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第四章 隠し事
閑話 酷い悪夢
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「分かった、カイト。俺が性転換しよう」
そう言ったライナードに、俺はゴクリと唾を飲み込む。いよいよこの時が来た。そう思って、少し緊張気味だ。
ライナードは、俺の目の前で仁王立ちして、ゆっくり息を調える。そして……。
「行くぞっ」
そう言った瞬間、ライナードは眩い光に飲み込まれて……次に目を開けると、そこには、強面な顔に、真っ赤な唇、薄く染まった頬、バッチリおめめに紫のアイシャドウが施された瞼、体格はほとんど変化なく、ただ、胸だけはこれでもかと強調されている。いつの間にか、その服は格好いい騎士服から、ヒラッヒラのショッキングピンクのドレスに様変わりし、恐ろしく、目に毒だ。
「愛してるわ、カイト」
そして、男にしては高過ぎるその声で愛を囁かれた瞬間……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」
思わず悲鳴を上げた。
「カイト!? どうした!?」
そして、次の瞬間、部屋に飛び込んできたいつものライナードの姿に、俺は混乱する。
「あれ? ライナード? あれ? えっ?」
汗だくの中、布団を握り締めた俺は、そこでまた、疑問を抱く。
(布団?)
そして、ライナードが俺を抱き締める中、ようやく、先程の光景が夢なのだと思い至る。
「ゆ、め……」
「カイト、大丈夫か? 何か暖かい飲み物でも持ってこようか?」
「良かった、本当に、夢で、良かった……」
ライナードの言葉は耳に入っていない。ただ、俺は、先程の悪夢が、悪夢であって良かったと、心底安心する。
「カイト……すぐ、飲み物を用意してくる」
しかし、そう言って立ち去ろうとしたライナードを前に、俺は、慌ててその袖をギュッと掴む。
「待ってっ、行かないでっ」
今は、今だけは、ダメだ。ちゃんと、ライナードの顔を見て、安心していたい。あれは、ただの悪夢だったのだと実感したい。
「顔、見せて」
「む……?」
何が何だか分からないといった様子のライナードを、とりあえずそこに座らせて、じっくりとその顔を観察する。
(唇、真っ赤じゃない。頬も、赤くない。目も、普通通り。アイシャドウなんて、ない。胸も、ない。ドレスも、着てない。声も、いつも通り……良かった、ライナードだ)
じっと顔を見つめていると、だんだんとライナードの顔が赤くなってきてはいたものの、これは、化粧で赤くなっているわけじゃないので大丈夫だ。
「カ、カイト?」
「うん、ありがとう。ライナードの顔を見たら、落ち着いた」
「そ、そうか」
耳まで赤くなったライナードを不審に思いながらも、俺はようやく落ち着きを取り戻す。
(うん、あれは、悪い夢でしかなかったんだ。本当に性転換の魔法を使っても……使ったら……あれ? ああならない保証ってあるのか?)
