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第二章 葛藤
第三十話 魔の手
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昼食を終えた俺は、少し休憩した後、再び書庫に戻っていた。いつもならノーラかリュシリーが高く積み上がった本を崩してくれているのだが、本を崩すだけの作業は、もう終わっており、後は俺だけで十分だったため、他の業務へと向かってもらっている。
「ふぅ、腰が痛くなってきたな……《癒しの光よ》」
何度も屈んだり立ったりを繰り返していると、さすがに腰が痛くなってくる。しかし、この世界には魔法という便利なものがあるため、俺はすかさずそれを有効活用する。俺がここまで旅してこれたのも、体の疲労をそのつど癒していたからに他ならない。
「でも……いつになったら終わるんだろう?」
まだまだ本は大量に存在する。一応、道らしきものは作っているものの、それでもかなり歩きづらい場所であることに違いはない。
「これは、こっちの棚だな……」
日本の図書室のように、分類記号がふられているわけではないため、この分類は俺の独断と偏見だ。それでも、何の法則もないよりは遥かにましだろう。
「後は、こっちの本を……」
と、そんな時、どこかでドンッという音がする。
「っ、な、何だ? 本が落ちたのか?」
わりと大きな音だったため、ビクリとしながら、俺は音のした方へと歩いてみる。
「……どこだ?」
そこは、魔本が封印されていると言われている扉に近い場所。確かに音はこの辺りからしたはずなのだが、不自然に落ちている本は見当たらない。
「何だったんだ?」
結局原因が分からないということで、俺は原因究明を諦めて、もう一度本の整理に戻ろうとして……。
ドンッ。
また、音が聞こえた。
「っ……今、の……」
今度は、近かったおかげで、どこから音がしていたのか分かる。
「……扉の、向こうから?」
ライナードによると、この扉の向こうには魔本しかないはずだった。それなのに、妙な音がするという事実に、俺はスゥッと背筋が寒くなる。
「ゆ、幽、霊? ……い、いやいやいやいや、まさか、そんなことあるわけないよなっ。あ、あははは……」
ドンッ。
「ひぅっ」
再び響いた音に、俺は思わずその場で尻餅をつく。
「む、すまない。驚かせた」
「……えっ?」
しかし、その直後に聞こえたのは、酷く聞き覚えのある声。強面で、無口だが、料理上手だったり、ぬいぐるみを作る趣味があったり、恋愛小説が好きだったりする魔族の男。ライナードの声だ。
「えっ? あれ? 何で、そんなところに?」
相手がライナードと分かれば、俺も不安はない。問題は、俺に近づくなと言っておいて、ライナードは封印の扉の奥に居るということだ。
「……少し、ミスをした。……出られない」
「大問題じゃないかっ!」
何がどうしてそうなったのかは知らないが、これはさすがに不味いだろう。
「えーっと、じゃあ、ノーラ達を呼んで「いや、光の魔法で解除できる。頼めるか?」光の魔法? なら、できそうだけど……」
どんなミスをしたのかは知らないが、恐らくライナードも、自分が原因で閉じ込められたなんてこと、恥ずかしくてあまり知られたくはないのだろう。
「どうすれば良い?」
「そこに、錠前があるだろう? そこに、光属性の魔力を流し込むだけで良い」
言われて見れば、確かに扉の取手部分には大きな錠前がついている。いつからつけられているのかは知らないが、かなり錆び付いていて、古めかしいものが。
「こう、か?」
ライナードに言われるがままに、俺は錠前へ魔力を注ぎ込む。すると、バキッと音を立てて、錠前は下へと落下する。
「あっぶなっ。足に落ちるところだった」
そう言いながら、待ってましたとばかりにゆっくりと開かれる扉を前に、俺はライナードが目の前に現れることを疑いもしていなかった。
……このライナードが、俺の名前を一度も呼んでいないという奇妙なことに気づきもせずに。
「ライ、ナード?」
