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第一章 囚われの身
第七話 自覚(ライナード視点)
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今日は、ユーカ様の護衛のため、ほぼ一日中張りついている予定だった。陛下方の方では、ルティアスの片翼を虐げた者達がこの国にやってくるということで、様々な画策をしていたらしいが、とりあえず、自分の任務はユーカ様を守ることだけ。関係のないことには、興味などなかった。……はずだった。
専属侍女達によって、陛下方の企みを知ったユーカ様は、謁見の間に突入した。俺はもちろん止めようとしたが、案外ユーカ様は強かだ。俺が一定の距離から近づいてはいけないと命じられているのを逆手に取って、結局謁見の間まで妨害らしい妨害もできずについて行くこととなった。そして、そこで俺は、一際目を引く少女と出会う。
(? 何だ? なぜ、あの少女が気になる……?)
どうしても、視線が吸い寄せられてしまう少女。話の内容からして、彼女は聖女らしい。気づけば名前を尋ね、怪我の心配のために護衛任務を放棄して、医務室まで連れていき、ついには自宅にまで招いていた。
(……何なんだ?)
自分の行動が良く分からないまま、現在は、自分の膝の上で安らかに眠る彼女を眺めている。
今まで、女に苦労したことはない。それこそ、魔将であり、上級貴族である俺はかなりの好物件で、そこそこ女は寄ってきた。しかし、彼女達とは大抵一夜のみの関係で、間違っても自室に招くようなことはなかった。
(何が、違う?)
カイトという名の少女が眠る姿を見ていると、不思議と心が安らぐ。怪我をしているのではないかと思った時には不安だったし、一番軽いダンベルを持ち上げられない様子を見た時は、体調が悪いのかと思うと同時に、守らなければと強く思った。彼女と出会ってから、感情の揺れ幅が大きい。
「失礼します。苺大福ができたそうです。こちらにお持ちしますか?」
「あぁ」
使用人の呼び掛けに、俺は幸せそうに眠るカイトの華奢な肩へと手をかける。力を込めれば容易く折れてしまいそうなそれを前に、俺は極力優しく、その肩を揺らしてやる。
「カイト、苺大福ができたようだ」
「ん、むぅ、苺大福!?」
好物だと話していたのは本当らしく、カイトは苺大福の名前を出すと飛び起きる。
「あっ、えっと……」
「すぐにここに来る。待ってろ」
気まずそうに視線を逸らすカイトへ、俺はそんな言葉をかけて、ふと、指通りが良さそうな水色の髪を見る。
「……あの?」
「む、何でもない」
なぜか、触ってみたいと思ってしまったものの、さすがにそれは自重する。そうして待っていれば、早速苺大福が運ばれてくる。豆大福のように、苺の欠片をギュウヒの中にちりばめた一品だ。
「……苺、大福……」
「何か違っていたか?」
苺大福を前に、なぜか微妙な顔になったカイトを見て、何か間違えただろうかと思案する。
「えっと、苺大福っていうのは、あんこの中に苺を丸々一個包んで、それをさらにギュウヒで包む食べ物なんです」
そう言われて見てみると、なるほど、確かにカイトの言うものとは違う。
「まぁ、でも、味は一緒だろうし……いただきます」
そう言って、カイトは早速苺大福もどきを口にする。好物と言うだけあって、モキュモキュと苺大福を食べるカイトは幸せそうだ。
「美味しい」
「そうか」
それなら良かったとホッとしていれば、窓からコツコツという音がする。振り向いてみると、そこには、手紙を携えた鳥がくちばしで窓をつついていた。
(仕事、か……)
恐らくは、護衛とはまた別の仕事。一度、執務室に戻って内容を確認するべきものだろう。しかし……。
(離れたく、ない)
どうにも、カイトと離れがたい気持ちが大きくて、ついつい隣で幸せそうにしているカイトを抱き寄せてしまう。
「ふぇっ」
(可愛い……)
抱き寄せれば、ワタワタとするカイトが可愛くて仕方なかった。しかも、上目遣いにどうして抱き寄せたのかを聞きたそうにされると、何だか心臓が跳びはねているような感覚に襲われる。
(……いかん、仕事をしなければ)
名残惜しみながらも、俺はカイトから離れて窓を開け、手紙を受け取る。
「……しばらく、ここに居ろ。用があれば、そこのベルを鳴らせ」
それだけを告げると、俺は執務室へと向かう。背後では困惑したような声が聞こえていたものの、この屋敷に居る以上、危険はない。心配はいらなかった。
(さっさと終わらせて、カイトのところに戻ろう)
この時はまだ、気づいていなかった。この気持ちが、どういうものなのか。それが、どれほどの奇跡なのか。
気づかないまま執務室に向かった俺は、注意力散漫な状態で仕事をこなし……その様子を嬉しそうに見ていたドム爺から、『片翼を迎えられたこと、心よりお喜び申し上げます』と言われて初めて、それに気づく。
「片、翼……」
長年の失翼生活の末に、俺は、片翼がどういう存在なのかを忘れていたらしい。いや、この場合は、感覚が鈍っていたと言った方が良いのか。
片翼という言葉に、ストンと納得した俺は、直後、猛烈にカイトに会いたい気持ちが溢れて大変だった。何とか仕事を終わらせたのは夜も遅い時間で、俺は、急遽片翼休暇の申請をして、カイトの部屋へと急ぐのだった。
専属侍女達によって、陛下方の企みを知ったユーカ様は、謁見の間に突入した。俺はもちろん止めようとしたが、案外ユーカ様は強かだ。俺が一定の距離から近づいてはいけないと命じられているのを逆手に取って、結局謁見の間まで妨害らしい妨害もできずについて行くこととなった。そして、そこで俺は、一際目を引く少女と出会う。
(? 何だ? なぜ、あの少女が気になる……?)
