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第五章 お姉様
第七十三話 運試し
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リュシリーとドム爺が帰らないということは、比較的早い段階で知ることができた。何せ、ノーラがずっと俺から離れないのだ。二人が帰ってきたのであれば、途中でリュシリーと交代したり、ドム爺と業務連絡で話をしていたりするはずなのに、それが一向にない。二人に何かがあって、戻ってこられなかったのは一目瞭然だった。
(いや、まだ、怪我とかしてて、顔を出せないだけっていう可能性もあるか……)
もしかしたら、という思いの下、俺はとうとうノーラに尋ねることにしたのだが、ノーラは言葉を濁しながら、それでも、二人が帰っていないことを告げてくる。
「一晩、待ちましょう」
その言葉に従い、一晩待って……やはり帰らない二人に、俺は不安でいっぱいになる。
(俺が、安易に捜しに行くように言ったから……)
十中八九、ドム爺だけでは対処できない何かがあって、それが今の状況を招いているのだと思えば、俺は罪悪感で押し潰されそうだ。ライナードには、すぐに手紙で知らせはしたものの、今はまだ、返事がない。
(どう、しよう……)
朝日が差し込む部屋で、俺は一人、深い後悔に沈む。
「……お嬢様、カイトお嬢様っ」
「っ、あ……ノーラ……」
「カイトお嬢様。心配なのは分かりますが、しっかりと食事をなさってください」
「う、ん……」
今が食事中だったことをぼんやりと思い出しながら、俺は味のしない食事を口に運ぶ。
(皆で捜しに……いや、でも、もしそれで何かあったら、俺はもっと後悔する)
「カイトお嬢様。本日より、警備を強化いたします。後程、護衛となる者も紹介いたしますので、少々お待ちください」
「警備? 護衛?」
「リュシリーと執事長の行方が知れない今、二人が何者かに利用され、カイトお嬢様に危険が迫ることも考えられます。ですので、ライナード様より警備の強化とカイトお嬢様への護衛をつけることの許可をいただきました」
「ライナードと、話したのか?」
「緊急連絡をいたしましたので、ライナード様もこちらの状況は理解なさっておいでです。本日、休憩時間にこちらにお越しになられるとのことです」
「そっか……」
俺が連絡するまでもなく、もっと確実な手段でノーラはライナードと連絡を取っていた。
(俺、役立たずだなぁ……)
最初から、そんなことは分かっていたはずなのに、今はその事実が重く心にのしかかる。
「また、それらの業務のため、私はしばらくカイトお嬢様のお側を離れることとなります。すぐに新たな侍女を手配いたしますので、しばしお待ちください」
「……分かった」
『新たな侍女』という言葉が、リュシリーが帰らないことをまざまざと突きつけてきて、心が締め付けられるように痛い。
(何か、俺にできることは……)
ノーラが立ち去り、珍しく一人、静かな空間に居ることを新鮮に感じながら、俺は必死に考える。
(……ダメ元で、やってみるか)
そうして、俺は一つだけ思いついたことを実行することにする。
(全て運任せ、なんて、久しぶりだなぁ。これでダメだったら、諦めよう)
とりあえず、ライナードからお小遣いとして渡されたお金を手に持って、ライナードの部屋へと向かう。そして、部屋の真ん中に立つと、おもむろに適当な硬貨を掴み出す。
「右なら表、それ以外なら裏」
俺は、キンッと音を立てて硬貨を弾き、手の甲で受け止めて、そっとその結果を見てみる。
(表……右だな)
トレーニング用の器具とは別に、本棚が置かれている場所。そこに目を向けると、その本棚の前に立つ。
「本棚なら表、それ以外なら裏」
そうして硬貨を再び弾いて確認すれば、今度は裏。
「床なら表、それ以外なら裏」
次は、表だった。そこで、俺は床に敷かれたカーペットを捲って……。
「……本当にあったよ……」
地下へと繋がる隠し通路を見つける。
(隠し通路があるなら、ライナードの部屋だろうと思って、運に任せてみたけど……正解だったかも?)
