41 / 121
第三章 閉ざされた心
第四十一話 莉菜ちゃん
しおりを挟む
目が覚める前の記憶は……しっかりとあった。何かに顔を覆われて、意識を失ったかと思えば、見たくないものを見せられ、聞きたくないことを聞かされた。
(あれは……本当のこと?)
もう、元の世界に帰れないということ。俺が、元の世界では死んだことになっているということ。ライナードが、俺に迷惑をしているということ。
(……でも、ライナードだけは、味方であってほしい……)
ようやく俺から離れたものの、グズグズの顔になって男泣きをするライナードが、俺を面倒に思っているだなんて思いたくない。
「さて、とりあえずは落ち着きましたわね?」
(えっ? いや、どこが?)
ライナードは未だにオンオンと泣いている。俺からは離れてくれたものの、それはルティアスさんともう一人の魔族の男性がひっぺがしてくれたからであって、二人が離せばすぐにでも俺はライナードの腕の中に閉じ込められるだろう状況だった。
「えっと……」
ただ、そう頭の中で突っ込みながらも、俺は目の前の、紺碧の長髪に紅の瞳、玉のように白い肌と、ボンキュッボンの我が儘ボディを持つつり目な美少女を前に困惑する。
(莉菜ちゃんらしき人の声って……この人……?)
見たことのない美少女を前に、莉菜ちゃんという存在が頭の中で霞んでしまう。
「さて、まずは自己紹介といきましょう。わたくしは、リリス・バルトランと申します。そこのルティアスの片翼で、妻で……恐らく、前世は海斗が話していた莉菜ちゃんです」
「そっかー……えっ? 莉菜ちゃん!?」
ぼんやりとリリスさんの言葉を受け入れるところだった俺は、信じられない言葉が出てきて思わず目を剥く。
「証拠といたしましては……そうですわね。小六の夏、海斗は海水浴「わーっわーっ、分かったからっ! それは、絶対に言うな!」分かっていただけて幸いですわ」
恐ろしい黒歴史を暴露されそうになったのを明確に察知した俺は、目の前の美少女がどんなに日本の莉菜ちゃんと似ても似つかない姿でも、本人であると受け入れる。
「でも、何で『恐らく』なんて言ったんだよ」
『恐らく』どころか、『確実に』この目の前のリリスさんには莉菜ちゃんの記憶がある。あの黒歴史を知るのは、俺と、莉菜ちゃん、後は、海里だけなのだから……。
「それが……わたくし、前世での自分の名前だけが、どうしても思い出せませんでしたの。あぁ、名字だけは覚えている、というより、家族の名前から推測できた状態ではありますが……。わたくしの名前は、木ノ下莉菜であってますの?」
「えっ? あっ、うん」
美少女の困り顔に、少し呆けていると、そんなことを尋ねられてしっかりとうなずく。
(しっかりしろ、海斗。あれは莉菜ちゃん。莉菜ちゃんといえば……よしっ、思い出したくないから、記憶に蓋をしようっ)
俺よりもよっぽどか男らしくて強かった莉菜ちゃんを思い出して、俺は強烈な記憶達を封じ込める。
「そうですか。やっと、自分の名前が分かって、すっきりしましたわ」
そう言いながら、リリスさんは自己紹介の続きとばかりに、『夫のルティアスですわ』とか、『ルティアスやライナードの同僚であり友人のジェド・オブリコさんと、その片翼のローレル・オブリコさんですわ』と続けて紹介していく。
「はぅ、美少女二人のツーショット……ジェド様っ、私、幸せ」
「ローレルが幸せなら、僕も嬉しい」
そして、ローレルさんにはあまり近づかないでおこうと、密かに決意する。何やら、危険な臭いがするのだ。
「ちなみに、ローレルさんも転生者ですわ」
「はいっ、前世、秋月紫乃、女子大生でした」
しかし、リリスさんの一言によって、関わりを持たないという選択肢は消える。日本人仲間なら、帰る手段について何かを知っているかもしれないからだ。
(もう、帰る手段なんてないのかもしれないけど……)
それでも、どうしても、聞きたい。聞くことだけは、罪ではないはずだった。
「えっと」
「海斗とは色々と、色々と、話したいことはありますが、そろそろわたくし達はお暇させていただきますわ」
「えっ?」
『色々と』を強調したリリスさんに、薄ら寒いものを感じながらも、なぜもう行ってしまうのかと疑問を投げかける。すると、直後、リリスさんに呆れたような顔をされてしまう。
「海斗は、ずっと眠っていましたのよ? それも、一週間以上。食事を摂ったり、リハビリしたりする時間が必要でしょう?」
『それに、ライナードさんと話す時間も』と告げたリリスさんに、俺は、自分がそんなに眠っていたのかと驚く。
「ですので、また海斗の体調が戻ったら訪ねてきますわ。今は、しっかり休みなさい」
「分かった」
そうして、俺はリリスさんに言われるがまま、食事を摂り、少しずつ体を動かすようにしていくのだった。
(あれは……本当のこと?)
