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第二章 葛藤
第二十六話 魔の書庫
しおりを挟む 酔ったライナードに抱き締められるという事件があった翌日。俺は、今度こそ素面のライナードに会いに行こうとして、『まだお休み中です』とのドム爺からの答えにガックリとうなだれる。
「そう、ですか。なら、話したいことがあるから会いたいと伝えておいてもらえますか?」
「承りました」
恐らく、ライナードはまだあのぬいぐるみ部屋で眠っているのだろう。ライナードにあんな趣味があるなんて、見た目では全く想像もできなかった。
(まぁ、素直にすごいとは思うけどな)
あれだけの量のぬいぐるみを縫うのは、きっと大変だっただろう。俺はただただそれに感心しながら、ライナードはもしかしたら知られたくなかったかもしれないから、もし昨日のことを覚えていないようだったら、知らないフリをしてあげようと決意する。きっと、ライナードからすれば母親にエロ本が見つかった時並みに気まずいに違いないのだから。
「可愛いものじゃなくて、格好良いものだったら良かったのに……」
そう呟く俺は、まさかそれをドム爺が聞いていたなどとは知らず、運ばれてきた朝食を食べて、書庫へ向かう。
本はあまり読まない方ではあるものの、さすがに時間を潰す手段がなさすぎる。ノーラ達からは刺繍や編み物を勧められたものの、どちらもできない上、興味もないので辞退して、この世界を知るために本という媒体に目をつけたのだった。
「カイトお嬢様、こちらの書庫は、あまり整理がされていませんが、それでもよろしいでしょうか?」
「大丈夫です。ちょっと見るだけですので」
ノーラの苦々しげな声に、俺はあまり深く考えずに了承する。そして、案内されて、開かれた扉を前に……俺は、ポカンと口を開けた。
そこには、本、本、本、本……とにかく、本がうず高く積み上げられており、前が、見えない。
「えっと……?」
「……ライナード様は、語学が堪能でいらっしゃって、整理しようにも片付けることができないでいるのです」
そう言われて見てみれば、この世界に召喚された影響でそれらの文字は翻訳されているものの、様々な文字で溢れていた。
「これは……大変かも」
「その、カイトお嬢様? 探せば確かにカイトお嬢様が読める本もおありかと思いますが、きっと大変ですので、私が探して参りましょうか?」
無表情ながらも気遣うような言葉に、俺は覚悟を決めて腕捲りをする。
「片付けますよ」
「はい?」
「大丈夫です。私が指示をしていくので、それに従ってください」
「い、いえ、あの?」
さすがにこの状態を放置するのは忍びない。この屋敷でお世話になっている以上、書庫の整理くらいはさせてもらいたいところだ。
「カイトお嬢様がなされることでは「大丈夫ですっ、さぁ、やりましょうっ!」……承知致しました……」
止められそうになるのを途中で遮断して、俺はズンズンと書庫に入っていく。
「まずは、高い山をある程度崩しておかないと危ないですよね」
「ならば、ここは私が」
そう言うと、ノーラは軽やかに跳躍して、三メートル近くまで積み上がっていた本のてっぺんをさらっていく。
俺は、あまりの跳躍力に呆然としながら、『もしかして、魔族って身体能力が高かったり?』と疑問に思う。もしそうであるのならば、あのダンベル事件は、決して俺が非力だったせいだけではないということだ。
「とりあえず、安全確保はお任せください」
「は、はい。よろしく、お願いします」
そうして、ノーラに高く積み上がった本の回収を頼む間、俺はそれらの本のタイトルや内容に目を通して、大まかにジャンルを分けていく。
「歴史、歴史……えーっと、伝記? 恋愛、恋愛、恋愛、恋愛……恋愛多いな?」
幸い、この世界の本は最初のページに大体のあらすじを書いてくれているものが大半であるため、分類作業はそこまで大変というわけではない。後は、文字の感じから、似た者同士を並べていけば良いだろうが、それは後だ。
「恋愛、恋愛、恋愛指南書? ハウツー本?」
やたらと恋愛ものが多い気がするのは、もしかしたら、ライナードが恋愛ものが好きだからというオチだったりするのかもしれない。新たな一面を知って、俺は、『ライナード、可愛いな』と思ってしまう。
「……うん、十八禁らしい恋愛ものもガッツリあるな」
