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第一章 第一フロア
強敵
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「琴音っ、跳べっ」
「っ!?」
ジャイアントスパイダーは、名前の通り、とても大きな蜘蛛だった。八つの二列に並んだ目と、八本の足。全長三メートルはありそうなその巨体に、僕達は逃げ出したくなるのを我慢して、今、戦っていた。
ジャイアントスパイダーの尻から吐き出される糸を、ジャンプすることで回避した琴音は、そのまま走り出す。僕も同じように琴音とは反対方向で走りながら、とにかくジャイアントスパイダーの体に剣を浴びせていく。
「お兄ちゃんっ、来るよっ!」
「くっ」
唐突にそう言った琴音の言葉の意味は、ジャイアントスパイダーの特殊な攻撃の合図が確認されたということだ。だから、僕は、一度立ち止まってジャイアントスパイダーを注視する。高く高く跳び上がった、ジャイアントスパイダーを。
「琴音っ!」
「うんっ!」
今回のジャイアントスパイダーの狙いは琴音だったらしい。高い場所に跳び上がって、糸を広範囲に撒き散らすその攻撃を避けるべく、琴音は全力でこの場所からの離脱を開始する。最初は、こんな攻撃があるとは知らず、二人で固まっていて、どちらも直撃を受けそうになったが、今では二人が一ヶ所に固まらずに片方が逃げて、片方が攻撃を繰り返すという戦法で、体力の消耗を防いでいた。
ジャイアントスパイダーは一度跳べば、続けて跳ぶことはせずに、また狭い範囲での糸による攻撃を繰り返してくる。僕は琴音が戻ってくるまでの間に、できる限りジャイアントスパイダーを引き付け、攻撃を加えていく。今までいったいどのくらい攻撃してきたか分からないが、ジャイアントスパイダーは未だに倒れる気配がない。
「戻ったよっ!」
「分かった!」
反対側に戻ってきたらしい琴音の声に、僕は今度は吐き出される糸をかわしながら声を上げる。
本当は、他のモンスターを呼ばないためにも声を上げるのは控えたかったが、この巨体を相手にするのに、何の掛け声もなく戦い続けるのは無謀だった。
僕が糸をかわしている間は、琴音が攻撃を加えてくれる。琴音が糸をかわしている間は、僕が攻撃を加える。そうして戦い続けて、どれくらいの時間が経っただろうか。八つある目の内、六つを潰し、前足の二本を斬り落とし、何度も何度もその顔面に攻撃を加えていると、ふいにジャイアントスパイダーの動きが鈍くなる。
「はっ、はっ、琴音っ、もう少しだっ」
「はぁっ、はぁっ、うんっ」
ここに来た一日目はまだ気づいていなかったが、レベルが上がるごとに、僕達の体力や腕力、俊敏性なんかは増えているらしく、息が上がるなんてことはなくなりつつあったのに、今はもう、完全に息が上がっている。それでも、見えてきた終わりに、僕達は必死に攻撃と回避を繰り返す。
「うわっ」
「お兄ちゃんっ?」
しかし、終わりが近いと思ったことで、油断でもしてしまったのだろうか。僕は、ジャイアントスパイダーの糸を片足にくらってしまっていた。
「琴音っ、時間稼ぎを頼むっ!」
ジャイアントスパイダーの糸は、吐き出されてすぐはただ粘着力が高いだけだが、少し時間が経てばカチコチに固まってしまう。だから、今のうちに斬ってしまうべきだった。これ以上、糸に絡まれないためにも。
僕は、急いで足を持ち上げ、足と地面を繋ぐ糸を切断すると、無事な方の片足でケンケンと後退する。そして、糸が固まったのを確認すると、走れるように足に着いていた糸の塊を剣で砕く。やり方は横暴かもしれないが、こうでもしなければ、ジャイアントスパイダーの撹乱に支障をきたすため、やむを得ない行動だった。
「戻った!」
「うんっ!」
