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第一章 第一フロア
安全地帯(一)
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部屋や通路の部分が黒く、現在地らしき場所が赤い丸で表示されているその地図を見て、僕はこれで迷う心配はなくなったと安堵する。そうして地図を詳しく見てみると、部屋や通路を囲うように黄色のラインが引かれており、部屋の部分と通路が区切られて、AやらBやらと空白の部分に青で書かれていた。これはきっと、あの地帯区分とやらで間違いないだろう。
と、そこで、僕はあの『嘆きの証』を見た結果、地帯区分が変わるらしいということを思い出す。
「……この地図も変わるのか?」
「お兄ちゃん?」
「あぁ、いや、何でもない」
小さく呟いた声を聞き咎められて、僕は咄嗟にそう返す。今は、不安になるようなことを話すべきではない。むしろ、前向きな考えをしておかなければ、この異常に呑まれてしまいかねなかった。
「これなら、琴音の安全地帯も探しやすそうだな」
「うん、そうだね。間違ってたら引き返せるもんね」
できることなら、早く琴音が最初に居た安全地帯へと辿り着きたい今、この地図はとてもありがたかった。
そうして、僕達はまた、周囲を警戒しながら歩き出し、モンスターに遭遇することなく、目的地へと辿り着いたのだった。
「とりあえず、ようこそ?」
「あぁ、うん、お邪魔します?」
「ふふっ、お兄ちゃん、私には挨拶はいらないってことを言ってたのに、挨拶してるよ?」
「あっ、そうだったな」
琴音に指摘されて、そういえば、自分の安全地帯に琴音を招き入れる際、そんなことを言ったと思い出す。ただ、やはり入室の際に挨拶してしまうのは、厳しく躾られたおかげなのだろう。
「まぁいいや。それじゃあ、今度は私の『冒険の書』だね」
「あぁ、そうだな。ただ、その前に一つ確認させてほしい。……あの扉は最初からああだった?」
「扉?」
首をかしげる琴音に僕は、今しがた通ってきたばかりの扉へと視線を移す。僕の居た安全地帯では、蔦が絡まった壁ような形だった扉。それがここでは、普通の木製の扉で、ドアノブまでついていたのだ。
「うん、特に変化はないけど」
「そう、か……」
つまりは、扉を開けるために苦労したのは僕だけなのだろう。どうしようもない脱力感が全身を巡る。
「どうしたの? お兄ちゃん?」
「いや、何でもない。ただ、世の無情を嘆いてただけだから」
「?」
扉で散々苦労させられたことを知らない琴音は、頭に疑問符を浮かべているようではあったものの、僕に説明する気はない。特に必要な情報でもないため、さっさと目的を果たすことにする。
「それで、『冒険の書』は?」
「あっ、うん、今持ってくる」
ベッドの上に放り投げていたらしい『冒険の書』を持って、琴音はすぐに戻ってくる。
「それじゃあ、最初から見てみるね」
「あぁ、よろしく」
琴音が持ってきた『冒険の書』は、表紙がピンク色がかったもので、僕の『冒険の書』とは色違いらしい。そう思いながら、僕は琴音の手元へと集中する。
『冒険の書
一日目
第一フロア 地帯区分A
滝野琴音は、現状の確認を行う
ベッドを調べた
リュックを手に入れた
リュックを調べた
トイレを調べた
扉を調べた
二日目
第一フロア 地帯区分A
警告1
一日モンスターとの戦闘、および食糧の摂取行動が見られなかったため、後三日で処分
逃れたくば、モンスターとの戦闘、もしくは、食糧の摂取を推奨
警告2
『嘆きの証』が発見された
危険レベル上昇
危険レベル上昇
地帯区分Dへ変更開始
変更は三日後
それまでにレベルアップを推奨
扉を調べた
第一フロア 地帯区分B
滝野琴音はB地帯へ進行
これより危険地帯
人食い花が現れた
滝野透が人食い花を斬った
人食い花は即死ダメージを負った
人食い花は倒れた
ドロップアイテム 水蔦
第一フロア 地帯区分A
滝野琴音は滝野透のA地帯へ退却
これより安全地帯』
とりあえず、琴音と出会ってから、一度安全地帯へと退却したところまでを読むと、僕は琴音に質問する。
「この『警告』って……」
「うん、一つは戦いとか、食べ物の摂取を促すもので、もう一つは、多分お兄ちゃんが原因なんだよね」
そう、確かに、僕は『嘆きの証』を見つけた。まさかそれで、琴音まで巻き込むことになるとは思いもしていなかったが、どうやらガッツリ巻き込んでしまったらしい。
「ごめん」
「ううん、その『嘆きの証』が何かは知らないけど、情報がほしくて色々探してたら変なものを見つけたってだけでしょ? なら、もしかしたら、それを私が見つけることもあったかもしれないし、責める理由がないよ」
琴音の言葉は正論だ。もしかしたら、僕ではなく、琴音が『嘆きの証』を見つける未来があったかもしれない。ただ、それでも琴音を巻き込んだという罪悪感は消えてくれない。
「そう、か……でも、それでも、巻き込んでごめん」
僕は卑怯にも、罪悪感を少しでも和らげるために、謝罪する。
そうして、僕はしばらく顔を上げることができなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
インフルエンザは感染の心配はなくなりました!
まだ咳は残ってますけどね。
さてさて、今回は、安全地帯にて情報確認!
