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第七章 過去との決別

第百七話 カイトお嬢様のお願い(リュシリー視点)

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 カイトお嬢様が、なぜかライナード様を避けている。その事実に、ライナード様は大層へこんでいたものの、カイトお嬢様が理由もなくライナード様を避けるわけがないと、私達は執務室に籠っていたライナード様に、昨日のことを根掘り葉掘り聞き出して……。


(これは、もしや……カイトお嬢様が、自覚なさった?)


 一緒にライナード様を問い詰めていたドム爺こと、私の愛しい片翼、ドムドル・ハリアスと視線を交わす。


「恐らくは、間違いないでしょうな」

「はい」


 小さな声で確認し合えば、やはり、認識は同じらしい。それに気づいておられないライナード様は、残念としか言いようがないが、長年片翼を見つけることができずに拗らせたわりには、まだまともかもしれない。


「カイトに、嫌われたのだろうか? 俺は、俺は……しかも、デートにも行けなくなってしまったし……」


 もう、魂が抜けかけているような様子でうなだれるライナード様。デートに行けなくなった理由までは、私達は知らないものの、どうにもカイトお嬢様が関わっているらしいということだけは確信が持てた。そうでなければ、片翼休暇中にライナード様が動くわけがない。


「そろそろノーラと交代ですので、そちらへ行って参ります」

「あぁ、リュシリー。カイトお嬢様を頼むぞ」

「はい、執事長」


 ライナード様のことは、ひとまずドムドルに任せて、私はカイトお嬢様の元へと向かう。すると……。


「リュシリー、ちょっと、話をしたいんだけど」

「? はい、何なりとお申し付けください」


 交代して、カイトお嬢様の部屋に入るや否や、私はカイトお嬢様から話しかけられる。


(珍しいですね)


 カイトお嬢様は、にっこりと微笑みながら、私に椅子を勧めてきたので、勤務中だと断る。


「ダメ。ちゃんと話したいから、座ってくれ」

「しかし……」

「じゃあ、これは命令」

「……かしこまりました」


 いつになく強気な態度のカイトお嬢様に、私は何があったのかを把握するためにも、カイトお嬢様の言葉に従う。


「リュシリー、明日、私と一緒に出掛けてくれないかな?」

「……出掛けるのであれば、ライナード様に許可を「それはダメ」……カイトお嬢様?」


 さすがに、カイトお嬢様をライナード様の許可なしに出掛けさせるのは難しい。私の一存でカイトお嬢様の周りにある程度護衛を増やすことはできるものの、それでも、ライナード様が知っているのと知らないのとでは全く違う。


「私、今、ライナードに怒ってるんだ。だから、ちょっと外に出て、ストレスを発散したいんだ」

(……ライナード様、今度は何をやらかしたんですかっ!?)


 怒っているという言葉通り、カイトお嬢様の気配はとっても不穏なものだった。これは、慎重にいかなければ危険だと、頭の中で警鐘が鳴り響く。


「……カイトお嬢様は、外に出て、何をなさるおつもりですか?」

「何を……うーん……とりあえず、雪祭りの見学と、お土産の購入?」


 これで、もし魔物退治に出たいなどの答えが出てくれば、全力で止めるつもりではあったものの、どうやら、わりと平和な目的のようだった。そのことに安心しながらも、それでもやはり、カイトお嬢様の外出をライナード様に伝えないというのは難しいと思えた。


(ライナード様には、こっそりお伝えしておいて、護衛をつけてもらうしかない、でしょうか?)


 ライナード様は、きっと、カイトお嬢様に関わる何かがあって、仕事に出るのだ。内容は知らなくとも、もしかしたら、それがカイトお嬢様の危険に繋がるものなのかもしれないくらいの予想はある。外れているのであれば僥倖だが、そうでなければ目も当てられない。


「分かりました。ただし、私の権限で護衛はつけさせていただきますし、変装もしていただきます」

「うん、それで良いよ。ただ、ライナードには絶対内緒な?」

「はい」

(カイトお嬢様を裏切りたくはありませんが、今回は仕方ないですね)


 ライナード様に仕える私達に、その命令は聞けないということにまでは思考が回らなかったらしいカイトお嬢様は、私の答えに満足して、明日の予定を一緒に詰めていくことになるのだった。
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