そう言えば、直後にジャイアントスパイダーがグルリと向きを変えて、僕の方に頭を見せてくる。
「はあっ!!」
ガチガチと顎を鳴らすジャイアントの目に、剣を命中させると、ジャイアントスパイダーは『ギシャアァァアッ』と悲鳴を上げる。そして……。
「お、終わった?」
その断末魔を最後に、ジャイアントスパイダーは、黒い光を放って霧散するのだった。
「倒し、たの?」
剣を片手に、肩で息をする琴音は、オズオズとこちらへ近づく。
「あぁ、終わったみたい、だ……つ、疲れた」
ドロップアイテムは、恐らく『丈夫な糸』だと思われる一抱えほどもある糸の束だった。どうせなら食料が良かったと思いながらも、何で必要になるかも分からないため、フラフラとしながらそれをリュックに納めていく。
「お兄ちゃん、一度、戻ろう」
どうにか息が調ったらしい琴音は、僕が『丈夫な糸』を回収するのを見た直後、そう告げる。
「あぁ、そうだな。しばらく休憩したいしな」
琴音の言葉に、僕は全面的な同意を示す。こんな疲れた状態で、また別のモンスターに出会ったら、生きて帰れる気がしない。その判断は、至極当然なものだった。それに……。
「モンスターが騒ぎを聞き付けて集まってるかもしれない。気を付けて戻るぞ」
「うん」
必要であったとはいえ、掛け声や戦いの音でモンスターを引き付けている可能性がある。行き以上に慎重に、今度はモンスターとの戦いを回避するように動かなければ、きっと明日はないだろう。
そうして、僕達は早々にこの場を立ち去ることにしたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
いやはや、結構な強敵でしたよ。
ジャイアントスパイダーさんは。
そして、前回チラリと出して分かっている人も居るかと思いますが、また、クックドラゴンを出したいと思います。
次回にすぐ出せるかどうか分かりませんが、またあの特徴的な鳴き声が炸裂しますので、お楽しみに。
それでは、また!
「っ!?」
ジャイアントスパイダーは、名前の通り、とても大きな蜘蛛だった。八つの二列に並んだ目と、八本の足。全長三メートルはありそうなその巨体に、僕達は逃げ出したくなるのを我慢して、今、戦っていた。
ジャイアントスパイダーの尻から吐き出される糸を、ジャンプすることで回避した琴音は、そのまま走り出す。僕も同じように琴音とは反対方向で走りながら、とにかくジャイアントスパイダーの体に剣を浴びせていく。
「お兄ちゃんっ、来るよっ!」
「くっ」
唐突にそう言った琴音の言葉の意味は、ジャイアントスパイダーの特殊な攻撃の合図が確認されたということだ。だから、僕は、一度立ち止まってジャイアントスパイダーを注視する。高く高く跳び上がった、ジャイアントスパイダーを。
「琴音っ!」
「うんっ!」
今回のジャイアントスパイダーの狙いは琴音だったらしい。高い場所に跳び上がって、糸を広範囲に撒き散らすその攻撃を避けるべく、琴音は全力でこの場所からの離脱を開始する。最初は、こんな攻撃があるとは知らず、二人で固まっていて、どちらも直撃を受けそうになったが、今では二人が一ヶ所に固まらずに片方が逃げて、片方が攻撃を繰り返すという戦法で、体力の消耗を防いでいた。
ジャイアントスパイダーは一度跳べば、続けて跳ぶことはせずに、また狭い範囲での糸による攻撃を繰り返してくる。僕は琴音が戻ってくるまでの間に、できる限りジャイアントスパイダーを引き付け、攻撃を加えていく。今までいったいどのくらい攻撃してきたか分からないが、ジャイアントスパイダーは未だに倒れる気配がない。
「戻ったよっ!」
「分かった!」
反対側に戻ってきたらしい琴音の声に、僕は今度は吐き出される糸をかわしながら声を上げる。