この『冒険の書』シリーズではパターン化してるような気が……?
でも、確認しなきゃ進められませんものねっ。
そして、『~始の書~』でも出した警告が今回の話でも出てきてます。
所々共通点を出しながら、これからも楽しく書いていきますね。
それでは、また!
と、そこで、僕はあの『嘆きの証』を見た結果、地帯区分が変わるらしいということを思い出す。
「……この地図も変わるのか?」
「お兄ちゃん?」
「あぁ、いや、何でもない」
小さく呟いた声を聞き咎められて、僕は咄嗟にそう返す。今は、不安になるようなことを話すべきではない。むしろ、前向きな考えをしておかなければ、この異常に呑まれてしまいかねなかった。
「これなら、琴音の安全地帯も探しやすそうだな」
「うん、そうだね。間違ってたら引き返せるもんね」
できることなら、早く琴音が最初に居た安全地帯へと辿り着きたい今、この地図はとてもありがたかった。
そうして、僕達はまた、周囲を警戒しながら歩き出し、モンスターに遭遇することなく、目的地へと辿り着いたのだった。
「とりあえず、ようこそ?」
「あぁ、うん、お邪魔します?」
「ふふっ、お兄ちゃん、私には挨拶はいらないってことを言ってたのに、挨拶してるよ?」
「あっ、そうだったな」
琴音に指摘されて、そういえば、自分の安全地帯に琴音を招き入れる際、そんなことを言ったと思い出す。ただ、やはり入室の際に挨拶してしまうのは、厳しく躾られたおかげなのだろう。
「まぁいいや。それじゃあ、今度は私の『冒険の書』だね」
「あぁ、そうだな。ただ、その前に一つ確認させてほしい。……あの扉は最初からああだった?」
「扉?」
首をかしげる琴音に僕は、今しがた通ってきたばかりの扉へと視線を移す。僕の居た安全地帯では、蔦が絡まった壁ような形だった扉。それがここでは、普通の木製の扉で、ドアノブまでついていたのだ。
「うん、特に変化はないけど」
「そう、か……」
つまりは、扉を開けるために苦労したのは僕だけなのだろう。どうしようもない脱力感が全身を巡る。
「どうしたの? お兄ちゃん?」
「いや、何でもない。ただ、世の無情を嘆いてただけだから」
「?」
扉で散々苦労させられたことを知らない琴音は、頭に疑問符を浮かべているようではあったものの、僕に説明する気はない。特に必要な情報でもないため、さっさと目的を果たすことにする。
「それで、『冒険の書』は?」
「あっ、うん、今持ってくる」
ベッドの上に放り投げていたらしい『冒険の書』を持って、琴音はすぐに戻ってくる。
「それじゃあ、最初から見てみるね」
「あぁ、よろしく」
琴音が持ってきた『冒険の書』は、表紙がピンク色がかったもので、僕の『冒険の書』とは色違いらしい。そう思いながら、僕は琴音の手元へと集中する。
『冒険の書
一日目
第一フロア 地帯区分A
滝野琴音は、現状の確認を行う
ベッドを調べた
リュックを手に入れた
リュックを調べた
トイレを調べた
扉を調べた
二日目
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警告1
一日モンスターとの戦闘、および食糧の摂取行動が見られなかったため、後三日で処分
逃れたくば、モンスターとの戦闘、もしくは、食糧の摂取を推奨
警告2
『嘆きの証』が発見された
危険レベル上昇
危険レベル上昇
地帯区分Dへ変更開始
変更は三日後
それまでにレベルアップを推奨
扉を調べた
第一フロア 地帯区分B
滝野琴音はB地帯へ進行
これより危険地帯
人食い花が現れた
滝野透が人食い花を斬った
人食い花は即死ダメージを負った
人食い花は倒れた
ドロップアイテム 水蔦
第一フロア 地帯区分A
滝野琴音は滝野透のA地帯へ退却
これより安全地帯』
とりあえず、琴音と出会ってから、一度安全地帯へと退却したところまでを読むと、僕は琴音に質問する。
「この『警告』って……」
「うん、一つは戦いとか、食べ物の摂取を促すもので、もう一つは、多分お兄ちゃんが原因なんだよね」
そう、確かに、僕は『嘆きの証』を見つけた。まさかそれで、琴音まで巻き込むことになるとは思いもしていなかったが、どうやらガッツリ巻き込んでしまったらしい。
「ごめん」
「ううん、その『嘆きの証』が何かは知らないけど、情報がほしくて色々探してたら変なものを見つけたってだけでしょ? なら、もしかしたら、それを私が見つけることもあったかもしれないし、責める理由がないよ」
琴音の言葉は正論だ。もしかしたら、僕ではなく、琴音が『嘆きの証』を見つける未来があったかもしれない。ただ、それでも琴音を巻き込んだという罪悪感は消えてくれない。
「そう、か……でも、それでも、巻き込んでごめん」
僕は卑怯にも、罪悪感を少しでも和らげるために、謝罪する。
そうして、僕はしばらく顔を上げることができなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
インフルエンザは感染の心配はなくなりました!
まだ咳は残ってますけどね。
さてさて、今回は、安全地帯にて情報確認!
この『冒険の書』シリーズではパターン化してるような気が……?
でも、確認しなきゃ進められませんものねっ。
そして、『~始の書~』でも出した警告が今回の話でも出てきてます。
所々共通点を出しながら、これからも楽しく書いていきますね。
それでは、また!
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