そう考えた瞬間、俺は一気に悪寒に襲われる。
「カイト?」
「なぁ、ライナード、性転換の魔法をライナードが使ったとしたら……どんな姿になるんだ?」
そう尋ねながらも、聞きたいような聞きたくないようなといった感情が胸に渦巻く。
「む、使ったことがないから分からないが、使った者の著書では、もしその性別で生まれていたらとっていたであろう姿、となっていたな」
「じ、じゃあ、色々、怖いことにはならない?」
「怖いこと? 特に怖いことはないと思うが……」
「そうか、良かった……」
(正夢じゃなかった)
先程の夢が、本当にただの悪夢だと確信して、俺は脱力する。
「……カイト、朝食は、ここに運んでもらうか?」
「いや、一緒に食べるよ」
どこか心配そうなライナードに、俺は安心してもらえるように微笑みかけると、布団から出て……。
「あっ、着替え……」
「外で待ってる」
ネグリジェ姿だったことを思い出した俺は、ライナードが廊下に出ている間、もう慣れ始めたワンピースを着て、身支度を整えて、出るのだった。
そう言ったライナードに、俺はゴクリと唾を飲み込む。いよいよこの時が来た。そう思って、少し緊張気味だ。
ライナードは、俺の目の前で仁王立ちして、ゆっくり息を調える。そして……。
「行くぞっ」
そう言った瞬間、ライナードは眩い光に飲み込まれて……次に目を開けると、そこには、強面な顔に、真っ赤な唇、薄く染まった頬、バッチリおめめに紫のアイシャドウが施された瞼、体格はほとんど変化なく、ただ、胸だけはこれでもかと強調されている。いつの間にか、その服は格好いい騎士服から、ヒラッヒラのショッキングピンクのドレスに様変わりし、恐ろしく、目に毒だ。
「愛してるわ、カイト」
そして、男にしては高過ぎるその声で愛を囁かれた瞬間……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」
思わず悲鳴を上げた。
「カイト!? どうした!?」
そして、次の瞬間、部屋に飛び込んできたいつものライナードの姿に、俺は混乱する。
「あれ? ライナード? あれ? えっ?」
汗だくの中、布団を握り締めた俺は、そこでまた、疑問を抱く。
(布団?)
そして、ライナードが俺を抱き締める中、ようやく、先程の光景が夢なのだと思い至る。
「ゆ、め……」
「カイト、大丈夫か? 何か暖かい飲み物でも持ってこようか?」
「良かった、本当に、夢で、良かった……」
ライナードの言葉は耳に入っていない。ただ、俺は、先程の悪夢が、悪夢であって良かったと、心底安心する。
「カイト……すぐ、飲み物を用意してくる」
しかし、そう言って立ち去ろうとしたライナードを前に、俺は、慌ててその袖をギュッと掴む。
「待ってっ、行かないでっ」
今は、今だけは、ダメだ。ちゃんと、ライナードの顔を見て、安心していたい。あれは、ただの悪夢だったのだと実感したい。
「顔、見せて」
「む……?」
何が何だか分からないといった様子のライナードを、とりあえずそこに座らせて、じっくりとその顔を観察する。
(唇、真っ赤じゃない。頬も、赤くない。目も、普通通り。アイシャドウなんて、ない。胸も、ない。ドレスも、着てない。声も、いつも通り……良かった、ライナードだ)
じっと顔を見つめていると、だんだんとライナードの顔が赤くなってきてはいたものの、これは、化粧で赤くなっているわけじゃないので大丈夫だ。
「カ、カイト?」
「うん、ありがとう。ライナードの顔を見たら、落ち着いた」
「そ、そうか」
耳まで赤くなったライナードを不審に思いながらも、俺はようやく落ち着きを取り戻す。
(うん、あれは、悪い夢でしかなかったんだ。本当に性転換の魔法を使っても……使ったら……あれ? ああならない保証ってあるのか?)
そう考えた瞬間、俺は一気に悪寒に襲われる。
「カイト?」
「なぁ、ライナード、性転換の魔法をライナードが使ったとしたら……どんな姿になるんだ?」
そう尋ねながらも、聞きたいような聞きたくないようなといった感情が胸に渦巻く。
「む、使ったことがないから分からないが、使った者の著書では、もしその性別で生まれていたらとっていたであろう姿、となっていたな」
「じ、じゃあ、色々、怖いことにはならない?」
「怖いこと? 特に怖いことはないと思うが……」
「そうか、良かった……」
(正夢じゃなかった)
先程の夢が、本当にただの悪夢だと確信して、俺は脱力する。
「……カイト、朝食は、ここに運んでもらうか?」
「いや、一緒に食べるよ」
どこか心配そうなライナードに、俺は安心してもらえるように微笑みかけると、布団から出て……。
「あっ、着替え……」
「外で待ってる」
ネグリジェ姿だったことを思い出した俺は、ライナードが廊下に出ている間、もう慣れ始めたワンピースを着て、身支度を整えて、出るのだった。
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