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第二章 葛藤
第三十四話 闇の世界で
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(暗い……ここ、どこだ?)
何かに顔を覆われた直後、意識を失ったはずの俺は、何も見えない暗闇の中に居た。
(……ライナード)
不安になった俺の中に浮かんだのは、ライナードの姿。意識を失うきっかけとなったのは、ライナードの声が聞こえたからではあったものの、それでも俺が頼れる相手はただ一人、ライナードだけだった。
「……ぁ」
「えっ?」
何もないと思われた暗闇。しかし、ふいにどこからか声が聞こえてきて、俺は咄嗟に辺りを確認する。すると……。
「ですが、本当にカイトを元の世界に戻すおつもりですか?」
それは、どこか聞き覚えのある声。
(確か、リオンの声?)
どこか緊張した様子で誰かに問いかける声に、俺は首をかしげる。
「はっ、そんなわけないだろう? いや、そもそも、元の世界に戻す方法なんてないしな」
「えぇっ、そうなんですか?」
エルヴィスの声と、ホーリーの声。それは判断できたものの、その内容に頭がついてこない。
きっと、心のどこかで俺は甘い考えを持っていた。俺を元の世界に戻す魔法がないなんて、俺を絶望させるために放っただけの言葉だったのだと。本当は、どこかにその方法があるのだと。
言葉を失って立ち尽くしていると、また別の声がする。
「彼らの行動にも困ったものだ」
「しかり、聖女召喚の秘術は、彼女達を元の世界に帰すことができないことから封印されたものであったというのに……」
「今、彼女はヴァイラン魔国で保護されているらしい。ヴァイラン魔国側も、面倒なものを押しつけられたと思っているのではないだろうか?」
「かの国とは同盟を結びたいところだが、もし聖女を送り返されてもこちらが困るというものだ」
それは、聞き覚えのない男達の声。彼らが具体的にどういうことを言っているのかは判断できないものの、やはり、俺に元の世界に帰る手段がないということと、俺の存在が、ライナードの重荷になっているかもしれないという客観的事実に、心がズクリと痛む。
そして、声が途絶えたかと思えば、今度は、酷く聞き覚えのある声がする。
「海斗……どうしてっ、どうして海斗がっ」
それは、母さんの声。
「海斗兄……バカバカバカっ、なんで、なんでっ、死んじゃうんだよぉっ」
妹の、海里の声。
「海斗……」
父さんの、声。
「車に牽かれるなんてっ、ドジ過ぎるでしょうっ!」
オネェで親友な友紀の声。
「ど、ういう、ことだ?」
彼らの声に、まるで、俺が死んだと言いたげな言葉の数々に、俺の心臓は嫌な音を立てる。
そして、その時、俺は魔本がある部屋を開けてしまったことを不自然なまでに唐突に思い出す。
「真実の、魔本……」
魔本は、読んだ人間に害を与える存在。そして、その魔本に冠された言葉は『真実』。
(もし、俺の顔を覆ったのが魔本だったら……)
そして、もし、この魔本が、読み手にとって不都合な真実を写し出す魔本なのだとしたら。
「う、あぁ……」
信じたくない気持ちで一杯になりながら、俺は口から声を出す。
(嘘だ、嘘だっ、嘘だっ!)
全て、嘘だと思いたいのに、なぜか、それが真実なのだと確信を持ってしまう。信じたくないのに、それが真実だと焼き付けられるような感覚に、俺は次第に、大きく口を開けたまま悲鳴を漏らしていた。
「あぁぁぁぁぁぁあっ!!」
その直後、暗闇の中に亀裂が入る。
ピシッ、ピシッと音を立てて、世界が崩れていく。
しかし、そこには安堵などなく、ただただ絶望ばかりが広がる。心が、現実を遠ざけるために泣き叫ぶ。
「あんな役立たずの聖女、召喚するんじゃなかったかもな」
最後に聞こえたのは、そんなエルヴィスの一言。召喚によって、俺は人生を大きく狂わされたというのに、その召喚そのものが必要なかったという一言。
「あ……」
その一言で、俺の中の何かが壊れる。
パリンッと暗闇の世界が割れ、真っ白に染まった世界で、俺の心は真っ黒に染まり、一気にその意識を手放すのだった。
何かに顔を覆われた直後、意識を失ったはずの俺は、何も見えない暗闇の中に居た。
(……ライナード)
不安になった俺の中に浮かんだのは、ライナードの姿。意識を失うきっかけとなったのは、ライナードの声が聞こえたからではあったものの、それでも俺が頼れる相手はただ一人、ライナードだけだった。
「……ぁ」
「えっ?」
何もないと思われた暗闇。しかし、ふいにどこからか声が聞こえてきて、俺は咄嗟に辺りを確認する。すると……。
「ですが、本当にカイトを元の世界に戻すおつもりですか?」
それは、どこか聞き覚えのある声。
(確か、リオンの声?)
