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第二章 葛藤
第二十五話 酔いからさめて(ライナード視点)
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何だか、良い夢を見た気がする。カイトを抱き締められる素晴らしい夢だ。
そう思いながら意識を覚醒させると、そこは、見慣れたぬいぐるみ保管部屋だった。どうやら、昨日リドルに酔い潰された後、俺はここに来たらしい。
「おはようございます。ライナード坊っちゃん」
しばらくすると、ドム爺が訪ねてきて、昨日、俺がどれだけ酔っていたのかの説明が行われる。
「坊っちゃんは酔うと必ずこの部屋に来たがるので、随分と大変でしたよ」
「すまん。潰れるほど飲むつもりはなかったんだが……」
「まぁ、リドル様が相手では分が悪いでしょうね」
そう、リドルは完全なるうわばみだ。俺は、魔族の中では普通くらいなので、リドルの相手をさせられると必ず潰れてしまう。
「ですが、ようございました。カイトお嬢様のおかげで、ライナード坊っちゃんはすぐに眠ってくださいましたしね」
ぼんやりと話を聞いていた俺は、そこに、聞き捨てならない言葉を聞き取り、固まる。
「カ、イト?」
「おや? 坊っちゃんはまだ記憶が戻っていないのですか?」
そう尋ねられて初めて、俺は昨夜のことをありありと思い出してしまう。
(この部屋を見られた!? いや、それもあるが、抱き締めてしまった!?)
色々なショックがいっぺんに襲いかかり、俺は青くなったり赤くなったりと大忙しだ。
「カイトお嬢様は、現在書庫を探索しておりますが……会いにいかれますか?」
「ちょっと……待ってくれ……」
今は、しばらく待ってほしい。まだ、深刻なダメージが抜けきっていない。
(このぬいぐるみを見られた……カイトは可愛かった……あぁぁぁあっ)
大混乱に陥った頭は、中々正常に働いてはくれない。そして、ドム爺は容赦がない。
「では、カイトお嬢様をこちらにお呼びしましょうか?」
「やめろ」
今、素面の状態でこの部屋を見られたら、俺はどうして良いのか分からない。俺は、なぜか転がっている熊のぬいぐるみを拾い上げ、無意識にそれを抱き締めて落ち着こうとするのだが……やはり、落ち着かない。
「大丈夫です。ライナード坊っちゃんがこれらのぬいぐるみの作成者だということは、すでにカイトお嬢様へ報告済みです」
(一番知られたくなかったことを知られた、だと?)
そう、ここにあるぬいぐるみ達は、俺が作ったものだ。確かに、魔族は料理も裁縫も家事もできるように訓練するものの、男性魔族でこんなにもぬいぐるみを作成して溜め込んでいる者はそう居ないはずだ。縫い物が好きだとしても、彼らは実用的なものを作ることが多いからだ。ぬいぐるみは、完全に俺の趣味だった。
(女々しいと思われなかっただろうか……?)
ドム爺の酷い裏切りに打ちのめされながらも、考えるのはやはりカイトのこと。もし、カイトに引かれでもしたのであれば、俺は……しばらく、食事もできなくなるかもしれない。
「あぁ、後、カイトお嬢様から伝言です。『話があるから、時間が空いたら会いたい』だそうです」
「すぐに行く!」
愛する片翼に会いたいと言われて、会わない魔族など存在しない。俺は、先ほどまでのダメージを忘れて、すぐに返事をする。
「では、お支度をしましょう。ちょうどお昼も近いことですし、ランチをご一緒されるということでよろしいでしょうか?」
「む」
カイトに食べてもらう料理を作れなかったのは残念だが、今日はもう仕方がない。とりあえず、俺はさっさと身支度を整えてしまう。
「そうそう、カイトお嬢様は、可愛いものより、格好良いものがお好きなのだそうです」
「『格好良いもの』……」
(それは、俺が格好良いところを見せたら、惚れてくれるかもしれないということだろうか?)
