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第四章 騒乱のカレッタ小王国

第三百六十七話 フルルの記憶(四)

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「ルト兄さんっ!」

「ルル? っ、どうしたっ!?」


 店を出てすぐにザルト兄様を見つけた僕は、精一杯声を張り上げてザルト兄様を呼ぶ。
 青い顔で駆け寄ってくる僕に、ザルト兄様は即座に異常を感知して、何があったのかを問い質してきた。


「ミア兄さんがっ、男に刺されたっ!」

「何だと!? っ、ルルはここに居ろ! すぐ戻る!」


 泣きそうになる僕は、とにかく用件を告げて、剣を片手に走り出すザルト兄様を見送る。


「店員さんが戦ってくれてるからっ! 相手は一人だからっ!」


 ただ、まだ必要な情報があったとばかりに、僕はその背中に情報を投げ掛け、そこで力尽きたように座り込む。きっと、ザルト兄様はうなずいてくれたから、状況を理解した上で戦ってくれるはずだ。ザルト兄様さえ居れば、ミアト兄様も助かるに違いない。


(ミアト兄様……お願い、死なないでっ)


 刺されたミアト兄様が、あの後どうなったかは分からない。だから、僕は不安で不安で仕方なかったが、今はとにかく信じるしかない。祈るしかない。

 店で怒号が響き、大きな音が鳴る中、僕はひたすら自分の無力さに泣きそうになりながら待つ。

 ……ただ、その時、僕は気づいていなかった。背後に、不審な男が迫っていたことに……。


「ふぐっ」

「騒ぐな。暴れると死ぬぞ?」


 突然、背後から口元に布を押し付けられて、僕は目を白黒させる。そして、『死』という単語にゾクリと背筋を震わせる。


「あいつはもう終わりだろうが、王子を捕まえられるなんてツイてるな」


 当てられた布からは、何か甘い香りがしていて、吸ってはいけないと本能が警鐘を鳴らす。しかし、呼吸をずっと我慢できるわけもなく、ズルズルとどこかに引きずりこまれながら、意識がどんどん遠くなっていくのを感じる。


「記憶の方は任せるぞ」

「……あぁ」


 どうやら、僕を襲った者は一人ではないらしい。
 それを意識した直後、僕は闇の中に落ちていく。次に目覚める時、檻に入れられ、奴隷として首輪をつけられることになるとも知らずに……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


と、いうわけで、フルルの記憶は今回で終了です。

次回は、城の中でのあれやこれやを書いていこうかなぁと思ってます。

ミアト兄様についても書きたいですしねっ。

それでは、また!
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