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第五章 お姉様
第七十一話 進まない調査(ライナード視点)
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カイトを守るためだったとはいえ、言い過ぎたかもしれない。
それに気づいたのは、こっそり会話を聞いていたドム爺にどやされたからだ。
「全く、情けない。あれでは役立たずだと言っているようなものではありませんかっ。少しは言葉を選ぶことを覚えてください」
「む……」
そんなつもりはなかった。しかし、きっとカイトはそう捉えているのだと思えば、早急に何とかしなくてはと考える。
不幸なことに、すでに仕事のための迎えが来ている。カイトのことを一番に想っていても、これ以上仕事を放置するわけにもいかない。
「転移ポストをお持ちになってください。そして、カイトお嬢様へ手紙を書くのです」
そうして転移ポストを押し付けられた俺は、魅了使いの捜索に駆り出されるのだった。
「……む、やはり、ダメだったか……」
「はい、追跡用の魔法具はことごとく破壊されている模様です」
俺がまず行ったのは、魅了にかかったとされる者の伴侶が持っているであろう、追跡用の魔法具で彼らを捜すことだった。
必ず、というわけではないが、魔族は片翼に対する執着心を拗らせて、常に居場所を把握できる魔法具を相手に持たせていることが多々ある。今回もそれは例外ではなく、リドルはレティシアにいくつかの魔法具を持たせているようだったのだが……。
(相手は、魔族なのだろうか?)
魔法具を壊すということは、追跡用の魔法具を持っているということを魅了使いが知っている可能性が出てくる。もちろん、魅了にかかった本人が、何らかの理由で壊した可能性もあるから一概には言えないが、そうした可能性を考えておくことは大切だ。
(姉上は……まだしばらく目覚めないだろうしな)
唯一、魅了使いの姿を目にしているはずの姉上は未だに眠り続けている。精神的なショックに加えて、魔力の暴走まで起こしたのだ。最短でも三日……下手をすれば、一週間は目覚めないままであってもおかしくはない。
(できれば、姉上が目覚める前に解決したいところだが……)
カイトから聞いた話では、魅了使いは女だと言う。女であり、フィロとレティシアが魅了されたことから、男も女も性の対象らしいということしか分からない。
(そんなの、魔族ならば山ほど居るだろうしな)
基本的に、魔族は相手がどちらの性であっても気にすることはない。何せ、片翼が必ずしも異性とは限らないのだ。厳しい貴族家や王族なんかは、片翼が同性であった場合、子孫を残すために片翼ではない者にその子種を求めるなり孕ませるなりをすることもあるが、片翼が異性であればそんなことはしないし、王族はともかくとして、貴族であれば他の兄弟姉妹に家督を譲ってその役目を降りるくらいのことはする。
「とにかく聞き込みだ。各自、警戒しながら情報を集めろ」
「「「はっ」」」
今、俺が率いているのは、闇魔法への耐性が特に強い者達だ。その中には、強力な光魔法の使い手も居るが、調査だけなら光魔法は必要ない。必要になってくるのは、実際に魅了使いと対峙した時だ。
それから、俺達はほぼ一日中駆け回り、情報を集め続けた。
(む……やはり、すぐには情報は集まらないか……)
別の者に一度指揮を任せて、街の宿屋で休憩に入った俺は、全く集まる様子のない情報に苛立つ。友を、姉上を、狂う一歩手前まで追い詰めた相手が憎いというのもあるが、カイトに会えない時間が長くなるというのも耐え難いことだった。
(そうだ、手紙……)
そこで、俺はドム爺に渡された転移ポストへと目を向ける。
(俺が書くのは、貴族の招待状への返信とか、礼状とかくらいだったから……ラブレターというやつは初めてだな)
しばらく俺は、必死に考えながら文章を認める。すぐに帰りたい気持ちが抑えられず、『すぐに解決して戻る』と書いたが、本当に帰れる日はいつになるのか、心配でたまらない。
(あまりにも時間がかかるようだったら、休憩時間、少しだけでもカイトの側にいきたいものだ……)
そう思いながら、俺は転移ポストに手紙を置き、魔力を流してそれが送られるのを見送る。
(返事を、書いてくれるだろうか?)
