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第五章 お姉様
第八十五話 実験ターイムッ
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謁見の間から退出して、俺はライナードに具体的にはどんな検証をするのかを尋ねてみる。
「む、すまないが、俺にも分からない」
申し訳なさそうにするライナードに、俺は首を横に振って気にするなと伝える。
(ニナのためなら、いくらでも付き合うさ)
そう思いながら、俺達は魔王陛下に指示された中庭へと向かう。
「ひょっひょっひょっ、良く来たなぁ、実験体どもぉ」
「チェンジでっ」
「ひょっ?」
そこに居たのは、明らかなマッドサイエンティスト。爆発でも起こしたかのようなボサボサな黄色の髪に、眼鏡をかけて、白衣を羽織った痩身のその男を見た瞬間、俺はそう宣言していた。
「む、カラクか。なら、安心だな」
「えっ!? どこが!?」
ただ、ライナードは何やらこのマッドな人と面識があったらしく、ウンウンとうなずいている。……発言の内容は、理解できないが……。
「カラク、こちらがカイト。俺の片翼だ」
「ひょーっ! あなたが片翼を持つなんて、これも、研究するべき項目ですかなぁ?」
(ちょっ、ライナード!? この人危険じゃないのか!?)
ライナードは平然と俺を紹介して、カラクという男の発言を聞き流す。
「そして、こっちがニナ。魅了使いだ」
「み・りょ・うっ! なーんて、素敵な響きでしょうっ! さぁさぁ、ニナ嬢お顔をよぉく見せて……へぶっ」
「やっ!」
ニナを良く見ようと近づいたカラクは、涙目のニナに鼻を叩かれて撃沈していた。
「む、確かに、カラクは独特な顔だが、怖くはないぞ?」
「いや、主に性格の方が独特だよなっ!?」
思わずそう突っ込めば、ライナードは何のことかさっぱり、といった様子で首をかしげる。
「まぁ、害はない。俺は、もう一度仕事に戻らないといけないから、ここでカラクに付き合ってやってくれないか?」
「えっ!?」
(俺達、こいつの前に置いていかれるの?)
未だに鼻を押さえてうずくまっているカラクを見る限り、確かに戦闘能力は欠片もなさそうだ。しかし、明らかにその性格はマッドサイエンティストそのもの。恐怖を抱くのも無理はなかった。
「やっ!」
「ひょっ、これが魅了の力だとでもいうのかっ! 可愛いっ!」
(あれ? 案外大丈夫?)
ニナを前に、別の意味で悶絶し始めたカラクは、確かに危険人物っぽいが、そうでもないのかもしれない。
「はっ! ライナード君! そろそろ行かねばならないのではないか?」
「む……残念だが、仕方あるまい。カイト、また後でな?」
「お、おう」
何となくうなずいてしまった俺は、またしても『ひょっひょっひょっ』と笑い出したカラクに戦慄しながらも、覚悟を決めて向き合う。
「さぁっ、まずは何をおいても実験ターイム!」
「所長。まずは自己紹介がふつーでしょうよ?」
と、そんなカラクを見ていると、そこら辺の木の影からひょっこりまた別の人物が現れる。水色のボサボサの髪に、やはり眼鏡をかけた、だらしなさそうな男。しかし、常識はありそうだった。
「ひょ? では、そうだな。私はカラク・デンジャー。実験課所長だっ」
「正式には、魔術検証課所長でしょうよ。あっ、僕は副所長のボック。よろしくねぇ」
「よ、よろしくお願いします」
差し出された手を握り返して、挨拶を終えれば、ニナは警戒しながらジーッと二人を見つめ続ける。
(うん、ニナにとっては不審者でしかないよなぁ)
実験の準備は整っていると言うカラクに強引に連れられて、俺は中庭の中でも開けた場所へと辿り着く。ここなら、走り回っても問題なさそうだ。そして、そこには屈強な男達が十人ほど、ズラリと並んでいた。
「これから始めるのは、魅了の能力確認だっ! 話によると、カイト嬢には魅了を抑える何らかの力が働いているらしいから、その効果範囲の確認も兼ねる」
説明しながら、カラクは伸ばしたメジャーらしきものの端に俺とニナを案内し、そこで止まるように告げる。
「いや、魅了にかかったら不味いんじゃ……」
「ひょーっ、ひょっひょっ。何、問題はないっ! ここには、激辛君昇天錠があるっ! これさえ使えば、魅了された者も元に戻るというものっ! ここに揃えた屈強なる闇魔法耐性保持者達が、魅了された者を拘束し、これを口にぶちこんで救出するという寸法だ!」
(激辛君昇天錠……な、名前がとんでもなくヤバそうなんだけど、死人なんて出ないよな!?)
それを口にするのは自分ではないと分かっていても、ブルリと震えてしまう。
「あっ、しょちょー。僕は、それ口に入れるの勘弁なんで、塔に戻ってますね」
「ひょ? 激辛君昇天錠の素晴らしさが分からないなど、ボックはまだまだだっ。しかぁしっ、私は心が広いから、そのくらいのことは許してやろうっ!」
「あざーすっ」
そうして去っていく常識人ボック。
(えっ? これ、本当に大丈夫っ!?)