これで、ドム爺達を捜しに行く準備は整ったと言っても過言ではない。
(……いや、そうだ、着替えよう)
ただ、そのまま進もうとして、自分がドレス姿だったことを思い出した俺は、素早く部屋に戻って、旅をしていた時の動きやすいズボンスタイルに着替えると、誰にも気づかれないうちに、さっさと隠し通路へ入り込むのだった。
(いや、まだ、怪我とかしてて、顔を出せないだけっていう可能性もあるか……)
もしかしたら、という思いの下、俺はとうとうノーラに尋ねることにしたのだが、ノーラは言葉を濁しながら、それでも、二人が帰っていないことを告げてくる。
「一晩、待ちましょう」
その言葉に従い、一晩待って……やはり帰らない二人に、俺は不安でいっぱいになる。
(俺が、安易に捜しに行くように言ったから……)
十中八九、ドム爺だけでは対処できない何かがあって、それが今の状況を招いているのだと思えば、俺は罪悪感で押し潰されそうだ。ライナードには、すぐに手紙で知らせはしたものの、今はまだ、返事がない。
(どう、しよう……)
朝日が差し込む部屋で、俺は一人、深い後悔に沈む。
「……お嬢様、カイトお嬢様っ」
「っ、あ……ノーラ……」
「カイトお嬢様。心配なのは分かりますが、しっかりと食事をなさってください」
「う、ん……」
今が食事中だったことをぼんやりと思い出しながら、俺は味のしない食事を口に運ぶ。
(皆で捜しに……いや、でも、もしそれで何かあったら、俺はもっと後悔する)
「カイトお嬢様。本日より、警備を強化いたします。後程、護衛となる者も紹介いたしますので、少々お待ちください」
「警備? 護衛?」
「リュシリーと執事長の行方が知れない今、二人が何者かに利用され、カイトお嬢様に危険が迫ることも考えられます。ですので、ライナード様より警備の強化とカイトお嬢様への護衛をつけることの許可をいただきました」
「ライナードと、話したのか?」
「緊急連絡をいたしましたので、ライナード様もこちらの状況は理解なさっておいでです。本日、休憩時間にこちらにお越しになられるとのことです」
「そっか……」
俺が連絡するまでもなく、もっと確実な手段でノーラはライナードと連絡を取っていた。
(俺、役立たずだなぁ……)
最初から、そんなことは分かっていたはずなのに、今はその事実が重く心にのしかかる。
「また、それらの業務のため、私はしばらくカイトお嬢様のお側を離れることとなります。すぐに新たな侍女を手配いたしますので、しばしお待ちください」
「……分かった」
『新たな侍女』という言葉が、リュシリーが帰らないことをまざまざと突きつけてきて、心が締め付けられるように痛い。
(何か、俺にできることは……)
ノーラが立ち去り、珍しく一人、静かな空間に居ることを新鮮に感じながら、俺は必死に考える。
(……ダメ元で、やってみるか)
そうして、俺は一つだけ思いついたことを実行することにする。
(全て運任せ、なんて、久しぶりだなぁ。これでダメだったら、諦めよう)
とりあえず、ライナードからお小遣いとして渡されたお金を手に持って、ライナードの部屋へと向かう。そして、部屋の真ん中に立つと、おもむろに適当な硬貨を掴み出す。
「右なら表、それ以外なら裏」
俺は、キンッと音を立てて硬貨を弾き、手の甲で受け止めて、そっとその結果を見てみる。
(表……右だな)
トレーニング用の器具とは別に、本棚が置かれている場所。そこに目を向けると、その本棚の前に立つ。
「本棚なら表、それ以外なら裏」
そうして硬貨を再び弾いて確認すれば、今度は裏。
「床なら表、それ以外なら裏」
次は、表だった。そこで、俺は床に敷かれたカーペットを捲って……。
「……本当にあったよ……」
地下へと繋がる隠し通路を見つける。
(隠し通路があるなら、ライナードの部屋だろうと思って、運に任せてみたけど……正解だったかも?)
これで、ドム爺達を捜しに行く準備は整ったと言っても過言ではない。
(……いや、そうだ、着替えよう)
ただ、そのまま進もうとして、自分がドレス姿だったことを思い出した俺は、素早く部屋に戻って、旅をしていた時の動きやすいズボンスタイルに着替えると、誰にも気づかれないうちに、さっさと隠し通路へ入り込むのだった。
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