もしかしたら、俺の発言に怒って、返事をしてくれないかもしれないと思えば、沈んでいた気持ちがさらに沈む。そうして、休憩を終えた俺は再び実りのない調査に乗り出して……また戻ってきた時に、森柄の封筒が転移ポストの中にあるのを確認して、狂喜乱舞するのだった。
それに気づいたのは、こっそり会話を聞いていたドム爺にどやされたからだ。
「全く、情けない。あれでは役立たずだと言っているようなものではありませんかっ。少しは言葉を選ぶことを覚えてください」
「む……」
そんなつもりはなかった。しかし、きっとカイトはそう捉えているのだと思えば、早急に何とかしなくてはと考える。
不幸なことに、すでに仕事のための迎えが来ている。カイトのことを一番に想っていても、これ以上仕事を放置するわけにもいかない。
「転移ポストをお持ちになってください。そして、カイトお嬢様へ手紙を書くのです」
そうして転移ポストを押し付けられた俺は、魅了使いの捜索に駆り出されるのだった。
「……む、やはり、ダメだったか……」
「はい、追跡用の魔法具はことごとく破壊されている模様です」
俺がまず行ったのは、魅了にかかったとされる者の伴侶が持っているであろう、追跡用の魔法具で彼らを捜すことだった。
必ず、というわけではないが、魔族は片翼に対する執着心を拗らせて、常に居場所を把握できる魔法具を相手に持たせていることが多々ある。今回もそれは例外ではなく、リドルはレティシアにいくつかの魔法具を持たせているようだったのだが……。
(相手は、魔族なのだろうか?)
魔法具を壊すということは、追跡用の魔法具を持っているということを魅了使いが知っている可能性が出てくる。もちろん、魅了にかかった本人が、何らかの理由で壊した可能性もあるから一概には言えないが、そうした可能性を考えておくことは大切だ。
(姉上は……まだしばらく目覚めないだろうしな)
唯一、魅了使いの姿を目にしているはずの姉上は未だに眠り続けている。精神的なショックに加えて、魔力の暴走まで起こしたのだ。最短でも三日……下手をすれば、一週間は目覚めないままであってもおかしくはない。
(できれば、姉上が目覚める前に解決したいところだが……)
カイトから聞いた話では、魅了使いは女だと言う。女であり、フィロとレティシアが魅了されたことから、男も女も性の対象らしいということしか分からない。
(そんなの、魔族ならば山ほど居るだろうしな)
基本的に、魔族は相手がどちらの性であっても気にすることはない。何せ、片翼が必ずしも異性とは限らないのだ。厳しい貴族家や王族なんかは、片翼が同性であった場合、子孫を残すために片翼ではない者にその子種を求めるなり孕ませるなりをすることもあるが、片翼が異性であればそんなことはしないし、王族はともかくとして、貴族であれば他の兄弟姉妹に家督を譲ってその役目を降りるくらいのことはする。
「とにかく聞き込みだ。各自、警戒しながら情報を集めろ」
「「「はっ」」」
今、俺が率いているのは、闇魔法への耐性が特に強い者達だ。その中には、強力な光魔法の使い手も居るが、調査だけなら光魔法は必要ない。必要になってくるのは、実際に魅了使いと対峙した時だ。
それから、俺達はほぼ一日中駆け回り、情報を集め続けた。
(む……やはり、すぐには情報は集まらないか……)
別の者に一度指揮を任せて、街の宿屋で休憩に入った俺は、全く集まる様子のない情報に苛立つ。友を、姉上を、狂う一歩手前まで追い詰めた相手が憎いというのもあるが、カイトに会えない時間が長くなるというのも耐え難いことだった。
(そうだ、手紙……)
そこで、俺はドム爺に渡された転移ポストへと目を向ける。
(俺が書くのは、貴族の招待状への返信とか、礼状とかくらいだったから……ラブレターというやつは初めてだな)
しばらく俺は、必死に考えながら文章を認める。すぐに帰りたい気持ちが抑えられず、『すぐに解決して戻る』と書いたが、本当に帰れる日はいつになるのか、心配でたまらない。
(あまりにも時間がかかるようだったら、休憩時間、少しだけでもカイトの側にいきたいものだ……)
そう思いながら、俺は転移ポストに手紙を置き、魔力を流してそれが送られるのを見送る。
(返事を、書いてくれるだろうか?)
もしかしたら、俺の発言に怒って、返事をしてくれないかもしれないと思えば、沈んでいた気持ちがさらに沈む。そうして、休憩を終えた俺は再び実りのない調査に乗り出して……また戻ってきた時に、森柄の封筒が転移ポストの中にあるのを確認して、狂喜乱舞するのだった。
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