扉が開いた先で、俺は、ライナードの姿を見つけられずに困惑する。と、その直後、何かが一気に眼前へと迫り、俺の顔を覆い、押し倒す。
「うわっ!」
そうして、その直後、俺の意識は闇に閉ざされるのだった。
「ふぅ、腰が痛くなってきたな……《癒しの光よ》」
何度も屈んだり立ったりを繰り返していると、さすがに腰が痛くなってくる。しかし、この世界には魔法という便利なものがあるため、俺はすかさずそれを有効活用する。俺がここまで旅してこれたのも、体の疲労をそのつど癒していたからに他ならない。
「でも……いつになったら終わるんだろう?」
まだまだ本は大量に存在する。一応、道らしきものは作っているものの、それでもかなり歩きづらい場所であることに違いはない。
「これは、こっちの棚だな……」
日本の図書室のように、分類記号がふられているわけではないため、この分類は俺の独断と偏見だ。それでも、何の法則もないよりは遥かにましだろう。
「後は、こっちの本を……」
と、そんな時、どこかでドンッという音がする。
「っ、な、何だ? 本が落ちたのか?」
わりと大きな音だったため、ビクリとしながら、俺は音のした方へと歩いてみる。
「……どこだ?」
そこは、魔本が封印されていると言われている扉に近い場所。確かに音はこの辺りからしたはずなのだが、不自然に落ちている本は見当たらない。
「何だったんだ?」
結局原因が分からないということで、俺は原因究明を諦めて、もう一度本の整理に戻ろうとして……。
ドンッ。
また、音が聞こえた。
「っ……今、の……」
今度は、近かったおかげで、どこから音がしていたのか分かる。
「……扉の、向こうから?」
ライナードによると、この扉の向こうには魔本しかないはずだった。それなのに、妙な音がするという事実に、俺はスゥッと背筋が寒くなる。
「ゆ、幽、霊? ……い、いやいやいやいや、まさか、そんなことあるわけないよなっ。あ、あははは……」
ドンッ。
「ひぅっ」
再び響いた音に、俺は思わずその場で尻餅をつく。
「む、すまない。驚かせた」
「……えっ?」
しかし、その直後に聞こえたのは、酷く聞き覚えのある声。強面で、無口だが、料理上手だったり、ぬいぐるみを作る趣味があったり、恋愛小説が好きだったりする魔族の男。ライナードの声だ。
「えっ? あれ? 何で、そんなところに?」
相手がライナードと分かれば、俺も不安はない。問題は、俺に近づくなと言っておいて、ライナードは封印の扉の奥に居るということだ。
「……少し、ミスをした。……出られない」
「大問題じゃないかっ!」
何がどうしてそうなったのかは知らないが、これはさすがに不味いだろう。
「えーっと、じゃあ、ノーラ達を呼んで「いや、光の魔法で解除できる。頼めるか?」光の魔法? なら、できそうだけど……」
どんなミスをしたのかは知らないが、恐らくライナードも、自分が原因で閉じ込められたなんてこと、恥ずかしくてあまり知られたくはないのだろう。
「どうすれば良い?」
「そこに、錠前があるだろう? そこに、光属性の魔力を流し込むだけで良い」
言われて見れば、確かに扉の取手部分には大きな錠前がついている。いつからつけられているのかは知らないが、かなり錆び付いていて、古めかしいものが。
「こう、か?」
ライナードに言われるがままに、俺は錠前へ魔力を注ぎ込む。すると、バキッと音を立てて、錠前は下へと落下する。
「あっぶなっ。足に落ちるところだった」
そう言いながら、待ってましたとばかりにゆっくりと開かれる扉を前に、俺はライナードが目の前に現れることを疑いもしていなかった。
……このライナードが、俺の名前を一度も呼んでいないという奇妙なことに気づきもせずに。
「ライ、ナード?」
扉が開いた先で、俺は、ライナードの姿を見つけられずに困惑する。と、その直後、何かが一気に眼前へと迫り、俺の顔を覆い、押し倒す。
「うわっ!」
そうして、その直後、俺の意識は闇に閉ざされるのだった。
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