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第一章 囚われの身
第六話 穏やかな時
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(……この状況、何!?)
現在、俺は摩訶不思議な状況下に置かれていた。それ、すなわち、ひ・ざ・ま・く・ら。
しかも、ライナードがそれをしてくれている状況だ。
(何でこうなった!?)
野郎の固い膝の上に頭を乗せた状態で、俺は必死に考える。それは、遡ること十数分前。通された部屋で、筋力トレーニング器具(魔法バージョン)を目にした俺が、物珍しさから、許可を取ってそれらを使用させてもらったところから始まる。
「ぐ……持ち上がらない……」
持とうとしたのは、比較的小さなサイズのダンベル。魔力を込めることで重さが変わるらしいのだが、今、俺は一切魔力を込めていない状態でこれだ。確かに、体育会系とはほど遠い人間ではあったものの、これはさすがにショックだった。
「む?」
しかも、ライナードはそんな俺の様子を見て、ヒョイッとダンベルを持ち上げてしまう。
「これが、持てない……」
そして、何やらあり得ないものを見たような目で見られて、ものすごく居心地が悪い。
「えっと……」
「……手が、赤くなってる」
「あ、あぁ、うん、そう、ですね」
必死に持ち上げようと奮闘した結果、確かに手は赤らんでいた。そして、しばらく黙り込んだかと思えば、横長のソファーに座って、俺を呼ぶ。
「何ですか?」
「横になれ」
「へ?」
「横になれ」
ポンポンと隣を叩いてそう告げるライナードに、俺はしばらく意味が分からずフリーズする。
「……」
そして、そんな俺に対して、何を思ったか、ライナードは強行手段に出た。
「ふわっ!?」
そう、再び、お姫様抱っこだ。俺は、この世界ではとことん男としてのプライドを打ち砕かれる運命にあるらしい。
それから、またどっかりとソファーに腰かけたライナードは、そのまま俺の頭を膝の上に乗せて沈黙する。それに耐えきれず、ついついライナードをチラチラ見ていると、さすがにその視線には気づいてくれたらしい。
「体調が悪いのだろう? 少し、眠れ」
(何がどうしてそうなった!?)
もしかしたら、あれだろうか? あの程度のダンベルを持ち上げられないなんて、体調が悪い以外に考えられないということだろうか?
そう推測して、そして、それがものすごく当たっているような気がして、俺は頭を抱えたくなる。
(こちとら、非力な女になってるんだから、仕方ないだろっ!)
とはいえ、男の状態であれを持ち上げられたかと問われれば、それも少し微妙な気がする。もちろん、この世界に女として喚ばれた瞬間から、力が落ちている自覚はあったものの、それでもピクリとも動かないのは異常な気がした。
(うん、ライナードが筋肉バカなだけだ。絶対っ)
そう結論づけていると、中々眠らない俺を前に、ライナードは閃いたとでもいうかのようにハッと扉の方へ目を向ける。
「ドム爺、苺大福を作るよう、料理長に伝えておいてくれ」
すると、いつの間にそこに居たのか分からないが、扉の向こうで了承を告げる声がする。
(うん、別に、苺大福が楽しみで寝られないとかじゃないからな?)
まさか、そんなことは考えていないだろうと思いながらも、自分の中でツッコミを入れておく。
「後は……《風よ》」
突然、何かの魔法を使ったライナードに、俺は驚いて飛び起きそうになるものの、視界に入った宙を浮く掛け布団を見て、先ほどの『眠れ』という発言を思い出す。
「えっと……?」
「暖かくした方が良い」
確かに、今の時期は冬らしく、室内は暖かいとはいえ、このまま眠るには寒そうだ。
「ありがとう、ございます?」
「うむ」
お礼を言えば、ライナードはフワリと微笑む。
(っ、格好いいかも)
強面ということにばかり気を取られていたが、ライナードの顔はかなり整っている。それが微笑んでみせれば、恐ろしい表情が和らいで、その整った顔立ちがくっきりと浮かび上がるのは必然で、俺は思わず見とれる。
「さぁ、眠れ。苺大福ができたら、起こしてやる」
未だにライナードの目的は分からないものの、多分、酷い目に遭うことはないだろうという確信を抱けば、今まで張り詰めていた緊張の糸が切れて、穏やかな眠りの波が押し寄せてくる。
「なら、少しだけ……」
固い膝が、枕としてちょうど良く、俺は掛け布団を掛けてもらうと、ゆっくり、眠りの世界に旅立つのだった。
現在、俺は摩訶不思議な状況下に置かれていた。それ、すなわち、ひ・ざ・ま・く・ら。
しかも、ライナードがそれをしてくれている状況だ。
(何でこうなった!?)