もう、元の世界に帰れないということ。俺が、元の世界では死んだことになっているということ。ライナードが、俺に迷惑をしているということ。
(……でも、ライナードだけは、味方であってほしい……)
ようやく俺から離れたものの、グズグズの顔になって男泣きをするライナードが、俺を面倒に思っているだなんて思いたくない。
「さて、とりあえずは落ち着きましたわね?」
(えっ? いや、どこが?)
ライナードは未だにオンオンと泣いている。俺からは離れてくれたものの、それはルティアスさんともう一人の魔族の男性がひっぺがしてくれたからであって、二人が離せばすぐにでも俺はライナードの腕の中に閉じ込められるだろう状況だった。
「えっと……」
ただ、そう頭の中で突っ込みながらも、俺は目の前の、紺碧の長髪に紅の瞳、玉のように白い肌と、ボンキュッボンの我が儘ボディを持つつり目な美少女を前に困惑する。
(莉菜ちゃんらしき人の声って……この人……?)
見たことのない美少女を前に、莉菜ちゃんという存在が頭の中で霞んでしまう。
「さて、まずは自己紹介といきましょう。わたくしは、リリス・バルトランと申します。そこのルティアスの片翼で、妻で……恐らく、前世は海斗が話していた莉菜ちゃんです」
「そっかー……えっ? 莉菜ちゃん!?」
ぼんやりとリリスさんの言葉を受け入れるところだった俺は、信じられない言葉が出てきて思わず目を剥く。
「証拠といたしましては……そうですわね。小六の夏、海斗は海水浴「わーっわーっ、分かったからっ! それは、絶対に言うな!」分かっていただけて幸いですわ」
恐ろしい黒歴史を暴露されそうになったのを明確に察知した俺は、目の前の美少女がどんなに日本の莉菜ちゃんと似ても似つかない姿でも、本人であると受け入れる。
「でも、何で『恐らく』なんて言ったんだよ」
『恐らく』どころか、『確実に』この目の前のリリスさんには莉菜ちゃんの記憶がある。あの黒歴史を知るのは、俺と、莉菜ちゃん、後は、海里だけなのだから……。
「それが……わたくし、前世での自分の名前だけが、どうしても思い出せませんでしたの。あぁ、名字だけは覚えている、というより、家族の名前から推測できた状態ではありますが……。わたくしの名前は、木ノ下莉菜であってますの?」
「えっ? あっ、うん」
美少女の困り顔に、少し呆けていると、そんなことを尋ねられてしっかりとうなずく。
(しっかりしろ、海斗。あれは莉菜ちゃん。莉菜ちゃんといえば……よしっ、思い出したくないから、記憶に蓋をしようっ)
俺よりもよっぽどか男らしくて強かった莉菜ちゃんを思い出して、俺は強烈な記憶達を封じ込める。
「そうですか。やっと、自分の名前が分かって、すっきりしましたわ」
そう言いながら、リリスさんは自己紹介の続きとばかりに、『夫のルティアスですわ』とか、『ルティアスやライナードの同僚であり友人のジェド・オブリコさんと、その片翼のローレル・オブリコさんですわ』と続けて紹介していく。
「はぅ、美少女二人のツーショット……ジェド様っ、私、幸せ」
「ローレルが幸せなら、僕も嬉しい」
そして、ローレルさんにはあまり近づかないでおこうと、密かに決意する。何やら、危険な臭いがするのだ。
「ちなみに、ローレルさんも転生者ですわ」
「はいっ、前世、秋月紫乃、女子大生でした」
しかし、リリスさんの一言によって、関わりを持たないという選択肢は消える。日本人仲間なら、帰る手段について何かを知っているかもしれないからだ。
(もう、帰る手段なんてないのかもしれないけど……)
それでも、どうしても、聞きたい。聞くことだけは、罪ではないはずだった。
「えっと」
「海斗とは色々と、色々と、話したいことはありますが、そろそろわたくし達はお暇させていただきますわ」
「えっ?」
『色々と』を強調したリリスさんに、薄ら寒いものを感じながらも、なぜもう行ってしまうのかと疑問を投げかける。すると、直後、リリスさんに呆れたような顔をされてしまう。
「海斗は、ずっと眠っていましたのよ? それも、一週間以上。食事を摂ったり、リハビリしたりする時間が必要でしょう?」
『それに、ライナードさんと話す時間も』と告げたリリスさんに、俺は、自分がそんなに眠っていたのかと驚く。
「ですので、また海斗の体調が戻ったら訪ねてきますわ。今は、しっかり休みなさい」
「分かった」
そうして、俺はリリスさんに言われるがまま、食事を摂り、少しずつ体を動かすようにしていくのだった。
21
お気に入りに追加
2,088
あなたにおすすめの小説
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
なんでそんなに婚約者が嫌いなのかと問われた殿下が、婚約者である私にわざわざ理由を聞きに来たんですけど。
下菊みこと
恋愛
侍従くんの一言でさくっと全部解決に向かうお話。
ご都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる