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第一章 囚われの身
第八話 旅を振り返って
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豆大福風に苺を入れた苺大福を見た俺は、少しばかりショックを受けたものの、食べてみると材料がないわけではないことが分かる。こしあんもギュウヒも問題ない。苺だってしっかり入っている。だから、ちゃんと説明すれば、本来の苺大福を食べられるということが判明して、俺は嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
その後、何やら部屋を出ていったライナードを見送り、俺は改めて現状を考える。
(俺の立場は、魔王を討伐しようとした勇者の仲間。そして、ライナードはその魔王の部下)
簡単に言ってしまえば、敵対関係にあるというわけだ。
(でも、俺には魔王を討伐する理由なんてない)
魔王を討伐すれば、元の世界に返してもらえるのだと思っていたからこそ、俺は必死になっていたのだ。女の演技までして(実際、今は女だが)、毎日毎日、あの傍若無人な勇者らしき一行とともに行動してきたのだ。
(今考えると、あいつら、かなり酷いよな)
これまでの道中、俺は、約六十回夜這いをかけられそうになった。しかし、その六十回とも、魔物が出現するなり、賊が出現するなりして有耶無耶になり、どうにかこの体の貞操を守り抜いたのだ。
(それに、あの女の嫌がらせもあったし……)
紅一点だったのに、俺が加わったのが気に入らないホーリーという女。名前からすると、そっちの方が聖女らしいが、あの女は性女という名前の方が相応しい。ちょうど、名前はホーリー・ヴィッツで、ホーリー・ビッチに聞こえなくもない。内心、あの女のことはずっと性女と呼んでしまったのは、どうしようもないことだった。
(あの女の嫌がらせで、何度死にかけたか……)
時には、魔物の群れの中を置き去りにされ、時には、賊が出揃った中を置き去りにされ、時には、間違ったと言いながら攻撃をこちらに向けられ……。
(って、良く考えると、置き去りにされること多かった!?)
それらの全ては、運良く他の強力な魔物がやってきて、魔物同士で戦っている間に逃げ出せたりとか、賊の方もなぜか仲間割れを起こして、その間に逃げたりだとか、間違って向けられた攻撃は、ちょうどその辺りに居た敵の方にぶつかって事なきを得たりとか、とにかく何だかんだ運が良かった。
(でも、本当に運が良いなら、元の世界に帰れてるはずだよな)
最終的には、このヴァイラン魔国に置き去りにされた俺は、どういうわけか、ライナードの家に置いてもらえている。今のところ、行く宛もなければ、生活する力もない俺にとって、こうして屋根のある家に置いてもらえるだけありがたい。
(でも、何で俺、ここに連れてこられたんだろう?)
詳しくは分からないものの、魔王には勇者にやられたフリをする意味があったらしい。そして、俺が置き去りにされたのは、イレギュラーでもあったと。
(後は、何かあいつらに因縁でもありそうな感じだったな)
何せ、ターゲットは俺以外の連中みたいな話をしていたのだ。だから、きっと、あいつらには狙われるだけの理由があって、俺は巻き込まれただけ、という線が強い。
(帰りたい、なぁ……)
これがただの夢であればどんなに良かったことか。怪我をすれば痛いし、歩き続ければ疲れもする。
聖女だと言われながら、俺は国王にすら会っていない。国の名前はレイリン王国というらしいが、それも本当かどうか分かったものではない。
元の世界が懐かしくて仕方がなかった。
(これも、苺大福を食べたからこそのホームシック、なのかもな)
ただがむしゃらに聖女として力を使い続ける日々が終わり、ふいに訪れた穏やかな時間を前に、麻痺していた心がようやく動き始めたのだろう。
「父さん、母さん……」
今頃、両親はどうしているだろうか? 俺が居なくなったことを心配してるのではないだろうか? 弟達も、きっと心配している。早く、家に帰りたかった。
(……でも、何も、分からない)
聖女として召喚したのは、残念ながらあの王子達だ。彼ら以外に、誰が俺の召喚の事実を知っているのか知らないため、彼ら以外に手がかりはなかった。
(しばらくここに置いてもらって、働いて、お金を手に入れて、レイリン王国を目指すしかない、のか?)
そうなれば、自分を護衛してくれる人が欲しい。何せ、俺は戦う術を全く持たないのだ。それに、移動用の馬か何かも欲しい。乗馬技術もないから、まずはそれを磨くことから始めなければならないだろうが、馬が居るのと居ないのとでは、絶対に移動速度が違うはずだ。
(しばらくしたら、ライナードに相談……しても良いかなぁ?)
まだ、信用しても良い相手なのか分からないが、もし、信用できるのであれば、力を借りたかった。敵対していながら図々しいのは百も承知で、それでも、こうして迎え入れてくれたライナードならばと思ってしまうのは、きっと、まだ心細いからだろう。
「ふわぁぁあ」
懸命に今後のことを考えていると、何だか眠くなってきた。
(そういえば、この世界に来てから、まともに寝てない……)
この世界に来てから、恐らく三月以上経っているが、その間、何度も行われる夜這いを前に、まともな睡眠など取れるはずもなかった。夜這いがない日でも、上手く眠れず、苦しい夜を過ごしてきた。
(ソファー……使っても怒られない、かな?)
