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第一章 囚われの身
第十二話 後悔と宣言
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(やってしまった……)
ライナードが出ていき、冷静になったところで、俺はようやく、後悔し始める。
(ライナード、かなりショックを受けてたよな)
片翼の説明と、自分とライナードが結び付いた結果、過剰に反応してしまった自覚のある俺は、これからどうすべきかを悩む。
(謝る……のは何か違うし……かといって、嘘でしたなんて言えるはずもないし……)
ライナードの厚意によって……いや、好意によって、ここに置いてもらっている身としては、もう、ここには居られないだろうという思いもあったが、何よりも、ライナードの傷ついたような表情が忘れられない。
(……どうすれば……)
いずれは、元の世界に帰る身の上である以上、ライナードと一緒になるのはあり得ない。しかし、このままで良いとも思えなかった。
(俺には、高校まで勉強した内容と、演技力、後は、治癒の魔法しかない)
しかし、ライナードに何かしてあげるにしても、俺ができることはあまりにも少ない。
(相談する相手も居ないし……)
日本なら、友達に相談するくらいのことはできた。しかし、この世界に友と呼べるような存在は居ない。居るのは、俺を召喚した傲慢な王子達と、優しいライナードだけだ。
「うぅ、どうするよ、俺」
思わず頭を抱えて唸っていると、不意に、扉がノックされる。
「っ、はい」
ノックをするということは、ライナードではないだろう。何せ、ここはライナードの部屋なのだ。自分の部屋に入るのに、ノックをする奴は居ないだろう。
「失礼します」
入ってきたのは、壮年の魔族。ライナードから、ドム爺と呼ばれていた人だった。
「あっ」
「カイトお嬢様、お茶などはいかがですかな?」
そう言うドム爺は、お盆に急須と湯飲みを用意して立っている。
「あ、えっと……」
「よければ、少しお話させていただいても?」
正直、喉は渇いていない。しかし、目的は恐らく話の方だろう。
(もしかしたら、出ていってくれって話かも……)
ライナードと和解できなかったのは残念だが、出ていけと言われるのであればそれも致し方なしと思えた。
「分かり、ました」
「では、少々失礼をば」
テーブルに手際良く急須や湯飲みを並べるドム爺を見ながら、俺はこれからどこに行けば良いだろうかと考える。
(この国でも、俺の働き口くらいはあるかなぁ?)
能力らしい能力はあまり持たない俺ではあるものの、もしかしたら、治癒の魔法で少しは役立てるかもしれない。それならば、そこでお金を稼いで、レイリン王国とやらに向かう準備もできるはずだ。
元の世界に帰ることだけを考えていた俺は、ドム爺が目の前の椅子に座る様子をぼんやりと眺める。
「さて、ライナード坊っちゃんのことですが……」
そう前置きしたドム爺は、困ったような笑みを浮かべる。
「坊っちゃんは、昔から無口で、何を考えているのか分からないと言われ続けておりましてね。これは、旦那様に似たのでしょうが、とにかく難儀な方なのですよ」
「はぁ……」
確かに、ライナードは無口ではあったが、何を考えているか分からないというほどではなかったように思える。……いや、どこかズレた考え方をしているように見えるため、何を考えるかは分からないところはあるが……。
「坊っちゃんには、長年片翼となるお方が見つかりませんでした。魔族は、片翼となる人物に何らかの条件を持っているとされておりますが、坊っちゃんはどんなに探してもそのような方に巡り合うことができなかったのです」
そんな言葉に、片翼の条件なんて初耳だと思いながらお茶をすする。後から聞いた話だと、魔族には、個々に片翼となる者の条件があり、それを一生知らないままで終わる魔族も居れば、それに悩まされる魔族も居るとのこと。条件は、簡単なもので性別を限定したもの。また、難しいもので、その生い立ちや性格に関わるものなどがあるらしく、最大で三つあるとされているその条件を満たす者でなければ、片翼にはなり得ないのだそうだ。
「坊っちゃんは、見た目から誤解されやすいですが、とても繊細な方です」
(それは……知ってる)
「坊っちゃんは、少しズレておりますが、とてもお優しい方です」
(それも、知ってる)
「坊っちゃんは、カイトお嬢様が想い人のところへ戻れるよう、尽力すると言っておりました」
「えっ?」
(どういう、ことだ?)
