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第一章 囚われの身
第四話 片翼、だろうか?(ルティアス視点)
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今日は、医務室でしばらく研修生の訓練を行った後、恐らくやってくるであろう勇者を名乗る愚か者の一行を見てくる予定だった。
彼らは、一人を除いて、僕の愛しい愛しい片翼、リリスに、かつて濡れ衣を着せて国外追放した奴らだ。
片翼とは、魔族にとって最も心惹かれる愛しい人のことで、魔族は二百歳前後になると、自身の片翼を見つけるために様々な場所を旅したり、実力をさらに磨いたりする。だから、魔族は総じて戦闘能力も家事能力も高い。
ただ、僕は四百歳を過ぎても片翼が見つからなかった。だから、魔族の中で稀に存在する、片翼が一生見つからず、孤独に死んでいく失翼と呼ばれるものだと思っていた。実際、四百歳を過ぎて片翼を見つけられない者は、大抵その後も見つけられない。
たまたま同僚のライナードもその失翼仲間で、僕達はお互いに慰め合っていたのだが……ある日、僕は運命の片翼を見つけた。それが、リリスさんだ。
そんなリリスさんを虐げて、国外追放にまで追いやった輩が居ると知った僕は、それを放ってはおけなかった。だから、僕は復讐をして、彼らにある程度の罰を与えはしたのだが……今回、物足りないと思っていた僕の元に、まだのうのうと生きているそいつらへの復讐の機会が再度与えられた。何でも、彼らが捕らわれた国であるファム帝国と、このヴァイラン魔国は友好条約を結びたいのだが、その前に、不穏分子を一掃したいとのことで、そのために、罰を受けて不満たっぷりの彼らを利用してはどうかということになったのだった。
ただ、彼らが魔王討伐の旅に実際に出向いたのも、聖女と呼ばれる少女をどこからか連れ去り、仲間に加えたのも、彼らがこのヴァイラン魔国に辿り着いたのも、予想外ではあった。
(だからこそ、何があったのか真相が知りたかったんだけど……)
どうやって彼らが無事にこの国まで辿り着けたのかは、僕達にとって大きな疑問ではあったものの、その前に、もっと重大な疑問が頭の中を占領する。
(……あの聖女、何者?)
未だ片翼が見つからないライナードが、一人取り残されたという聖女に随分と甲斐甲斐しい様子だった。水色の髪に、金と赤のオッドアイの彼女は、確かに美少女ではある。しかし、ライナードには高い身分と地位があり、女には困らないはずだった。
「まさか、片翼、とか?」
僕に続いてライナードも片翼を見つけたと考えれば、辻褄が合うような気がする。しかし……。
「いや、でも片翼なら、もっと色々アピールするもの、だよね?」
片翼を前にした魔族は、まず理性が吹き飛び、求婚したくなるというのが通説だ。実際、僕もリリスに出会った直後、求婚した。好きになってもらえるように、必死に色々頑張った。しかし、ライナードには、聖女を心配する様子はあったものの、求婚した様子は欠片もない。
「うーん?」
研修生はとっくに帰り、後は片付けだけだった医務室もすっかり片付けた僕は、このまま魔王陛下の元に行って、ライナードの様子も聞いてみようかと考える。すると……。
「ん? 扉が壊れてるのか?」
そこには、まさに、今から会おうとしていた魔王陛下。ジークフリート・ヴァイラン様が居た。
「陛下!?」
「あぁ、良い。楽にしろ」
まさか医務室に陛下が来るとは思わず、僕は咄嗟にひざまづく。しかし、『楽にしろ』との声に、とりあえずは立ち上がることにした。
「今回は、ユーカからの質問で来たんだ。……ライナードは、どんな様子だった?」
まさかの、ヴァイラン魔国、ならびに、リアン魔国の魔王陛下達から愛された、世にも珍しい両翼と呼ばれる存在、ユーカ様からの質問に、僕は一瞬言葉を詰まらせながら答える。
ちなみに、両翼とは、魔族二人が一人に対して自身の片翼だと感じ取った場合にのみ、使われる言葉だ。
「その、まずは扉を蹴り壊して、ここに入ってきまして」
そう言えば、陛下は扉をチラリと見やる。
「聖女を早く診てくれと急かしてきまして、診終わったらまた抱き上げてどこかに歩き去っていきました」
「……そうか」
「あ、あの、そちらでのライナードはどのような状態だったんですか?」
そう問いかければ、やはりライナードは求婚したわけではなく、ただただじっと聖女を気にしている様子で、護衛の任務をいったん解いてもらってまで彼女をここに運んで来たことを教えてもらう。
「ユーカが言うには、彼女はライナードの片翼ではないかということなんだが……」
「どう、でしょうか?」
正直、ライナードの反応は微妙なものだ。片翼に出会った魔族の反応、といえばそうだろうし、他に何かそうするだけの要因があったのだと言われれば、それでも納得できそうだ。
「やっとルティアスが片翼休暇から帰ってきたところで、今度はライナードに片翼休暇を出さなければならないかと思うと、処理が大変ではあるんだがな」
「こればっかりは、本人に聞くしかありませんね。片翼なら、すぐに休暇の申請に来ると思いますよ」
「あぁ、そうだな」
片翼休暇とは、片翼を見つけて、求婚するために魔族が取る有給休暇のことだ。さすがに魔王陛下には片翼休暇は存在しないし、他にも要職についていれば片翼休暇がないところもあるのだが、僕とライナードは三魔将と呼ばれるこの国の騎士達のトップに立つ者ながら、片翼休暇が認められている。有事の際はさすがに無理だが、そうでなければ、基本的に片翼休暇は数年取れるのだ。