そう思ってドム爺を見てみるものの、そのにこやかな表情からは何も読み取れない。
「はい、ぜひとも、その話をしてみるのがよろしいかと」
「む」
何かは分からないが、悪いことではなさそうだ。
と、そこで、俺は昨日、カイトと約束したことを思い出す。
(『側に居てくれる』、か……)
あれが本気で言ってくれたものかは定かではない。しかし、本当にそうしてくれるのならば、これ以上嬉しいことはない。
そうして、カイトと会う準備を整えた俺は、カイトに会えるという期待八割、部屋をどう思われたか分からないという不安二割でのっそりと歩き出すのだった。
そう思いながら意識を覚醒させると、そこは、見慣れたぬいぐるみ保管部屋だった。どうやら、昨日リドルに酔い潰された後、俺はここに来たらしい。
「おはようございます。ライナード坊っちゃん」
しばらくすると、ドム爺が訪ねてきて、昨日、俺がどれだけ酔っていたのかの説明が行われる。
「坊っちゃんは酔うと必ずこの部屋に来たがるので、随分と大変でしたよ」
「すまん。潰れるほど飲むつもりはなかったんだが……」
「まぁ、リドル様が相手では分が悪いでしょうね」
そう、リドルは完全なるうわばみだ。俺は、魔族の中では普通くらいなので、リドルの相手をさせられると必ず潰れてしまう。
「ですが、ようございました。カイトお嬢様のおかげで、ライナード坊っちゃんはすぐに眠ってくださいましたしね」
ぼんやりと話を聞いていた俺は、そこに、聞き捨てならない言葉を聞き取り、固まる。
「カ、イト?」
「おや? 坊っちゃんはまだ記憶が戻っていないのですか?」
そう尋ねられて初めて、俺は昨夜のことをありありと思い出してしまう。
(この部屋を見られた!? いや、それもあるが、抱き締めてしまった!?)
色々なショックがいっぺんに襲いかかり、俺は青くなったり赤くなったりと大忙しだ。
「カイトお嬢様は、現在書庫を探索しておりますが……会いにいかれますか?」
「ちょっと……待ってくれ……」
今は、しばらく待ってほしい。まだ、深刻なダメージが抜けきっていない。
(このぬいぐるみを見られた……カイトは可愛かった……あぁぁぁあっ)
大混乱に陥った頭は、中々正常に働いてはくれない。そして、ドム爺は容赦がない。
「では、カイトお嬢様をこちらにお呼びしましょうか?」
「やめろ」
今、素面の状態でこの部屋を見られたら、俺はどうして良いのか分からない。俺は、なぜか転がっている熊のぬいぐるみを拾い上げ、無意識にそれを抱き締めて落ち着こうとするのだが……やはり、落ち着かない。
「大丈夫です。ライナード坊っちゃんがこれらのぬいぐるみの作成者だということは、すでにカイトお嬢様へ報告済みです」
(一番知られたくなかったことを知られた、だと?)
そう、ここにあるぬいぐるみ達は、俺が作ったものだ。確かに、魔族は料理も裁縫も家事もできるように訓練するものの、男性魔族でこんなにもぬいぐるみを作成して溜め込んでいる者はそう居ないはずだ。縫い物が好きだとしても、彼らは実用的なものを作ることが多いからだ。ぬいぐるみは、完全に俺の趣味だった。
(女々しいと思われなかっただろうか……?)
ドム爺の酷い裏切りに打ちのめされながらも、考えるのはやはりカイトのこと。もし、カイトに引かれでもしたのであれば、俺は……しばらく、食事もできなくなるかもしれない。
「あぁ、後、カイトお嬢様から伝言です。『話があるから、時間が空いたら会いたい』だそうです」
「すぐに行く!」
愛する片翼に会いたいと言われて、会わない魔族など存在しない。俺は、先ほどまでのダメージを忘れて、すぐに返事をする。
「では、お支度をしましょう。ちょうどお昼も近いことですし、ランチをご一緒されるということでよろしいでしょうか?」
「む」
カイトに食べてもらう料理を作れなかったのは残念だが、今日はもう仕方がない。とりあえず、俺はさっさと身支度を整えてしまう。
「そうそう、カイトお嬢様は、可愛いものより、格好良いものがお好きなのだそうです」
「『格好良いもの』……」
(それは、俺が格好良いところを見せたら、惚れてくれるかもしれないということだろうか?)
そう思ってドム爺を見てみるものの、そのにこやかな表情からは何も読み取れない。
「はい、ぜひとも、その話をしてみるのがよろしいかと」
「む」
何かは分からないが、悪いことではなさそうだ。
と、そこで、俺は昨日、カイトと約束したことを思い出す。
(『側に居てくれる』、か……)
あれが本気で言ってくれたものかは定かではない。しかし、本当にそうしてくれるのならば、これ以上嬉しいことはない。
そうして、カイトと会う準備を整えた俺は、カイトに会えるという期待八割、部屋をどう思われたか分からないという不安二割でのっそりと歩き出すのだった。
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