魔族は片翼と結婚したいものなのだと思っていた俺にとっては、ライナードのその提案はあり得ないものだった。
「本来ならば、カイトお嬢様には坊っちゃんの伴侶となっていただきたくはありますが……坊っちゃんは、カイトお嬢様の幸せを願っておられます」
『想い人なんて居ない』。そう、言えるはずもなく、俺は呆然とドム爺の言葉を聞く。
「ライナード坊っちゃんはこの国の上級貴族にあたります。ですので、情報もすぐに集められることでしょう」
「そ、う、ですか……」
情報が集まれば、自然と、俺は異世界から来た者だということが分かってしまうだろう。俺は、それを言うべきかどうか悩み、すぐに、今は言えないと判断する。
「ですが……カイトお嬢様の想い人が、もし、ライナード坊っちゃんのお眼鏡にかなうことがなければ、私どもは全力でカイトお嬢様を止めさせていただきます」
キラリと光ったその目に、俺はビクリと肩を震わせる。どうやら、ライナードは俺を諦めたわけではなさそうだ。
「それでは、失礼いたしました」
そう言って立ち去ったドム爺。
どうやら、俺はまだここに居られるらしい。しかし、もしかしたら厄介なことになるかもしれないと、俺はまた、頭を悩ますのだった。
ライナードが出ていき、冷静になったところで、俺はようやく、後悔し始める。
(ライナード、かなりショックを受けてたよな)
片翼の説明と、自分とライナードが結び付いた結果、過剰に反応してしまった自覚のある俺は、これからどうすべきかを悩む。
(謝る……のは何か違うし……かといって、嘘でしたなんて言えるはずもないし……)
ライナードの厚意によって……いや、好意によって、ここに置いてもらっている身としては、もう、ここには居られないだろうという思いもあったが、何よりも、ライナードの傷ついたような表情が忘れられない。
(……どうすれば……)
いずれは、元の世界に帰る身の上である以上、ライナードと一緒になるのはあり得ない。しかし、このままで良いとも思えなかった。
(俺には、高校まで勉強した内容と、演技力、後は、治癒の魔法しかない)
しかし、ライナードに何かしてあげるにしても、俺ができることはあまりにも少ない。
(相談する相手も居ないし……)
日本なら、友達に相談するくらいのことはできた。しかし、この世界に友と呼べるような存在は居ない。居るのは、俺を召喚した傲慢な王子達と、優しいライナードだけだ。
「うぅ、どうするよ、俺」
思わず頭を抱えて唸っていると、不意に、扉がノックされる。
「っ、はい」
ノックをするということは、ライナードではないだろう。何せ、ここはライナードの部屋なのだ。自分の部屋に入るのに、ノックをする奴は居ないだろう。
「失礼します」
入ってきたのは、壮年の魔族。ライナードから、ドム爺と呼ばれていた人だった。
「あっ」
「カイトお嬢様、お茶などはいかがですかな?」
そう言うドム爺は、お盆に急須と湯飲みを用意して立っている。
「あ、えっと……」
「よければ、少しお話させていただいても?」
正直、喉は渇いていない。しかし、目的は恐らく話の方だろう。
(もしかしたら、出ていってくれって話かも……)
ライナードと和解できなかったのは残念だが、出ていけと言われるのであればそれも致し方なしと思えた。
「分かり、ました」
「では、少々失礼をば」
テーブルに手際良く急須や湯飲みを並べるドム爺を見ながら、俺はこれからどこに行けば良いだろうかと考える。
(この国でも、俺の働き口くらいはあるかなぁ?)
能力らしい能力はあまり持たない俺ではあるものの、もしかしたら、治癒の魔法で少しは役立てるかもしれない。それならば、そこでお金を稼いで、レイリン王国とやらに向かう準備もできるはずだ。
元の世界に帰ることだけを考えていた俺は、ドム爺が目の前の椅子に座る様子をぼんやりと眺める。
「さて、ライナード坊っちゃんのことですが……」
そう前置きしたドム爺は、困ったような笑みを浮かべる。
「坊っちゃんは、昔から無口で、何を考えているのか分からないと言われ続けておりましてね。これは、旦那様に似たのでしょうが、とにかく難儀な方なのですよ」
「はぁ……」
確かに、ライナードは無口ではあったが、何を考えているか分からないというほどではなかったように思える。……いや、どこかズレた考え方をしているように見えるため、何を考えるかは分からないところはあるが……。
「坊っちゃんには、長年片翼となるお方が見つかりませんでした。魔族は、片翼となる人物に何らかの条件を持っているとされておりますが、坊っちゃんはどんなに探してもそのような方に巡り合うことができなかったのです」
そんな言葉に、片翼の条件なんて初耳だと思いながらお茶をすする。後から聞いた話だと、魔族には、個々に片翼となる者の条件があり、それを一生知らないままで終わる魔族も居れば、それに悩まされる魔族も居るとのこと。条件は、簡単なもので性別を限定したもの。また、難しいもので、その生い立ちや性格に関わるものなどがあるらしく、最大で三つあるとされているその条件を満たす者でなければ、片翼にはなり得ないのだそうだ。
「坊っちゃんは、見た目から誤解されやすいですが、とても繊細な方です」
(それは……知ってる)
「坊っちゃんは、少しズレておりますが、とてもお優しい方です」
(それも、知ってる)
「坊っちゃんは、カイトお嬢様が想い人のところへ戻れるよう、尽力すると言っておりました」
「えっ?」
(どういう、ことだ?)
魔族は片翼と結婚したいものなのだと思っていた俺にとっては、ライナードのその提案はあり得ないものだった。
「本来ならば、カイトお嬢様には坊っちゃんの伴侶となっていただきたくはありますが……坊っちゃんは、カイトお嬢様の幸せを願っておられます」
『想い人なんて居ない』。そう、言えるはずもなく、俺は呆然とドム爺の言葉を聞く。
「ライナード坊っちゃんはこの国の上級貴族にあたります。ですので、情報もすぐに集められることでしょう」
「そ、う、ですか……」
情報が集まれば、自然と、俺は異世界から来た者だということが分かってしまうだろう。俺は、それを言うべきかどうか悩み、すぐに、今は言えないと判断する。
「ですが……カイトお嬢様の想い人が、もし、ライナード坊っちゃんのお眼鏡にかなうことがなければ、私どもは全力でカイトお嬢様を止めさせていただきます」
キラリと光ったその目に、俺はビクリと肩を震わせる。どうやら、ライナードは俺を諦めたわけではなさそうだ。
「それでは、失礼いたしました」
そう言って立ち去ったドム爺。
どうやら、俺はまだここに居られるらしい。しかし、もしかしたら厄介なことになるかもしれないと、俺はまた、頭を悩ますのだった。
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