どうしても、視線が吸い寄せられてしまう少女。話の内容からして、彼女は聖女らしい。気づけば名前を尋ね、怪我の心配のために護衛任務を放棄して、医務室まで連れていき、ついには自宅にまで招いていた。
(……何なんだ?)
自分の行動が良く分からないまま、現在は、自分の膝の上で安らかに眠る彼女を眺めている。
今まで、女に苦労したことはない。それこそ、魔将であり、上級貴族である俺はかなりの好物件で、そこそこ女は寄ってきた。しかし、彼女達とは大抵一夜のみの関係で、間違っても自室に招くようなことはなかった。
(何が、違う?)
カイトという名の少女が眠る姿を見ていると、不思議と心が安らぐ。怪我をしているのではないかと思った時には不安だったし、一番軽いダンベルを持ち上げられない様子を見た時は、体調が悪いのかと思うと同時に、守らなければと強く思った。彼女と出会ってから、感情の揺れ幅が大きい。
「失礼します。苺大福ができたそうです。こちらにお持ちしますか?」
「あぁ」
使用人の呼び掛けに、俺は幸せそうに眠るカイトの華奢な肩へと手をかける。力を込めれば容易く折れてしまいそうなそれを前に、俺は極力優しく、その肩を揺らしてやる。
「カイト、苺大福ができたようだ」
「ん、むぅ、苺大福!?」
好物だと話していたのは本当らしく、カイトは苺大福の名前を出すと飛び起きる。
「あっ、えっと……」
「すぐにここに来る。待ってろ」
気まずそうに視線を逸らすカイトへ、俺はそんな言葉をかけて、ふと、指通りが良さそうな水色の髪を見る。
「……あの?」
「む、何でもない」
なぜか、触ってみたいと思ってしまったものの、さすがにそれは自重する。そうして待っていれば、早速苺大福が運ばれてくる。豆大福のように、苺の欠片をギュウヒの中にちりばめた一品だ。
「……苺、大福……」
「何か違っていたか?」
苺大福を前に、なぜか微妙な顔になったカイトを見て、何か間違えただろうかと思案する。
「えっと、苺大福っていうのは、あんこの中に苺を丸々一個包んで、それをさらにギュウヒで包む食べ物なんです」
そう言われて見てみると、なるほど、確かにカイトの言うものとは違う。
「まぁ、でも、味は一緒だろうし……いただきます」
そう言って、カイトは早速苺大福もどきを口にする。好物と言うだけあって、モキュモキュと苺大福を食べるカイトは幸せそうだ。
「美味しい」
「そうか」
それなら良かったとホッとしていれば、窓からコツコツという音がする。振り向いてみると、そこには、手紙を携えた鳥がくちばしで窓をつついていた。
(仕事、か……)
恐らくは、護衛とはまた別の仕事。一度、執務室に戻って内容を確認するべきものだろう。しかし……。
(離れたく、ない)
どうにも、カイトと離れがたい気持ちが大きくて、ついつい隣で幸せそうにしているカイトを抱き寄せてしまう。
「ふぇっ」
(可愛い……)
抱き寄せれば、ワタワタとするカイトが可愛くて仕方なかった。しかも、上目遣いにどうして抱き寄せたのかを聞きたそうにされると、何だか心臓が跳びはねているような感覚に襲われる。
(……いかん、仕事をしなければ)
名残惜しみながらも、俺はカイトから離れて窓を開け、手紙を受け取る。
「……しばらく、ここに居ろ。用があれば、そこのベルを鳴らせ」
それだけを告げると、俺は執務室へと向かう。背後では困惑したような声が聞こえていたものの、この屋敷に居る以上、危険はない。心配はいらなかった。
(さっさと終わらせて、カイトのところに戻ろう)
この時はまだ、気づいていなかった。この気持ちが、どういうものなのか。それが、どれほどの奇跡なのか。
気づかないまま執務室に向かった俺は、注意力散漫な状態で仕事をこなし……その様子を嬉しそうに見ていたドム爺から、『片翼を迎えられたこと、心よりお喜び申し上げます』と言われて初めて、それに気づく。
「片、翼……」
長年の失翼生活の末に、俺は、片翼がどういう存在なのかを忘れていたらしい。いや、この場合は、感覚が鈍っていたと言った方が良いのか。
片翼という言葉に、ストンと納得した俺は、直後、猛烈にカイトに会いたい気持ちが溢れて大変だった。何とか仕事を終わらせたのは夜も遅い時間で、俺は、急遽片翼休暇の申請をして、カイトの部屋へと急ぐのだった。
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