そんなことを呟きながら黙々と作業を進めていると、いつの間にかお昼になったらしく、昼食を勧められることとなるのだった。
「そう、ですか。なら、話したいことがあるから会いたいと伝えておいてもらえますか?」
「承りました」
恐らく、ライナードはまだあのぬいぐるみ部屋で眠っているのだろう。ライナードにあんな趣味があるなんて、見た目では全く想像もできなかった。
(まぁ、素直にすごいとは思うけどな)
あれだけの量のぬいぐるみを縫うのは、きっと大変だっただろう。俺はただただそれに感心しながら、ライナードはもしかしたら知られたくなかったかもしれないから、もし昨日のことを覚えていないようだったら、知らないフリをしてあげようと決意する。きっと、ライナードからすれば母親にエロ本が見つかった時並みに気まずいに違いないのだから。
「可愛いものじゃなくて、格好良いものだったら良かったのに……」
そう呟く俺は、まさかそれをドム爺が聞いていたなどとは知らず、運ばれてきた朝食を食べて、書庫へ向かう。
本はあまり読まない方ではあるものの、さすがに時間を潰す手段がなさすぎる。ノーラ達からは刺繍や編み物を勧められたものの、どちらもできない上、興味もないので辞退して、この世界を知るために本という媒体に目をつけたのだった。
「カイトお嬢様、こちらの書庫は、あまり整理がされていませんが、それでもよろしいでしょうか?」
「大丈夫です。ちょっと見るだけですので」
ノーラの苦々しげな声に、俺はあまり深く考えずに了承する。そして、案内されて、開かれた扉を前に……俺は、ポカンと口を開けた。
そこには、本、本、本、本……とにかく、本がうず高く積み上げられており、前が、見えない。
「えっと……?」
「……ライナード様は、語学が堪能でいらっしゃって、整理しようにも片付けることができないでいるのです」
そう言われて見てみれば、この世界に召喚された影響でそれらの文字は翻訳されているものの、様々な文字で溢れていた。
「これは……大変かも」
「その、カイトお嬢様? 探せば確かにカイトお嬢様が読める本もおありかと思いますが、きっと大変ですので、私が探して参りましょうか?」
無表情ながらも気遣うような言葉に、俺は覚悟を決めて腕捲りをする。
「片付けますよ」
「はい?」
「大丈夫です。私が指示をしていくので、それに従ってください」
「い、いえ、あの?」
さすがにこの状態を放置するのは忍びない。この屋敷でお世話になっている以上、書庫の整理くらいはさせてもらいたいところだ。
「カイトお嬢様がなされることでは「大丈夫ですっ、さぁ、やりましょうっ!」……承知致しました……」
止められそうになるのを途中で遮断して、俺はズンズンと書庫に入っていく。
「まずは、高い山をある程度崩しておかないと危ないですよね」
「ならば、ここは私が」
そう言うと、ノーラは軽やかに跳躍して、三メートル近くまで積み上がっていた本のてっぺんをさらっていく。
俺は、あまりの跳躍力に呆然としながら、『もしかして、魔族って身体能力が高かったり?』と疑問に思う。もしそうであるのならば、あのダンベル事件は、決して俺が非力だったせいだけではないということだ。
「とりあえず、安全確保はお任せください」
「は、はい。よろしく、お願いします」
そうして、ノーラに高く積み上がった本の回収を頼む間、俺はそれらの本のタイトルや内容に目を通して、大まかにジャンルを分けていく。
「歴史、歴史……えーっと、伝記? 恋愛、恋愛、恋愛、恋愛……恋愛多いな?」
幸い、この世界の本は最初のページに大体のあらすじを書いてくれているものが大半であるため、分類作業はそこまで大変というわけではない。後は、文字の感じから、似た者同士を並べていけば良いだろうが、それは後だ。
「恋愛、恋愛、恋愛指南書? ハウツー本?」
やたらと恋愛ものが多い気がするのは、もしかしたら、ライナードが恋愛ものが好きだからというオチだったりするのかもしれない。新たな一面を知って、俺は、『ライナード、可愛いな』と思ってしまう。
「……うん、十八禁らしい恋愛ものもガッツリあるな」
そんなことを呟きながら黙々と作業を進めていると、いつの間にかお昼になったらしく、昼食を勧められることとなるのだった。
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