俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌

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第六章 穏やかな日々

第九十六話 デートのお誘い

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「カイトっ、デートしようっ!」


 ライナードの部屋に向かっていると、扉の外にまで聞こえてきたそれに、俺は思わず立ち止まって声を上げる。


「えっ?」

(今の声、ライナード、だよな?)

「…………カイト、か?」


 扉の向こうで、やけに硬い声で問いかけられた俺は……。


「う、うん」


 返事をした直後、何か物を落としたようなゴンッという音がして、しばらくすると、バタバタとこちらへ走ってくる足音が聞こえ出す。


「カイト!」

「はいっ」


 真っ赤な顔で扉を開けたライナードに叫ばれて、俺は思わず直立不動で返事をする。


(え? いや、ちょっと待てよ? 今、デートって聞こえたような……?)


 ライナードに癒されるつもりが、何だか別の方向に進まないかと思っていると、ライナードは赤い顔のままアワアワし出す。


「カイト、これは、その……えっと、だな……」


 赤くなったり青くなったりするライナードを見ていると、ふいに、ライナードがおでこを擦りむいているのを見つける。


(さっきの音って、もしかして……)


 あの、何か物を落としたような音の正体は、ライナードがおでこをぶつけた音だったのかもしれない。
 挙動不審なライナードにスッと近寄った俺は、ちょっと背伸びをして、ライナードのおでこに手を翳す。


「《光よ》……うん、治ったな」

「カ、イト……」

「うん?」


 名前を呼ばれて前を見れば、ライナードは首から上を茹で蛸のように真っ赤にさせている。そして……。


(あっ……)


 そこでようやく、俺はライナードに近づき過ぎていたことに気づく。距離としては、もうちょっとでキスしそうなほどだ。


「ご、ごめんっ」

「い、や……」


 口元を片手で覆って、俺から目を逸らすライナードに、俺も何だか心臓がバクバクと鳴っていることに気づく。


(う、あ……何だ? これ?)


 顔が火照って、どうにもいたたまれない。それに加えて……。


(デートって……もしかして、俺をデートに誘う練習をしていた、とか?)


 そうだとしたなら、なんて可愛いんだと思ってしまう。それと同時に、胸の奥が奇妙に疼くのが良く分からなくて混乱する。


「えっと、ライナード? デ、デートって……」


 その瞬間、これ以上ないと思っていたライナードの顔の赤みが、一段と増す。


「そ、の……そうっ、一緒に、その、出掛けないかと言おうとしたんだっ」


 そうは言うものの、ライナードの視線はこれでもかというくらいに泳ぎまくっている。やはり、『デート』で間違いなかったらしい。


「外は寒いが、晴れの日が続いていることだし、どこかに出掛けるのも良いんじゃないかと思ってだなっ。ほら、カイトも、屋敷にずっと居るのは退屈だろうっ?」


 珍しく早口でそう言うライナード。


(デート……デート……)


 ただ、俺の頭の中には、先程の言葉がずっと反芻しており、まともには聞こえない。


「プランとしては、メインは天藍劇団の劇を見ることで「劇っ!?」む、そ、そうだ」


 『劇』という言葉に反応した俺に、ライナードはのけ反るようにして肯定してくれる。


(異世界の、劇……)


 演劇部に入っていただけあって、劇を見るのは好きだ。具体的に言うなら、ミュージカルが一番好きなのだが、この際、異世界の劇ならば何でも良い。ぜひとも、その劇を観てみたかった。


「行くっ! いつからだ? 今日? 明日?」

「む、今日は無理だが、明日から開演らしい。明日、行くか?」

「行くっ! ……あっ、でも、ニナが……」


 劇を観られると分かり、興奮していた俺は、ニナのことを思い出して少し落ち着く。
 ニナは、俺達が引き取った形にはなっているものの、まだその魅了の力は脅威として見られており、外出には許可が要る。申請は、一週間前にしなければならないようになっていたはずだ。


「ニナは、屋敷に残るそうだ。ドム爺達も、ニナの面倒はしっかり見ると張り切っていた。だから、その……二人で、観に行かないか?」

「そうなのか? ……分かった。なら、一緒に行こうなっ」


 ニナの心配がないとなれば、何も問題はない。心置きなく、観劇できる。

 少し前にデートという言葉に動揺していたことも忘れて、俺は、明日を楽しみにするのだった。
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