野郎の固い膝の上に頭を乗せた状態で、俺は必死に考える。それは、遡ること十数分前。通された部屋で、筋力トレーニング器具(魔法バージョン)を目にした俺が、物珍しさから、許可を取ってそれらを使用させてもらったところから始まる。
「ぐ……持ち上がらない……」
持とうとしたのは、比較的小さなサイズのダンベル。魔力を込めることで重さが変わるらしいのだが、今、俺は一切魔力を込めていない状態でこれだ。確かに、体育会系とはほど遠い人間ではあったものの、これはさすがにショックだった。
「む?」
しかも、ライナードはそんな俺の様子を見て、ヒョイッとダンベルを持ち上げてしまう。
「これが、持てない……」
そして、何やらあり得ないものを見たような目で見られて、ものすごく居心地が悪い。
「えっと……」
「……手が、赤くなってる」
「あ、あぁ、うん、そう、ですね」
必死に持ち上げようと奮闘した結果、確かに手は赤らんでいた。そして、しばらく黙り込んだかと思えば、横長のソファーに座って、俺を呼ぶ。
「何ですか?」
「横になれ」
「へ?」
「横になれ」
ポンポンと隣を叩いてそう告げるライナードに、俺はしばらく意味が分からずフリーズする。
「……」
そして、そんな俺に対して、何を思ったか、ライナードは強行手段に出た。
「ふわっ!?」
そう、再び、お姫様抱っこだ。俺は、この世界ではとことん男としてのプライドを打ち砕かれる運命にあるらしい。
それから、またどっかりとソファーに腰かけたライナードは、そのまま俺の頭を膝の上に乗せて沈黙する。それに耐えきれず、ついついライナードをチラチラ見ていると、さすがにその視線には気づいてくれたらしい。
「体調が悪いのだろう? 少し、眠れ」
(何がどうしてそうなった!?)
もしかしたら、あれだろうか? あの程度のダンベルを持ち上げられないなんて、体調が悪い以外に考えられないということだろうか?
そう推測して、そして、それがものすごく当たっているような気がして、俺は頭を抱えたくなる。
(こちとら、非力な女になってるんだから、仕方ないだろっ!)
とはいえ、男の状態であれを持ち上げられたかと問われれば、それも少し微妙な気がする。もちろん、この世界に女として喚ばれた瞬間から、力が落ちている自覚はあったものの、それでもピクリとも動かないのは異常な気がした。
(うん、ライナードが筋肉バカなだけだ。絶対っ)
そう結論づけていると、中々眠らない俺を前に、ライナードは閃いたとでもいうかのようにハッと扉の方へ目を向ける。
「ドム爺、苺大福を作るよう、料理長に伝えておいてくれ」
すると、いつの間にそこに居たのか分からないが、扉の向こうで了承を告げる声がする。
(うん、別に、苺大福が楽しみで寝られないとかじゃないからな?)
まさか、そんなことは考えていないだろうと思いながらも、自分の中でツッコミを入れておく。
「後は……《風よ》」
突然、何かの魔法を使ったライナードに、俺は驚いて飛び起きそうになるものの、視界に入った宙を浮く掛け布団を見て、先ほどの『眠れ』という発言を思い出す。
「えっと……?」
「暖かくした方が良い」
確かに、今の時期は冬らしく、室内は暖かいとはいえ、このまま眠るには寒そうだ。
「ありがとう、ございます?」
「うむ」
お礼を言えば、ライナードはフワリと微笑む。
(っ、格好いいかも)
強面ということにばかり気を取られていたが、ライナードの顔はかなり整っている。それが微笑んでみせれば、恐ろしい表情が和らいで、その整った顔立ちがくっきりと浮かび上がるのは必然で、俺は思わず見とれる。
「さぁ、眠れ。苺大福ができたら、起こしてやる」
未だにライナードの目的は分からないものの、多分、酷い目に遭うことはないだろうという確信を抱けば、今まで張り詰めていた緊張の糸が切れて、穏やかな眠りの波が押し寄せてくる。
「なら、少しだけ……」
固い膝が、枕としてちょうど良く、俺は掛け布団を掛けてもらうと、ゆっくり、眠りの世界に旅立つのだった。
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