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第四章 騒乱のカレッタ小王国
第二百七十五話 ラーミアの過去(一)
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タロの作戦と呼べるのかすら怪しいものに乗って、一人竜の森でたたずんでいた私は、ディアムが来てくれることを切に願っていました。さすがに、この危険な森を一人で居るのは心細く、マギウスが操った竜を待機させているとはいえ、不安が残りました。
「早く、来てください」
私とディアムが出会ったのは、まだ十歳にも満たない幼い頃のことでした。その頃の私は、ファルシス魔国の貴族令嬢として、日々厳しいレッスンを受けていました。今から考えると、それは明らかに普通の令嬢以上の、行き過ぎた教育であったことは分かるのですが、当時の私はそれが普通なのだと教え込まれ、毎日疲弊していました。そして、そんな時、隠密行動の練習として我が家に忍び込んだ、全身黒ずくめの男の子に出会ったのです。
「どなたですか?」
「……っ」
その男の子は、見つかると思っていなかったのか、庭の茂みの中で完全に硬直していました。
後から知ったことですが、隠密に秀でた家の者が、息子や娘に教育の一環として、他家に事前の連絡を入れた上で忍びこませるのは当たり前のことであったそうです。ただ、私はその時、何も知らなくて、ただただ自分と年齢の近そうな男の子がそこに居るという事実に興味津々でした。
「……ちかくによってもよろしいですか?」
せっかくなら話してみたい。今まで、同年代との付き合いなどなかった私は、もうしばらく時間があることを確認して男の子に問いかけます。
「……うん」
許可がいただけたことで、私は嬉しくなり、すぐに自己紹介をしようとして、はたと気づきます。もしかしたら、この男の子は平民かもしれない。そうであるなら、下手に貴族であるという態度で臨んでは、引かれてしまうかもしれない、と。かつて、貴族らしく対応した結果、平民の子供に一線を引かれたことを思い出した私は、少しだけ自己紹介の内容を考えて口を開きます。
「わたし、ミアともうします。あなたは?」
すでに言葉遣いも所作も貴族のそれであると気づいていなかった私は、ただ名前だけ、愛称で紹介すれば気づかれないと思い込み、実行しました。すると、男の子は少し考え込んで、小さな声で呟きます。
「おれ、ディー」
「ディーですのねっ! いいおなまえですっ」
家名を告げなかったことから、やはり平民なのだと思った私は、自分の考えが間違いではなかったのだと確信しました。
「ディーはどうしてここにいるのですか?」
「……とうさん、ここにいってこいって」
「おとうさま? どんなかたなんです?」
「やさしい。じまんのとうさん」
言葉少なく話す男の子は、私の質問に嫌な顔一つせず、ゆっくりと話してくれました。男の子は、様々な場所に行くことが多いらしく、書物でしか知らない町、名産品、人々のことを、詳しく話してくれて、私はずっと灰色だった世界が一気に色づくのを感じました。
レッスンの時間になっても現れない私に、侍女達から大声で呼ばれ始めた私は、ディーと渋々別れなければいけませんでしたが、またここに来てほしいことを告げることはできました。今考えると、その時のディーは、私がこの家の令嬢であることなど気づいていたでしょう。しかし、その時は完全に隠し通せていると思い込んでいました。
そうして、私達は、毎日のように、人目を忍んで密会するようになったのです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回は、ラーミアの過去編。
今でこそしっかり者のラーミアは、幼い頃は抜けていたという事実が明らかに!?
鬼畜でもないし、無害で安全だったラーミアがこうなった原因は……きっと、そのうち紹介することになると思います。
それでは、また!
「早く、来てください」
私とディアムが出会ったのは、まだ十歳にも満たない幼い頃のことでした。その頃の私は、ファルシス魔国の貴族令嬢として、日々厳しいレッスンを受けていました。今から考えると、それは明らかに普通の令嬢以上の、行き過ぎた教育であったことは分かるのですが、当時の私はそれが普通なのだと教え込まれ、毎日疲弊していました。そして、そんな時、隠密行動の練習として我が家に忍び込んだ、全身黒ずくめの男の子に出会ったのです。
「どなたですか?」
「……っ」
その男の子は、見つかると思っていなかったのか、庭の茂みの中で完全に硬直していました。
後から知ったことですが、隠密に秀でた家の者が、息子や娘に教育の一環として、他家に事前の連絡を入れた上で忍びこませるのは当たり前のことであったそうです。ただ、私はその時、何も知らなくて、ただただ自分と年齢の近そうな男の子がそこに居るという事実に興味津々でした。
「……ちかくによってもよろしいですか?」
せっかくなら話してみたい。今まで、同年代との付き合いなどなかった私は、もうしばらく時間があることを確認して男の子に問いかけます。
「……うん」
許可がいただけたことで、私は嬉しくなり、すぐに自己紹介をしようとして、はたと気づきます。もしかしたら、この男の子は平民かもしれない。そうであるなら、下手に貴族であるという態度で臨んでは、引かれてしまうかもしれない、と。かつて、貴族らしく対応した結果、平民の子供に一線を引かれたことを思い出した私は、少しだけ自己紹介の内容を考えて口を開きます。
「わたし、ミアともうします。あなたは?」
すでに言葉遣いも所作も貴族のそれであると気づいていなかった私は、ただ名前だけ、愛称で紹介すれば気づかれないと思い込み、実行しました。すると、男の子は少し考え込んで、小さな声で呟きます。
「おれ、ディー」
「ディーですのねっ! いいおなまえですっ」
家名を告げなかったことから、やはり平民なのだと思った私は、自分の考えが間違いではなかったのだと確信しました。
「ディーはどうしてここにいるのですか?」
「……とうさん、ここにいってこいって」
「おとうさま? どんなかたなんです?」
「やさしい。じまんのとうさん」
言葉少なく話す男の子は、私の質問に嫌な顔一つせず、ゆっくりと話してくれました。男の子は、様々な場所に行くことが多いらしく、書物でしか知らない町、名産品、人々のことを、詳しく話してくれて、私はずっと灰色だった世界が一気に色づくのを感じました。
レッスンの時間になっても現れない私に、侍女達から大声で呼ばれ始めた私は、ディーと渋々別れなければいけませんでしたが、またここに来てほしいことを告げることはできました。今考えると、その時のディーは、私がこの家の令嬢であることなど気づいていたでしょう。しかし、その時は完全に隠し通せていると思い込んでいました。
そうして、私達は、毎日のように、人目を忍んで密会するようになったのです。
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今回は、ラーミアの過去編。
今でこそしっかり者のラーミアは、幼い頃は抜けていたという事実が明らかに!?
鬼畜でもないし、無害で安全だったラーミアがこうなった原因は……きっと、そのうち紹介することになると思います。
それでは、また!
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