冒険の書 ~続の書~

星宮歌

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第一章 第一フロア

安全地帯(二)

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 ひとまずは、『冒険の書』の確認を優先させようということで、僕達はまた、『冒険の書』へと視線を落とす。


『第一フロア 地帯区分B

滝野琴音はB地帯へ進行

これより危険地帯

ベンが現れた

滝野透がベンを斬った

ベンは攻撃をかわした

ベンは突進した

滝野琴音は攻撃した

ベンは意識を混濁させた

滝野透はベンを斬った

ベンを倒した

ドロップアイテム 濃厚な水

ベンの特性『仇討ち』発動

これより、時間計測開始

ベンの集合

警告1解除

滝野琴音は2レベルになった

ベンが現れた

ベンが現れた

ベンが現れた

ベンが現れた

――――――

ベンを倒した

滝野琴音は10レベルになった

ドロップアイテム 濃厚な水 

第一フロア 地帯区分A

滝野琴音はA地帯へ退却

これより安全地帯 』


 と、ここまでがベンとの戦いと今だった。その文章は、『警告1解除』というものが見慣れないだけであって、後はほとんど僕の『冒険の書』と一緒だ。


「この『警告1』って、もしかして?」

「うん、多分、この戦闘か食糧かってやつだよね。解除されて良かった」


 どうやら剣で止めを刺さなくとも、戦闘に参加していると判断されたらしい。ここに書かれている『処分』が何か分からない以上、こうして警告が解除されるのはありがたかった。


「あっ、でも、もしかしてアイテム図鑑とか、モンスター図鑑は開示されてないんじゃないか?」

「えっ? ……そう、みたいだね」


 特に図鑑が開示されたようなことを書いた文章がなかったため、尋ねてみると、本当に開示されていなかったようだ。もしかしたら、これは、モンスターに止めを刺さなければ開示されないのかもしれない。


「どうしよう……」

「うーん、ひとまずは琴音も剣を持って戦うしかないんじゃないかな?」

「剣……」


 そうして琴音が向ける視線の先を辿ると、そこには赤い鞘に入った剣があった。恐らく、僕のものとは色違いなだけだろう。


「私も、戦わなきゃいけない?」

「? そりゃあ、僕だって琴音をずっと守れるとも限らないし、琴音自身が戦う術を身につけてくれた方がありがたいけど」


 どこか青ざめているように見える琴音に、僕は自分の考えを述べる。すると……。


「私、怖い……」


 琴音は、か細い声でそう呟く。


「琴音……」


 そこまで言われて、僕はようやく、剣を持って戦うことが恐ろしいことだという事実を思い出す。これまで無我夢中で戦ってきたものの、本来だったら戦いとは恐ろしいものだ。特に、戦いとは無縁の生活を送ってきた僕達にとって、戦いは忌避すべきものなのだ。


「そう、だよな。怖いよな」


 戦いによって高揚していた精神が落ち着くに従って、僕は、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。僕自身はあまり戦いが怖いという気持ちが表れなかったものの、琴音は違う。なら、僕は琴音を守らなければならないのだろう。


「よしっ、分かった。なら、琴音はその剣を持ってるだけで良いよ」

「えっ?」

「その剣はもしもの時の護身用にしておいて、後は僕が琴音を守れば良いだろ?」


 本当は、守れる自信なんてない。しかし、そんな弱気なことを言っていてはこの先、琴音を守るなんてできないだろう。


「でも……」

「大丈夫だって、絶対に守ってみせるからさ」


 守ってみせる。そう強く思えば叶うのだと、この時は本気で思っていた。


「……うん、分かった。それじゃあ、よろしくね。お兄ちゃん」

「あぁっ」


 そうして僕は、地獄への第一歩を、知らず知らずのうちに踏み出すのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


さぁて、琴音ちゃんの弱気な態度に透君は見事に引っ掛かってしまいましたね。

『~始の書~』を読んでいる方は分かると思いますが、この場所は、そんなに甘い場所ではありません。

この先、二人にはそれを身をもって体感してもらうことにしましょう。

それでは、また!
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