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第七章 過去との決別

第百十五話 刈るっ

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「まずは拘束ですわね。ルティ、手伝ってくださいますわよね?」

「う、うん」

「ライナード、お願いしても良い?」

「……む」


 戸惑った様子のライナード達をよそに、俺とリリスさんはバリカンを片手に引きつった表情の監視の魔族に許可を取り、エルヴィス王子達が居る場所へと入れてもらう。


「固定するのは頭ですわ。体は固定されていても、頭は動かせますからね。しっかり頼みますわよ? ルティ?」

「え、えっと……本気でやるの?」

「むむむむむーっ! むむーっ!(やめてくれっ! 頼むっ!)」

「むぐーっ! むむむぅむぐーっ!(いやぁっ! そんなのいやぁっ!)」


 エルヴィス王子達が叫ぶ傍らで、リリスさんはにっこりと笑う。


「もちろんですわ。あぁ、海斗、どんなヘアスタイルが良いか、しっかり考えましょうね?」


 そう、リリスさんが宣言すると、絶望の悲鳴が響き渡る。それはもちろん、ホーリーも同じで、彼女は涙目でブンブンと首を振っていた。


「じゃあ、誰からにする?」

「そうですわねぇ……」


 そうして、俺達は彼らの頭を容赦なく刈った。ロッシュはバッテン型のハゲに、ダルトは真ん中だけをハゲに、そして、エルヴィス王子はてっぺんだけをハゲに、ホーリーは丸刈りで、リオンは後頭部をハゲにして、全てが終わる。


「良い仕事をした……」

「ふふっ、そうですわね」


 散々騒いでいた勇者一行改め、愚者一行は、今やもう、虚ろな目で茫然自失といった状態だった。しかし、その満足感たるや、素晴らしいものであり、俺もリリスさんも良い笑顔になっていることと思う。


「絶対、リリスを怒らせないようにしなきゃ……」

「俺も、だ……」


 何やら隅の方で、ルティアスさんとライナードが話し合っているが、今はそれも気にならない。


「あっ、いけないいけない、忘れるところでしたわ」


 素晴らしいハゲが出来たことに満足していると、リリスさんが何かを思い出したらしく、どこからともなく、瓶を取り出す。それは、少し大きめなジャム瓶くらいのサイズであり、その中には、白いクリームがたっぷりと入っている。


「それは?」


 何のクリームだろうかと尋ねれば、リリスさんは途端に素晴らしい笑みを浮かべる。


「ふふっ、これはですね。ユーカ様に依頼して作ってもらった、毛根を死滅させるためのクリームですわ」

「毛根を、死滅……」

「むぎゅうっ!?(ひぃぃいっ!)」


 俺が、その意図を理解したように、仲良くハゲた彼らも分かったのか、途端にガクガクと震えて、力なく首を横に振る。


「えぇ、これで、彼らの髪型を固定してしまいましょう?」

「ナイス、リリスさんっ」

「「「むぅぅぅうっ!!(嫌だぁぁあっ!)」」」


 先程まで静かだった彼らは、決死の抵抗として、精一杯体を揺するが、拘束は頑丈だ。何人かの椅子は倒れたものの、それ以上、何かが起こることもない。


「ルティ」

「ライナード」


 もう一度、拘束をお願い。という願いを込めて呼べば、ルティアスさんとライナードは、真っ青な顔で、ギクシャクとした動きでエルヴィス王子達の頭を固定していく。


「むむむっ、むむむぅむむーむむっ!!(リリスっ、私達の仲だろうっ!!)」

「うふふ、婚約者だった頃は、触りたくもないと思っていましたが、こんな悪戯をするのはとても楽しいですわね」


 そう言いながら、リリスさんは容赦なく、手袋をした手でクリームを取り、その頭に塗り込んでいく。


「む、むむぅっ。む、むぅーっ(カ、カイト嬢。お、落ち着いて)」

「確かに、楽しいな。こうしていると、襲われた恐怖もなくなるってもんだ」


 俺も、リリスさんと同じ手袋をして、頭にしっかりと塗り込んでいく。


「……敵ながら、これはさすがに……」

「むぅ……」


 もう、エルヴィス王子達はその顔面を涙と鼻水とでグチャグチャにしていたが、それもお構い無しにせっせとクリームを塗り込んでいく。


「ちなみに、これ、効力は高いのですが、少し問題がありますの」

「そうなの?」

「えぇ、これは、塗って一時間ほどすると、猛烈に痛くなるらしいですわ」

「それは、大変だな」

「まぁ、彼らは自業自得ですけれどね?」


 そんな情報を知りながらも、嬉々としてクリームを塗り込んだ俺達は、死屍累々となった彼らを放置して、それぞれ、ルティアスさんとライナードとを連れて部屋を出る。


「そういえば、ライナード、今後、彼らはどうなるんだ?」

「む、話していなかったか。彼らは、今後、実験塔に送られて、人体実験の実験台にされる予定だ」

「ふぅん」

「……カイト、何か不満があった時は、ちゃんと聞くから、すぐに話してくれ」

「ん? うん、分かった」


 珍しく、ライナードが怯えたような表情を見せているのが気になったものの、俺は、そんなライナードに快く返事をする。


(ライナードに不満、かぁ……今のところはないかなぁ?)


 今後、一緒に暮らす上で、不満に思うこともあるかもしれないが、ライナードに言われるまでもなく、しっかりと話をするつもりではある。


(一緒に……)


 いつの間にか、ライナードが側に居ることが当たり前になった俺には、きっと、ライナードを手放すことはできない。


(あとは、一歩を踏み出すだけ、なんだよなぁ)


 きっと、ライナードは俺が告白するまで、決して手出しはしてこない。いや、まだ手出しされるのは戸惑うというか、困るというかなのだが、決心がつけば、俺は告白することになるのだろう。

 この世界で、俺を助けてくれたライナード。守ってくれたライナード。大切にしてくれたライナード。そんなライナードに好意を寄せるのは、きっと当然のことで、必然だった。そして、奇跡的に、ライナードが俺に好意を抱いていることも分かっている。


(……うん、頑張ろう)


 気持ちの整理をつければ、きっと……。そう思いながら、俺は馬車の中で、ライナードの手をギュッと握るのだった。
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