俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌

文字の大きさ
上 下
30 / 121
第二章 葛藤

第三十話 魔の手

しおりを挟む
 昼食を終えた俺は、少し休憩した後、再び書庫に戻っていた。いつもならノーラかリュシリーが高く積み上がった本を崩してくれているのだが、本を崩すだけの作業は、もう終わっており、後は俺だけで十分だったため、他の業務へと向かってもらっている。


「ふぅ、腰が痛くなってきたな……《癒しの光よ》」


 何度も屈んだり立ったりを繰り返していると、さすがに腰が痛くなってくる。しかし、この世界には魔法という便利なものがあるため、俺はすかさずそれを有効活用する。俺がここまで旅してこれたのも、体の疲労をそのつど癒していたからに他ならない。


「でも……いつになったら終わるんだろう?」


 まだまだ本は大量に存在する。一応、道らしきものは作っているものの、それでもかなり歩きづらい場所であることに違いはない。


「これは、こっちの棚だな……」


 日本の図書室のように、分類記号がふられているわけではないため、この分類は俺の独断と偏見だ。それでも、何の法則もないよりは遥かにましだろう。


「後は、こっちの本を……」


 と、そんな時、どこかでドンッという音がする。


「っ、な、何だ? 本が落ちたのか?」


 わりと大きな音だったため、ビクリとしながら、俺は音のした方へと歩いてみる。


「……どこだ?」


 そこは、魔本が封印されていると言われている扉に近い場所。確かに音はこの辺りからしたはずなのだが、不自然に落ちている本は見当たらない。


「何だったんだ?」


 結局原因が分からないということで、俺は原因究明を諦めて、もう一度本の整理に戻ろうとして……。


 ドンッ。


 また、音が聞こえた。


「っ……今、の……」


 今度は、近かったおかげで、どこから音がしていたのか分かる。


「……扉の、向こうから?」


 ライナードによると、この扉の向こうには魔本しかないはずだった。それなのに、妙な音がするという事実に、俺はスゥッと背筋が寒くなる。


「ゆ、幽、霊? ……い、いやいやいやいや、まさか、そんなことあるわけないよなっ。あ、あははは……」


 ドンッ。


「ひぅっ」


 再び響いた音に、俺は思わずその場で尻餅をつく。


「む、すまない。驚かせた」

「……えっ?」


 しかし、その直後に聞こえたのは、酷く聞き覚えのある声。強面で、無口だが、料理上手だったり、ぬいぐるみを作る趣味があったり、恋愛小説が好きだったりする魔族の男。ライナードの声だ。


「えっ? あれ? 何で、そんなところに?」


 相手がライナードと分かれば、俺も不安はない。問題は、俺に近づくなと言っておいて、ライナードは封印の扉の奥に居るということだ。


「……少し、ミスをした。……出られない」

「大問題じゃないかっ!」


 何がどうしてそうなったのかは知らないが、これはさすがに不味いだろう。


「えーっと、じゃあ、ノーラ達を呼んで「いや、光の魔法で解除できる。頼めるか?」光の魔法? なら、できそうだけど……」


 どんなミスをしたのかは知らないが、恐らくライナードも、自分が原因で閉じ込められたなんてこと、恥ずかしくてあまり知られたくはないのだろう。


「どうすれば良い?」

「そこに、錠前があるだろう? そこに、光属性の魔力を流し込むだけで良い」


 言われて見れば、確かに扉の取手部分には大きな錠前がついている。いつからつけられているのかは知らないが、かなり錆び付いていて、古めかしいものが。


「こう、か?」


 ライナードに言われるがままに、俺は錠前へ魔力を注ぎ込む。すると、バキッと音を立てて、錠前は下へと落下する。


「あっぶなっ。足に落ちるところだった」


 そう言いながら、待ってましたとばかりにゆっくりと開かれる扉を前に、俺はライナードが目の前に現れることを疑いもしていなかった。

 ……このライナードが、俺の名前を一度も呼んでいないという奇妙なことに気づきもせずに。


「ライ、ナード?」


 扉が開いた先で、俺は、ライナードの姿を見つけられずに困惑する。と、その直後、何かが一気に眼前へと迫り、俺の顔を覆い、押し倒す。


「うわっ!」


 そうして、その直後、俺の意識は闇に閉ざされるのだった。
しおりを挟む
感想 234

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

処理中です...