本当は、他のモンスターを呼ばないためにも声を上げるのは控えたかったが、この巨体を相手にするのに、何の掛け声もなく戦い続けるのは無謀だった。
僕が糸をかわしている間は、琴音が攻撃を加えてくれる。琴音が糸をかわしている間は、僕が攻撃を加える。そうして戦い続けて、どれくらいの時間が経っただろうか。八つある目の内、六つを潰し、前足の二本を斬り落とし、何度も何度もその顔面に攻撃を加えていると、ふいにジャイアントスパイダーの動きが鈍くなる。
「はっ、はっ、琴音っ、もう少しだっ」
「はぁっ、はぁっ、うんっ」
ここに来た一日目はまだ気づいていなかったが、レベルが上がるごとに、僕達の体力や腕力、俊敏性なんかは増えているらしく、息が上がるなんてことはなくなりつつあったのに、今はもう、完全に息が上がっている。それでも、見えてきた終わりに、僕達は必死に攻撃と回避を繰り返す。
「うわっ」
「お兄ちゃんっ?」
しかし、終わりが近いと思ったことで、油断でもしてしまったのだろうか。僕は、ジャイアントスパイダーの糸を片足にくらってしまっていた。
「琴音っ、時間稼ぎを頼むっ!」
ジャイアントスパイダーの糸は、吐き出されてすぐはただ粘着力が高いだけだが、少し時間が経てばカチコチに固まってしまう。だから、今のうちに斬ってしまうべきだった。これ以上、糸に絡まれないためにも。
僕は、急いで足を持ち上げ、足と地面を繋ぐ糸を切断すると、無事な方の片足でケンケンと後退する。そして、糸が固まったのを確認すると、走れるように足に着いていた糸の塊を剣で砕く。やり方は横暴かもしれないが、こうでもしなければ、ジャイアントスパイダーの撹乱に支障をきたすため、やむを得ない行動だった。
「戻った!」
「うんっ!」
そう言えば、直後にジャイアントスパイダーがグルリと向きを変えて、僕の方に頭を見せてくる。
「はあっ!!」
ガチガチと顎を鳴らすジャイアントの目に、剣を命中させると、ジャイアントスパイダーは『ギシャアァァアッ』と悲鳴を上げる。そして……。
「お、終わった?」
その断末魔を最後に、ジャイアントスパイダーは、黒い光を放って霧散するのだった。
「倒し、たの?」
剣を片手に、肩で息をする琴音は、オズオズとこちらへ近づく。
「あぁ、終わったみたい、だ……つ、疲れた」
ドロップアイテムは、恐らく『丈夫な糸』だと思われる一抱えほどもある糸の束だった。どうせなら食料が良かったと思いながらも、何で必要になるかも分からないため、フラフラとしながらそれをリュックに納めていく。
「お兄ちゃん、一度、戻ろう」
どうにか息が調ったらしい琴音は、僕が『丈夫な糸』を回収するのを見た直後、そう告げる。
「あぁ、そうだな。しばらく休憩したいしな」
琴音の言葉に、僕は全面的な同意を示す。こんな疲れた状態で、また別のモンスターに出会ったら、生きて帰れる気がしない。その判断は、至極当然なものだった。それに……。
「モンスターが騒ぎを聞き付けて集まってるかもしれない。気を付けて戻るぞ」
「うん」
必要であったとはいえ、掛け声や戦いの音でモンスターを引き付けている可能性がある。行き以上に慎重に、今度はモンスターとの戦いを回避するように動かなければ、きっと明日はないだろう。
そうして、僕達は早々にこの場を立ち去ることにしたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
いやはや、結構な強敵でしたよ。
ジャイアントスパイダーさんは。
そして、前回チラリと出して分かっている人も居るかと思いますが、また、クックドラゴンを出したいと思います。
次回にすぐ出せるかどうか分かりませんが、またあの特徴的な鳴き声が炸裂しますので、お楽しみに。
それでは、また!
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