どこか緊張した様子で誰かに問いかける声に、俺は首をかしげる。
「はっ、そんなわけないだろう? いや、そもそも、元の世界に戻す方法なんてないしな」
「えぇっ、そうなんですか?」
エルヴィスの声と、ホーリーの声。それは判断できたものの、その内容に頭がついてこない。
きっと、心のどこかで俺は甘い考えを持っていた。俺を元の世界に戻す魔法がないなんて、俺を絶望させるために放っただけの言葉だったのだと。本当は、どこかにその方法があるのだと。
言葉を失って立ち尽くしていると、また別の声がする。
「彼らの行動にも困ったものだ」
「しかり、聖女召喚の秘術は、彼女達を元の世界に帰すことができないことから封印されたものであったというのに……」
「今、彼女はヴァイラン魔国で保護されているらしい。ヴァイラン魔国側も、面倒なものを押しつけられたと思っているのではないだろうか?」
「かの国とは同盟を結びたいところだが、もし聖女を送り返されてもこちらが困るというものだ」
それは、聞き覚えのない男達の声。彼らが具体的にどういうことを言っているのかは判断できないものの、やはり、俺に元の世界に帰る手段がないということと、俺の存在が、ライナードの重荷になっているかもしれないという客観的事実に、心がズクリと痛む。
そして、声が途絶えたかと思えば、今度は、酷く聞き覚えのある声がする。
「海斗……どうしてっ、どうして海斗がっ」
それは、母さんの声。
「海斗兄……バカバカバカっ、なんで、なんでっ、死んじゃうんだよぉっ」
妹の、海里の声。
「海斗……」
父さんの、声。
「車に牽かれるなんてっ、ドジ過ぎるでしょうっ!」
オネェで親友な友紀の声。
「ど、ういう、ことだ?」
彼らの声に、まるで、俺が死んだと言いたげな言葉の数々に、俺の心臓は嫌な音を立てる。
そして、その時、俺は魔本がある部屋を開けてしまったことを不自然なまでに唐突に思い出す。
「真実の、魔本……」
魔本は、読んだ人間に害を与える存在。そして、その魔本に冠された言葉は『真実』。
(もし、俺の顔を覆ったのが魔本だったら……)
そして、もし、この魔本が、読み手にとって不都合な真実を写し出す魔本なのだとしたら。
「う、あぁ……」
信じたくない気持ちで一杯になりながら、俺は口から声を出す。
(嘘だ、嘘だっ、嘘だっ!)
全て、嘘だと思いたいのに、なぜか、それが真実なのだと確信を持ってしまう。信じたくないのに、それが真実だと焼き付けられるような感覚に、俺は次第に、大きく口を開けたまま悲鳴を漏らしていた。
「あぁぁぁぁぁぁあっ!!」
その直後、暗闇の中に亀裂が入る。
ピシッ、ピシッと音を立てて、世界が崩れていく。
しかし、そこには安堵などなく、ただただ絶望ばかりが広がる。心が、現実を遠ざけるために泣き叫ぶ。
「あんな役立たずの聖女、召喚するんじゃなかったかもな」
最後に聞こえたのは、そんなエルヴィスの一言。召喚によって、俺は人生を大きく狂わされたというのに、その召喚そのものが必要なかったという一言。
「あ……」
その一言で、俺の中の何かが壊れる。
パリンッと暗闇の世界が割れ、真っ白に染まった世界で、俺の心は真っ黒に染まり、一気にその意識を手放すのだった。
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