正直、先程眠っただけではまだ足りない。俺は、今座っているソファーへ横になると、先程まで被っていた布団を引き寄せる。
(ちょっとだけ、ちょっとだけ……)
そうして、俺は、朝まで眠り込むこととなるのだった。
その後、何やら部屋を出ていったライナードを見送り、俺は改めて現状を考える。
(俺の立場は、魔王を討伐しようとした勇者の仲間。そして、ライナードはその魔王の部下)
簡単に言ってしまえば、敵対関係にあるというわけだ。
(でも、俺には魔王を討伐する理由なんてない)
魔王を討伐すれば、元の世界に返してもらえるのだと思っていたからこそ、俺は必死になっていたのだ。女の演技までして(実際、今は女だが)、毎日毎日、あの傍若無人な勇者らしき一行とともに行動してきたのだ。
(今考えると、あいつら、かなり酷いよな)
これまでの道中、俺は、約六十回夜這いをかけられそうになった。しかし、その六十回とも、魔物が出現するなり、賊が出現するなりして有耶無耶になり、どうにかこの体の貞操を守り抜いたのだ。
(それに、あの女の嫌がらせもあったし……)
紅一点だったのに、俺が加わったのが気に入らないホーリーという女。名前からすると、そっちの方が聖女らしいが、あの女は性女という名前の方が相応しい。ちょうど、名前はホーリー・ヴィッツで、ホーリー・ビッチに聞こえなくもない。内心、あの女のことはずっと性女と呼んでしまったのは、どうしようもないことだった。
(あの女の嫌がらせで、何度死にかけたか……)
時には、魔物の群れの中を置き去りにされ、時には、賊が出揃った中を置き去りにされ、時には、間違ったと言いながら攻撃をこちらに向けられ……。
(って、良く考えると、置き去りにされること多かった!?)
それらの全ては、運良く他の強力な魔物がやってきて、魔物同士で戦っている間に逃げ出せたりとか、賊の方もなぜか仲間割れを起こして、その間に逃げたりだとか、間違って向けられた攻撃は、ちょうどその辺りに居た敵の方にぶつかって事なきを得たりとか、とにかく何だかんだ運が良かった。
(でも、本当に運が良いなら、元の世界に帰れてるはずだよな)
最終的には、このヴァイラン魔国に置き去りにされた俺は、どういうわけか、ライナードの家に置いてもらえている。今のところ、行く宛もなければ、生活する力もない俺にとって、こうして屋根のある家に置いてもらえるだけありがたい。
(でも、何で俺、ここに連れてこられたんだろう?)
詳しくは分からないものの、魔王には勇者にやられたフリをする意味があったらしい。そして、俺が置き去りにされたのは、イレギュラーでもあったと。
(後は、何かあいつらに因縁でもありそうな感じだったな)
何せ、ターゲットは俺以外の連中みたいな話をしていたのだ。だから、きっと、あいつらには狙われるだけの理由があって、俺は巻き込まれただけ、という線が強い。
(帰りたい、なぁ……)
これがただの夢であればどんなに良かったことか。怪我をすれば痛いし、歩き続ければ疲れもする。
聖女だと言われながら、俺は国王にすら会っていない。国の名前はレイリン王国というらしいが、それも本当かどうか分かったものではない。
元の世界が懐かしくて仕方がなかった。
(これも、苺大福を食べたからこそのホームシック、なのかもな)
ただがむしゃらに聖女として力を使い続ける日々が終わり、ふいに訪れた穏やかな時間を前に、麻痺していた心がようやく動き始めたのだろう。
「父さん、母さん……」
今頃、両親はどうしているだろうか? 俺が居なくなったことを心配してるのではないだろうか? 弟達も、きっと心配している。早く、家に帰りたかった。
(……でも、何も、分からない)
聖女として召喚したのは、残念ながらあの王子達だ。彼ら以外に、誰が俺の召喚の事実を知っているのか知らないため、彼ら以外に手がかりはなかった。
(しばらくここに置いてもらって、働いて、お金を手に入れて、レイリン王国を目指すしかない、のか?)
そうなれば、自分を護衛してくれる人が欲しい。何せ、俺は戦う術を全く持たないのだ。それに、移動用の馬か何かも欲しい。乗馬技術もないから、まずはそれを磨くことから始めなければならないだろうが、馬が居るのと居ないのとでは、絶対に移動速度が違うはずだ。
(しばらくしたら、ライナードに相談……しても良いかなぁ?)
まだ、信用しても良い相手なのか分からないが、もし、信用できるのであれば、力を借りたかった。敵対していながら図々しいのは百も承知で、それでも、こうして迎え入れてくれたライナードならばと思ってしまうのは、きっと、まだ心細いからだろう。
「ふわぁぁあ」
懸命に今後のことを考えていると、何だか眠くなってきた。
(そういえば、この世界に来てから、まともに寝てない……)
この世界に来てから、恐らく三月以上経っているが、その間、何度も行われる夜這いを前に、まともな睡眠など取れるはずもなかった。夜這いがない日でも、上手く眠れず、苦しい夜を過ごしてきた。
(ソファー……使っても怒られない、かな?)
正直、先程眠っただけではまだ足りない。俺は、今座っているソファーへ横になると、先程まで被っていた布団を引き寄せる。
(ちょっとだけ、ちょっとだけ……)
そうして、俺は、朝まで眠り込むこととなるのだった。
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