陛下とそんな話をしながら、僕達は、ライナードの今後に興味津々なのだった。
彼らは、一人を除いて、僕の愛しい愛しい片翼、リリスに、かつて濡れ衣を着せて国外追放した奴らだ。
片翼とは、魔族にとって最も心惹かれる愛しい人のことで、魔族は二百歳前後になると、自身の片翼を見つけるために様々な場所を旅したり、実力をさらに磨いたりする。だから、魔族は総じて戦闘能力も家事能力も高い。
ただ、僕は四百歳を過ぎても片翼が見つからなかった。だから、魔族の中で稀に存在する、片翼が一生見つからず、孤独に死んでいく失翼と呼ばれるものだと思っていた。実際、四百歳を過ぎて片翼を見つけられない者は、大抵その後も見つけられない。
たまたま同僚のライナードもその失翼仲間で、僕達はお互いに慰め合っていたのだが……ある日、僕は運命の片翼を見つけた。それが、リリスさんだ。
そんなリリスさんを虐げて、国外追放にまで追いやった輩が居ると知った僕は、それを放ってはおけなかった。だから、僕は復讐をして、彼らにある程度の罰を与えはしたのだが……今回、物足りないと思っていた僕の元に、まだのうのうと生きているそいつらへの復讐の機会が再度与えられた。何でも、彼らが捕らわれた国であるファム帝国と、このヴァイラン魔国は友好条約を結びたいのだが、その前に、不穏分子を一掃したいとのことで、そのために、罰を受けて不満たっぷりの彼らを利用してはどうかということになったのだった。
ただ、彼らが魔王討伐の旅に実際に出向いたのも、聖女と呼ばれる少女をどこからか連れ去り、仲間に加えたのも、彼らがこのヴァイラン魔国に辿り着いたのも、予想外ではあった。
(だからこそ、何があったのか真相が知りたかったんだけど……)
どうやって彼らが無事にこの国まで辿り着けたのかは、僕達にとって大きな疑問ではあったものの、その前に、もっと重大な疑問が頭の中を占領する。
(……あの聖女、何者?)
未だ片翼が見つからないライナードが、一人取り残されたという聖女に随分と甲斐甲斐しい様子だった。水色の髪に、金と赤のオッドアイの彼女は、確かに美少女ではある。しかし、ライナードには高い身分と地位があり、女には困らないはずだった。
「まさか、片翼、とか?」
僕に続いてライナードも片翼を見つけたと考えれば、辻褄が合うような気がする。しかし……。
「いや、でも片翼なら、もっと色々アピールするもの、だよね?」
片翼を前にした魔族は、まず理性が吹き飛び、求婚したくなるというのが通説だ。実際、僕もリリスに出会った直後、求婚した。好きになってもらえるように、必死に色々頑張った。しかし、ライナードには、聖女を心配する様子はあったものの、求婚した様子は欠片もない。
「うーん?」
研修生はとっくに帰り、後は片付けだけだった医務室もすっかり片付けた僕は、このまま魔王陛下の元に行って、ライナードの様子も聞いてみようかと考える。すると……。
「ん? 扉が壊れてるのか?」
そこには、まさに、今から会おうとしていた魔王陛下。ジークフリート・ヴァイラン様が居た。
「陛下!?」
「あぁ、良い。楽にしろ」
まさか医務室に陛下が来るとは思わず、僕は咄嗟にひざまづく。しかし、『楽にしろ』との声に、とりあえずは立ち上がることにした。
「今回は、ユーカからの質問で来たんだ。……ライナードは、どんな様子だった?」
まさかの、ヴァイラン魔国、ならびに、リアン魔国の魔王陛下達から愛された、世にも珍しい両翼と呼ばれる存在、ユーカ様からの質問に、僕は一瞬言葉を詰まらせながら答える。
ちなみに、両翼とは、魔族二人が一人に対して自身の片翼だと感じ取った場合にのみ、使われる言葉だ。
「その、まずは扉を蹴り壊して、ここに入ってきまして」
そう言えば、陛下は扉をチラリと見やる。
「聖女を早く診てくれと急かしてきまして、診終わったらまた抱き上げてどこかに歩き去っていきました」
「……そうか」
「あ、あの、そちらでのライナードはどのような状態だったんですか?」
そう問いかければ、やはりライナードは求婚したわけではなく、ただただじっと聖女を気にしている様子で、護衛の任務をいったん解いてもらってまで彼女をここに運んで来たことを教えてもらう。
「ユーカが言うには、彼女はライナードの片翼ではないかということなんだが……」
「どう、でしょうか?」
正直、ライナードの反応は微妙なものだ。片翼に出会った魔族の反応、といえばそうだろうし、他に何かそうするだけの要因があったのだと言われれば、それでも納得できそうだ。
「やっとルティアスが片翼休暇から帰ってきたところで、今度はライナードに片翼休暇を出さなければならないかと思うと、処理が大変ではあるんだがな」
「こればっかりは、本人に聞くしかありませんね。片翼なら、すぐに休暇の申請に来ると思いますよ」
「あぁ、そうだな」
片翼休暇とは、片翼を見つけて、求婚するために魔族が取る有給休暇のことだ。さすがに魔王陛下には片翼休暇は存在しないし、他にも要職についていれば片翼休暇がないところもあるのだが、僕とライナードは三魔将と呼ばれるこの国の騎士達のトップに立つ者ながら、片翼休暇が認められている。有事の際はさすがに無理だが、そうでなければ、基本的に片翼休暇は数年取れるのだ。
陛下とそんな話をしながら、僕達は、ライナードの今後に興味津々なのだった。
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