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第四章 隠し事
第四十六話 できること(ライナード視点)
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カイトが、ルティアス達の片翼に連れ去られた。それはもう、見事な笑顔で、『海斗は、わたくし達と話したいのです。まさか、邪魔をするようなことはなさいませんよね?』と告げたルティアスの片翼に、俺は完敗した。カイトの望みを無視することなど、俺には、できない。
「カイト……」
「ライナード坊っちゃん。先程から、鳴き声がカイトお嬢様のお名前になっておられますよ?」
「カイト……」
「……これは、重症です」
とりあえずフラフラと入り込んだぬいぐるみ部屋。そこで、椅子に座る俺の側で、ドム爺とノーラが何か言っているが、今はとにかく、カイトに会いたくて仕方がない。カイトと離れることがこれほどまでに不安を煽るなんて、考えてもみなかった。
「ライナード坊っちゃん。カイトお嬢様のために、何かを作って差し上げるのはいかがでしょうか? そうすれば、少しは気が紛れるかと存じますが……」
「カイト……」
「ダメです。執事長。ここは、首筋を斜め四十五度でチョップするとかしないと、ライナード様は動きそうにありません」
「ノーラ、滅多なことを言うんじゃありません。それは、敵を気絶させる方法でしょうが」
「大丈夫です。ライナード様なら、ちょっと正気に戻る程度の威力でしかありません」
「それは……確かにそうかもしれませんが……」
ドム爺とノーラの話がどんどん物騒になっていることにも気づかずに、俺はカイトと話したことを思い返す。
(カイトは、元の世界で死んだことになっている、か……)
きっと、そこには家族が居ただろう。友が居ただろう。……もしかしたら、想い人に近い者も居たかもしれない。
(カイトは、やはり、帰りたいのだろう、な……)
カイトは、諦めるようなことを口にしていたものの、簡単に諦められるようなものではないだろう。俺がカイトのためにできることは、カイトが元の世界に戻れる方法を探すこと。
(元の世界に帰ったら、もう、会えない、のか……?)
きっと、それが正しいことだと分かっていながらも、俺は、胸が苦しくて苦しくて仕方がなかった。
「カイト……」
「失礼します。ライナード様っ」
その言葉とともに、何やら首に衝撃を感じたものの、俺の心にあることはただ一つ。
「カイト……」
「くっ、ダメです。執事長っ! ライナード様に効果が出ませんっ!」
「何とっ! ライナード坊っちゃんがここまでカイトお嬢様を想い続けるなんて……」
カイト達のお茶会は、きっと数時間は続くだろう。
(今は、その時間が千年にも感じられる……)
そう考えながら、俺はノロノロと立ち上がる。
「ライナード様?」
「坊っちゃん?」
とにかく、カイトのためにできることは、城の図書室にでも行って、書物を漁ることくらいだろう。あそこならば、異世界に関する文献があってもおかしくはない。
「城に、行く」
「っ、すぐに馬車の手配を致します!」
ビシッと敬礼でもしそうな様子のドム爺が、ノーラを伴って立ち去っていく。
「カイトを帰すために、努力しなければ……」
それが例え、俺と別れるということだったとしても、俺は、カイトの幸せを願いたい。
(ルティアスにも、情報収集を頼むか?)
ルティアスの家系は、諜報に長けたものだ。もしかしたら、他国にカイトを帰す手段が伝わっているかもしれない。
できることは何でもしよう。そうして、例え、最終的にカイトと離れることになろうとも、俺は涙を見せることなく、しっかりと送り出してやろう。それがきっと、カイトのためなのだから……。
ズキズキと痛む胸を無視して、俺は、ドム爺達が用意してくれた馬車に乗り込み、城へと向かうのだった。
「カイト……」
「ライナード坊っちゃん。先程から、鳴き声がカイトお嬢様のお名前になっておられますよ?」
「カイト……」
「……これは、重症です」
とりあえずフラフラと入り込んだぬいぐるみ部屋。そこで、椅子に座る俺の側で、ドム爺とノーラが何か言っているが、今はとにかく、カイトに会いたくて仕方がない。カイトと離れることがこれほどまでに不安を煽るなんて、考えてもみなかった。
「ライナード坊っちゃん。カイトお嬢様のために、何かを作って差し上げるのはいかがでしょうか? そうすれば、少しは気が紛れるかと存じますが……」
「カイト……」
「ダメです。執事長。ここは、首筋を斜め四十五度でチョップするとかしないと、ライナード様は動きそうにありません」
「ノーラ、滅多なことを言うんじゃありません。それは、敵を気絶させる方法でしょうが」
「大丈夫です。ライナード様なら、ちょっと正気に戻る程度の威力でしかありません」
「それは……確かにそうかもしれませんが……」
ドム爺とノーラの話がどんどん物騒になっていることにも気づかずに、俺はカイトと話したことを思い返す。
(カイトは、元の世界で死んだことになっている、か……)
きっと、そこには家族が居ただろう。友が居ただろう。……もしかしたら、想い人に近い者も居たかもしれない。
(カイトは、やはり、帰りたいのだろう、な……)
カイトは、諦めるようなことを口にしていたものの、簡単に諦められるようなものではないだろう。俺がカイトのためにできることは、カイトが元の世界に戻れる方法を探すこと。
(元の世界に帰ったら、もう、会えない、のか……?)
きっと、それが正しいことだと分かっていながらも、俺は、胸が苦しくて苦しくて仕方がなかった。
「カイト……」
「失礼します。ライナード様っ」
その言葉とともに、何やら首に衝撃を感じたものの、俺の心にあることはただ一つ。
「カイト……」
「くっ、ダメです。執事長っ! ライナード様に効果が出ませんっ!」
「何とっ! ライナード坊っちゃんがここまでカイトお嬢様を想い続けるなんて……」
カイト達のお茶会は、きっと数時間は続くだろう。
(今は、その時間が千年にも感じられる……)
そう考えながら、俺はノロノロと立ち上がる。
「ライナード様?」
「坊っちゃん?」
とにかく、カイトのためにできることは、城の図書室にでも行って、書物を漁ることくらいだろう。あそこならば、異世界に関する文献があってもおかしくはない。
「城に、行く」
「っ、すぐに馬車の手配を致します!」
ビシッと敬礼でもしそうな様子のドム爺が、ノーラを伴って立ち去っていく。
「カイトを帰すために、努力しなければ……」
それが例え、俺と別れるということだったとしても、俺は、カイトの幸せを願いたい。
(ルティアスにも、情報収集を頼むか?)
ルティアスの家系は、諜報に長けたものだ。もしかしたら、他国にカイトを帰す手段が伝わっているかもしれない。
できることは何でもしよう。そうして、例え、最終的にカイトと離れることになろうとも、俺は涙を見せることなく、しっかりと送り出してやろう。それがきっと、カイトのためなのだから……。
ズキズキと痛む胸を無視して、俺は、ドム爺達が用意してくれた馬車に乗り込み、城へと向かうのだった。
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