俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌

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第一章 囚われの身

第十四話 坊っちゃんのためにっ(ドム爺視点)

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 ライナード坊っちゃんは、強面で、無口で、ぶっきらぼうではあるものの、とても優しく、強く……天然なお方だ。
 この屋敷の使用人は、全員、ライナード坊っちゃんの味方で、長らく現れなかった片翼が現れたという事実に皆で歓喜したのは記憶に新しい。

 そんなライナード坊っちゃんだが、どうやら、片翼であるカイトお嬢様にフラれたとのこと。


(ここは、何としてでもライナード坊っちゃんに振り向いてもらわなくてはっ!)


 一応、ライナード坊っちゃんの気持ちを伝えはしたものの、根本的な解決にはなっていない。
 カイトお嬢様の元に医師が訪れるのを確認し、栄養失調との診断をライナード坊っちゃんに持ち帰った私は、密かに決意する。


(まずは、敵を知ることからですな)


 ライナード坊っちゃんが慌てて厨房へ向かい、何やら料理を始めるのを見送って、私はカイトお嬢様の元に向かう。


「カイトお嬢様。今、お時間はよろしいでしょうか?」

「はい」


 ノックをしてそう問えば、カイトお嬢様の鈴のような声が応える。
 入室すれば、そこはこの屋敷で数少ないフローリングの部屋。ライナード坊っちゃんの自室で、体を鍛えるための器具が多く存在する場所だった。


「カイトお嬢様に、少しお聞きしたいことがございます」

「何でしょうか?」


 珍しい金と赤のオッドアイを持つ彼女は、ソファーの上で所在なさげに座っている。私は、許可をもらって対面に腰かけると、早速本題へと入る。


「カイトお嬢様の想い人は、どのようなお方なのですか?」


 きっと、ライナード坊っちゃんはカイトお嬢様のことをしっかりと調べる。そして、出身地や家族構成などといった情報を掴んでくることはまず間違いなかった。しかし、さすがにそれはすぐに得られるものではない。だから、今のうちに、ライナード坊っちゃんの敵である、カイトお嬢様の想い人の情報をしっかり得ていようという魂胆だった。


(ライナード坊っちゃんの方が素晴らしいに決まってますが……敵を知らないことにはどうしようもありませんしね)


 まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかったらしいカイトお嬢様は、しばらく迷った後、意を決したような力強い瞳で話し出す。


「まず、料理が上手です」

(ほう? それはライナード坊っちゃんに敵うほどの腕前なのでしょうか?)

「それに、裁縫も掃除洗濯もできて、優しくて穏やかな人です」

「なるほど」

(ライナード坊っちゃんはどれも完璧ですな。しかも、優しく穏やかな部分も一致している。……これは、上手くすればいけるかもしれません)

「しかし、経済力などはどうなのでしょうか?」


 カイトお嬢様の言葉に、私はそんな疑問を差し込む。女性は、特に男性の経済力を気にするものだから、それは当然の質問だった。しかし、カイトお嬢様はその言葉に虚を突かれたような表情をする。


(これは……経済力は考えておられなかった、ということでしょうな)

「えっと、それなりにお金持ちです」

「そうですか、それならば、カイトお嬢様は幸せになれそうですな」


 どうも、カイトお嬢様は家庭的な男が好きらしい。


「あぁ、そういえば、そのお方は、戦闘面などはいかがなものですかな? この世の中、物騒ですからね。力はあるに越したことはないですぞ?」

「い、いえ、戦闘面では、そんなに……」

「魔法の方は? どれが得意だとか」

「魔法!? い、いえ、その……」

(ふむ、戦闘能力に関してはかなり弱い、と。これは、懸念事項ではありますが、もし、そういった方が好みというのであれば、ライナード坊っちゃんも努力しなければならなさそうですな)


 視線をさ迷わせるカイトお嬢様に、私は新たな質問を投げかける。


「あぁ、不躾な質問でしたね。しかし……カイトお嬢様は、弱い方がお好きなのですか?」

「えっと……いえ、そういうわけではなく、その強い人は気が強そうというか……」


 しどろもどろになりながらも答えてくれるカイトお嬢様に、私はさらに分析を進める。


(ならば、ライナード坊っちゃんは強くても穏やか……これは、本当にいけるのではないでしょうか?)


 カイトお嬢様の想い人の情報が、そのままカイトお嬢様の好みに反映されるというのならば、ライナード坊っちゃんもその好みに合致しているはずだ。


「ちなみに、顔立ちの好みとかは?」

「……可愛い人、です」

(ぐっ……ここに来て、顔の好みが……い、いいえ、ライナード坊っちゃんも、その性格は可愛らしいものです。そのうち、ライナード坊っちゃんの魅力に気づけば、可愛いと思っていただけるはずっ!)


 その後も、いくつか質問をした後、私はその情報をライナード坊っちゃんへと持ち帰る。ライナード坊っちゃんは、私の報告を聞く度にうなだれていたものの、そんな坊っちゃんに言いたい。


(大丈夫ですっ。ライナード坊っちゃん。カイトお嬢様の好みとライナード坊っちゃんはほぼ合致しておりますっ)


 それに気づく様子のないライナード坊っちゃんに、私はひとまず見守る姿勢に入る。ここはやはり、本人が気づくべきところであろうと。


「カイトお嬢様の好みの殿方の情報は以上です」

「そうか……」


 あえて、カイトお嬢様の想い人の情報とは言わず、カイトお嬢様の好みと告げても、ライナード坊っちゃんは気づかない。


(……坊っちゃん、頑張ってくださいね)


 ライナード坊っちゃんならば、いずれ、これらの情報を自分に当てはめて考える時が来るだろう。その時、アドバイスを求められたら、全力で応える所存だ。


「少し、出てくる」


 そう告げたライナード坊っちゃんを見送って、私は今、ライナード坊っちゃんに伝えた情報を使用人全員と共有し、ライナード坊っちゃんをカイトお嬢様に売り込む準備を始めるのだった。
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