上 下
12 / 121
第一章 囚われの身

第十二話 後悔と宣言

しおりを挟む
(やってしまった……)


 ライナードが出ていき、冷静になったところで、俺はようやく、後悔し始める。


(ライナード、かなりショックを受けてたよな)


 片翼の説明と、自分とライナードが結び付いた結果、過剰に反応してしまった自覚のある俺は、これからどうすべきかを悩む。


(謝る……のは何か違うし……かといって、嘘でしたなんて言えるはずもないし……)


 ライナードの厚意によって……いや、好意によって、ここに置いてもらっている身としては、もう、ここには居られないだろうという思いもあったが、何よりも、ライナードの傷ついたような表情が忘れられない。


(……どうすれば……)


 いずれは、元の世界に帰る身の上である以上、ライナードと一緒になるのはあり得ない。しかし、このままで良いとも思えなかった。


(俺には、高校まで勉強した内容と、演技力、後は、治癒の魔法しかない)


 しかし、ライナードに何かしてあげるにしても、俺ができることはあまりにも少ない。


(相談する相手も居ないし……)


 日本なら、友達に相談するくらいのことはできた。しかし、この世界に友と呼べるような存在は居ない。居るのは、俺を召喚した傲慢な王子達と、優しいライナードだけだ。


「うぅ、どうするよ、俺」


 思わず頭を抱えて唸っていると、不意に、扉がノックされる。


「っ、はい」


 ノックをするということは、ライナードではないだろう。何せ、ここはライナードの部屋なのだ。自分の部屋に入るのに、ノックをする奴は居ないだろう。


「失礼します」


 入ってきたのは、壮年の魔族。ライナードから、ドム爺と呼ばれていた人だった。


「あっ」

「カイトお嬢様、お茶などはいかがですかな?」


 そう言うドム爺は、お盆に急須と湯飲みを用意して立っている。


「あ、えっと……」

「よければ、少しお話させていただいても?」


 正直、喉は渇いていない。しかし、目的は恐らく話の方だろう。


(もしかしたら、出ていってくれって話かも……)


 ライナードと和解できなかったのは残念だが、出ていけと言われるのであればそれも致し方なしと思えた。


「分かり、ました」

「では、少々失礼をば」


 テーブルに手際良く急須や湯飲みを並べるドム爺を見ながら、俺はこれからどこに行けば良いだろうかと考える。


(この国でも、俺の働き口くらいはあるかなぁ?)


 能力らしい能力はあまり持たない俺ではあるものの、もしかしたら、治癒の魔法で少しは役立てるかもしれない。それならば、そこでお金を稼いで、レイリン王国とやらに向かう準備もできるはずだ。
 元の世界に帰ることだけを考えていた俺は、ドム爺が目の前の椅子に座る様子をぼんやりと眺める。


「さて、ライナード坊っちゃんのことですが……」


 そう前置きしたドム爺は、困ったような笑みを浮かべる。


「坊っちゃんは、昔から無口で、何を考えているのか分からないと言われ続けておりましてね。これは、旦那様に似たのでしょうが、とにかく難儀な方なのですよ」

「はぁ……」


 確かに、ライナードは無口ではあったが、何を考えているか分からないというほどではなかったように思える。……いや、どこかズレた考え方をしているように見えるため、何を考えるかは分からないところはあるが……。


「坊っちゃんには、長年片翼となるお方が見つかりませんでした。魔族は、片翼となる人物に何らかの条件を持っているとされておりますが、坊っちゃんはどんなに探してもそのような方に巡り合うことができなかったのです」


 そんな言葉に、片翼の条件なんて初耳だと思いながらお茶をすする。後から聞いた話だと、魔族には、個々に片翼となる者の条件があり、それを一生知らないままで終わる魔族も居れば、それに悩まされる魔族も居るとのこと。条件は、簡単なもので性別を限定したもの。また、難しいもので、その生い立ちや性格に関わるものなどがあるらしく、最大で三つあるとされているその条件を満たす者でなければ、片翼にはなり得ないのだそうだ。


「坊っちゃんは、見た目から誤解されやすいですが、とても繊細な方です」

(それは……知ってる)

「坊っちゃんは、少しズレておりますが、とてもお優しい方です」

(それも、知ってる)

「坊っちゃんは、カイトお嬢様が想い人のところへ戻れるよう、尽力すると言っておりました」

「えっ?」

(どういう、ことだ?)


 魔族は片翼と結婚したいものなのだと思っていた俺にとっては、ライナードのその提案はあり得ないものだった。


「本来ならば、カイトお嬢様には坊っちゃんの伴侶となっていただきたくはありますが……坊っちゃんは、カイトお嬢様の幸せを願っておられます」


 『想い人なんて居ない』。そう、言えるはずもなく、俺は呆然とドム爺の言葉を聞く。


「ライナード坊っちゃんはこの国の上級貴族にあたります。ですので、情報もすぐに集められることでしょう」

「そ、う、ですか……」


 情報が集まれば、自然と、俺は異世界から来た者だということが分かってしまうだろう。俺は、それを言うべきかどうか悩み、すぐに、今は言えないと判断する。


「ですが……カイトお嬢様の想い人が、もし、ライナード坊っちゃんのお眼鏡にかなうことがなければ、私どもは全力でカイトお嬢様を止めさせていただきます」


 キラリと光ったその目に、俺はビクリと肩を震わせる。どうやら、ライナードは俺を諦めたわけではなさそうだ。


「それでは、失礼いたしました」


 そう言って立ち去ったドム爺。
 どうやら、俺はまだここに居られるらしい。しかし、もしかしたら厄介なことになるかもしれないと、俺はまた、頭を悩ますのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

恋愛
 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

運命の番なのに、炎帝陛下に全力で避けられています

四馬㋟
恋愛
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。

紅月
恋愛
「なに此処、18禁乙女ゲームじゃない」 と前世を思い出したけど、モブだから気楽に好きな事しようって思ってたのに……。 攻略対象から逆ハーフラグを折ってくれと頼まれたので頑張りますが、なんか忙しいんですけど。

私、異世界で監禁されました!?

星宮歌
恋愛
ただただ、苦しかった。 暴力をふるわれ、いじめられる毎日。それでも過ぎていく日常。けれど、ある日、いじめっ子グループに突き飛ばされ、トラックに轢かれたことで全てが変わる。 『ここ、どこ?』 声にならない声、見たこともない豪奢な部屋。混乱する私にもたらされるのは、幸せか、不幸せか。 今、全ての歯車が動き出す。 片翼シリーズ第一弾の作品です。 続編は『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』ですので、そちらもどうぞ! 溺愛は結構後半です。 なろうでも公開してます。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

処理中です...