「ひょーっ! さぁさぁっ、楽しい実験の始まり始まりぃっ!」
いつの間にか俺に抱きついてきていたニナと一緒に震えながら、俺は、とにかく平穏無事に実験が終わってくれることを祈るのだった。
「む、すまないが、俺にも分からない」
申し訳なさそうにするライナードに、俺は首を横に振って気にするなと伝える。
(ニナのためなら、いくらでも付き合うさ)
そう思いながら、俺達は魔王陛下に指示された中庭へと向かう。
「ひょっひょっひょっ、良く来たなぁ、実験体どもぉ」
「チェンジでっ」
「ひょっ?」
そこに居たのは、明らかなマッドサイエンティスト。爆発でも起こしたかのようなボサボサな黄色の髪に、眼鏡をかけて、白衣を羽織った痩身のその男を見た瞬間、俺はそう宣言していた。
「む、カラクか。なら、安心だな」
「えっ!? どこが!?」
ただ、ライナードは何やらこのマッドな人と面識があったらしく、ウンウンとうなずいている。……発言の内容は、理解できないが……。
「カラク、こちらがカイト。俺の片翼だ」
「ひょーっ! あなたが片翼を持つなんて、これも、研究するべき項目ですかなぁ?」
(ちょっ、ライナード!? この人危険じゃないのか!?)
ライナードは平然と俺を紹介して、カラクという男の発言を聞き流す。
「そして、こっちがニナ。魅了使いだ」
「み・りょ・うっ! なーんて、素敵な響きでしょうっ! さぁさぁ、ニナ嬢お顔をよぉく見せて……へぶっ」
「やっ!」
ニナを良く見ようと近づいたカラクは、涙目のニナに鼻を叩かれて撃沈していた。
「む、確かに、カラクは独特な顔だが、怖くはないぞ?」
「いや、主に性格の方が独特だよなっ!?」
思わずそう突っ込めば、ライナードは何のことかさっぱり、といった様子で首をかしげる。
「まぁ、害はない。俺は、もう一度仕事に戻らないといけないから、ここでカラクに付き合ってやってくれないか?」
「えっ!?」
(俺達、こいつの前に置いていかれるの?)
未だに鼻を押さえてうずくまっているカラクを見る限り、確かに戦闘能力は欠片もなさそうだ。しかし、明らかにその性格はマッドサイエンティストそのもの。恐怖を抱くのも無理はなかった。
「やっ!」
「ひょっ、これが魅了の力だとでもいうのかっ! 可愛いっ!」
(あれ? 案外大丈夫?)
ニナを前に、別の意味で悶絶し始めたカラクは、確かに危険人物っぽいが、そうでもないのかもしれない。
「はっ! ライナード君! そろそろ行かねばならないのではないか?」
「む……残念だが、仕方あるまい。カイト、また後でな?」
「お、おう」
何となくうなずいてしまった俺は、またしても『ひょっひょっひょっ』と笑い出したカラクに戦慄しながらも、覚悟を決めて向き合う。
「さぁっ、まずは何をおいても実験ターイム!」
「所長。まずは自己紹介がふつーでしょうよ?」
と、そんなカラクを見ていると、そこら辺の木の影からひょっこりまた別の人物が現れる。水色のボサボサの髪に、やはり眼鏡をかけた、だらしなさそうな男。しかし、常識はありそうだった。
「ひょ? では、そうだな。私はカラク・デンジャー。実験課所長だっ」
「正式には、魔術検証課所長でしょうよ。あっ、僕は副所長のボック。よろしくねぇ」
「よ、よろしくお願いします」
差し出された手を握り返して、挨拶を終えれば、ニナは警戒しながらジーッと二人を見つめ続ける。
(うん、ニナにとっては不審者でしかないよなぁ)
実験の準備は整っていると言うカラクに強引に連れられて、俺は中庭の中でも開けた場所へと辿り着く。ここなら、走り回っても問題なさそうだ。そして、そこには屈強な男達が十人ほど、ズラリと並んでいた。
「これから始めるのは、魅了の能力確認だっ! 話によると、カイト嬢には魅了を抑える何らかの力が働いているらしいから、その効果範囲の確認も兼ねる」
説明しながら、カラクは伸ばしたメジャーらしきものの端に俺とニナを案内し、そこで止まるように告げる。
「いや、魅了にかかったら不味いんじゃ……」
「ひょーっ、ひょっひょっ。何、問題はないっ! ここには、激辛君昇天錠があるっ! これさえ使えば、魅了された者も元に戻るというものっ! ここに揃えた屈強なる闇魔法耐性保持者達が、魅了された者を拘束し、これを口にぶちこんで救出するという寸法だ!」
(激辛君昇天錠……な、名前がとんでもなくヤバそうなんだけど、死人なんて出ないよな!?)
それを口にするのは自分ではないと分かっていても、ブルリと震えてしまう。
「あっ、しょちょー。僕は、それ口に入れるの勘弁なんで、塔に戻ってますね」
「ひょ? 激辛君昇天錠の素晴らしさが分からないなど、ボックはまだまだだっ。しかぁしっ、私は心が広いから、そのくらいのことは許してやろうっ!」
「あざーすっ」
そうして去っていく常識人ボック。
(えっ? これ、本当に大丈夫っ!?)
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