何が何でもこの場に呼ぶべきでしたっ」


　真っ先に駆けつけたのは、王妃フィリアル。その他の面々も側に寄り、口々に心配したことや、もう大丈夫なのかを言い始める。
　フルルも咄嗟に駆け寄ろうとしたものの、まだ記憶が戻っていないことを思い出したようで、苦しげに彼らの様子を眺めることしかできていなかった。


「ご心配を、おかけしました。もう、大丈夫です」


　大丈夫とはとても思えない震えた声で告げるミアトに、フィリアルはすぐに暖かい飲み物を持ってくるよう、待機していた侍女へと告げる。


「無理はしないで良いのです。襲撃犯が捕まるまでは、ここで待ちましょう。ここならば、勇者殿もおられるから安全です」


　そっとその体を抱き寄せたフィリアルに、ミアトはようやく大きく息を吐く。


「はい、ありがとうございます。母上」


　そうして、とりあえず席に着こうとミアトはそこでようやく、我輩達の存在に目を向ける。


「えっ……？」


　しかし、直後に信じられないといった表情で固まり、動きを止めたミアト。


　む？　何かあっただろうか？


　ここに居るのは、飼い主とバルディス、フルルと我輩のみ。驚くようなことは何もないはずなのだ。


「フルル……？　どう、して……」

「えっ？」


　ミアトのその発言に、フルルは大きく目を見開く。

　もしかしたら、ミアトは覚えているのかもしれない。そう思った直後だった。


「っ！　どうしてっ！　あれは夢だったんじゃないのかっ！」


　悲痛な悲鳴を上げて、ミアトは後退る。


「ミアト？　どうしたというのですっ？」


　突然取り乱したミアトに、オロオロとするフィリアル。しかし、その声が聞こえていないかのように、ミアトは瞳に涙を浮かべてフルフルと首を横に振る。


「あり得ない……そんなはずがないっ」

「「「ミアトっ！？」」」


　泣きそうになっていたミアトは、すぐに身を翻して扉へと駆け出す。王族の者達は一斉にミアトの名前を呼ぶが、ミアトが立ち止まる様子はなく、とうとう扉を開けて外に飛び出してしまうのだった。


～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～


あんなに会いたいと願っていたフルルを前にしたのに、この状態はいったい……？

もうしばらくしたら、理由が判明します。

それでは、また！